アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

地方自治法改悪と自衛官の“天下り”

2024年05月10日 | 自衛隊・軍隊
   

 地方自治法改悪案の本格審議が9日の衆院総務委員会で始まりました。焦点は、国が自治体に命令することができる「指示権」の創設です。

 その意味について、片山善博・大正大特任教授(元総務相・鳥取県知事)はこう指摘します。

「国はかつて「指揮監督権」を持ち、自治体に「機関委任事務」をやらせることができた。要するに、自治体をアゴで使えた。それはおかしい、というのが00年の地方分権改革でした。国が自治体に指示や命令をするには、個別の法律に基づく根拠が必要だと改めました。国と地方の関係は「対等」になりました。
 改正案では個別の法律に根拠がなくても、国が「非常時」と判断すれば自治体に指示を出せるようになります。国と地方の「対等関係」は根本から崩れ、「上下関係」の時代に逆戻りしてしまう」(4月1日付朝日新聞デジタル)

 加えて強調しなければならないのは、この法改悪は「軍拡(安保)3文書」(2022年12月16日閣議決定)による急速な戦争国家化と一体不可分だということです。政府の念頭にある「非常時」とは「有事」にほかなりません(3月21日のブログ参照)。

 その点で、黙過できない重大な事態が水面下で進行しています。幹部級の自衛官が退職後、「災害担当」などの名目で自治体に再就職する“天下り”が増えているのです。

 7日朝のNHKニュースは、陸上自衛隊1等陸佐が「防災監」として市の職員になり、「災害対応」の指揮を執る訓練を行っている模様を報じました(写真左・中)。
 同ニュースによれば、こうした自衛官の地方自治体への“天下り”は、全国で653人にのぼっています(昨年時点)。

 その顕著な例が表面化したのが沖縄県です。
 
 玉城デニー知事は4月1日、元陸上自衛隊自衛官(1等陸佐)を「危機管理補佐官」に任命しました(写真右)。同ポストは知事部局に新設されたいわば知事直属の補佐官です(4月8日のブログ参照)。

 地方自治法改悪が法的に網をかけて上から地方自治体を支配するものだとすれば、自衛官の“天下り”は有事における自治体の行動、とりわけ自衛隊配備を自治体内部から支配する「トロイの木馬」と言えるでしょう。

 こうした動きが、「土地規制法」による住民運動の監視・弾圧、各地の民間空港・港湾を軍事利用する「特定利用空港・港湾」指定と無関係でないことは言うまでもありません。

 国が戦争を行うためには、地方自治は邪魔なのです。それを取り払って自治体を国の支配下に置く策動がさまざまな方向から強まっている。それが日本の現状です。

 

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能登-少女はこうして軍隊にあこがれた

2024年02月01日 | 自衛隊・軍隊
  

 能登半島地震から1カ月を前にした30日、朝日新聞デジタルは<崩れた家から救出の6歳 「自衛隊のお姉さん」からもらった手紙は宝物>と題した記事を配信しました。以下、抜粋します(記事は実名ですが、仮名とします)。

<石川県珠洲市のRさん(6)は現在、両親と断水の続く自宅で生活している。
 そんな中、Rさんは一つの楽しみを見つけた。自衛隊のお風呂だ。
 地震から1週間が過ぎた頃から、Rさんの家族は避難所となっている学校に設営されたお風呂へ通っている。

 お風呂に通ううち、Rさんは運営担当の「自衛隊のお姉さん」と話すようになった。「おなまえは」「年はいくつ」。そんな話から言葉を交わすようになった。

 発災直後、暖もとれずお風呂に入れない避難生活も経験していたRさんは、温かい湯船がうれしかった。そして、お姉さんと話すのが楽しかった。いつしか、「将来、自衛隊員になりたい」と口にするようになった。

 10日ほど通った後、お姉さんは拠点となる駐屯地に戻ることが決まった。
 Rさんは「まいにちありがとう」「きもちいいです」と感謝の気持ちを込めた手紙をお姉さんへ書いて渡した。

 お姉さんが帰る前、Rさんはひらがなで記された返事の手紙をもらった。
 「じえいかんになりたいって おてがみにかいてあって とてもうれしかったよ」「じしんがあって こわいとおもうけど ままのヒーローになってあげてね Rちゃんなら できる」

 もらった手紙はRさんの宝物になった。持ち歩くピンク色のリュックに、大事にしまっている。>(写真左はRさんと母。同記事より)

