アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

自民「歴史戦」強調の中で「慰安婦・日韓合意」6年

2021年12月30日 | 日本軍「慰安婦」・性奴隷・性暴力問題

    
 来年度予算案の閣議決定(24日)に先立ち、自民党は「予算編成大綱」を発表しました。その中に次のような記述があります。
「歴史戦」やALPS(東電福島原発―引用者)処理水の取扱いといった重要課題への対応を含め、わが国への理解と信頼を強固にするため、わが国の領土・主権・歴史等に関する情報収集や調査・研究を強化するとともに…戦略的対外発信を一層強化する

 予算編成方針で「歴史戦」が強調されるのはきわめて異例です。それは、「元慰安婦や元徴用工を巡る韓国との歴史問題を念頭に」(2日付共同配信記事)おいたものだと報じられています。

 この異例の「予算編成大綱」を作成した責任者は、政調会長の高市早苗氏です。
 日本軍性奴隷(「慰安婦」)や強制動員(「徴用工」)をめぐる歴史の隠ぺい・歪曲を図る「戦略的発信」の重視が自民党の来年度の方針なのです。

 そんな中で、12月28日を迎えました。6年前(2015年)のこの日、「慰安婦問題」をめぐる「日韓合意」が発表されました。日本側の当事者は、安倍晋三政権で外相を務めた岸田文雄現首相です(写真中)。

 韓国では元「慰安婦」のサバイバーが日本政府に謝罪と賠償を求めて提訴し、韓国の司法はサバイバーの訴えを認める判決を下しました。しかし、日本政府は法廷に出ることすらせず無視し続けています。その“根拠”にしているのが「日韓合意」です。

 「合意」の最大の問題は、日韓両政府の政治的思惑から、肝心の被害者・サバイバーを無視し、謝罪もなく、賠償でもないわずかな金で、「慰安婦」問題を「最終的かつ不可逆的に」なきものにしようとし、運動の象徴である「少女像」(写真左)の撤去まで要求したことです。戦時性暴力に反対する国際世論にも逆行する恥ずべき「合意」です。(2020年6月8日のブログ参照https://blog.goo.ne.jp/satoru-kihara/d/20200608

 重要なのは、この問題に対する韓国市民と日本市民の受け止めの落差です。

 「合意」は安倍首相とパク・クネ(朴槿恵)大統領によってなされたものですが(写真右)、パク大統領は翌2016年10月、収賄事件で弾劾裁判にかけられ、17年2月に罷免されました。失脚の背景には、「日韓合意」に対するサバイバーや支援団体をはじめとする韓国市民の批判があったといわれています。

 一方日本では、自民党はもとより日本共産党を含む全ての政党、すべてのメディア、さらに「慰安婦問題」に取り組んできた一部の「識者」まで、「日韓合意」を支持しています。その結果、安倍氏はこの問題で責任を追及されることもなく、その後も政権の座に居座り、退陣後も岸田政権を操っています。

 一昨日の28日、韓国ではソウルの「少女像」の前で、複数の市民団体によって「日韓合意の破棄を求める抗議集会」が行われました。
「学生団体のメンバーらは「合意は、おばあさん(元慰安婦の女性ら)の意思とは無関係に、韓日政府が密室で結んだ拙速で売国的な合意だった」と批判。別の団体も「韓日合意を破棄せよ」とシュプレヒコールを上げた」(29日付琉球新報=共同)

 日本はどうでしょうか。どれほどの日本市民が「日韓合意」の問題点を、その存在自体を知っているでしょうか。

 帝国日本の戦時性奴隷制度の犯罪的歴史にほうかむりし、安倍晋三元首相をはじめとする歴史修正主義者らの「歴史戦」を許しているのは、与野党の政治家、メディア、そして日本市民自身であることを直視する必要があります。

2021年の「アリの一言」は今日までです。お読みいただき、ありがとうございました。
 2022年も、1日1日を大切にし、自分のできることをやっていこうと思っています。
 今後とも、よろしくお願いいたします。


