アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

「汚染水」の“言葉狩り”で市民に圧力かける政府

2024年02月29日 | 原発・放射能と政治・社会
   

 東京電力福島第1原発事故の汚染水が海洋放出されて24日で半年。この間も汚染水に関連する事故が頻発しているにもかかわらず、東電は28日、地元住民や内外の反対の声を無視して4回目の放出を開始しました。

 原発事故からまもなく13年になるのを前に、京都市内で18日、「チェルノブイリ・フクシマ京都の集い」(実行委員会主催)が行われました。東電の旧経営陣を告訴・告発した福島原発告訴団団長の武藤類子さん(福島県三春町)が、「福島のいまと東電刑事裁判」と題して講演しました(写真左)。

 この中で武藤さんは、政府が汚染水の用語を使わないよう市民団体に圧力をかけている実態を報告しました。

 それによると、福島の市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」が2021年11月に「廃炉・汚染水説明意見交換会」開催する直前、経産省資源エネルギー庁の職員から武藤さん宛てにメールが送られました。

「1点お願いですが、これは前回も指摘させていただいた通り、「汚染水を海洋放出する」という宣伝を地元にするのはやめてください。
明らかな事実誤認です。
我々は「汚染水の海洋放出」ではなく「ALPS処理水の海洋放出」について正しい情報をお伝えするために各所で説明活動を行っています。」

 こうした政府による「汚染水」の“言葉狩り”は、「市民」レベルにも広がっています。

 2023年1月、福島県三春町の市民団体が「原発汚染水はなぜ流してはいけないのか」というタイトルで小出裕章氏の講演会を企画した際、後援を決定していた三春町やメディア各社に「フリーライター」を名乗る男性から、「「汚染水を流す」という講演タイトルは事実に反するデマだ」と政府の宣伝を引き写したクレームが寄せられました。

 三春町は「言論の自由の場を提供する後援だ」としてクレームをはね返しました。しかし、後援団体の1つだった福島テレビはクレームを受ける形で後援を取り下げました。

 さらに政府は、福島県内の高校生を対象にした「ワークショップ」や「出前授業」、学校用のチラシ(写真中)でも、「ALPS処理水」キャンペーンを展開しています。(以上、武藤さんの講演より)

 都合の悪いことは言葉でごまかす。それは政府、東電の常套手段です。

 たとえば、今月7日にALPS処理前の汚染水が建屋の外に1・5㌧漏れる事故がありましたが(写真右)、東電は15日、「協力企業の作業員(の)…人為的ミスが原因」(16日付京都新聞=共同)と発表しました。

 「協力企業」といえば聞こえがいいですが、「下請け・孫請け企業」のことです。危険な作業を下請け・孫請けに丸投げしている無責任な実態を「協力企業」という言葉で隠ぺいしているのです。

 ALPS処理によって薄まるとはいえ、放射性物質がなくなるわけではありません。海に放出されているのは紛れもない汚染水です。
 政府・東電の“言葉狩り”を跳ね返し、汚染水(あるいは処理汚染水)海洋放出の危険性を告発し続けなければなりません。

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市民連合・中野晃一氏の注目すべき「野党共闘」見直し論

2024年02月28日 | 野党共闘
   

 政治改革へ向けて「野党共闘」を追求している市民連合(「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」)の中野晃一運営委員(上智大教授)が朝日新聞のインタビューに答え、注目すべき「野党共闘」見直し論を展開しています(以下抜粋、写真左も)。

< ――野党が存在感を示し、受け皿になるためには何が必要でしょうか。

 本来、どういう政権になるかは選挙の後にしかわからないものなのに、この間、日本では選挙前から誰と誰が組むかということが問われている。

 選挙戦略としてどこと組む、組まないという話はあるが、政権をとった後に政権に入る、入らないを選挙前に決める国は他にない。自民党と公明党が選挙の前から連立政権を前提にすることの方が異常だ。

 ――しかし、2021年衆院選は、立憲が政権を取ったら共産とどうするか、という話になった。本当はすべきではなかったということですか。

 あのときは、あれぐらいやらないと、という意識があったが、選挙前に踏み込みすぎた面がある。各政党が勝ち上がってくることの方が本当は重要だと思う。

 21年選挙の反省点は、比例区での戦略が足りなかったことだ。選挙区で候補者を一本化するのはいいが、それぞれの政党が自由活発に独自の政策を訴えて有権者に売り込み、各党が比例で議席を増やすということも必要だ