 「自衛隊のお姉さん」からの手紙を持ってほほ笑んでいるRさんの笑顔が愛らしい(記事に添付の写真)。この「自衛隊のお姉さん」のRさんに注がれた愛情は偽りではないでしょう。

 だからこそ、悲しく、恐ろしい。Rさんが「お姉さん」への親しみと感謝から「将来なりたい」と口にするようになった「じえいかん」は、まぎれもなく自衛隊という軍隊に所属する兵士です。その主たる任務は災害救助ではなく「国の防衛」という名の戦闘・戦争です。

 こうして「災害派遣」で間近に接した自衛隊員の姿から入隊を希望するようになった(なる)例は珍しくないでしょう。しかし、いったん入隊すれば、どこでどんな任務に就くかは命令次第。やがて、「人を救うために入ったのに、こんなはずではなかった」と苦悩するようになります(12月13日のブログ参照)。

 災害出動・対策は自衛隊ではなく、それに特化した専門機関で、という声は以前からあります。しかし歴代自民党政権はそれに背を向け、自衛隊を出動させ続けています。それをメディアは救世主のように報じます。

 それは被災地の市民の苦悩と現場の自衛隊員の善意を利用して、国家権力が憲法違反の軍隊を市民社会に浸透させ、同時に人員確保を図るためにの政治戦略です。

 今回もその構図の中で、純真な少女が「自衛隊のお姉さん」にあこがれ、自らも「じえいかん」になりたいと思う。それをメディアが美談として報じる。だから、悲しく、恐ろしいのです。

 災害が頻発するこの国で、差し迫る南海トラフを前に、自衛隊という違憲の軍隊ではなく、災害救助・対策に特化した専門機関の創設は喫緊の課題です。それこそが今回の能登半島地震の最大の教訓です。

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陸幕副長らの靖国参拝はなぜ問題なのか

2024年01月13日 | 自衛隊・軍隊
   

 陸上自衛隊の小林弘樹陸上幕僚副長ら数十人が9日、靖国神社を集団参拝していたことが判明しました。これは明らかに公務としての参拝、すなわち公式参拝です。

 それは以下の事実(12日付の報道)から明確です。

 参拝した数十人は、陸自の航空事故調査会の関係者で、小林副長はその委員長だった。
 陸自の担当部署が参拝の実施計画を作成した。
 小林副長は9日午前、市谷の防衛省に出勤し、靖国神社へ公用車で往復した。
 参拝した数十人は全員、防衛省・自衛隊内部から靖国神社へ向かった。
 小林副長のほかにも移動に公用車を使っていた者がいた。

 疑問の余地はありません。「私服で、時間休をとり、玉串料は私費」などの弁明はカムフラージュのための言い訳にすぎません。

 防衛省は1974年に事務次官通達で、宗教施設を部隊で参拝したり、隊員に参加を強要することなどを禁止しています。木原稔防衛相は12日の記者会見で、今回の小林氏らの靖国参拝がこの通達に違反するかどうか調査すると述べました。

 これは問題の矮小化にほかなりません。
 
 憲法第20条第3項は、「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」と規定しています。靖国神社参拝は言うまでもなく宗教活動です。
 小林氏らの靖国神社公務(公式)参拝が問題なのは、防衛省内の次官通達に反しているからではなく、それが明白な憲法違反だからです。だから絶対に許されないのです。

 さらに、今、陸自ナンバー2を先頭に数十人が靖国神社を公務参拝した意味を考える必要があります。

 靖国神社は天皇制政府が東アジアの侵略戦争・植民地支配を強行するため、兵隊動員、皇民化政策の精神的支柱にした神社です。
 それはけっして過去の話ではありません。中曽根康弘、小泉純一郎、安倍晋三各氏らが総理大臣として公式参拝し、他の歴代自民党首相も「玉串料」や「真榊」を奉納し続け、A級戦犯を合祀し続けているのは、日本が侵略戦争・植民地支配の加害の歴史をまったく反省していない証拠です。

 そしていま、安倍晋三政権が「安保法制」で「集団的自衛権」に踏み切ったのに続き、岸田文雄政権は軍拡(安保)3文書で「敵基地攻撃」を閣議決定しました。日米安保条約体制=軍事同盟の深化の下、日本は戦争国家へまい進し、自衛隊はまさに戦う軍隊としての本質を露わにしようとしています。

