shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Kisses On The Bottom / Paul McCartney (Pt. 1)

2012-03-19 | Paul McCartney
 ポールのニュー・アルバム「Kisses On The Bottom」がリリースされてから約1ヶ月が経った。ロック/ポップスのシンガーがジャズのスタンダード・ナンバーを歌うというのは何も珍しいことではなく、リンロンのネルソン・リドル三部作やロッド・スチュワートの「グレイト・アメリカン・ソングブック」シリーズ、シーナ・イーストン、カーリー・サイモンと挙げていけばキリが無いが、今回は何と言っても天下のポール・マッカートニーである。例えるならミハエル・シューマッハがモンテカルロ・ラリーやインディ500に参戦するようなもの。当然世間の注目度も段違いで、ビートルズ・ファンだけでなく、普段はロック・ポップスに縁の無さそうなジャズ・ファンをも巻き込んで賛否両論渦巻きそうだ。
 このアルバム、ひょっとするとロック・ファンからすれば “刺激が無くてつまんない” と感じられるかもしれないし、頭の固いジャズ・ファンからは “金持ちロック・スターの道楽” という色メガネで見られそうだが、私は “スタンダード・ナンバーも大好きなビートルズ・ファン” という希少な存在で(笑)、当然ながらこういうアルバムは大歓迎。取り上げるアーティストの音楽的センスが如実に表れるスタンダード・ナンバーの醍醐味は何と言ってもその聴き比べにあるので、あのポールがスタンダード・ナンバーをどう料理するのか興味津々だった。
 まずはアルバム1曲目を飾る①「手紙でも書こう」、いきなりブラッシュがスルスルと滑り込んできてベースがブルンブルンとアコースティック楽器ならではの音を響かせるという理想的な展開のイントロに続いてポールが歌い出す。肩の力の抜けたポールの歌声にダイアナ・クラールの絶妙な “間” を活かしたピアノが絡んでいく瞬間なんかもう最高(^o^)丿 とにかくポールが粋にスイングするこの1曲目だけでもアルバムを買う価値があるというものだ。
 アラン・ブロードベント指揮によるロンドン・シンフォニー・オーケストラの演奏をバックにポールが歌う②「ホーム(ホエン・シャドウズ・フォール)」は曲想を見事に表現したリラクセイション溢れるムードがたまらない。ポールの言う “仕事が終わって家に帰り、ワインやティーを片手に寛いで聴くアルバム” というのが実感できるトラックだ。要所要所でシュパッ!と炸裂するブラッシュがたまりません(≧▽≦)
 ③「イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン」は私の大好きな曲なので期待が大きすぎたのかもしれないが、残念ながらコレはイマイチ。演奏はバリバリの40年代風ジャズなのだが、ポールのヴォーカルがどことなく無理して歌っているように聞こえてしまうのだ。他のトラックが素晴らしいだけに余計にそう感じるのかもしれないが...
 弦に絡みつくかのようにブルンブルンと心地よい音を響かせるジョン・クレイトンのベースのイントロに耳が吸い付く⑤「ザ・グローリー・オブ・ラヴ」では失速寸前のスロー・テンポで歌うポールのヴォーカルがめっちゃエエ感じ。ダイアナのピアノは相変わらず絶品だし、名手ジェフ・ハミルトンの瀟洒なブラッシュも存分に楽しめて言うことなし。途中でギターが「夢見る頃を過ぎても」のフレーズをさりげなく織り込むあたりもめっちゃ洒落ててカッコエエわ(^.^)
 スロー・バラッドが続いた後でそろそろアップ・テンポの曲が欲しいなぁというこちらの気持ちを見透かしたかのような位置に収められているのがポールが軽やかにスイングする⑥「アクセンチュエイト・ザ・ポジティヴ」だ。このアルバムでは曲によってドラマーを使い分けているが、①と同様にこの曲でも見事なブラッシュ・ワークを聴かせているのはダイアナ・クラール・カルテットの一員であるカリエム・リギンス。ブラッシュ好きの私にはたまらん展開だ。弾き語りが本職のダイアナ姐さんのソロはこの曲でも際立っており、彼女の歌伴の巧さが存分に味わえるトラックに仕上がっている。
 ⑪「バイ・バイ・ブラックバード」でも②と同じくウィズ・ストリングスのお手本のようなアレンジのオーケストラをバックにハートウォーミングな歌声を聴かせるポールと、レッド・ガーランド顔負けのブロック・コードでお洒落な雰囲気を盛り上げるダイアナ姐が素晴らしい。かつてメリー・ホプキンにも歌わせたくらいのポールのお気に入り曲⑬「ザ・インチワーム」も同様で、シンプルなメロディーを愛でるように歌うポールのヴォーカルに思わず聴き入ってしまう。ポールのフランク・レッサーへのリスペクトがよく分かる名唱だ。
 UK盤デラックス・エディションのみに収録のボートラ⑯「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」ではブラッシュ音の洪水の中から聞こえてくるポールの優しげな語り口がめっちゃスイート。ポールが歌う歌詞の一言一言から新妻ナンシーさんへの愛情がヒシヒシと伝わってくる甘口ラヴ・ソングだ。銭ゲバ地雷女と別れてやっとのことで心の平穏を得たポールにとって、この選曲は必然と言えるものだろう。 (つづく)

Paul McCartney - iTunes Webcast 2012 Live - HD 1080p - Complete