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「台湾有事」煽り、戦争態勢づくり急ぐ安倍・自民

2021年12月28日 | 日米安保と東アジア

    
<南西諸島に攻撃拠点 米軍、台湾有事で展開 住民巻き添えの可能性 日米共同作戦計画原案>(24日付沖縄タイムス)
 24日付の地方紙各紙(共同電)は衝撃的でした。
「自衛隊と米軍が、台湾有事を想定した新たな日米共同作戦計画の原案を策定したことが分かった」(同)

 この記事と歩調を合わせるように、26日のNHKスペシャルは、「台湾海峡で何が~米中“新冷戦”と日本~」と題し、「米中対立のはざまで日本は何ができるか」と、自衛隊の動向をなどを報じました。

 にわかにクローズアップされてきた「台湾有事」。拍車をかけたのは、安倍晋三元首相です。安倍氏は今月1日、台湾の民間シンクタンクが主催したシンポジウムで、オンラインの基調講演を行い、こう述べました。

「台湾への武力侵攻は日本に対する重大な危機を引き起こす。台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある。この点の認識を(中国の)習近平(シーチンピン)主席は断じて見誤るべきではない」(1日の朝日新聞デジタル、写真中)

 この安倍発言に対し、中国外務省は当然、「「強烈な不満と断固たる反対」を表明。「外交ルーとトを通じて厳正な申し入れをした」と、強く反発」(同)しました。

 「台湾有事」を煽っているのは安倍氏だけではありません。“安倍チルドレン”の高市早苗自民党政調会長も19日、「日本李登輝友の会」主催の都内でのイベントで講演し、「台湾を守るため、地域の安定のために国家として一丸となって取り組む必要が非常に強くなっている」(19日の朝日新聞デジタル)と語りました。

 さらに、「「個人的見解」と前置きしたうえで、「台湾海峡危機に備えた日米共同作戦計画の策定」や「同志国による共同訓練の実施」の必要性に言及」(同)しました。24日付の共同配信記事が報じた「台湾有事」を想定した「日米共同作戦計画原案」はまさに高市氏が「必要」と強調したもので、それは「個人的見解」などではなく、すでに政府・防衛省による公式の「計画案」となっているのです。

 安倍氏や高市氏に煽られ、自民党防衛族、現役・退役自衛隊幹部は、「台湾有事」を想定した動きを強めています。

 26日のNスぺによれば、「日本戦略研究フォーラム」なる組織が、浜田靖一元防衛相ら防衛族や元自衛隊幹部による「台湾有事」を想定した「机上演習」を2日間にわたって実施。「重要影響事態段階で自衛隊に何ができるか」「どの段階で住民を避難させるのか」などを実戦さながらに演習しました(写真右)。

 また、北海道・旭川の陸上自衛隊第2師団(8000人)は、「台湾有事」を想定し、北海道から九州まで、民間の船舶や運送会社を利用して部隊を九州まで移動させる演習を行いました。

 自民党や自衛隊のこうした策動は、「台湾有事」を煽り、日米軍事同盟(安保条約体制)の強化、軍備拡張、戦争法(安保法制)による集団的自衛権行使を図るものであり、その犠牲をまともに受けるのが、沖縄市民であることは言うまでもありません。

 この妄動の中心にいるのが安倍晋三氏です。そもそも岸田文雄政権は、安倍派によってつくられた“安倍傀儡政権”であるうえ、自民党の政策立案責任者である政調会長に高市氏を、防衛相に実弟の岸信夫を据えるなど、安倍氏は政府・自民党の軍事政策部門を直接押さえています。

 東アジアの平和にとって、日米軍事同盟は大きな障害物です。日本が進むべき道は、軍拡・軍事同盟路線ではなく、非同盟・中立による平和外交です。
 それに真っ向から逆行する安倍氏を中心とする戦争態勢づくりは絶対に阻止しなければなりません。


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危険な“馴れ”―自衛隊・監視カメラ・緊急事態宣言

2021年12月27日 | 日米安保・軍事同盟と政治・社会

    

