NHKドラマ「やさしい猫」(主演・優香)が29日最終回(全5話)でした。原作は中島京子さん(写真右=朝日新聞デジタルより)。小説が書かれたのは2年前。入管行政の犠牲になるスリランカ男性と日本のシングルマザーと娘、3人家族のたたかいの物語でした。
強制送還逃れの「偽装結婚」と決めつけられ、問答無用に収監され、元気だった体が数カ月で衰弱した男性。必死の思いで「仮放免」を勝ち取るも、健康保険もなく、理不尽な「家宅調査」を受けるなど、人権侵害の数々…。入管行政の実態がよく描かれていました。
クライマックスの裁判シーンで、男性の弁護士(滝藤賢一)が述べた言葉が秀逸でした(メモなので正確ではありません。以下同じ)。
「これは東京の片隅の1つの家族のことではありますが、問われているのは国の姿勢です。国が人の幸福追求権を奪っていることが問われているのです」
NHKドラマで「国」を追及する鋭い言葉が繰り返されたの珍しいでしょう。
最も心打たれたのは、家族を支援する元入管職員(吉岡秀隆)の言葉でした(第4話)。「相手は国だ。国と闘っている」という弁護士に対し、元職員はこう言います。
「(入管相手の)裁判で勝つ確率は2%だけど、(犠牲になっている外国人を)救いたいと思っている日本人もそれくらいかもしれない」「誰と闘っているのが分からないのが一番問題かもしれない」
中島さんは朝日新聞への寄稿で、先の国会で強行された入管法改悪を批判し、小説執筆の動機をこう述べています。
「どうしてこんな法律が通ってしまったんだろうとぼうぜんとするが、それはおそらく、多くの有権者が問題に気づかず無関心でいるからだ。気づいてもらえる一助になればというのは小説を書いた動機でもあるが、一つ小説が書かれたくらいでは、影響力は限られる」(7月22日付朝日新聞デジタル)
先の元入管職員の言葉に通じます。やはりこれが中島さんが作品に込めた思いの核心でしょう。
タイトルの「やさしい猫」とは、ネズミを食ってしまった猫が、そのネズミには子ネズミたちがいることが分かり、子ネズミたちを引き取って自分の子ネコたちと一緒に育てた、というスリランカの童話のタイトルだそうです(第1話)。
最終回、裁判が終わって、妻(優香)の実母(余貴美子)が言います。「人間はみな泣きながら生まれてくる。人生は苦しいものだ。でも、生きていく中でやさしくなり、笑うことを知っていく」。なぜ「やさしい猫」のタイトルがつけられたのか分かった気がしました。
98%の日本人は「やさしい猫」になれるでしょうか。ならなければなりません。「やさしさ」ではなく、人としての責任として。