アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

岡倉天心の朝鮮蔑視と日本の「歴史教育」

2023年03月30日 | 日本人の歴史認識
   

 韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は日本を訪れた際、慶応大学で学生たちに向けて講演を行いました(3月17日)。タイトルは「私たちの未来のための勇気」。尹氏が引用したのは岡倉天心(写真左)の言葉でした。

「尹大統領は明治時代の思想家である岡倉天心(1863~1913)の「勇気こそが命の鍵」という言葉を引用し、韓日両国民に必要なのはより良い未来を作るための勇気だと述べた」(18日付ハンギョレ新聞)

 この講演、日本ではまったく注目されず記事にもなりませんでしたが、韓国では大学教授が厳しく批判し、ハンギョレ新聞(18日付)が報じました。

<韓信大学のハ・ジョンムン教授(日本学)は、本紙に「岡倉天心は典型的な朝鮮蔑視論と侵略論の持ち主であり、植民地支配に積極的に賛成した人物」だと語った。

 実際、岡倉は1904年に出版した『日本の覚醒』で、「朝鮮半島は、元来有史以前の時代の間に我々によって植民地を開かれた。…我々の上代の伝説は、我が皇祖(天照大神)の御弟君、素戔鳴尊(すさのおのみこと)の朝鮮御移住を物語っている。そして朝鮮の始祖檀君王は、或る歴史家の中には、素戔鳴尊の御子であったと考えている者もある」と書いた。>

 私はこの記事を読むまで岡倉天心がこういう思想の人物だとは迂闊にも知りませんでした。
 急いで『岡倉天心コレクション』(ちくま学芸文庫2012年)所収の「日本の目覚め」を拾い読みしました。日露戦争の年に書かれたその論稿で岡倉は、ハ教授が指摘した以外にもこんなことを述べていました。

「日本が終始一貫して平和維持を希求し、万やむをえず戦争に訴えるときはまったく自衛のためにほかならぬという事実…外国を攻略しないということは、わが国文明の本性そのものからきているのである」
「1868年の王政復古以来の日本と中国、朝鮮との関係をみるならば、わが国の伝統的平和、不可侵政策が、ひときわ明瞭になるであろう」
「1904年にロシアと戦火をまじえたのは、この半島の独立確保のためであった」
「朝鮮は昔からの日本の属国であって、日本はただ既得権を確証するにすぎなかった」
「わが兵士が命令一下敢然と死地におもむくのは…その根底にはつねに帝(みかど)に対する忠誠心と祖国に対する愛情がある」

 岡倉の朝鮮蔑視、侵略・植民地支配擁護と、歴史の改ざん、それと表裏一体の天皇崇拝がはっきり表れています。

 尹氏がこの岡倉の言葉を引用して日本の学生に「未来のための勇気」を語ったのは、ハ教授の指摘の通り、韓国大統領としての見識が問われ、批判されてしかるべきでしょう。

 そしてより重大なのは、本来、ハ教授の指摘を待つまでもなく、日本の側から問題にすべきであったにもかかわらず、日本では今にいたってもなんら問題になっていないことです。

 日本の教科書では、岡倉はフェノロサとともに日本美術の振興をはかった「明治の文化人」と記述されています。朝鮮蔑視、侵略戦争・植民地支配論者の素顔は隠し、「偉人」として教えられるのです。

 それは岡倉天心だけではありません。

 尹氏が講演したのは、くしくも慶応大学。その創設者、福沢諭吉(1835~1901)は、強烈な朝鮮蔑視・植民地支配論者です(2018年2月3日のブログ参照)。にもかかわらず、あたかも「民主主義者」であるかのように学校で教えられている人物の筆頭です。

 渋沢栄一(1840~1931)もその代表の1人です(2019年10月3日のブログ参照)。そして、現在日本の最高額紙幣1万円札の肖像になっているのが福沢で、24年度新たな紙幣の発行によって肖像を交代するのが渋沢です。それを決めたのは安倍晋三首相です。

 これが日本社会では何の問題にもなっていません。
 しかし、韓国は違います。福沢から渋沢への朝鮮侵略論者の肖像バトン、それを決めた安倍政権に対して厳しい批判が起こりました(2019年4月11日のブログ参照)。

 ここに侵略・植民地支配の加害国と被害国の違いがくっきり表れています。
 
 福沢諭吉、渋沢栄一、そして岡倉天心。加害の歴史を隠ぺいし、その旗を振った者たちを「偉人」として記述する日本の教科書・学校教育。それが日本人の歴史認識を劣化させていることは明白です。


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元仏大統領側近が証言するウクライナ危機の米国責任

2023年03月28日 | 国家と戦争
   

 ウクライナ戦争の誘因は何だったのか―いまだに明確にされていない問題ですが、アメリカのイラク戦争(2003年)に反対した仏・シラク大統領の側近・外交顧問(当時)のインタビューが参考になります。