 26日は年末恒例の競馬「有馬記念」。レース前に歌手が「君が代」を独唱するのが恒例ですが、この日歌ったのは、自衛隊中部方面音楽隊の鶫(つぐみ)真衣3等陸曹でした(写真左)。

 同じ26日に行われた全国高校駅伝。NHKの実況アナウンサーは、大会協力団体の1つとして「陸上自衛隊」を挙げました。自衛隊が高校駅伝の何を「協力」するというのでしょうか。

 昨日は「自衛隊サンタ」について書きましたが、自衛隊の市民生活への浸透作戦は強化されています。市民はそれに馴らされ、自衛隊という名の軍隊が身近にいることに、違和感・抵抗感を持たなくなってきているのではないでしょうか。

 同じことが「監視カメラ」についても言えます。

 犯罪事件が起こるたびに「防犯カメラによれば…」という報道が日常化されています。市街地には警察が設置したカメラが溢れている(写真中は福山市内の交差点)ほか、私設のカメラも増え、その映像が警察に提供される事例も珍しくないようです。

 「防犯カメラ」が犯罪の抑止・捜査に一定の効果があるとしても、設置に馴らされ、何の疑問ももたないのはきわめて危険です。

 なぜなら、カメラの設置・利用・保存等に関する詳細な規定は明確ではなく、すべては警察の思うままだからです。その一方、カメラに「顔識別」機能を持たせるなど、個人のプライバシー侵害の恐れはますます強まっています。

 そもそも、「防犯カメラ」とは警察とメディアの用語で、その本質は警察(国家権力)が市民の動向をつかむ「監視カメラ」であることを忘れることはできません。

 馴らされることがきわめて危険なもう1つは、「緊急事態宣言」です。

 コロナ禍でこの言葉が流布し、抵抗感がなくなってきています。むしろそれを望む風潮すらみられます。安倍晋三政権によって初めて「緊急事態宣言」が発令された時(2020年4月7日)は、「私権制限」など憲法上の問題も指摘されましたが、今ではそうした議論は影を潜めているようです。

 「緊急事態宣言」はもともと、自民党が狙う憲法改悪の中心的柱の1つです。

 自民党の「改憲草案」(2012年4月27日決定、写真右)の第98条は、「緊急事態の宣言」で、「内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱…その他の法律で定める緊急事態において…緊急事態の宣言を発することができる」としています。

 そして総選挙後、改憲派が多数となった国会では、さっそく憲法審査会が動き出し、そこでは早くも「緊急事態条項新設も議題」(17日付中国新聞=共同配信)になっています。

 はじめは抵抗感の少ないことから馴らしていき、徐々に所期の目的を果たす。市民が気付いたときはすでに手遅れ。それが国家権力による市民支配の常套手段です。上記の3つは、すべてそれに該当します。

 そしてそれらはすべて、日米安保条約=軍事同盟の強化によって、日本が戦争国家化への道を急速に進んでいることと密接に結びついていることを銘記する必要があります。

 


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日曜日記177・「自衛隊サンタ」・「放火・殺人」報道・「10万円」の行方

2021年12月26日 | 日記・エッセイ・コラム

☆保育園児に「自衛隊サンタ」

 自衛隊員が輸送機に乗って、保育園児たちの前に降り立った。出てきたのは、園児たちへのプレゼントを持った「自衛隊サンタ」たち(写真)。
 21日のNHK中国地方ローカルニュースの一コマだ。「サンタ」に扮したのは鳥取県美保基地の隊員たち。

 米軍との実戦的一体化を強める一方、市民社会への浸透を図る自衛隊の作戦は、ついに保育園にまで至ったか。

☆「放火・殺人」報道の危うさ

 大阪のビル火災で25人が死亡した事件(17日)は、「こころとからだのクリニック」に通院していた61歳の男性が、「放火・殺人の容疑者」として、氏名・写真が公開された。被害は甚大で、注目を集めるのは当然だが、一連の報道には大きな危うさがある。

 例えば、20日付中国新聞は、「男は逮捕されていませんが事件への関与は明白で、負傷していなければ逮捕されるケースであることを考慮し、容疑者呼称とします」という「お断り」を載せた。
 「事件への関与は明白」と断言する根拠は何か。おそらく「防犯カメラには犯行の一部始終が写っており…」(同日付中国新聞)ということだろう。しかし、中国新聞を含むメディアは、このカメラの映像は直接見ていないはずだ。