 大きな方向性を共有して、選挙協力ができれば、より具体的な政策は、各党で主張をし、政権をつくる段階になったら、互いに歩み寄ればいい。いまは小選挙区制のもとでの「政権選択選挙」に過剰に適用しようとしている。>(22日付朝日新聞デジタル)

 これは明らかに、これまで市民連合が調整役となって試みてきた「野党共闘・連合」の失敗を認めたものであり、共闘の在り方を見直すべきだという表明です。

 2021年の衆院選を前に、立憲民主党と日本共産党は同年9月30日、「総選挙で自公政権を倒し、新しい政治を実現する」「両党は「新政権」において、市民連合と合意した政策を着実に推進するために協力する。その際、日本共産党は合意した政策を実現する範囲で限定的な閣外からの協力とする」などの3点で合意しました。

 これはまさに衆院選を「政権選択選挙」とし、市民連合と共に結んだ「20項目の共通政策」を政権公約としたものです。中野氏が誤りだと指摘する「どういう政権になるか」「誰と誰が組むか」「政権をとった後に政権に入る入らない」を選挙前に公約したのです(2021年10月2日のブログ参照)(写真中、右)。

 中野氏はその誤った「政権選択選挙」によって「それぞれの政党が自由活発に独自の政策を訴えて有権者に売り込み、各党が比例で議席を増やすということ」ができなかったと認めています。共産党が「日米安保条約廃棄」などを選挙戦で事実上封印したことはまさにその表れでした。

 今回の中野氏の「共闘」論見直しは、遅きに失したとはいえ、妥当です。

 しかし、共産党の志位和夫委員長(当時)は衆院選敗北後もこう述べていました。

「共通政策および日本共産党と立憲民主党の党首会談での政権協力の合意は、公党間の合意であり、それを掲げて総選挙をたたかった以上、国民への公約であります。日本共産党は、この合意と公約を誠実に順守し、野党共闘の大道を前進させるために、今後も揺るがずに力をつくすことを表明するものであります」(第4回中央委員会総会幹部会報告、2021年11月29日付しんぶん赤旗)

 今年中にも衆院選が予想される中、共産党は中野氏の指摘を踏まえ、「野党共闘」論の抜本的見直しを行う必要があります。

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自民の裏金と小池百合子氏と都知事選

2024年02月27日 | 日本の政治と政党
   

 自民党の裏金が大きな政治問題になっています。パーティー券などで裏金をつくる脱法的手法も問題ですが、さらに注視すべきは、その裏金が誰に何のために使われたかです。

 その点で特に注目されるのは幹事長だった二階俊博氏(写真中)の裏金です。

 自民党が13日公表した「82人の裏金」で金額が最も多かったのは二階氏の3526万円です。二階事務所は、「3年間で書籍代3472万円を支出…購入したのは17種類、計2万7700冊」と説明しています(15日付朝日新聞デジタル)。常識では考えられない額と冊数です。

 その多くは、二階氏自身をPRする本ですが、異彩を放っているのが、二階氏の本でないにもかかわらず購入金額が3番目に多かった『小池百合子の大義と共感』(大下英治著、発行・エムディエヌコーポレーション、2020年=写真右)です。3千冊、396万円が裏金から支出されました。

 16日の記者会見でこの問題を追及された小池氏は、「それは把握しておりませんでした」「著者は大下さん。(私の)直接の本ではない」(16日付朝日新聞デジタル、写真左)と述べ、“無関係”を装いました。しかしそうはいきません。

 同書は文字通り、小池百合子PR本です。たとえばこうです。

「小池知事は、政治家としてメッセージを打ち出す際、「大義」と「共感」の二つを強く意識している」「果たして、小池は、今回の知事選の勝利に限らず、さらに、女性初の総理大臣になる野望を秘めているのだろうか…」

 そして同書が繰り返し言及しているのが、「小池百合子東京都知事と自民党の二階俊博幹事長との付き合いは長い」「二階と小池は、たびたび面会をし、意見交換をする仲でもある」という両氏の親密な関係です。

 小池氏が「二階先生には、折にふれ、政治の本質について色々教わり、今もご指導いただいています」と言えば、二階氏も「小池さんは、衆院議員の頃から、非常に先見性があり、勇気と度胸もあり、政治家としての高い資質を持っていました」と応えています。
 強調されているのは、「二階は一貫して自民党内で小池の都知事選再選を訴え続けている」ことです。