 駐日大使なども歴任したモーリス・グルドモンターニュ氏(69、写真中)は、朝日新聞デジタル(24日付)のインタビューで、アメリカが「違法な戦争」(アナン国連事務総長=当時)であるイラク戦争を強行したのは、「ソ連と共産主義に対し、戦うことなく勝利を収めたこと(「ソ連の崩壊」―私)に、陶酔していたのだと思います」と指摘(写真左はイラク戦争を強行したブッシュ米大統領)。

 さらに、「今回ロシアのウクライナ侵攻が避けられなかったのはなぜか」という質問にこう答えています。

ウクライナでの危機の第一の原因は、冷戦後の安全保障のシステムをつくれなかったことにあります

 ――あなたが昨年出した回想録によると、フランスは06年、北大西洋条約機構(NATO)とロシアの合同でウクライナに対する安全保障の供与を試みたといいます。

 ウクライナには安全保障上の空白があり、いつかそれが危機に結びつくと、シラク氏は認識していました。彼は、ウクライナを中立化させロシアとNATOが交差する形で安全を保障する構想を練り上げ、双方が加わる評議会を設置しました。しかし、試みは途中で止まってしまった。構想を検討もしないまま、米国が拒否したからです

 ――これも米国の傲慢(ごうまん)さからですか。

 傲慢さからだったのか、ロシア人の感情と心理の奥底を知らないからだったのか。米政権のこうした傾向は、次のオバマ大統領の「ロシアは地域大国に過ぎない」との発言にも通じます。この言葉の裏には、ロシアをあえて無視し、時に軽蔑する意識があったに違いありません。しかし、ロシアは、地域大国ではない。米国と均衡する核大国であり、大陸をまたいで欧州からアジアにまで領土を持つ本当の大国です」

 グルドモンターニュ氏の証言は、今日のウクライナ危機を招いた根底に、「冷戦後」の「安全保障上の空白」があったこと、そこにはフランスが提唱したウクライナの中立化・ロシアを含む評議会の設置による安全保障構想を、「検討もしないまま拒否した」アメリカの重大な責任がある、と指摘したものです。

 そのアメリカの「傲慢」「ロシア軽蔑」は、オバマ政権になって「マイダン革命(クーデター)」(2014年、写真右)への介入・仕掛けにつながっていきました。

 「マイダン革命」は、ウクライナの親ロシア政権(ヤヌコビッチ政権)をアゾフ大隊などのネオ・ナチ勢力を使って転覆・追放したもので、「事実上NATO勢力が誘発したクーデター」(下斗米伸夫法政大名誉教授『プーチン戦争の論理』集英社インターナショナル新書2022年10月)です。
 「マイダン革命」にオバマ政権が関与していたことは、オバマ氏自身がCNNのインタビューで認めています(2022年12月15日のブログ参照)。

 こうした経過・アメリカの責任を棚上げして、ロシアの軍事侵攻だけを非難することは、けっして公正とは言えず、停戦・和平、その後の国際情勢の平和的安定に反します。

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尹大統領が暴露した泉代表の問題発言

2023年03月27日 | 日本の政治と政党
   

 韓国紙・ハンギョレ新聞(日本語電子版)は23日付で、「尹大統領、韓日の野党を比較して「恥ずかしかった」…なぜ?」と題する記事を掲載しました。抜粋します。

< 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が「韓日関係改善のために韓国野党を自分たちが説得する」という日本の野党関係者の発言を紹介し、「そのような話を聞いて恥ずかしかった」と述べたことが22日に分かった。日本側の要求を一方的に受け入れた韓日首脳会談に対して「屈辱外交」との批判が相次いでいることを受け、日本の野党の反応を根拠に韓国野党に対する不満を表明したのだ。

 尹大統領は非公開発言で、訪日期間中の17日に東京で立憲民主党の指導部に会ったことに言及した。その席で泉健太代表は「韓国の野党議員と会い、韓日の将来の協力関係のために協調してくれるよう自分たちが説得する」と述べたという。同党の憲法調査会の中川正春会長も「近く訪韓し、韓国の野党議員に会い、未来に向けた韓日関係を共に作るよう説得する」と述べたという。

 尹大統領は、「日本は与野党関係なく国のためにみんなでやると言っていた。恥ずかしかった」と語ったという。尹大統領は同日、与党「国民の力」の委員60人あまりとの非公開昼食会でも「日本は国益を前にして与野党が一つだった」とし、韓国野党に対する不満を吐露したと出席者たちは語った。>

 尹大統領は17日に泉代表と会談しています(写真左)。その場で泉氏は、強制動員(「元徴用工」)被害者に対する「第三者(肩代わり)弁済」を強く批判している韓国野党に対し、「自分たちが説得する」と述べたというのです。それを聞いた尹氏は、韓国では野党の反対が強いことが「恥ずかしい」とし、日本は「国益を前にして与野党が一つだった」と感心したというのです。

