古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

アベノミクスの矛盾

2015-12-22 | 経済と世相
 経済学というものの着想の根の部分に、何か盲点がある。その盲点に入っているものを一つ名指すとすれば、それは貨幣です。
貨幣に関する新しい知論が必用なのにないんです。みんな一国を前提にして、輸出・輸入というモノの動きだけを追っている。しかし、投資家の頭の中には、日本経済、アメリカ経済という国境はもうない。
経済学って何だろう。市場原理に委ねれば、需要と供給が一致するんだと言われてもそんなことはないだろうと。
近代経済学というのは、やはり一国単位の経済学だった。たとえば。金融工学が進んで貨幣が貨幣をうむ自己増殖過程に入ると、貨幣量なんてまったく把握できない。株式交換で企業買収ができるようになると、どこまでを貨幣とするか定義もできない。
――日本で利子率革命が最初に起きているということは、経済成長がほんとうに行き詰まりに来ているといってよいでしょうか。――
はい。日本の利子率が2%割れを起こしてから、もう15年が経過しています。2011年のギリシャ危機で、ドイツ、アメリカ、イギリスの10年国債利回りがいずれも2%以下になりました。2012年12月になると、フランスも2%割れ。先進5か国がすべて2%割れ。日本以外はまだ1年半ですのでまだ断定できないが、少なくとも失われた20年というのは、日本固有の現象ではない。
97年から日本の経済は名目成長率でいえば、毎年1%弱ぐらい下がり続けてている。ピーク時(97年7~9月)524兆円あった名目GDPは、2012年7~9月)には474~480兆円に縮小し、金利も同じテンポで下がっている。それでも仮に日本に1000兆円の借金がなければ1ドル80円で計算すれば1人当たりGDPは4万6000ドルでアメリカの4万8000ドル並になる。
一方、ヨーロッパのドイツやイギリス、フランスは1人当たりGDPにすると4万ドルに届かない。達観すればそんなに貧しくなっているわけではない。でも、1000兆円の借金は、経済規模が増えない限り、相対的に借金は増えます。アメリカも何年か先には同じ状況に陥るでしょう。
 もう一つ大変なのは、エネルギー問題です。GDPデフレーターを考えると、
売上に相当する産出デフレーターは、国内の成熟度合いに連動しているので、物価の押し上げ要因にはなりにくい。しかし、資源に相当する中間投入デフレーターが海外の新興国の条件によって上昇していく。
これについて、バレル100ドルの原油は高いから安いエネルギーを国内でつくるしかない。
アメリカの社会学者ロバート・ベラーさんはこういう。
日本は経済成長はほとんど成長していない、と嘆いている。老齢化や少子化、人口減少についても悩んでいる。でもよく考えてみよう。これから世界は経済成長がほとんどできない社会になる。それから高齢化率も高くなるに決まっている。人口だって減る方向になる。日本は世界が近い未来に突入する状態を先取りしているだけだと。
それはそうだが、人口1億2700万から9000万に落ち着く過程が、ちょうど借金が大変な時期。9000万になった時、借金が相当片づいている状況にして置ければ何も心配することはないのだが・・・
 最終的にゼロ成長を目指すとしても、それまでに撤退戦がある。その撤退戦に日本は苦戦する予感がします。
撤退戦というのは、ずっと使ってきたシステムが永遠に使えるシステムでなく、このシステムからどこかで脱却しなければならない。そのプロセスです。
現代は3年に1度バブルが発生して崩壊する社会だと、ローレンス・サマーが言っている。
なぜ、バブルが頻繁に起こるかと言うと、新しい「実物投資空間」がなくなったからです。「実物投資空間」の膨張がインフレで、「電子・金融空間」の膨張がバブルです。インフレが生じなくなったから、バブルが繰り返し起き、バブル崩壊が同じだけ生じる。バブル崩壊でデフレが生じるのですから、そのデフレをインフレを起こして解消するというのは、倒錯した議論です。
しかし、資本主義・市場経済には大きなメリットもある。これほどの人口を抱えた地球の中で、人々が必要なものを必要なだけ生産して、経済学者のいうパレート最適に近い形でそれらを分配する。そのように考えたとき、市場経済よりこれをうまく成し遂げるシステムがあるのか?
昔、チャーチルが民主主義について述べた逆説は、資本主義にこそ当てはまる。
資本主義は最悪の経済システムだが、資本主義より良いシステムはない
以上読んできて感じたこと。
 資本主義は、プラスの利子率が存在しないとうまく動いていかない。利子率がプラスになるためには、中心の他に周辺が存在する必要がある。周辺から中心に向かって利益が流れ込むのだ。こうした周辺が存在しなくなることを、「実物投資空間」がなくなると筆者は言う。
新興国に投資して利益を上げられる時には、新興国が周辺であり「実物投資空間」である。為替を安くすると、外貨水準で見た賃金が安くなる。賃金の高い中心から賃金の安い周辺に利益が流れ込む。これが水野理論による周辺から中心への利益のながれである。
ということは、国内労働者を貧しくすることで、利益を上げ易くすることになる。
経済政策は、国民を豊かにするためなのに、利益を上げ易くするため、最初に国民を貧しくさせているという矛盾があるのだ。アベノミクスの矛盾である。