 小林副長ら自衛隊の靖国神社集団公式参拝は、こうした戦争国家化への流れの中で行われたものであり、そこに黙過できない重大な意味があります。

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能登・自衛隊の物資輸送は4日から。首相会見は虚言

2024年01月05日 | 自衛隊・軍隊
   

 能登半島地震(1日午後4時すぎ発生)。救助・救援活動を行っているはずの自衛隊の姿が見えない、と先に書かましたが(3日のブログ参照)、その後の報道で実態が分かってきました。

 4日午後7時のNHKニュースは、現地金沢局から、「自衛隊がトラックによる救援物資の輸送始める」として、こう伝えました。

「救援物資の輸送は、おととい(2日)から民間トラックを活用して行われていたが、陥没や亀裂など道路状況の悪化で難航した。きょう(4日)から自衛隊トラックによる救援物資の輸送が始まった」(写真左)
「自衛隊は孤立集落など陸路輸送が困難な地域では、ホバークラフトやヘリコプターで物資を輸送する」

 午後6時のNHKニュースでは、「撮影 防衛省」として石川・輪島へ向かっている自衛隊のホバークラフトが映し出されました。そのキャプションは「午前9時半すぎ」となっています(写真中)。

 これ以前に自衛隊の活動を伝える報道が1つありました。石川・志賀町で給水活動を行っている隊員です。その日付は「きのう(3日)」です(写真右)。

 これより早い日付の自衛隊活動は見られません。倒壊した家屋からの救出活動にあたっていたのは他府県から応援に駆け付けた消防や警察で、自衛隊の姿はありませんでした。

 以上から言えることは、自衛隊は3日に部分的に給水活動を行ったものの、本格的に部隊が活動を開始したのは4日からで、それも物資輸送が中心。最も困難な倒壊家屋からの救出は引き続き消防や警察が担っていた、と思われることです。

 一方、防衛省は、「1日20時50分ごろ、石川県からの災害派遣要請に基づき自衛隊が活動開始」と発表しました(3日付京都新聞の「ドキュメント」=共同)

 その発表が本当なら、1日夜から3日あるいは4日まで、自衛隊は何をしていたのでしょうか。2日の自衛隊の活動はまったく報じられていません。

 岸田首相は2日午前10時の記者会見で、「昨夜(1日夜)のうちに自衛隊は航空部隊などあらゆる手段を用いて現地に部隊を進め、順次救命救助活動を開始している。発災直後から現地の輪島分屯基地の空自部隊が被災者支援と倒壊家屋からの救出にあたっている」「自衛隊の派遣人数は1000人」だと言いました。

 防衛省・自衛隊の報告をオウム返ししたものでしょうが、それは事実ではない虚言、ウソだった可能性がきわめて大きいと言わねばなりません。

 生命の危機と言われる「72時間」を前にして、そして一刻も早い救援を切望している被災者を目の当たりにして、自衛隊は1日夜からどこで何をしていたのか、厳しく問われなければなりません。

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能登半島地震・被災地に自衛隊の姿が見えない

2024年01月03日 | 自衛隊・軍隊
   

 1日午後4時過ぎに発生した能登半島地震。倒壊した家屋、下敷きになっている市民の救出にあたる消防隊員、断水のため給水車に何時間も並ぶ市民…大変な状況が終日映し出されています。

 その現地映像を見て、おやっと思うことがあります。自衛隊(迷彩服)の姿がどこにも見えないのです。

 いつもなら自衛隊の被災地活動を繰り返し映し出すNHKの報道でまったく自衛隊の姿がありません。2日午後3時過ぎ(地震発生から丸1日)のLIVE映像にも見られません。

 岸田文雄首相は2日午前の記者会見で、「昨夜のうちに自衛隊は航空部隊などあらゆる手段を用いて現地に部隊を進め、順次救命救助活動を開始している。発災直後から現地の輪島分屯基地の空自部隊が被災者支援と倒壊家屋からの救出にあたっている」と述べました。「自衛隊の派遣人数は1000人」だとも言いました(写真)。

 しかし、現地の映像を見る限り、その姿はありません。NHKのアナウンスも、「消防などが救出にあたっている」というもので、自衛隊とは言っていません。
 2日午後3時過ぎの報道では、「石川県内30人の死亡確認」とともに、「救助要請相次ぐ」と救助活動の遅れを伝えました(写真中)。