 注目すべきは、この本が出版されたのが2020年7月、都知事選(7月5日)の真最中だったことです。1カ月前の6月12日、小池氏は知事選に出馬して再選を目指すと発表しました。

 自民党内、とりわけ東京都連の中には、自民党から飛び出して新党を結成した小池氏に対する根深い不信・批判があります。知事選でも自民党は当初の独自候補を模索していました。それを抑えて候補者を断念させたのも二階氏でした。

 その二階氏が小池氏を都知事にふさわしいと絶賛する同書は、事実上、小池氏の知事選PR本であり、自民党都連を小池支持でまとめる政治的狙いがあったことは明白です。
 小池氏の都知事再選のための事実上の広告費が、二階氏の裏金から396万円流用されたと言って過言ではありません。

 裏金問題は、それを作って政治戦略に使った自民党が責められるのは当然ですが、それによって利益を得た側の責任も厳しく問われなければなりません。

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Nスぺ「戦場のジーニャ」―「政治家」は戦場に行かない

2024年02月26日 | 国家と戦争
   

 25日夜のNHK スペシャル「壮絶・戦場のジーニャ ウクライナ戦争の現実」は直視が苦しい映像でした(写真は同番組から)。

 元TVカメラマンのジーニャはじめ、元フィットネストレーナー、元映像技術者らがスマホや小型カメラで撮影した戦場の映像です。市民兵士たちは「遺書代わりに撮影した」といいます。

 「地雷」「塹壕」「ドローン」の3部構成で、戦場とキーウ(キウイ)などの家族の姿が織り交ぜて映し出されました。

 劇映画では何度も見て来た光景が、現実のものとして、遠く離れた日本の家庭に、時間をおかず入ってくる。SNS時代の映像の力と怖さを思います。「これから負傷者の映像が流れます」「小学生以下の子どもには見せないことをおすすめします」というもテロップが何度も出ました。

 ジーニャら映像に登場した市民兵はみな、好き好んで兵士になったわけではありません。戦場で「人を殺す」ことにも当初たいへん抵抗がありました。

 しかしそれが、「初めて人を殺した」「殺さなければ殺される」「私たちの価値観は劇的に変わった」と言います。「極限状態の連続が、市民を兵士に変えていった」(ナレーション)のです。

 父親(元映像技術者)があす戦地へ戻るという日、幼い娘が言いました。「大きくなったらロシア人を棒でたたき殺してやる」(写真中)。

 息子を戦場に送り出す母親の「1日も早くすべてが終わってほしい」という願いは、見る者すべての思いでしょう。

 しかし、映像は「更なる勢力の拡大を目指すプーチン」を映し出したあと、「それでも戦場に戻る」市民兵たちと見送る家族の姿で終わりました。

 戦争は悲惨だ。早く終わらせたい。しかしロシアが侵攻を続ける限り、戦うしかない―それが番組の構成であり、制作意図でしょう。

 ここでとどまっている限り、「1日も早い停戦」は望めません。

 戦場の悲惨さ、家族の苦悩を知ることは必要です。しかしそれを、「それでも戦わなければ」という負の動機にしてはいけない。「だからなによりもまず停戦を」の世論にしていかねばなりません。

 残酷な戦場の映像を見るにつけあらためて思うのは、「政治家」(権力者)は戦場には行かない、ということです。戦場で殺し合いをするのは常に市民です。それはもちろんロシアも同じです。

 戦場に行かない「政治家」たちが、政治的思惑から机上で戦争を始め、政略を練る。だから戦争は終わらない。

 そんな「政治家」を停戦に向かわせるのは、犠牲になる、なっている市民の声しかありません。「戦争は人間性を破壊する。何よりも大切なのは命。だからまず戦闘をやめよ。領土・主権などもろもろの問題は武器を置いて話し合いを」―。




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日曜日記290・「人を殺せない」の素晴らしさ

2024年02月25日 | 日記・エッセイ・コラム
 <「人を殺せない」 日本に来たウクライナの19歳 逃げたと言われても>と題した記事が朝日新聞デジタル(23日付)に載った(以下抜粋、写真も)。