 尹氏は複数の場所で同様の発言をしていますから、その内容は事実だと思われます。もし事実でないなら、大統領が他国の野党党首の発言を偽ったことになり、それ自体重大な国際問題です。

 尹氏が暴露した泉氏や中川氏の発言には重大な問題がいくつもあります。

 第1に、強制動員被害者に対する賠償問題は、韓国で国を二分する大問題になっています。25日もソウルで尹大統領を批判する2万人集会が開かれました(写真右)。その政治的争点について、大統領を批判している野党側を「自分たちが説得する」と当の大統領に表明するとは、内政干渉も甚だしいということです。

 第2に、泉氏が野党を「説得」すると言っているのは、強制動員被害者に対する「第三者弁済」で、それ自体、韓国の大陪審(最高裁)判決に反して被害者の権利と尊厳を蹂躙するとんでもないものだということです。

 第3に、泉氏の発言は日本にとっても重要な政治課題について、岸田政権と同じ立場に立つばかりか、政権を助けようとするもので、尹氏が羨ましがったように、まさに「国益を前にして与野党が一つ」の状態、すなわち翼賛体制を示すものに他ならないことです。

 こうした泉氏の発言は、個人的な突飛なものではありません。

 例えば、同党の岡田克也幹事長も、朝日新聞のインタビューで「立憲はリベラルから中道に立ち位置を移そうとしているように見える」という質問に対し、「当然のことだと思います。政権交代を目指さないなら別です」と述べ(25日付朝日新聞デジタル)、「政権交代」を大義名分に「中道に立ち位置を移す」すなわち政権側にすり寄ることを「当然のこと」と明言しています。

 国家が戦争へ突き進むとき、政党政治・議会政治が機能不全に陥り、翼賛体制が強まることは、歴史が教えているところです。「野党第1党」のこの姿は、日本が今その危険な段階に入っていることをはっきり示しています。


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日曜日記242・「自由・多様性」と「不平等・差別」

2023年03月26日 | 日記・エッセイ・コラム
  23日の京都新聞夕刊に、市立小学校の卒業式のもようが写真付きで載った(写真)。
「ほとんどがマスクを外し、はかまやスーツ姿で入場した」とある。素顔を見せ合って卒業できて良かった。

 だが、この光景には違和感を持った。小学校の卒業式で「はかまやスーツ」? 写真を見ると一人や二人ではない。かなりの児童が晴れ着姿だ。大学の卒業式ならともかく、小学校の卒業式がいつからこうなったのだろう。

 小学生が晴れ着を着ることが気になるのではない。着たくても着られない子どもがおそらくいるだろうことが気に掛かる。この年頃はそれでなくても友だちの服装が気になるものだ。晴れ着やスーツ姿のクラスメートを見て、引け目に感じる子はいないだろうか…。子どもの思いは、口に出すか出さないかにかかわらず、親にも伝わるだろう。

 自由な服装は個性・多様性を育む。だが一方、そこに家庭の経済状況、「貧富の差」が映し出される。

 われわれの頃はそんなことはなかった。小学校の卒業式はみんな普段着。中学、高校は制服だった。画一的ではあっても平等で、そこに経済格差が表れることはなかった。

 沖縄・名桜大学の半嶺まどか准教授は、北欧の先住民や沖縄の人々が置かれている差別的状況を指摘し、こう述べている。

「最近、多様性ということばをよく耳にするようになったが、多様性の裏側には、格差があることを忘れてはならないだろう。…多様性や、多文化・異文化という綺麗なことばで隠されてしまう格差に関わる問題として、例えば沖縄の貧困や、教育、基地、有機フッ素化合物「PFAS」による汚染と環境などの諸問題、そして沖縄戦を含む歴史認識の差などがあるだろう。…多様性ということばの裏側には、多くの場合、差別や格差が隠れている」(22日付沖縄タイムス「思潮」)

 「自由」か「平等」か。それは「資本主義」か「社会主義」かに通じる古くて新しい問題だ。「多様性の裏に差別が隠されている」という半嶺さんの指摘は、現代の盲点を突いている。

 だが、「自由」か「平等」かの選択はもう卒業しよう。「自由」も「平等」も。差別・格差が隠されていない「多様性」を。みんなが好きなものを着られて、どんな服でも個性として認め合う、貧困や格差の表れない卒業式、いや、貧困や格差・差別そのものがない社会。そんな社会を子どもたちに残したい。

【週間ファイル】

袴田巌さん再審へ東京高検が特別抗告断念(20日)…証拠開示の改革も重要だが、最も問わなければならないのは、死刑制度の廃止。

日・ウ会談と中・ロ会談(21日)…同日に行われた2つの会談。前者は軍事支援(間接的にせよ)強化、後者は「和平案」(内容は精査が必要だが)。日本のメディア報道は圧倒的に前者に偏った。

MBCラジオ(大阪)生番組で朝鮮学校へのヘイトスピーチを行った上念司(経済評論家)が番組降板(23日)…保護者や在日朝鮮人人権協会の抗議行動の力。

今週のことば】(抜粋)

