
ゼレンスキー大統領は「ロシアによる攻撃は停戦と真の外交を求めてきた世界の人々への明確な回答だ」と断定しています。はたしてそうでしょうか。
注目されるのはロシア・ラブロフ外相の発言です。
<ラブロフ氏は米NBCテレビのインタビューで、ウクライナの安全の保証はロシアの安全の保証と不可分の問題だと指摘。米欧による「占領軍」の派遣はロシアに対抗するのが目的であり「取るべき行動ではない」とけん制した。
一方、22年春のロシアとウクライナの直接交渉で議論された「ウクライナの永世中立と安全保障に関する条約」で明記された内容については、ロシアは受け入れ可能とみられる。
ラブロフ氏によると、同条約には国連安全保障理事会の常任理事国である米英仏中ロの5カ国のほか、ドイツやトルコなど関係国が「保証国グループ」を創設し、いかなる軍事同盟にも属さず非核、中立国であるウクライナの安全を保証することになっていた。>(28日付京都新聞=キーウ共同)
「22年春の直接交渉」とは、ロシアの軍事侵攻からわずか4日後の同年2月28日に始まり、3月3日、7日、10日、14日、29日と相次いで行われた交渉です。
3月29日の交渉で、ウクライナ側は「停戦に向けた和平案」を提示し、大統領府のウェブサイトで公表しました。その内容はこうです。
<・新たな安全保障の枠組みを作り、そこに国連安保理の常任理事国、さらにトルコ、ドイツ、カナダ、イタリア、ポーランド、イスラエルなどが、保証国として参加する。保証国は、ウクライナが攻撃された時は、ウクライナへの軍事的支援を行う。
・これが実現したら、ウクライナは(NATOも含め)軍事的同盟にも参加せず、外国の軍事基地も置かず、永久的な中立国になり、かつ核兵器も保有しない。
・クリミア半島については、15年かけてロシアとウクライナで別途協議する。この間、ロシアとウクライナは、軍事的な手段でクリミア問題を解決しようとしない。
・(東部の)ドネツク州とルハンスク州の一部の区域(親ロシア派が実効支配していた地域)についての協議も、別途行う。>(東大作著『ウクライナ戦争をどう終わらせるか』岩波新書2023年2月より)
これはウクライナ側からの提案です。そして「これに対してロシア側も、好意的に反応し…実際にロシアは、北方から首都キーウを目指していロシア軍を撤退させ始めた」(東大作氏、同前)のでした。
ところが、これに反対した国がありました。アメリカです。
「米政府にとって、この時点でのロシアとの停戦は望ましいものではなかった。ウクライナに軍事基地を置かず、さらに軍事演習にはロシアを含めた合意が必要という「中立」案は、ロシアとの妥協であるとして、バイデン政権には不満であった」(下斗米伸夫著『プーチン戦争の論理』集英社インターナショナル新書2022年10月)。
結果、ウクライナが提案した和平案は水泡と帰し、今日にいたるまで戦争が続くことになりました。
ラブロフ氏は今、その幻の和平案に言及し、「受け入れ可能」を示唆しているのです。
「ウクライナ側が提示した内容にロシア側の交渉団がほぼ同意し、双方の交渉チームのレベルでは大筋の合意に達していたことは、将来、仮に本格的な和平交渉が再開された時の一つの大事な布石、礎になる可能性がある」(東大作氏、前掲書)
それがまさに今です。
「いかなる軍事同盟にも属さない非核、中立のウクライナ」という「22・3・29和平案」に回帰することが停戦・和平のカギです。ロシアの軍事侵攻の大きな原因が、アメリカが公約を反故にした「NATOの東進」だったことを改めて想起する必要があります。