 主な問題は2つある。

 1つは、報道されているのはほとんど警察発表の情報だということだ。「防犯カメラ」の内容もしかり。警察情報を鵜呑みにするのは、メディア失格だ。

 もう1つは、容疑者とされている男性も、クリニックに通院していた患者だった、すなわち精神疾患をかかえていたということだ。その点についての考慮が、一連の報道にはうかがえない。

 今回の事件に限らず、事件報道の情報源はほとんどが警察発表情報だ。警察は情報を小出しにしてメディアを操る。メディアは捜査員からリークを得るために警察と癒着しやすい。

 市民は警察発のメディア報道を「事実」と受け取り、「容疑者」への憎しみを強める。ネットではバッシングがはびこる。そうやって、事実が究明される前に、社会的私刑(リンチ)が加えられる。その危険性、恐ろしさに敏感になる必要がある。

☆「10万円」の行方は?

 「非課税世帯への10万円給付」は、正直なところ、助かる。年金とアルバイトの生活には大金だ。しかし問題は、「10万円」は果たして必要な人に届くのか、ということだ。

 最も現金を必要としているホームレスの人々には、どうやって届けるのか?

 夫のDVで苦しんでいる女性本人には届くのか。世帯主の口座に振り込んだのでは、本人には届かない。DVから逃れて自宅を出て避難している人には、どうやって届けるのか?

 これらはすべて、昨年の「10万円給付」の時に問題になったことだ。その解決策が決まったという報道には接していない。

 給付対象者には、直接行政の窓口に来てもらい、本人確認をしたうえで、その場で直接現金を渡す。これが最も簡単・確実に困窮者本人に届ける方法ではないだろうか。

 


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核禁条約会議への参加阻む日米安保条約

2021年12月25日 | 核・被爆者と日米同盟

     

 <米が不参加要請 日本同調 核禁条約会議オブザーバー>(21日付中国新聞)
 21日付地方紙に載った「ワシントン共同電」は、日米関係の舞台裏の一端を暴きました。

「核兵器禁止条約に反対するバイデン米政権が来年3月の第1回締約国会議に日本がオブザーバー参加しないよう外交ルートを通じて正式に要請していたことが20日、複数の米政府関係者への取材で明らかになった。要請は11月29日の週に行われ、岸田政権側は同調し参加に慎重な姿勢を示したという」(同)

 この記事は事実なのか。21日の岸田首相会見で中国新聞の記者が質問しました。それに対し岸田首相は、「日米間の具体的なやりとりは言わないのが常識だ」と述べ、否定しませんでした。報道は事実だと認めたのも同然です。

 共同電は、バイデン政権が岸田政権に不参加の圧力をかけた背景について、こう書いています。
「ドイツの新政権をつくる連立与党が、オブザーバー参加で政策合意。米側が同盟国への拡大を警戒、唯一の戦争被爆国として参加を求める声が強い日本にくぎを刺したとみられる」

 事実、バイデン政権が圧力をかけた「11月29日の週」の直前、岸田氏の地元・広島の中国新聞は11月26日の社説で、「ドイツの「参加」見習え」と題し、「問われるのは日本だ。被爆地選出の岸田文雄首相は…首相就任直後の所信表明演説では、禁止条約はおろか、被爆者らが強く望む締約国会議へのオブザーバー参加には言及しなかった。…会議不参加は被爆国としての責任放棄だ」と首相を批判しました。

 そして12月6日に開かれる臨時国会では、この問題で岸田首相が追及されるのは必至とみられていました。バイデン政権はまさにこのタイミングで圧力をかけたのです。

 岸田氏は不参加の理由を問われ、「米国との信頼関係」のためだとを繰り返し述べてきました。「信頼関係」は「同盟関係」と同義であり、「同盟関係」とは「日米安保条約」に基づく「日米軍事同盟」にほかなりません。共同の記事からも明らかなように、米国は日本が「同盟国」だから、その結束のために圧力をかけたのです。