「忘れてはならないが、蘇らせてはならない言葉」 永田和宏(歌人)

「「千人針」という言葉は、「忘れてはならないが、蘇らせてはならない言葉」の筆頭であろう。銃後に残る国民の意志を統一し、厭戦や反戦の芽を摘む効果であり役割である。
 現在のロシアでもウクライナでも、どちらが勝つかに関わらず、とにかく早く戦争が終わって欲しいと願っている国民は少なくないはずである。国の名誉や威信、体制の維持や自由の確保も大切だが、それを家族の死と引き換えにしてまで守りたいとどれだけの人々が願っているだろうか
 ゼレンスキー大統領が「祖国を守り抜く」という誰も反対しづらい言葉のもとに結束をはかっているなかで、それに異を唱えるのはほとんど不可能に近いだろう。
 まさか今の時代に「千人針」が復活することはないだろうが、同じように、皆を同じ方向へ駆り立てる、抵抗できない言葉の台頭には注意深くありたい。
 「国民国家を守り抜く」といった、誰もが反対することがむずかしい標語が幅を利かせ始める社会の怖しさをしっかり認識しておくべき時である」(19日付京都新聞)(永田氏は天皇制の強い支持者で、思想的には相容れないが、この論考は注目に値する)

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「英が劣化ウラン弾供与」をなぜ批判しないのか

2023年03月25日 | 国家と戦争
   

 ウクライナに対するNATO諸国の兵器供与は、最悪の方向へエスカレートしようとしています。イギリスが劣化ウラン弾の供与を決めたのです。

「英政府は23日までに…ウクライナに供与する主力戦車「チャレンジャー2」の弾薬に劣化ウラン弾を含めることを決定した。…劣化ウラン弾は弾芯にウラン238などを主成分とする劣化ウランを使っており、ロシアのプーチン大統領は「核成分」を備えた兵器と主張し英国を非難」(24日付共同)

 劣化ウラン弾(写真左)は殺傷力が強いだけでなく、飛散する放射性物質が体内に入って内部被ばくし、がんや身体障がいなどの被害を引き起こすことが明らかになっている「核兵器」の一種です。

 折しも20日に20年を迎えたイラク戦争で、アメリカは大量の劣化ウラン弾を使用し、イラク市民に甚大な被害を与えました。それは現在もイラクの子どもたちを苦しめています。2週間に1度10日間の治療を受けねばならない女の子の母親は、「子どもたちの病気はアメリカのせいです」と訴えています(写真中、20日のNHK国際報道2023)。

 また、国連の環境計画は昨年10月、ウクライナ戦争に関連して、「劣化ウラン弾は土壌汚染を引き起こす可能性があり、水中と陸上の生物に影響を与える可能性がある。…特に肝臓が危ない」と警告する報告書を出したばかりです(写真右、23日のNHK国際報道2023)。

 イギリスの環境団体は今回の政府の決定に対し、強く反対する声明を出しています。

 その劣化ウラン弾を、イギリス政府はウクライナに使わせようとしているのです。

 問題はイギリスだけではありません。アメリカはイギリスの決定を公然と擁護しています。

「米国家安全保障会議のカービー戦略広報調整官は22日「(劣化ウラン弾は)一般的な弾薬で、放射線汚染の危険はない。核の脅威にはほど遠い」との見解を示した」(24日付共同)

 イラク戦争の反省など微塵もないアメリカの厚顔無恥な開き直りです。

 さらに問題は、岸田文雄首相です。首相は現在までこの問題について一言もコメントしていません(報道されていません)。岸田首相は5月の「広島G7 サミット」があたかも「核兵器禁止」に資するものであるかのように装って最大限に政治利用していますが、仮にも「核兵器禁止」を口にするなら、劣化ウラン弾の使用に真っ先に反対するのが当然でしょう。
 にもかかわらず、口をつぐんで容認していることは、岸田氏の「核兵器禁止」がいかにまやかしであるかを示すものです。

 同時にそれは、ロシアの「国際法違反・非人道性」は口を極めて批判するがNATO諸国は何をしても容認するという、ウクライナ戦争における典型的な二重基準(ダブルスタンダード)と言わねばなりません。

 日本のメディアも同じです。朝日、毎日、東京含め、この問題を社説で取り上げてイギリスを批判している新聞は1紙もありません(24日現在)。

 日本政府とメディアのこの二重基準が、ウクライナ戦争に対する公平・公正な判断を妨げ、停戦・和平への世論を阻害していることは明らかです。

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いま改めて問われる「イラク戦争は日本の戦争」の検証

2023年03月23日 | 戦争の被害と加害
   

 イラク戦争から20年。「大量破壊兵器」のウソに基づいて、空爆で市民虐殺を繰り返すなど、アメリカの国際法違反があらためてクローズアップされています。
 
 それはもちろん重要なことですが、見過ごしてならないのは、そのアメリカ(ブッシュ政権)をいち早く支持し、自衛隊を現地に派遣した(2004年1月9日)、日本政府(小泉純一郎政権)の重大な責任です。