< 2年前にウクライナを出国した時、ロベルトさんはまだ17歳だった。

 徴兵や総動員令による出国禁止の対象となる18歳に満たない。だが、国外避難を「逃げた」と見る人は、少なくなかった。「国に残って戦え」と責めてくる大人がたくさんいた。避難先のポーランドやリトアニアでも、何度も「戦いたくなくて、逃げたな」と言われた。

「僕は17歳です。なんで戦争に行かなければいけないんですか」
 反論すると、殴られたり、ナイフや銃を向けられたりしたこともあった。

 身寄りの無い日本に来て1年半がたち、19歳になった。

「ウクライナにいま、僕の居場所はない。友人はただの『知り合い』に変わってしまいました。帰国しても、自分のことを外国人のように感じると思います」

 選択に後悔は無い。けれど、独り暮らす都営住宅で、どうしようもなく寂しくなる時がある。

「ただ一緒にいるだけでいい。誰かがここにいてくれればよいのにと、思ってしまいます」

 侵攻の前後で、ロベルトさんの周囲の人間関係はすっかり変わってしまった。

 SNSで「死ね」「裏切り者」と送ってきたのは、習い事で仲良くなった幼なじみだった。

 今は戦争中で、非常時だということは理解している。兵士として戦っている親戚もいるし、戦死した知人もいる。

 「だけど、自分は人を殺すことはできない。出国時、たとえ大人だったとしても、やっぱり戦争には行けなかったと思います。戦争のない国に避難するという決断が、なぜこんなに責められるのでしょう?」>

 「人を殺したくない、戦いたくない、だから逃げた」。なんと素晴らしいことだろう。

 ロベルトさんの孤独と寂寥が悲しいけれど、その叡智と勇気に心から拍手をおくりたい。

 人類は第2次世界大戦の教訓から、「世界人権宣言」を採択した(1948年12月10日)。その前文の冒頭はこううたっている。

「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎である」

 人間の「固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利」、その筆頭は「命を守る」ことではないだろうか。「殺されたくない」だから「人を殺したくない」。それは人間のもっとも根源的で崇高な不可侵の権利ではないだろうか。

 にもかかわらず、その権利を守ろうとする人間が迫害される。ロベルトさんのように。迫害の論理は、「国を守るため」だ。

 いま、我々はあらためて突き付けられている。「命を守る」ことと「国を守る」こととどちらが大切なのか。「国」とは何なのか。人の命より大切な「国家」なるものがあっていいのか―。


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ウクライナ戦争は「専制か民主主義かの戦争」の誤謬と危険

2024年02月24日 | 国家と戦争
   

 ロシアのウクライナ侵攻から2年。ここにきてこの戦争の性格が変わってきた、あるいはより明確になってきたと言えそうです。

 侵攻当初からバイデン米大統領や岸田首相は、「(侵攻は)法の支配への挑戦だ」「力による現状変更は認められない」とし、これはロシアの「国際法違反の侵略」に対する“正義の戦争”だと言ってきました。上川外相はG20外相会議(22日)でも同様の発言をしました。

 ところが、「日ウクライナ経済復興推進会議」で来日したウクライナのシュミハリ首相(写真左)は朝日新聞のインタビュー(19日)に答えてこう述べています。

この戦争は、専制か民主主義かという、世界の価値観をめぐる戦争だ。ウクライナが勝利しなければ、戦争は欧州大陸の「次の国」に波及する。さらに、別の専制国家がこれを先例ととらえ、世界中で多くの戦争が継続されることになるだろう」(20日付朝日新聞デジタル)

 同氏は20日の日本外国特派員協会での記者会見でも同様の発言を繰り返しました。

「この戦争は専制か民主主義かの価値観をめぐる戦争」だとはすなわち、政治体制の価値観をめぐる戦争だということです。
 侵攻当初から、これはロシアとアメリカ・NATOの代理戦争だという見方がありましたが、日本政府などはそれを否定していました。しかし、シュミハリ氏の発言はまさに代理戦争であることを認めたものにほかなりません。

 「専制か民主主義かの戦争」という言説は誤っていると同時にきわめて危険です。

 第1に、ウクライナやそれを支援する国々が「民主主義」の国だというのは事実に反するプロパガンダです。

 アメリカや日本の反民主性を挙げれば枚挙にいとまがありませんが、現在のもう1つの焦点であるイスラエルによるガザ攻撃の問題に限っても、パレスチナ市民に対してジェノサイドを繰り返しているイスラエルを一貫して支持・擁護しているのはアメリカであり、日本もそれに追随してきたことは周知の事実です。

