●「雇用特区」規制緩和は見送り 海外・日本の報道の違いとは
ブロゴス NewSphere 2013年10月21日
日本経済再生本部で18日、成長戦略の柱となる「国家戦略特区」の規制緩和概要が決まった。
注目された雇用規制緩和については、「労働時間法制」と「解雇ルール緩和」が見送られた。安倍首相は検討を支持していたが、田村厚生労働相は、「世界で見ても、特区で労働規制の根幹を緩める例は見当たらない」と規制緩和に慎重な姿勢を貫いた。
政府は11月上旬に規制改革の内容を盛り込んだ関連法案を今国会に提出する。成立すれば、年明けに規制緩和の細目を決定する見込みだ。
【特区案の概要】
国家戦略特区とは、地域を絞って雇用や農業分野を含む岩盤規制を緩め、経済を活性化する構想で、外国企業の誘致などに不都合な規制を外すねらいがある。当初案では、(1)解雇ルール(2)労働時間法制(3)有期雇用制度が見直し対象とされていた。
(1)解雇ルールについては、労働側と企業側がともに反対しており、政府が雇用契約の指針をつくり、企業に助言するという妥協案となった。新藤総務相は「外資系企業が日本に立地することを躊躇する原因とならないよう、雇用ルールを明確化する」と述べた。
(2)週40時間が上限という労働時間の規制を適用しない「労働時間法制(ホワイトカラー・エグゼンプション)」については、不当な残業を強いられるなどと厚労省が強く反発したこともあり、見送られた。企業側からは、労働生産向上のため賛成の意見が出ていた。
一方、(3)非正規社員の「有期契約」については、専門職に限り、全国一律で5年から10年に延長する案を政府は出した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「この種の雇用需要は2020年東京オリンピック前にふえるだろう」という、みずほ総合研究所の岡田豊主任研究員のコメントを掲載した。
【今後の見通しは?】
「18日の提案は最初のステップにすぎない。さらなる規制緩和策が提案される」と関係者は述べている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、法人税減税に注目している。同紙は、東京都と大阪府が特区の法人実効税率を「20%以下」とするよう要求していることを取り上げた。20%を下回れば、シンガポールの17%、香港の16.5%と競合できるようになる。なお現在、東京の法人実効税率は38.01%である。
なお日経新聞は「政府内の調整は時間切れ」で、「岩盤規制」の突破には遠いと厳しい姿勢だ。一方朝日新聞は、「緩和色が大きく後退」として、「解雇特区」は事実上、見送られたと報じている。朝日の編集委員は「国際労働機関(ILO)の調査では、解雇の規制緩和が雇用を生み出したと裏付けるデータはない」と指摘した。
●「特区諮問会議」の設置は規制緩和のために「ブレーキ」を解除しようとするものだ
ブロゴス/五十嵐仁 2013年10月21日
「特区諮問会議 設置へ」「医療・雇用・農業 関係大臣を外す」
本日の『朝日新聞』の一面に、このような見だしが踊っていました。この記事は、次のように伝えています。
政府は20日、国家戦略特区を進めるための関連法案に、安倍晋三首相を議長とする「特区諮問会議」の設置を盛り込む方針を固めた。メンバーからは厚生労働相、農林水産相など関係分野の大臣を外す。各省庁の規制を守りがちな大臣の「抵抗」を抑え、トップダウンで規制緩和を進めるねらいだ。
……
政府は11月上旬に臨時国会に関連法案を出し、どこを特区にするかや特区ごとにどの規制を緩めるかを決める特区諮問会議の設置も盛り込む。経済財政諮問会議と同じ「法定組織」になり、政府方針を定めるといった強い権限を持つ。
何としても、遮二無二、規制緩和をすすめようという安倍首相の強い決意がうかがわれます。抵抗を排する、ということで、「厚生労働相、農林水産相など関係分野の大臣を外す」というのですから、呆れてしまいます。
それぞれの担当大臣は、担当する行政についての最終的な責任を負うべき立場にあります。だからこそ、国民のためにならないと考えれば、たとえ安倍首相の強い意向であっても抵抗するわけです。
すでにこれまでも、産業競争力会議や規制改革会議で、大胆な規制緩和を求める民間議員と、それに対して異議を唱えて抵抗する担当大臣という構図ができていました。その担当大臣を外すための装置として「特区諮問会議」を設置しようというわけですから、まさに「暴走」のためのブレーキ解除と言うべきでしょう。
そもそも、このような形で「特区」を設け、そこでだけ憲法や法律による規制を弱めようというやり方には、大きな問題があります。一定地域に住み働く人に対してだけ、憲法や法の保護・規制を緩和するということですから、「法の下の平等」に反するからです。
また、解雇規制や労働基準の緩和など、憲法で保障された人権の保護を特区の設置によって弱めるということになれば、法律によって憲法の内実を変えてしまう結果をもたらします。
下位法たる法律によって、基本法にして上位法である憲法の一部修正を行うようなものですから、憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認と同様、「憲法下克上」ないしは「憲法クーデター」と言うべきものです。このようなことが許されれば、憲法による人権保障は有名無実となるでしょう。
開幕した臨時国会は、「官邸主導国会」と言われています。このようなやり方から見れば、実際には「官邸独裁国会」と言う方が相応しいものではないでしょうか。
野党の無気力さと内閣支持率の高さを背景に、安倍首相はやりたい放題の「暴走」を始めつつあります。それを目隠しするために、「安保法制懇」などの私的諮問機関や経済財政諮問会議・産業競争力会議・規制改革会議などの戦略的政策形成機関を利用してきました。
今回また、邪魔者を追い出して好き勝手な規制緩和を行うために、「特区諮問会議」という戦略的政策形成機関を新設しようとしています。民主的な手続きの仮面を被った「独裁」的な手法だと言うべきでしょう。
前回のブログで紹介した『日本経済新聞』10月18日付のコラム「春秋」は、「経済の『特区』は科学の『実験室』に似ているかもしれない」と指摘していました。その「特区」で「実験」されようとしている規制緩和のターゲットは、国民の暮らしや働き方に向けられています。
このコラムを書いた「春秋」子は、「実験」の材料が生きた生身の人間であるということをどれだけ自覚していたでしょうか。「実験」の結果によっては、その人々の生活や人生が大きく狂わされてしまうということ、すでに小泉構造改革の「実験」によってそのような人々が大量に生み出され、大きな社会問題となっているということを、どれほど認識していたでしょうか。
|