 イラク戦争から10年の節目だった2013年3月、那覇市内で高遠菜穂子さんを招いた講演会が行われました。私も当時那覇にいたので参加しました。高遠さんは一貫して現地市民を支援し続け、一時身柄を拘束されました。自民党政権が「自己責任だ」と攻撃したことは記憶に新しいところです。

 高遠さんが講演で強調したのは、「イラク戦争は日本の戦争」だということです。その視点から最も強く指弾したのは、日本政府がイラク戦争と日本のかかわりを検証しようとしないことでした(写真中)。

「日本がアメリカを支持し参戦した経過、自衛隊派遣の是非、ODAの実態などを、第三者機関で検討し公表する必要がある。イギリスやオランダは参戦した経過を詳細に検証し膨大な記録・資料として残している。オランダの報告書は550ページにのぼっている。これに対し、日本はペラ4枚、しかもウソばかりの紙ですまそうとしている」(2013年3月26日のブログ参照)。

 それから10年。フォトジャーナリストの安田菜津紀さんは、「イラク戦争20年と日本」と題してこう書いています。

「この戦争(イラク戦争)はいや応なしに、沖縄を巻き込んだ。…04年8月13日、宜野湾市の沖縄国際大学構内に、米軍普天間飛行場所属の大型輸送ヘリが墜落する。普天間基地では当時、戦闘が激化するイラクへの派兵のため、整備兵の過労状態が続いたことが指摘されている。事故は、整備の過程でピンをつけ忘れるという人為的ミスだった。そして事故後も、沖縄から派兵は続いた」(20日付沖縄タイムスの安田さん定期コラム)

 ここにも「イラク戦争は日本の戦争」が表れています。そして安田さんも高遠さんと同じ問題に警鐘を鳴らします。

「その後日本では、まっとうな検証さえ行われてこなかった。当時の首相や外務大臣に聞き取りもなく、たった17ページの「報告書」を外務省が作成したのみだ」

 検証しない日本政府。公文書を軽視し続ける自民党政権。それは何をもたらすでしょうか。

 10年前、安倍晋三政権が憲法違反の集団的自衛権容認を強行しようとしていました。高遠さんは講演でこう指摘しました。

「それ(集団的自衛権)がどういう事態を招くか。判断材料がイラク戦争にどっさり入っている。それを知ったうえで議論する必要がある」

 しかし日本は、イラク戦争の検証をしない自民党政権の戦略のまま、集団的自衛権を容認する戦争法(安保関連法)を成立させてしまいました(2015年9月15日)。

 その誤りがいま、「ウクライナ戦争」でそのまま繰り返されているのではないでしょうか。

 岸田文雄政権は米・バイデン政権の意向のまま、まるでNATOの一員になったかのように、ウクライナ戦争にかかわっています。

 安田さんはこう指摘します。

過去を顧みない国家に、よりよい未来など望めるだろうか。20年たとうが何十年がたとうが、検証の必要性に変わりはない。何をしても、奪った命は元には戻らないが、せめて、過ちを認めた上で前に進む社会でありたい」(同前)

 歴史から学ばない。とりわけ負の歴史、加害の歴史には目を向けようとさえしない。学ばせない、目を向けさせない自民党政権(国家権力)が元凶であることは言うまでもありませんが、それに唯々諾々と従う市民の責任も不問にできません。この悪弊を打ち破らない限り、戦争国家への道を食い止めることはできないでしょう。



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ドイツの大学から「少女像」を撤去させた日本政府の恥

2023年03月21日 | 日本軍「慰安婦」・性奴隷・性暴力問題
   

 ドイツ中部のヘッセン州にあるカッセル大学が9日、戦時性奴隷(「日本軍慰安婦」)を象徴する「平和の少女像」を、夜陰に紛れて急きょ撤去した問題。18日付のハンギョレ新聞に「現地レポ」が掲載されました。的確に現地の状況と問題の本質を突いているので、長くなりますが、抜粋します(写真左・中も)。

< 日本軍性奴隷として連れられた素足の少女が消えた場所には、「自由が撤去された」「記憶をなくすことは加害者に勝利をもたらすこと」と書かれたプラカードが置かれているだけだった。

 世界女性デーの翌9日、ドイツ中部ヘッセン州カッセル市にあるカッセル大学は、学生の自治空間の前庭に設置された「平和の少女像」を奇襲撤去した。同大学の学生自治会が昨年7月、韓国およびドイツの市民団体であるコリア協議会に要請し、学生会館の前に建てた像だった。

 この少女像には「ヌジン」(NÛZÎN)という名前が付けられた。クルド語で「新しい人生」という意味だ。「慰安婦」被害者を象徴する少女像の名前をクルド語で付けた理由は、戦時性暴力が韓日両国関係を越える普遍的かつ国際的な人権と植民地主義の問題であることを強調して表示するためだった。