 日本が核兵器禁止条約に署名・批准しないばかりか、締約国会議にオブザーバー参加すらしないのは、日米安保条約があるからです。この対米従属の軍事同盟が、自衛隊増強、戦争国家化を強めているだけでなく、核兵器禁止条約批准の最大の障害です。今回露呈した米政権の「オブザーバー不参加」の圧力と日本政府の追随は、そのことをはっきり示しています。

 しかし、日本政府に締約国会議へのオブザーバー参加を要求する被爆者団体、平和・市民団体が、元凶である日米安保条約の廃棄に言及しているかといえば、そうではありません。先の中国新聞の社説も、「日米安保条約」には一言も触れていません。

 日米安保条約をタブー視して「反核運動」が前進するでしょうか。
 核兵器禁止条約の批准を要求する被爆者・平和・市民団体は、いまこそ「日米安保条約廃棄」を正面から主張すべきです。


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首相会見で露呈したメディアの沖縄無視

2021年12月23日 | 沖縄・メディア

    
 沖縄の米軍キャンプ・ハンセンの新型コロナ感染者は、21日現在207人にのぼり、玉城デニー知事は同日、日米両政府に、「米本国からの軍人・軍属の移動停止、基地外への外出禁止」を要請しました(写真中)。沖縄・米軍基地の大規模クラスター(集団感染)はますます深刻な問題になっています。

 しかし、こうした沖縄の窮状・訴えが、岸田政権はもちろん、日本のメディアの眼中にはまったくないことが、同じ21日夜の首相記者会見(写真左)で露呈しました。

 会見では冒頭、岸田首相が約20分発言したのに続き、14人の記者が質問しました(大手メディア7人、地方紙(沖縄以外)4人、外国メディア2人、フリーランス1人=江川紹子氏)。
 岸田氏はもちろん、14人の記者の中で、沖縄・米軍基地のクラスター問題に触れた記者は1人もいませんでした。

 ここには、沖縄、基地問題に対する日本(「本土」)メディアの欠陥が象徴的に表れています。

 第1に、米軍基地を沖縄に集中させ、犠牲を押しつけておきながら、その被害の実態には目を向けようとしない、沖縄に対する「構造的差別」が表れていることです。それは、辺野古新基地建設強行に対する無関心・軽視と同根です。

 第2に、米軍基地がコロナ感染対策の大きな障害になっていることを追及する視点が皆無だということです。それは市民の命と健康を顧みない米軍を容認・免罪していることに他なりません。
 このメディアの「米軍基地タブー」は、沖縄に限らず、「本土」の米軍基地にも対しても同じです。

 第3に、以上の2つの問題の根底には、日本のメディアの日米安保条約(軍事同盟)支持・擁護の基本姿勢があることです。

 玉城知事の要請に対し、米軍は、「移動停止に関しては「日米安保条約の義務履行を妨げずにどのように対処できるか考えたい」と回答した」(22日付沖縄タイムス)と報じられています。
 言い換えれば、日米安保条約に基づいて活動しているのだから、移動停止の要請には応じられない、ということです。これは米軍基地がコロナ対策の抜け穴になっている元凶が日米安保条約であることを米軍自ら吐露したことにほかなりません。

 しかし、日本のメディアはその根源にまったく目を向けようとしていません。

 重要なのは、こうしたメディアの弱点・欠陥は、メディアの問題にとどまらず、そのまま日本の「世論」、「市民」に反映していることです。メディアが「沖縄差別」「米軍基地タブー」「日米安保条約支持」の「世論」を作り出しているのです。

 


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画期的な犯罪「被害者」・「加害者」共同支援

2021年12月21日 | 差別・人権

    

 犯罪の被害者・家族を支援する活動・団体、同じく加害者・家族を支援する活動・団体はそれぞれ存在します。その両者を一体になって支援する団体がこのほど結成されました。画期的な活動として注目されます。