 自衛隊は、果たして岸田首相が発表した通り、1日夜から現地に入り、1000人規模で救助活動を行ったのでしょうか。大きな疑問を抱かざるをえません。

 そもそも、「被災地の救命救助活動」は自衛隊の本来任務ではありません。自衛隊法が明記している自衛隊の本旨は「国の防衛」すなわち軍事活動です。軍隊ですから当然です。しかも日米軍事同盟においてはアメリカに従属する軍隊です。

 災害のたびに救命救助活動を自衛隊にやらせ、それをアピールして自衛隊(軍隊)の市民社会への浸透を図る政略は不当です。

 自衛隊の「災害活動」にあこがれ、人命救助のために入隊したけれど、今は南方のミサイル基地建設に当たる任務を命じられ、家族と共に困惑している自衛官の実態が先日報じられました(12月10日のNHKスペシャル、12月13日のブログ参照)。こうした事例は多々あり、今後も増え続けると思われます。

 災害大国日本において、救命救助を自衛隊に依存している(させている)実態は直ちに改めなければなりません。
 憲法違反の自衛隊は解散し、災害救助に特化した部署(たとえば「災害救助庁」)を創設すべきです。救援物資の「プッシュ型支援」も、「スーパー、コンビニなど民間の協力」(岸田首相)を得るのではなく、その部署が政府の責任において迅速に行うべきです。現在の軍事費の10分の1でも災害救助・対策にあてれば、どんなに充実した救助救援活動が行われることでしょうか。

 今回の能登半島地震で、自衛隊が実際にいつ、どのような活動を行ったのか(行っていないのか)は、今後真相が明らかになるでしょう(メディアが機能していれば)。
 その如何に関わらず、自衛隊に代わる災害救助部署を創設する必要性は高まるばかりです。

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「反撃されないために…」供述に表れた自衛隊の本質

2023年12月14日 | 自衛隊・軍隊
   

 京都市東山区のマンション踊り場で男性(82)が刺殺された事件(3日)。殺人容疑で逮捕されたのは、陸上自衛隊宇治駐屯地・祝園(ほうその)分屯地に勤務する陸上自衛官・水島千翔容疑者(21)でした。

 被害者と同じマンションに住む女性(82)は、「国民の安全を守る自衛官が人を殺すなんて」と驚きを隠せない様子だったと報じられています(12日付京都新聞)。

 また、被害者を訪問看護していた男性看護師(50)は、「日ごろ訓練を受けている自衛官が起こしたことに恐怖を感じる」と憤ったとも報じられています(同)。

 どちらも率直な感想ですが、男性看護師が抱いた「恐怖」は、その後の報道でさらに増幅することになりました。13日の各紙の報道によると、同容疑者はこう供述しています。

「反撃されないために、大柄な男性以外を狙った」

 「反撃」という言葉にハッとしました。普通なら「抵抗されないために…」と言うでしょう。「反撃」というのは戦闘(戦争)用語です。
 同容疑者は、「誰でもよかった」「逮捕されていなければ、また人を殺すつもりだった」とも供述しているといいます。容疑者の頭の中は「殺人」で支配されており、それは彼にとっての「戦闘」なのです。

 この意識状態は、まさに自衛隊における「日ごろの訓練」で植え付けられたものではないでしょうか。自衛隊が日ごろ行っている戦闘訓練は、突き詰めればいかに人を殺すかの訓練に他ならないからです。

 もちろん、自衛官がすべて犯罪予備軍になるわけでないことは言うまでもありません。同容疑者は特殊な例でしょう。しかし重大なのは、「敵(人間)」を殺害する訓練を日常的に行っている組織(暴力組織)が、私たちが暮らしている同じ社会に存在しているという事実です。しかもその組織は、政府の組織であり、私たちの税金で維持されているのです。

 そして忘れてならないのは、その組織の暴力の矛先は、国家権力の命令によっていつでも私たち市民に向けられるということです。国家権力にとって不都合な市民・市民運動を弾圧する自衛隊の「治安出動」です。

 軍隊とはそういう組織です。自衛隊はけっして「国民の安全を守る」組織ではありません。「軍隊は住民を守らない」。それどころか「住民を犠牲にしても軍令に従う」。それが沖縄戦が多大な犠牲によって示した歴史的教訓です。

 セクハラ、パワハラも同じです。自衛隊内の性暴力を告発して罰することは重要ですが、自衛隊から性暴力・セクハラ・パワハラをなくすることはできません。それは軍隊の属性だからです。