 15日午後4時、カッセル大学学生会館前の少女像があった空地で、カッセル大学の学生とドイツ市民ら100人が集まった。集会には、ドイツ左翼党に所属のハイデ・ショイヒパシュケビツ・ヘッセン州議会議員も参加し、「日本政府は、自分たちの植民地主義的な歴史を再確認したくないので、少女像がそこに建てられていることを好まなかった」として「大学は少女像を本来の場所に戻しておきなさい」といった。

 カッセル大学が学生との連絡・協議の代わりに奇襲撤去という「無理な方法」を取った背景には、現地の日本外交当局の圧力があったものと推定される。カッセル大学の元職・現職の学生自治会とコリア協議会の説明によれば、昨年7月8日に少女像が設置された後、日本の在フランクフルト総領事をはじめ、日本の右翼と市民らが大学総長と副総長など総長団に様々な方式で「少女像をなくせ」という荒々しい圧力を加えたとみられる

 カッセル大学の少女像の運命は、今後はどれだけ多くの学生と市民が存続を要求するかにかかっている。現地の市民と学生たちは「少女像守り」という名前で今後、毎週水曜日に少女像があった場所でデモを続ける計画だ。>

 日本の政府と右翼勢力の「荒々しい圧力」については、韓国で被害者支援の活動を続けている「正義記憶連帯」が10日、報道資料として次のように報告しました。

少女像が設置されてから3日後にドイツ・フランクフルトの日本総領事がカッセル大学総長と面会し、「少女像が反日感情を助長し、カッセル地域の平和を危険にさらす恐れがある」と主張し撤去を要請しており、その後も大学の業務に支障をきたすほど訪問を繰り返した。また、大学側は日本の極右勢力からの悪質な手紙とメールにも悩まされてきた」(13日付ハンギョレ新聞)

 ドイツの「少女像」に対する日本政府の撤去圧力はこれが初めてではありません。

 2020年9月、ミュンヘン市ミッテ区に「少女像」が設置されました。ドイツでは3基目ですが、公共の場に設置されたのは初めてです。日本政府(菅義偉政権)はあらゆるルートで繰り返し撤去の圧力をかけました。そのため区はいったんの「少女像」の撤去を決めました。
 これに対し、市民は裁判所に撤去命令無効の仮処分を申請し、同年12月、撤去決定をはね返して存続をかちとりました(写真右=ハンギョレ新聞より、2020年12月5日のブログ参照)。

 「現地ルポ」が伝えている通り、「少女像」はたんに日本の戦時性暴力を告発するだけでなく、現在も続く世界の戦時性暴力を許さず、平和を願う市民の思いを象徴するものです。

 それを目の敵にし、撤去させるために繰り返し政治的圧力をかける日本政府と右翼勢力。それは、たんに自民党政権の歴史改ざん策動であるだけでなく、暴力容認・人権無視の日本政府の国際的醜態を示すものにほかなりません。

 重大なのは、日本のメディアがこの問題をほとんど報じていないことです。そのため、一連の事実を知らない日本人は少なくないでしょう。
 日本の市民が当然知らなければならないことを知らせていない。それはメディアとしての根本的欠陥であり責任放棄です。結果、自民党政権の恥ずべき国際的暴挙に加担していることを、メディアは肝に銘じなければなりません。

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「ICCが逮捕状」は戦争終結につながるか

2023年03月20日 | 国家と戦争
   

 国際刑事裁判所(ICC)が17日、プーチン大統領に逮捕状を出しました。ゼレンスキー大統領は「歴史的な決定だ」と高く評価し(17日)、バイデン大統領もICCの決定を支持しました(同日、写真右)。

 戦争犯罪を裁くことはもちろん重要です。しかし、いま最も必要な緊急課題は、戦争を一刻も早く終わらせることです。ICCのプーチン逮捕状はそれにつながるでしょうか。

 ロシアもウクライナもアメリカもICCには加盟しておらず、実際にプーチン氏が逮捕される可能性はほとんどないと見られています。しかしそれ以上に問題なのは、戦争犯罪に対するアメリカの二重基準(ダブルスタンダード)であり、ICCの「不公平」です。

「バイデン米大統領はICCへの支持を表明。ただ世界各地に展開する米軍の軍事行動を巡る訴追にも道を開きかねないとして、戦争犯罪の証拠提供には二の足を踏む
 背景には、ロシア軍の戦争犯罪の証拠提供に国防総省が反対していることがある。米軍もアフガニスタンやイラクで捕虜を虐待したなどとして人権団体から批判されており、今回証拠を提供すれば、米軍の行為も国際社会から同様の対応を求められかねない」(19日付共同配信)