 支援団体を立ち上げたのは、加害者家族を支援するNPO法人「ワールド・オープン・ハート」代表の阿部恭子さん(写真左)ら。14日の結成記者会見で、「被害者と加害者の分断をあおらず、全ての人の支援を目指す」と強調しました(14日の朝日新聞デジタル、写真中)。

 共同代表の一人で、「被害者と司法を考える会」代表の片山徒有さんは、会見で、「次男(当時8)をはねたダンプカー運転手に次男と同い年の息子がいるとわかったとき、「加害者との『見えない壁』が壊れた」と説明。加害者と対話することで「疑問が解けた」という被害者は多いと述べ、「適切な仲介があれば同じ人間と理解できる」と話し」(同朝日新聞デジタル)ました。

 「修復的司法」という概念・実践があります。加害者が「罪」に正面から向き合うことで更生を図るもの(私の浅い理解)ですが、この支援団体の取り組みはその画期的な実践といえるでしょう。

 それは加害者だけでなく、被害者家族にとってもきわめて重要であることが、片山さんの話から分かります。

 加害者と同時に、その家族への支援は必要不可欠です。事件に直接関係がないにもかかわらず、社会的バッシングを受け、そのうえ、「加害者家族は当事者でないとして支援が想定されておらず、社会で孤立している」(阿部恭子さん、10月5日NHK「ハートネットTV」)からです。

 加害者家族へのアンケートでは、事件によって、「結婚が破談」39%、「進学・就職を断念」37%、「転居を余儀なくされた」36%にのぼっています(「ワールド・オープン・ハート」調べ2014年)。

 この背景には、「家族」をバッシングする「日本独特の家族人質社会」(浜井浩一・龍谷大教授、同番組)があります。

 それは、天皇・皇族を頂点とする日本の「家族制度」とけっして無関係ではないでしょう。

 今回立ち上げた団体(団体名は未定)は、今後、「死刑制度の是非を問うシンポジウムや被害者と加害者の対話などを企画していく」としています。

 折しも、12月15日は32年前の1989年、国連で「死刑禁止条約」が採択された日です。死刑は国家による殺人であるにもかかわらず、日本はそれを温存・実行している世界でもまれな人権後進国です。

 法務省は裁判員制度(私はこれ自体に反対です)で裁判員となる年齢を来年度から18歳に引き下げようとしています。そうなれば「市民」は18歳から「死刑」の判断を迫られることになります。

 阿部さんや片山さんらの活動は、死刑制度廃止の世論・運動を広げる上でも、たいへん重要な意味をもっています。


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米軍基地クラスター、地位協定改定待ったなし

2021年12月20日 | 沖縄と日米安保・自衛隊

    
 コロナ感染対策において在日米軍基地がいかに大きな弊害になっているか、その犠牲を集中的に受けているのが沖縄であり、元凶の日米地位協定の改定が急務であることは、再三述べてきました(たとえば4日のブログ参照)。
 それが今、あらためて深刻な現実となっています。

 沖縄県は18日、米軍キャンプ・ハンセン(写真左、中)で働く軍属とその夫が「オミクロン株」に感染していることが判明したと発表しました。キャンプ・ハンセン内のクラスター(集団感染)は158人にのぼっています(18日現在)。

 米軍基地でクラスターが発生するのは、そもそも「3密」の軍隊の特性に加え、米軍のきわめて杜撰で無責任な対応が「規制の穴」になっているからです。

「ワクチン接種が完了している場合は規制が緩く、基地内であれば移動や施設利用が認められる。行動規制期間も10日間と短い。マスク着用も、接種完了者は義務付けられていなかったようだ」(19日付沖縄タイムス)

 さらに米軍は、沖縄県が求めるゲノム検査にも「個人情報」を口実に応じようとしていません。

「米軍はゲノム検査に後ろ向きな姿勢を示し、検体の提供にも応じていない。…県民の命や健康に関わる保健衛生の分野でも、基地のフェンスが高く立ちふさがる」(18日付沖縄タイムス)

「米軍はゲノム解析など感染経路の解明に非協力的な姿勢だ。感染症対策でも、米軍の裁量で真相がうやむやにされる懸念がある」(18日付琉球新報)

