本川達雄さんは、「ゾウの時間ネズミの時間」や「ウニはすごいバッタもすごい」(中公新書)。さらに生物学的文明論(新潮新書)などユニークな著作がある。
大学図書館の新着本の棚をみていたら、「生き物は円柱形」(NHK新書)があった。今年の1月の新刊本である。本川先生の新刊かな、手に取ってみたら、20年前にNHKライブラリーで出て、久しく絶版であった本を書き直した本とのこと。ならば、「ゾウの時間、ネズミの時間の発想の原点を読むことが出来るだろうと借りて読むことにしました、
生物宇の分野では、遺伝子、細胞、タンパク質など目に見えない分野は分子生物学のめざましい進歩があり、あっという間に古びていく。ところが目に見える分野は、そう変わっていない分野。。いわば、古典的生物学を、本書では取り扱っています。
そうはいっても本川先生の著作ですから、視点がユニークです。
「生物は円柱形」です。
例えば木の幹は円柱形です。枝も根もそうです。円柱形が組み合わさって木が出来ています。
私たちの身体はどうか。指は円柱形です。腕も円柱形。脚も胴体も首も円柱形です。
身体が円柱形そのものという生き物も沢山います。ミミズ、カイチュウ、ドジョウなど。
体の内側を見ても、血管も気管も腸も神経も、骨の多くも円柱形です。
この円柱形は球から進化しました。
生命の進化の過程においては、まず身体が細胞一個だけからできている小さな単細胞生物が出現しました。たぶん最初は球形をしていた。細胞膜は油の幕ですから、表面張力によって表面積がもっとも小さい球になった。
この球形を出発点にしてサイズがだんだん大きくなってきた。
生物が新しい機能を獲得するには新たなタンパク質や細胞が必要になる。当然それを入れるスペースが必要になる。
球形のまま生物が大きくなると、都合の悪いことが生じます。球は体積当たりの表面積が一番小さい形です。
そもそも表面積は生物にとって非常に重要。外界と接するのが表面ですから、食べ物や酸素などエネルギーのもとは表面から入ってくる。
表面積を大きくするには平たくすればいいのですが、平たい形は身体をさえられない。
力が加わってもつぶれることなく体を保つのは骨格系の仕事で、身体の形とは骨格系の形です。
球から変形して、強さを保ちながら表面積を確保するには、丸い断面のまま細長くなるのが一つの方法です。
こうして表面積の問題は解決できたのですが、新たな問題が生じました
球形の膜構造物なら、膜はどの方向にも同じ大きさの力で引っ張られています。ところが円柱形になると、丸い周方向の働く力と軸方向に引っ張る力が同じにならない。(円周方向に引っ張る力は長軸方向の二倍になってしまう。)
この問題は繊維を円筒に巻き付けて補強すれば解決できます。繊維を長軸と54度44分の角度にまくと円周方向と長軸方向にかかる力が等しくなります。
ミミズでもカイチュウでも円柱型の動物の体壁中には、コラーゲンの繊維が交差するように走っています。
しなやかに体を変形させ運動する必要がある動物では、交叉螺旋の補強法が採用されている。例外があります。ペニスです。直行系です。コラーゲン繊維は周方向と軸方向に直交しています。
ペニスは働くときには中に水(血)の詰まった円柱です。曲がらずまっすぐでないと用をたしません。変形しないものは、補強繊維が交叉螺旋である必要はないのです。
曲げに対する抵抗は直交系の方が大きいのです。
と、説明していますが・・・・・