 折しもアメリカが仕掛けたイラク戦争から20年。アメリカの戦争犯罪は「捕虜虐待」だけではありません。アメリカにロシアを非難する資格は毛頭ありません。

 ICC自体の問題も少なくありません。

 今回プーチン氏に逮捕状を出したのは英国出身のカリム・カーン主任検察官ですが、同氏には次のような経歴があります(写真中は昨年4月ブチャを調査するカーン氏)。

「カーン主席検察官は、2021年8月に(アフガニスタンの)タリバンが政権掌握した後、「米軍のアフガニスタンでの行為は調査しない…」と断言し、あまりに露骨な不公平だと、人権団体から大きな批判を浴びた」(東大作上智大教授『ウクライナ戦争をどう終わらせるか』岩波新書2023年2月)

 ICCは設立から20年たち、この間30人以上が起訴されていますが、そこにも「不公平」があるといわれています。

「起訴されているのはアフリカの指導者ばかりである。そのため、アフリカの指導者たちは「ICCはアフリカの指導者だけを裁いており、極めて不公平だ」と激しく批判している。…「不公平だ」という批判は、特に第三世界においてきわめて大きい」(東大作氏、同前)

 そもそもICCによる戦争犯罪の追及はかえって戦争の泥沼化・長期化を招きかねないと指摘する学者もいます。「容疑者」が逮捕を避けるために逆に狂暴化するという説です。

 では、ウクライナにおける戦争犯罪の追及と停戦・和平の関係をどう考えればいいでしょうか。東大作氏はこう主張します。

まずは戦争を終結させ、その後に、ロシアとウクライナの間に戦争犯罪に関する委員会を設置し、この戦争で起きた悲劇について事実を明確にし、必要に応じて個人レベルの謝罪や賠償を行い、二度とこのようなことが起きないような共通理解を深めていくことを模索する作業を続ける。そのような対応も、この問題に対処する現実的な方策として考えていく必要がある」(前書)

 まず戦闘を止める。戦争犯罪の裁きはその後に「委員会」を設置して「事実を明確にして」行う。妥当な提案だと思います。そして留意すべきは、戦争犯罪(容疑)はロシア側だけではないということです。「人間の盾」をはじめウクライナ側の容疑も「事実を明確にして」裁く必要があります(2022年8月8日のブログ参照)。
 事実に基づいた公平性の確保こそ、停戦とその後の和平にとって必要不可欠です。

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日曜日記241・この国のメディアは死んでいる

2023年03月19日 | 日記・エッセイ・コラム
   16日の岸田・ユン首脳会談。その報道をめぐり、この国のメディアは劣化を通り越してすでに死に至っていると思わざるをえない。各紙の社説がすべて会談を評価したことももちろん問題だが、論調とか見解の相違という高尚なこと以前の、もっと低レベルでそれを実感する。

1、「正常化」とは何なのか

 17日付の新聞は例外なく1面トップで大々的に「日韓関係が正常化」と書いた。「正常化」とは問答無用で「善」を示す。しかし、今回の会談、その前提の「第三者弁済」を「善」とみるか「悪」とみるかは、立場や歴史観によって大きく異なる。「正常化」というのは日韓両保守政権・米政権の見方だ。「正常化」という言葉は中身の吟味を切り捨てる。読者・市民を思考停止に陥れる。

 思考停止に陥れるメディアの常とう句(実は国家権力の常とう句なのだが)はこれだけではない。朝鮮民主主義人民共和国の「ミサイル発射」のたびに繰り返される「挑発」、ウクライナ戦争の背景を隠ぺいする「(ロシアが)一方的に」、放射能汚染の事実を隠ぺいする「風評」などなど。

 思考停止を押し付ける危険性を一顧だにせず、メディアは権力の常とう句を代弁し続けている。

2、記者会見で起こった拍手

 16日夜の岸田・ユン両氏の記者会見は午後7時に終了した。「(両氏が)退場するまで席を立たないでください」という内閣広報官の指示に忠実に従った記者席。そこから信じがたいことが起こった。大きな拍手が湧いたのだ。一人や二人ではない。おそらく記者の大半が手をたたいただろう。

 この拍手は何を意味するのか。たとえ内心で会談を評価していたとしても、記者が記者会見の場で、政権担当者(国家権力)に拍手をするか!?驚天動地だ。「権力の監視役」としての自覚は微塵もないのか。

3、「どんな酒を飲んだ?」と訊く記者

 17日夜の岸田首相の記者会見。朝日新聞の記者は、「国内の反対意見にもかかわらず行われたユン大統領の決断をどう評価するか」など、岸田氏の思うツボの質問をしたのに続き、こう訊いた。「昨晩は2軒ハシゴされたが、どんなお酒を飲んで、どんな話をしましたか?」

 「どんな酒」を飲んだか?それが政策や政治に何の関係があるというのか。韓国では強制動員被害者や支援の人々が血の出るような思いで反対を訴えているというのに、日本の記者の質問がこれか。しかも産経や読売ならともかく、朝日新聞官邸記者の質問がこれか!