 忘れてならないのは、イスラエルのガザ攻撃をいち早く支持したのがウクライナのゼレンスキー大統領だということです。
 ゼレンスキー氏はガザ空爆が始まった10月7日に「イスラエルの自衛権は疑う余地がない」という声明を出し、翌8日にもネタニヤフ首相と電話協議し「連帯」を表明しました(10月28日のブログ参照)。

 第2に、「専制か民主主義かの戦争」論は、停戦を遠ざける危険性をもっています。

 シュミハリ氏は先の朝日新聞のインタビューで、「停戦交渉の席に着く条件は何か」と聞かれ、「唯一の道が、ゼレンスキー大統領が提唱する10項目の和平計画「平和フォーミュラ」の実現だ」と答えています。

 ゼレンスキー氏が提唱している「10項目」(写真右)には、「ロシア軍の撤退」だけでなく、「正義の回復」「世界秩序の回復」などが含まれています。松田邦紀駐ウクライナ特命全権大使は、これは「停戦を超えて新しい国際秩序まで視野に入れた提案」だと解説しています(22日のNHK国際報道2024)。ロシアがこれを飲むわけがありません・

 ゼレンスキー「10項目」の「実現」が停戦交渉の席に着く条件だというのは、「この戦争は、専制か民主主義かという、世界の価値観をめぐる戦争だ」という論理の帰結です。その立場に立つ限り停戦交渉が始まる余地はありません。

 この戦争は「専制か民主主義か」の戦争ではなく、ロシアと、ウクライナの後ろ盾のアメリカ・NATOの2つの軍事大国・軍事ブロックの戦争です。その犠牲になっているのがウクライナとロシアの市民です。日本は日米安保条約(軍事同盟)によって後者の陣営の一員として戦争に加わっているのです。

 この戦争を終わらせる(停戦)ためには、対立する両陣営のいずれでもない中立の第3極、すなわちグローバルサウスの国々による和平案を、国連総会などの場で国際世論が支持し後押しする以外にないのではないでしょうか。


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「家族を取り戻す」ロシアで政権と闘う妻たち

2024年02月23日 | 国家と戦争
   

 ロシアでプーチン政権の弾圧に抗し、家族(夫)を戦場から取り戻そうとする妻たちのグループが運動を続けています。21日のNHK「国際報道2024」(BS、22日総合で再放送)が報じました。以下、番組から。

 運動している妻たちの会は、「プーチ・ダモイ(わが家への道)」。昨年8月から活動を始め、SNSの登録者は7万2000人にのぼります。デモのプラカードには「動員兵たちは家に戻るべきだ」と書かれています。

 会はマニフェストを発表しています。①部分動員の期限は招集から1年以内とする②国の指導部は問題を無視すべきではない―など。

 代表のマリア・アンドレエワさんは、「夫たちはすでに十分に責務を果たしたと思う。政権もそれを認めるべきだ」とプーチン政権を批判します。

 メンバーのひとりは、「子どもは1歳6カ月になるが、父親の顔を知らない。とても悲しい」と訴えます。

 ロシア政治の専門家は、「動員兵の妻たちはナワリヌイ氏の支持者でも、昔から体制を批判してきた人たちでもない。この運動はクレムリンにとって危険なだけでなく、この社会の機運がどこへ行くかを示す重要な指標でもある」と指摘します。

 「プーチ・ダモイ」を支持するジャーナリストは、「動員兵の妻たちはあらゆる手段で(社会の)変化をもたらそうとしている。戦争はすべての家族の生活に関わる問題。私たちの目的は、兵士たちを戦線から離脱させ戦争をやめさせること。できるだけ多くの人々を戦争に巻き込まれないようにすることだ」と強調します。

 当局が警戒を強める中、アンドレエワさんはこう言います。

「祖国のために喜んで死ねるほど国を愛せという。私はこの極悪非道の愛国主義に反対です」「(当局の弾圧は)正直に言えば怖い。でも、自分の良心と向き合い、いつか自分が何もしなかったと自覚することの方が怖い。娘から「お母さんは何をしたの?」と一生問われ続けることの方がもっと怖い」(写真右)