 今回の京都市の事件は、日本が暗黒の軍事社会の入口に立っていることを示しているように思えてなりません。

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Nスぺ「自衛隊・変貌その先に」ウソの中のマコト

2023年12月13日 | 自衛隊・軍隊
  

 10日のNHKスペシャル「自衛隊・変貌その先に」は、岸田政権が閣議決定(2022年12月16日)した軍拡(安保)「3文書」によって自衛隊がいかに「変貌」したかを特集しました。

 「敵基地攻撃能力保有」や「日米軍事同盟深化」など、「3文書」によって自衛隊が米軍への従属をいっそう強め危険性を増していることは歴然で、NHKも否定はできません。そこで番組は、この「変貌」と「専守防衛」の関係に焦点を当てました。

 始めから終わりまで番組構成の柱にしたのが「国家安全保障戦略研究会」(写真左)です。
 同研究会は、元統合幕僚長や元防衛事務次官など自衛隊・防衛省幹部OB約10人で構成。防衛省の近くに事務所を構え、定期的に意見交換を行っています。「3文書」が閣議決定される前に政府に「提言」を提出し、その内容に大きな影響を及ぼしました。議論の焦点になったのは、「専守防衛」という文言を残すかどうかでした。

 同研究会の議事録やメンバーへのインタビューを柱としたNスぺの結論は、「専守防衛の範囲内ということできちんと説明することが必要」という黒江哲郎元防衛自見次官(写真中)の言葉で締めくくられました。そして、ナレーションに「変貌する自衛隊のかじ取りの責任を最後に負うのは私たち(「国民」)自身です」と言わせ、自衛隊と「国民」の一体化を図って番組は終わりました。

 「専守防衛」など戦争法(安保法制、2015年9月1日成立)で集団的自衛権を容認した時点で名実ともに崩壊しています。番組は「専守防衛」どころか敵基地攻撃=先制攻撃容認に踏み込んだ自衛隊を擁護するプロパガンダと言わねばなりません。

 そんなウソにまみれた番組の中で、注目された「マコト」が1つありました。

 それは、阪神・淡路大震災や東日本大震災などでの自衛隊の救援活動にあこがれて入隊した隊員(施設課)が、「3文書」によって南西諸島での戦闘に備え、陣地構築の最前線に配置され困惑している実態を紹介したことです(写真右)。隊員本人だけでなく、子どもたちが父親が参戦することになるかもしれないと不安を抱き、「戦争はいかんやろ」と訴える食卓のもようも映しました。

 この隊員のように、自衛隊の災害出動にあこがれて入隊した、あるいは入隊しようとしている人は少なくないでしょう。それは防衛省・自衛隊の思うつぼです。しかし、自衛隊は言うまでもなく軍隊であり、主たる任務は戦闘です。いくら災害出動を希望しても、命令が下れば最前線に立つことになります。紹介された隊員のように“こんなはずではなかった”と思っても遅いのです。

 災害時に人を救いたい、人の助けになりたいというきわめて崇高な思いを、軍隊の兵員確保に利用する政府防衛省・自衛隊のリクルート戦術はきわめて悪辣です。

 憲法違反の軍隊である自衛隊を解散させることは当然ですが、その前にも災害救助を自衛隊から切り離し、救助・救援を専門とする組織を別途組織する必要があります。災害大国日本においてそれは絶対必要な緊急課題です。

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自衛隊迷彩服が街中かっ歩、その先には?

2023年12月08日 | 自衛隊・軍隊
   

 <島に溶け込む「迷彩服」>―という見出しの記事(「記者の眼」)が4日付の琉球新報に載りました(以下、抜粋)。

<陸上自衛隊石垣駐屯地が開設して9カ月近く。駐屯地は島の市街地からやや離れた場所にあるとはいえ、しばしば迷彩服姿の隊員を目にする。

 11月にあった地域のまつりでは、広報活動の一環で自衛隊が迷彩服姿で目抜き通りを行進した(写真左)。隊員の通勤退勤時にも着用しているのを見る。不安を抱く市民は少なくない。

 市民らは通勤時や日常生活では着用を自粛するよう駐屯地に繰り返し求めている。が、こうした要請への対応は、決まって駐屯地の門前だ。誠実さを欠く。(八重山支局・平良孝陽記者)>