 メディアはすでに死に体だ。戦争前夜とはこういう状況なのか。1930~40年を想像する。
 どうすればこの流れを食い止めることができるだろうか…。

【週間ファイル】

ドイツの大学が日本政府の圧力で「少女像」撤去(9日)…「第三者弁済」と無関係ではない

石垣島に陸自駐屯地開設(16日)、政府後援で兵器見本市(15日、幕張メッセ)…いずれの場にも反対・抗議する市民らの姿があった

日本共産党が2人目の除名(15日付)…同党の迷走は続く。残念なことだ

沖縄の小中学校で自衛隊のミサイル動画(17日付沖縄タイムス)…修学旅行での射撃体験に続き。教室に響き渡る軍靴の音

ガーシー参院議員の除名決議に沖縄の高良鉄美議員がただ一人棄権(15日)…大政翼賛化の闇の中の一灯

【今週のことば】

「拳を振り上げる反戦でなくてもいい。人間には太陽の光がくれた色、風がくれた音という良いものがあるじゃないか。妄想かもしれないけれど、それで戦争に挑まないでどうする」(イラストレーター・黒田征太郎氏、16日付京都新聞)

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強制動員被害者を踏み台に日韓米3カ国軍事同盟化へ

2023年03月18日 | 日米軍事同盟と朝鮮・韓国
   

 韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領が16日来日し、岸田文雄首相との会談で強制動員被害者(元「徴用工」)に対する「第三者(肩代わり)弁済」方針を改めて確認し合いました。

 今回の日韓首脳会談の最大の狙いは何だったか。来日直前、ユン氏は朝日新聞などの文書質問に答えてこう述べています。

「安保分野で韓米日の連携の重要性が高まっており、そのために3国間で実質的かつ効率的な安保協力が行われる必要があると考える。…韓米日3カ国間の安全保障協力をより包括的かつ戦略的に深めていくことが重要だと考えている」(16日付朝日新聞デジタル)

 「安全保障(安保)」という言葉は「軍事」と置き換えて正解です。それはこの場合だけではありません。「安保3文書」は「軍事(軍拡)3文書」であり、「安保条約」は「軍事条約(同盟)」です。

 ユン氏は、今回の訪日・首脳会談の目的が、日韓米軍事協力を「包括的かつ戦略的に深めていく」ことにあると強調したのです。その背景にはアメリカの強い要請(圧力)があります。

 米国務省のプライス報道官は、日韓首脳会談について「米国の確固たる同盟国の二国間関係を前進させる努力を示すものになる」(14日の記者会見=16日朝日新聞デジタル)と賛美し、岸田政権幹部も「日韓正常化を一番喜んでいるのは米国だ」(17日付京都新聞=共同)と述べています。

 このバイデン政権の戦略を実現するために不可欠だったのが強制動員問題の「解決」であり、そのための「第三者弁済」方針です。
 だからバイデン大統領はユン政権が同方針を発表した直後に、「2つの同盟国間の協力関係の歴史における新たな章の始まりだ」とまで言って絶賛し(6日、写真中)、「ユン大統領を4月に国賓として米ホワイトハウスに迎えると発表し、「解決策」を示した韓国を厚遇する姿勢を見せた」(16日付朝日新聞デジタル)のです。

 日本のメディアが挙げて首脳会談を賛美したのとは裏腹に、韓国では強制動員被害者を先頭に各地で市民の激しい抗議活動が行われました(写真右)。

「韓日首脳会談が行われた16日、全国各地で政府の強制動員解決策に反対する集会が開催された。集会参加者たちは、回の韓日首脳会談は強制動員被害者の権利を踏みにじって行われたものだと批判した」(17日付ハンギョレ新聞日本語電子版)

「進歩系の56団体からなる「平和ナビ大田行動」はこの日…記者会見を行い、「強制動員被害者に対する政府の第三者弁済方針は…司法主権を放棄する屈辱的解決策であり、戦犯国家と戦犯企業に免罪符を与える親日売国解決策」だとし、「…首脳会談に反対する」と述べた」(同)(韓国で「親日」とは日本の侵略・植民地支配を免罪・容認する勢力のことです)

 今回の日韓首脳会談は、日韓米の軍事協力(実質的3カ国軍事同盟)をいっそう強化するためのものであり、その突破口になったのが「第三者弁済」方針です。強制動員被害者(大法院で勝訴した原告)はその踏み台になったのです。

 これは歴史的にどういう意味を持つでしょうか。

 強制動員被害者は、帝国日本の侵略・植民地支配の犠牲者である上に、「解放」(日本の敗戦)から78年たった今、今度は米戦略とそれに追随する日韓両政府の3カ国軍事協力・同盟強化の犠牲者になろうとしている。軍事大国の二重の犠牲者になろうとしているのです。

 そして日本は、強制動員被害者の二重の被害にいずれも直接かかわる二重の加害者です。私たち日本人はそのことを肝に銘じなければなりません。

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