 以上が番組が報じた「プーチ・ダモイ」運動の概要です。

 ウクライナで広がっている「徴兵拒否」、兵士の人権擁護を求める運動(22日のブログ)も、ロシアの「動員兵の妻たち」の運動も、夫たちを戦場から家族の元に取り戻したい、という願いで一致しています。それが以前からの活動家たちの反戦運動ではなく、市井の妻たちが停戦を求めて声を上げている点も共通です。

 そこにあるのは、ロシアでもウクライナでも、「国・領土を守る」ためには兵士の犠牲はいとわないという「国家の論理」に対して、「人の命が第一。夫を1日も早く家族のもとへ」という「庶民の論理」の抵抗です。どちらの論理に立つのか。最も大切なものは何なのか。それが私たち一人ひとりに問われています。


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ウクライナの徴兵拒否報じた「クロ現」の限界

2024年02月22日 | 国家と戦争
   

 21日のNHK「クローズアップ現代」は、「侵攻から2年 ウクライナ最前線は今 徴兵拒否に揺らぐ社会」と題し、長引く戦争でウクライナに広がっている徴兵拒否・政府批判の実態を報じました。

 番組は、「兵士は奴隷ではない」というプラカードを掲げて抗議デモを行う兵士家族のもようから始まりました(写真左)。抗議デモはキーウ(キエフ)中央広場で連日のように見られるといいます。

 結婚間もなく夫が戦地へ赴いた妻は、「兵士は疲弊しきっています。復員と休暇の権利を獲得するため声をあげ続けます」と語ります。

 これらは徴兵を拒否しているわけではなく、その期間短縮と兵士の人権擁護を訴えるものです。

 一方、ロシアの軍事侵攻直後に妻の妊娠が分かったという男性は、「父親として家族と一緒にいたい」との一念で、「不法」に国境を超えて出国しました。

 徴兵拒否(逃れ)で当局に拘束されたウクライナ市民は2万人以上にのぼるといいます。

 徴兵拒否の市民を監禁し、強制的(暴力的)に戦場へ送っている実態を訴えたというSNSも紹介されました。

 16~60歳の男性が原則出国禁止されているウクライナでは、徴兵期間の短縮を求める声や徴兵拒否、「不法」出国、それに関わる汚職が広がっていることはこれまでも報じられてきましたが、それが広がり、政府による強権的動員が強まっている実態が、侵攻から2年を前に詳しく報じられた意味は小さくありません。勇気ある報道とさえ言えるでしょう。

 しかし、番組は後半で視点が一変しました。

 市民の声、実態を報じた前半とは打って変わって、後半はウクライナ政府・軍の高官や報道官のインタビューを中心に、「家族や国を守るためによく考えてほしい」(軍報道官)と徴兵拒否を抑える論調に焦点を当てました。

 極めつけは、コメンテーターとして防衛研究所幹事の兵頭慎治氏が登場したことです(写真右の右側)。
 兵頭氏は侵攻直後からNHK番組の常連で、一貫して「対ロシア・徹底抗戦」を煽ってきた人物です。防衛省防衛研究所の職員は自衛官の一員ですから、その「解説」が政府・防衛省・自衛隊の代弁であることは自明です。
 この日も兵頭氏は、「力による現状変更は許さないという原点に立ち返ることが重要」と反戦気分・運動が広がっていることにクギを刺しました。

 こうして前半の「広がる徴兵拒否」を打ち消す形で後半に「徹底抗戦」が強調されたのは、いかにもNHKという構成です。

 ところが、兵頭氏の発言を受けて最後にコメントした桑子真帆キャスター(写真右の左側)はこう言って番組を締めたのです。「苦しい時間が長くなると本音が表に出にくくなります。それを今後も報じていきたい」(大要)

 そこには、ウクライナ市民の実態・願いを取材し一日も早い停戦を願う現場スタッフと、ロシア敵視で徹底抗戦を煽る日本政府と一体となっているNHK上層部との軋轢・葛藤があるのではないか、と私には思えました。

 いずれにしても、国家の論理ではなく、市民の願い・立場に立って、1日も早い停戦への道を取材・報道することがメディアの使命であることは疑いの余地がありません。

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TBSが性暴力元記者(山口敬之氏)問題に「触れるな」

2024年02月21日 | 人権・民主主義
  
 
 19日付の琉球新報に「忖度ない取材、報道を メディア不信、記者ら議論」と題した記事が載りました。12日に那覇市内で行われた沖縄県マスコミ労働組合協議会などによるトークイベントの詳報です。

