日本共産党の藤野保史政策委員長が28日、NHK討論番組(26日)での発言を理由に更迭されました。これはその内容、経過ともに、きわめて重大な問題を残したと言わざるをえません。
経過をたどってみましょう。
「問題」の発端は、藤野氏が「26日のNHK番組で、2016年度予算で初めて5兆円を超えた防衛費に触れ『人を殺すための予算ではなく、人を支えて育てる予算を優先する』と言及した」(29日付中国新聞=共同配信)ことです。
この発言に対し、安倍首相が「自衛隊に対する侮辱だ」と攻撃したほか、民進党の枝野幹事長も「関係者に不快感を与える発言」と反発しました。
26日、藤野氏は番組放送のあと「コメント」を発表しました。
「本日のNHK討論で、軍事費について、『人を殺すための予算』と発言しました。この発言は、安保法制=戦争法と一体に海外派兵用の武器・装備が拡大していることを念頭においたものでしたが、テレビでの発言そのものはそうした限定をつけずに述べており、不適切であり、取り消します」(27日付「しんぶん赤旗」)
27日、共産党の志位和夫委員長は、「不適切だ。武器購入が念頭にあったようだが、限定していない。私からも注意した」と述べました(28日付中国新聞=共同配信)。
そして28日、藤野氏は小池晃書記局長とともに会見し、政策委員長を辞任(事実上の更迭)したことを明らかにするとともに「おわびコメント」を発表しました。
「この発言はわが党の方針と異なる誤った発言であり、結果として自衛隊のみなさんを傷つけるものとなってしまいました。深く反省し、国民のみなさんに心からおわび申し上げます。あわせて選挙をともにたたかっている野党共闘の関係者のみなさん、支持者と党員のみなさんに、多大なご迷惑をおかけしたことをおわびいたします」(29日付「しんぶん赤旗」)
問題1 自衛隊は憲法違反の軍隊であり、軍隊の本質は「人殺し」。軍事費が「人殺しのための予算」だという発言はまったく正当
藤野氏の発言のどこが「党の方針と異なる」のか明確にされていませんが、藤野氏のコメントや志位氏の発言から、「武器購入」に「限定」しなかったこと、すなわち自衛隊員の予算を含めて「人を殺すための予算」と言ったことのようです。
しかし、果たしてそれは共産党の方針と異なっているでしょうか。
たとえば、先の衆院北海道5区補選(4月24日投票)で、自民党陣営から「(共産党は)自衛隊反対だなんていっている。いま自衛隊がどれだけ九州(災害救助)で活躍しているか」という攻撃がなされました。
これに対し、共産党はこう反論しました。
「自衛隊は、憲法9条が保持を禁じた『戦力』にあたるので、日本共産党は、将来的には9条の完全実施(自衛隊の解消)をめざしています。それは戦争のない、軍隊も必要のない世界という平和の理想につながるものです」(4月23日付「しんぶん赤旗」)
この反論と、藤野氏の発言と、どこがどれだけ違うのでしょうか。
自衛隊は、共産党も認めているように、憲法違反の戦力=軍隊です。軍隊の本質的使命は「人殺し」です。自衛隊員予算を含む軍事費を「人を殺すための予算」と言うことがどうして間違っているのでしょう。
自民党や民進党などは自衛隊の災害出動を前面に出しますが、自衛隊が災害時に出動するのは、災害救助のための専門組織がほかにないからです。自衛隊を解散して災害救助のための組織を別につくるべきだというのは共産党の一貫した主張のはずです。同様の世論はけっして少なくないでしょう。
ところが歴代自民党政権はそうした声を無視し、あえて災害救助専門の組織・機構をつくらず、自衛隊を出動させています。それによって、軍隊である自衛隊の性格を隠蔽し、自衛隊への「国民」の親近感・支持を広げるためです。こうした姑息な政治的作為は、災害救助のためには自衛隊という軍隊に入隊せざるをえなかった隊員の善意にも反するものです。
問題の核心は「自衛隊員を傷つけた」かどうかではなく、自民党政権が災害救助を「人殺し」の軍隊である自衛隊にやらせているところにあるのです。
問題2 「野党共闘」最優先のスピード更迭は民主主義に反する
藤野氏の番組発言から辞任(更迭)までわずか3日。しかも「持ち回りの常任幹部会」(29日付中国新聞=共同)というきわめて異例のやり方で、最高幹部の1人である政策委員長の首がすげ替えられたことは、きわめて異常・非民主的と言わざるをえません。
問題の性格(党の政策の根幹にかかわる問題)、発言者のポストを考えれば、仮に「処分」するとしても、常幹や幹部会で十分議論するのが当然でしょう。
志位氏らが「藤野更迭」を急いだのは、「参院選への影響を最小限にとどめるため、事実上の更迭によって早期の幕引きを図った」(29日付毎日新聞)という見方が一般的です。「参院選への影響」とは「野党共闘」への影響にほかなりません。自民党と同じレベルで藤野発言を批判している民進党への配慮です。藤野氏の「おわびコメント」にもそれが表れています。
「野党共闘」(民進党)への配慮から、問題点を十分議論することもなく、政策委員長という重要幹部の首を、異例のスピードですげ替える。これが「民主主義」を標榜している党のすることでしょうか。
問題3 「軍事費・自衛隊批判タブー」を助長する危険
事が藤野氏の更迭だけで済むなら共産党内部の問題としてそれほど騒ぐ必要はないでしょう。
しかしそうはいかないところに大きな問題があります。
今回の経過によって、「国民」の中には、やっぱり「自衛隊」や「防衛予算」は悪いものではないんだ、批判すべきではないんだ、という印象が残ったのではないでしょうか。藤野氏が「おわびコメント」で「自衛隊を傷つけた」として「国民のみなさんに」謝り、「自衛隊」と「国民」を一体化させているのも問題です。
これは「自衛隊・軍事費批判タブー」を助長するものです。これこそが最も問題であり、安倍・自民党の狙いもそこにあることは明白です。
臆することなく、「タブー」を打ち破って、声を大にして言わねばなりません。
「5兆円を超える軍事費=人殺しのための予算を削って、人を支え育てる福祉・教育予算へ」
「憲法違反の自衛隊は解散し、災害救助のための専門組織を」