 こうした沖縄の現実、県民の不安と怒りにもかかわらず、日本政府の対米追随姿勢は変わることがありません。

「松野博一官房長官は今回のクラスター発生に対し「感染拡大を防止しつつ、在日米軍の即応性を維持することは極めて重要な課題」だと指摘した。基地内に感染が広がればフェンスを隔てて生活する県民の感染リスクも高まる、という認識に欠けた発言だ」(19日付沖縄タイムス社説)

 元凶である日米地位協定の改定を求める沖縄の声はますます強まっています。

「背景には、米軍関係者は検疫を免除されているとする日米地位協定がある。…米軍からの感染を封じ込める対策は、基地を提供している日本政府の責務だ。米軍がこのまま非協力的な態度をとるなら、政府は基地封鎖を求めるべきだ。米軍関係者への検疫を義務付けるために日米地位協定の改定は必須である。(中略)

 米軍の対応はずさんと言うほかない。県民の命と健康を軽視している。これでは、県民が必死に努力して感染を防いでも米軍が非協力的である限り、いつでも基地から感染が広がる脅威は消えない。
 日米地位協定を変えない限り、日本側の検疫体制を米軍関係者に適用できない」(19日付琉球新報社説)

 日米地位協定の改定はまさに待ったなしです。
 さらに、地位協定の根拠は日米安保条約であり、緊急課題としての地位協定の改定を、安保条約の見直し・廃棄へつなげていくことが今、きわめて重要になっています。


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日曜日記176・「ウンコ」は「汚物」か

2021年12月19日 | 日記・エッセイ・コラム

 手術・入院・在宅治療を通じ、一貫して毎日気になるのが、排便だ。1日何回出た? 量は? 形は? それは体調、薬の効きめを判断する重要な指標だ。これまでの人生で、これほど注意深くウンコを見たことはない。大病をした人ならおそらく同じような経験があるだろう。

 そんな生活をしているうちに、手術の約1カ月前、NHK「視点・論点」で湯澤規子・法政大学人間環境学部教授が、ウンコをめぐる歴史を振りかえり、人類が生きていくためにウンコがいかに重要かを語っていたのを思い出した。
 それで、湯澤さんの『ウンコはどこから来て、どこへ行くのか』(ちくま新書2020年)を読んだ。

「おそらく今日の日本では、ほとんどの人がウンコを「汚い」モノとして認識しているといってよいだろう。しかし、その歴史を振り返ると、ウンコは中世には「畏怖」され、「信仰」され、近世・近代には「重宝」され、「売買」され、「利用」され(肥料として―私)、近代・現代には「汚物」と名づけられて「処理」され、その結果「排除」され、そして「忘却」(無意識化―同)されつつ、今日に至る」

 こうしてウンコはかつてのように土に還って循環することなく、流されることになった。それは、「物質的な豊かさ、時間を節約する便利さ、衛生的な暮らしを求め続ける私たち自身にもその責任がある」と湯澤さんは言う。

 そして、「社会の変化の中で「汚い」と名づけられてきたモノやコトはウンコに限らない」として、「土」、「方言」、「手」を挙げ、さらにこう言う。

「「女性」についても考えてみたい。かつて女性にも、血(月経や出産)の穢れから、「汚」という位置づけがなされる時期や場合があった。「手」と同様に、それは「汚」というだけでなく、「遅れた」もの、「下位に置かれる」ものとみなされることもある。(中略)

 女性は女性でしかないのではなく、「人間」である、というところから出発する必要があるのと同じように、ウンコは汚物でしかないと思うことをやめることから出発すると、世界は違って見えてくる」

「きれい」、「クリーン」、「衛生的」と聞いただけで疑うことをやめてしまった時に閉ざされる未来への可能性。「汚い」という認識と一言で、モノや相手を退けてしまうことをやめた時に、初めて見えてくる未来への可能性

それは、「不潔」と「清潔」という二項対立の問いでは決して解けない、そのあいだにある深淵な世界の存在に目を向けること、私たちもまた、その予定調和ではない、雑多で清濁入り交じる世界の中で、膨大な「いのち」の受け渡しを担う一員にすぎないのだと自覚することから始まる