 自衛隊の「迷彩服」。それは災害時の出動でも常態化しています。それどころか、被災者に「迷彩服」のライフジャケットを着用させたこともあります(2018年7月9日のブログ参照=写真中)。

 「迷彩服」は言うまでもなく戦闘服です。ちなみに手元の国語辞典を引いてみると、「迷彩」とは「敵の目をくらますために、建物・軍艦・戦車などにいろいろな色を塗って、まわりと区別がつかないにようにすること。「-服」」とあります。

 災害は戦争ではありません。「敵」はいません。「迷彩服」を着る必要性は全くありません。普通の作業着でいいのです。まして被災者にも着用させるなどもってのほかです。

 こうした「迷彩服」の着用、汎用化が意識的に行われていることは間違いありません。その狙いは、「記者の眼」が指摘している通り、自衛隊(軍隊)の市民生活への「溶け込み」を図ることです。

 7年前に初めて韓国を訪れたとき、仁川空港からソウルへの電車・地下鉄で「迷彩服」の兵士が乗り込んできたのを見て驚いたことがあります。日本では見かけない光景だからです(写真右)。

 しかしすぐ合点しました。韓国は朝鮮民主主義人民共和国と軍事的緊張関係にあり、朝鮮戦争はいまだ終結していません。そしてなにより、韓国には徴兵制があるのです。まさに軍隊が市民生活に「溶け込んでいる」のです。

 日本の街中を「迷彩服」の自衛隊員がかっ歩している光景は、韓国の後追いをしているように思われます。だとすれば、この先にあるのは、徴兵制の導入であり、戦争当事国になることか―。

 それはけっしてありえない話ではありません。そうならないように、自衛隊は憲法違反の軍隊であるという原点に立って批判を強める必要があります。


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「ハラスメントのない自衛隊」などあり得ない

2023年11月15日 | 自衛隊・軍隊
   

 岸田文雄首相は11日、航空自衛隊入間基地の観閲式で、「あらゆるハラスメントを一切許容しない組織環境を作り上げ、ハラスメントを根絶して仲間同士助け合い、励まし合って任務に臨むことを忘れないでいただきたい」と述べました(写真左)。

 実際、自衛隊内のハラスメント(パワハラ、セクハラ)は後を絶ちません。昨年からの防衛省・自衛隊自身の調査でさえ、ハラスメント被害の申し出は1325件に上っています(11日付朝日新聞デジタル)。もちろんこれはほんの氷山の一角です。

 ハラスメントが許されないことは言うまでもありません。しかし、自衛隊からハラスメントを「根絶する」ことなどできません。

 パワハラについて、防衛省幹部はこう吐露しています。「『戦う組織である以上、これぐらい耐えて当たり前』という意識が組織に染みこんでいる。かつてパワハラを受ける立場だった幹部も多く、負の連鎖が続いている」(8月2日付朝日新聞デジタル)
 上意下達の極みである軍隊において、パワハラをなくすることはできません。

 セクハラはどうでしょうか。

 先日の瀬戸内寂聴氏三回忌にあたり、親交があった作家の平野啓一郎氏が、瀬戸内氏が戦争に強く反対した背景をこう語っています。

「瀬戸内さんのフェミニズムとも関わりますが、暴力をふくめ、男性の権威主義に対して非常に強い反発を持っていました。マッチョな考えを持った人が社会を牛耳って戦争に突き進みます」(9日付朝日新聞デジタル)

 帝国日本が戦時性奴隷(「慰安婦」)制度を設けたのはなぜか。世界の紛争・戦争地で性暴力が絶えず、それが「武器」としてさえ行使されているのはなぜか。
 人を殺傷し人権を踏みにじる戦争・軍隊とセクハラ(性暴力)は一体不可分だからです。

 自衛隊は紛れもない軍隊です。したがってセクハラもパワハラもなくすることはできません。岸田首相の「ハラスメント根絶」は世論対策以外の何ものでもありません。

 重大なのは、政府を批判するメディアや「識者」の中にも、この点で自衛隊に対する誤った「期待」を示す論調が流布していることです。

 例えば、朝日新聞編集委員の藤田直央氏は11日の岸田首相の自衛隊に対する訓示を批判する中で、「自衛隊でのハラスメントを根絶しないといけないのは首相自身」「人づくりは自衛隊の根幹」(11日付朝日新聞デジタル)と述べています。八田進二・青山学院大名誉教授は、「自衛隊は社会の重要な公共財だ。…組織を根こそぎ変革させるというドラスティックな改革をやってもらいたい」(3日付朝日新聞デジタル)と要望しています。

