shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

ジブリ・ミーツ・ボサノヴァ

2011-01-26 | TV, 映画, サントラ etc
 またまたジブリである。一昨年のビートルズで味をしめて以来、このブログでは祭りと称して本能の趣くままに特定のアーティストや楽曲、テーマを集中して取り上げてきたが、2011年最初のお祭りは、様々なカヴァー盤が粗製濫造されているジブリ・ミュージックの中から私が特に愛聴している盤を特集したい。ということで、ジブリの名曲をピアノ・トリオで見事にジャズ化した前回の「ジブリ・ミーツ・ジャズ」に続く “ジブリ・カヴァー祭り” 第2弾はボサノヴァである。
 ネットで調べてみたらジブリのボサノヴァ・カヴァー盤は何種類か出ており、色々試聴してみると正に玉石混交と言っていい状態で、タイトルが似ているだけに一歩間違うととんでもないカスをつかまされるハメになる。特に酷かったのは「ジブリBOSSA」という盤で、これのどこがボッサやねん!と怒鳴りたくなるようなハウス・ミックス系の軽薄ダンス・ミュージックのオンパレード。 “渋谷系” だか何だか知らないが、何でもかんでも「ジャズ」とか「ボッサ」というタイトルを付けて堅気の衆を騙すのは一種の詐欺行為に近い。ジブリに関して言えばジャケットにオシャレな女性のイラストがアップで描かれているような盤は要注意だ。
 そんな偽物が横行するジブリ・ボッサ盤の中で私が気に入ったのがこの「ジブリ・ミーツ・ボサノヴァ」というコンビ盤である。ジャケットに写っている耳が大きくて目がクリクリした可愛い動物は、ナウシカのペットの “キツネリス” のモデルになったと言われるフェネック。やはりジブリのジャケットはこうでなくてはいけない。
  ボサノヴァという音楽は本来、クラシック・ギターを指でつま弾きながら抑揚に乏しいメロディーを呟くように歌うというスタイルだったものが、世界的に広まるにつれて徐々にその形態も変化していき、今ではゆる~いヴォーカルをフィーチャーした心地良い脱力系サウンドの総称として広義に解釈されている。このアルバムも大半はそのような “新感覚ボッサ” で、メロディーの分かり易いジブリ・ナンバーを洗練されたラウンジ・ミュージックに仕上げている。
 収録曲は8曲とやや少なめだがそのサウンドはゆったりまったりで快適そのもの。私はボサノヴァに関しては門外漢なので参加しているアーティストは一人も知らなかったのだが、実際に聴いてみるとどのトラックも実に工夫を凝らしたアレンジでボッサ化されており、そのセンスの良さに唸ってしまう。
 中塚 武 with 土岐麻子の①「となりのトトロ」、viola with Kaori Okano の②「君をのせて」と、親しみやすいオシャレなボッサが続く。 Jazztronik の③「崖の上のポニョ」は Ponyo Nova Arrangement という副題が付いているだけあって、サンバを想わせるような軽快なリズムに乗ってノリノリのボッサに仕上がっている。涼しげな雰囲気を演出するフルートや弾むようなハンド・クラッピングなど、実に秀逸なアレンジだ。 COJIROU with カコイミクの④「さんぽ」もその脱力系ヴォーカルが曲想とバッチリ合っていてめっちゃ和めてしまう。このラフでレイドバックした感覚こそがボサノヴァの本質ではないか。
 大橋トリオによる⑤「風の谷のナウシカ」はこのアルバム中唯一の男性ヴォーカル・ボッサ。やる気があるのか無いのかワカランような朴訥とした歌い方はボッサ・マイスターの 901 さんが聴かせて下さる本場ブラジルのボサノヴァを想わせるもので、正統派ボッサの風格が漂うそのサウンドはオシャレなクラブやカフェで映えそうな女性ヴォーカル群の中で異彩を放っている。付かず離れず寄り添う女性バック・コーラスとのハモりも絶品で、これこそまさに聴けば聴くほど味が出るスルメ・チューンの典型と言えるだろう。
 私がこのアルバムで一番好きなトラックが wyolica という2人組ユニットの⑥「もののけ姫」で、女性ヴォーカルの声質と唱法がボッサ化されたバックのサウンドと絶妙に溶け合い、原曲に潜む神秘性を見事に引き出している。一度聴いたらずっと耳に残りそうなカッコ良いヴァージョンだ。 Lumiere with ellie の⑦「いつも何度でも」も大好きなトラックで、囁き系のソフト・フォーカスなヴォーカルが聴く者の心を優しく包み、ほんわかした気分にさせてくれる。ここまでくると歌唱力がどうとかアレンジがこうとかいう問題ではなく、ただただその美しいメロディーに酔い、そしていつの間にかその歌声に酔いしれているという、そんな稀有な名曲名演だ。
 ジブリの音楽はアニソンというジャンルを軽く超越して、日本が生んだスタンダード・ソングという次元で語られるべきものである。天才的なメロディー・メーカー、久石譲氏の名曲の数々を軽やかなボッサ・アレンジで楽しめるこのアルバムはすべてのジブリ・ファンに自信を持ってオススメできる逸品だ。

もののけ姫(Bossa Nova version)wyolica


Lumiere with ellie


大橋トリオ