 「汚い」という言葉は、それだけで相手に強烈な打撃を与える。そして、差別を生み、それを固定化する。人間も清濁あわせ持つ自然の一部である。その認識・自覚が、不遜を戒め、視野を広げ、自然との共存を可能にする。
 「ウンコ」はそんな重要なことを教えてくれている。


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「北京五輪・外交ボイコット」を主張する前に

2021年12月18日 | 五輪と政治・社会・メディア

    
 バイデン大統領が対中国戦略から北京五輪の「外交ボイコット」を決め、同盟各国がそれに追随し、岸田政権も閣僚級の派遣を取りやめる方向といわれています。 

 市民運動や少数民族に対する抑圧・弾圧が許されないことは言うまでもありません。
 しかし、そのことと北京五輪の「外交ボイコット」は別です。「五輪の外交ボイコット」には別の問題があります。

 バイデン大統領の「外交ボイコット」決定後、いち早くそれに同調し、岸田文雄政権に圧力をかけたのは、安倍晋三元首相です。
 14日には3つの超党派国会議員連盟が岸田首相に会い、「外交ボイコット」を要求しましたが、その議連の代表は、自民党の高市早苗政調会長、下村博文前政調会長、古屋圭司政調会長代行で、いずれも安倍氏にきわめて近い極右の連中です。いわば安倍氏の別動隊といえます。

 およそ「人権擁護」とは無縁の安倍氏らが「外交ボイコット」を強く要求しているのは、中国敵視の政治的思惑によるもので、それ自身「五輪の政治利用」にほかなりません。

 「外交ボイコット」を云々する前に、考えねばならないことがあります。
 それは、そもそも五輪の開会式・閉会式に閣僚など「国の代表」を送る(IOCが招待する)こと自体が五輪の政治利用だということです。

 「オリンピックの根本原則」(7項目)は、「政治的中立」「いかなる差別」の禁止などを明記していますが、その主語はすべて「スポーツ団体」であり、「国」ではありません。五輪の「根本原則」に「国」の記述はありません。言うまでもなく五輪の主催者はIOCであり、「開催国」ではありません。

 本来、五輪は「国」とは距離をとり、その影響を受けるべきではなく、国家は五輪に干渉すべきではないのです。

 しかし、開催地の国家権力は五輪を最大限政治利用してきました。その典型は、ナチス・ヒトラーが牛耳ったベルリン大会(1936年)でした。
 その後も、商業主義に堕したIOCと各国政権の共謀で、五輪の政治利用は常態化してきました。

 今回の東京五輪はどうだったでしょうか。

 2020年3月24日、東京五輪の「1年延期」が決定されました。それを決めたのは、JOCではなく、IOCのバッハ会長と直接電話会談した安倍晋三首相(当時)でした(写真中)。

 延期を決定した場に居たのは、安倍氏のほか、小池百合子都知事、森喜朗組織委会長(当時)ら政治家だけで、山下泰裕JOC会長はじめアスリートは1人もいませんでした(写真右)。まさに五輪が政治・政権に乗っ取られていることを示す象徴的な光景です。

「バッハ会長と安倍首相の電話会談で東京五輪の延期が決まったが、その席に残念ながらスポーツ関係者はいなかった。…あの時(日本がアメリカに追随して1980年のモスクワ五輪をボイコットした時―引用者)、涙を流した山下氏は今、JOC会長として、アスリートへ説明する側の立場になっていることは皮肉な巡り合わせだ。自分が出席できなかった会議で出された決定をアスリートたちにどのように説明するつもりだったのだろうか。
 政治に支配される五輪の構図は今も変わっていない」(山口香筑波大教授・JOC理事「スポーツ、五輪は、どう変わるか」、村上陽一郎編『コロナ後の世界を生きる』岩波新書2020年所収)

 「外交ボイコット」の是非を云々する前に、五輪を外交の舞台にしてきた国家による五輪の政治利用・政治支配そのものを問い直すことこそ必要なのではないでしょうか。


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