
さまざまな要因がありますが、ウクライナ兵(兵は市民)の惨状が伝えられていないことが1つの大きな要因ではないでしょうか。
<渡河作戦は「自殺任務」 米紙報道、兵士証言>
こうした見出しでウクライナ兵の声を伝えた米紙ニューヨーク・タイムズの記事を紹介する記事が、19日付の京都新聞(共同配信)にベタで載りました。
< 米紙ニューヨーク・タイムズ電子版は16日、ウクライナ軍が南部へルソン州で本格化させたドニエプル川の渡河作戦について、犠牲が大きく「自殺任務だ」と訴える複数のウクライナ兵の証言を伝えた。
ウクライナ側は戦果を強調するが、多くの兵士が逃げ場のない川岸や水中でロシア軍の攻撃を受け、死亡しているという。
ウクライナ外務省は11月中旬、ロシア側が支配するドニエプル川の東岸に複数の拠点を確保したと表明した。しかし兵士らは同紙に「そこに拠点を築くのは不可能だ」と明かし、発表は誇張されていると指摘した。>
この短い記事で分かるのは、ウクライナ政府・軍は兵士に「自殺任務」ともいえる無謀な命令を下し多くの死者を出している、にもかかわらず政府は「戦果」を偽って発表している、と複数の兵士が証言していることです。
ニューヨーク・タイムズ紙は、ウクライナ兵の死者数は「7万人近く」とも報じています(20日付朝日新聞デジタル)。
日本のメディアはこうした実態を、ニューヨーク・タイムズ紙など外国メディアの報道を短い記事で紹介するだけです。日本メディアがウクライナ戦争報道で大きなスペースを割いているのは、一貫してゼレンスキー大統領の言動と米バイデン政権の動向です。
これは世界の中できわめて特異な状況だと松里公孝・東京大学大学院教授は指摘します。
「西側のメインストリーム・メディアは戦闘の実態を報道するようになった。賞賛すべきは、これらの局の記者がウクライナ兵とともに塹壕に入って取材していることである。…凄惨な映像が、欧米のテレビでは毎日のように流されている。いまだにゼレンスキーを英雄扱いし、西側が支援すればウクライナが勝てるかのような報道をする日本のマスコミはかなり変わっている」(「正義論では露ウ戦争は止められない」=「世界」2024年1月号所収)
ウクライナ軍幹部はゼレンスキー氏に「45万人から50万人の追加動員」を提案し、ゼレンスキー氏が検討中だと報じられています(20日付朝日新聞デジタル)。
これ以上犠牲者を出すことは許されません。もちろんロシア兵も同じです。直ちに停戦協議を始める必要があります。
兵士の凄惨な状況を報じず、ゼレンスキー氏やバイデン氏の言動を中心にした報道で戦争継続を煽っているメディアの責任はきわめて重いと言わねばなりません。