 こうした言説は、自衛隊(政府・防衛省)に対して誤った幻想を抱かせ、軍隊としての自衛隊の本質を覆い隠す役割を果たしています。そもそも、ジャーナリスト、学者であるなら、自衛隊が憲法違反の存在であることをどう認識しているのでしょうか。

 繰り返しますが、軍隊である自衛隊からハラスメントをなくすることはできません。人権を踏みにじり人を殺傷する憲法違反の軍隊は直ちに廃止するしかありません。

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自衛隊機はなぜイスラエルに飛んだのか

2023年10月24日 | 自衛隊・軍隊
   

 21日午前3時すぎ、イスラエルから退避した日本人60人、韓国人18人ら計83人が羽田空港に到着しました。乗っていたのは航空自衛隊のKC767輸送機です。なぜ自衛隊機なのでしょうか。経過を振り返ってみましょう。

13日 松野博一官房長官は「邦人退避の(民間)チャーター機を14日にイスラエルに派遣する」と発表。

同日 上川陽子外相が木原稔防衛相に、自衛隊法84条の4に基づき自衛隊機による邦人輸送を要請。

同日 木原防衛相がKC767輸送機1機とC2 輸送機2機の計3機の派遣を命令。

14日 チャーター機1機と自衛隊機3機がそれぞれ出発。

15日 チャーター機は日本人8人を乗せてアラブ首長国連邦のドバイに到着。

20日 KC767機が83人をヨルダンに輸送。

 以上の経過から少なくとも2つの不可解なことが浮かんできます。

 1つは、自衛隊機と民間のチャーター機の派遣が同日に決定され、同日に出発していることです。それならわざわざ自衛隊機を飛ばす必要性はないでしょう。
 もう1つは、チャーター機の方が自衛隊機よりも5日も早く避難民を退避させていることです。自衛隊機がなぜ手間取ったのか事情は分かりません。

 「自衛隊機の派遣は戦闘が激化し、チャーター機の運航が困難になるなど不測の事態に備えるため」(14日付京都新聞=共同)と報じられていますが、少なくとも今回の退避はチャーター機でよかったし、チャーター機の方が迅速だったわけです。

 不可解さは、派遣された自衛隊員の実態を見るとさらに深まります。

 松野官房長官は13日の会見で、「(チャーター機)利用予定者は明言せず」、一方で「ガザには少数の邦人が滞在中」と述べていました(14日付京都新聞=共同)。
 にもかかわらず、「自衛隊はイスラエル退避のため、統合任務部隊を編成している。空自と陸上自衛隊で計約420人。空自は輸送機を運用し、陸自は移動する邦人の支援や関係機関との調整に当たっている」(22日付京都新聞=共同)。あまりにも過剰な派遣人数・態勢ではないでしょうか。戦争に行くわけではないのです。

 植村秀樹・流通経済大教授(安全保障論)は、今回の自衛隊派遣は「危機に乗じた政治的アピールでしかない」「危機を利用して自衛隊に経験を積ませ、自衛隊を活用するのが当たり前だと国民に見せたいという政府の思惑が透ける」(22日付京都新聞=共同)と指摘しています。

 一方、産経新聞は18日付の社説で、政府の自衛隊派遣は「韓国と比べ遅くはないか」と題し、「邦人退避のために働く自衛隊員や現地の外交官らへの期待は大きい」と述べています。韓国は軍の輸送機が13日にはイスラエルに到着し、14日夜には日本人と配偶者51人を同乗させてソウル空軍基地に帰着していました。

 木原防衛相が長崎の衆院補選応援演説で「(自民候補を)応援していただくことが、自衛隊のご苦労に報いることになる」と述べたのは、自衛隊機がイスラエルへ出発した翌日の15日です。

 植村氏が指摘する通り、今回の自衛隊派遣は「自衛隊を活用するのが当たり前だと国民に見せる」ため、さらには韓国軍への対抗意識だったと言えるのではないでしょうか(写真はすべて防衛省がメディアに提供した今回の自衛隊機による輸送のもよう=朝日新聞デジタルより)。

 自然災害に乗じた「災害出動」は自衛隊を「国民」に浸透させる政府の常套手段ですが、パレスチナの危機的な重大事態をも自衛隊のアピールに利用しようとする政治的思惑は醜悪としか言いようがありません。



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