 この中でパネリストのお笑い芸人でユーチューバーのせやろがいおじさん(本名・榎森耕助、沖縄在住、以下榎森氏)の発言がこう紹介されています。

<せやろがいおじさんは、自身が出演したTBSの番組に関するエピソードを紹介した。元TBS記者による性暴力被害を公表したジャーナリストについて、番組で取り上げようとして断られ、その経緯も含めユーチューブに公開した。「仕事が来ないかもと忖度する選択肢もあったが動画を出した」と振り返り、「これを面倒くさいやつと思うのか、内部からこれはおかしいと捉えるのか。そこに組織の度量が問われている気がする」と話した。>(19日付琉球新報=写真左の記事中央が榎森氏)

 私はこのユーチューブを見ていなかったので、探して見ました。以下、動画を起こしたものです(抜粋)。

「僕は毎週金曜日TBSのグッドラックさんという番組で動画を流させてもらっているんですけれども、今回、伊藤詩織さんの提訴の件で扱いたいですって言ったら、ダメですっていう風な話になって、それは、元TBS局員の支局長の山口(敬之)さんが関わってくるからちょっと触れないで下さいっていうような事になったんですね。

 TBSさんの中で、もしこれがアンタッチャブルになって、この件について扱う機会が減っているんだとしたら、それは俺、おかしいと思うんですよね。

 僕はやっぱここはTBSさんおかしいと思うから、ここで黙ってしまったら、多分僕、こういう動画つくる資格を失ってしまうんですよね」(写真中)

 このユーチューブは3年前のものと思われますが、タレントとしてレギュラー番組を持っている局(TBS)の暗部をこうして告発するのは勇気が必要だったと思われます。全体で約20分の動画の中にも苦渋がうかがえます。

 一方、告発をうけたTBSの側は、当時から今にいたるも榎森氏の指摘に答えた形跡はありません。

 TBSが山口元記者に関する報道にブレーキをかけていると思われる事例はこれだけではありません。

 東京地裁が伊藤さん勝訴の判決を下した2019年12月18日の3日後の21日、TBSの看板番組の報道特集で、金平茂紀キャスター(当時)は、判決を「画期的な出来事」としたうえで、「今日は残念ながらできないが、いつの日か(この問題を)取り上げたい」と言明しました。
 しかしその公約は果たされることなく、金平氏は22年9月、同番組を降板しました(22年9月25日のブログ参照、写真右)。

 金平氏は現在、沖縄タイムスで定期連載を持つなどジャーナリストとして活動を続けていますが、伊藤さんに対する性加害者の山口元記者をめぐるTBSの対応(報道圧力)について、今回の榎森氏の発言も含め、真相を公表する責任があるのではないでしょうか。

 ことは「度量」の問題ではなく、メディアとしてのTBSの死活的問題です。

 ところで、上記の琉球新報の記事は伊藤詩織さんと山口敬之氏を匿名にしました。トークイベントでは榎森氏は実名を挙げたはずです。だとすればそれを匿名にしたのはなぜか。それはTBSに対する“忖度”ではないのか。疑念が残ります。

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ガザとウクライナ-岸田政権「支援」の二重基準

2024年02月20日 | 国家と戦争
   

 ブラジルのルラ大統領は19日、エチオピアのアディスアベバで、「イスラエルがパレスチナ人に対しジェノサイド(大量虐殺)を行っている」(19日昼のTBSニュース)、あるいは「ガザのパレスチナに起きていることは、ヒトラーがユダヤ人虐殺を決定した時と類似している。…これは戦争ではなく大量虐殺だ」(同テレビ朝日ニュース)と述べ、イスラエルを厳しく批判しました(写真左)。

 同時に、「ルラ大統領は、UNRWA(パレスチナ難民救済事業機関)への資金拠出を停止した国に人道支援を続けるよう訴えました」(同テレビ朝日ニュース、写真中)。

 アメリカがUNRWAへの資金拠出を停止したのが1月26日。日本がそれに追随して停止したのが同28日。それから3週間以上たちましたが、日米両国ともいまだに資金拠出を再開していません。ガザ市民の危機的状況がきわめて憂慮されます。

 一方、岸田政権は19日、経団連とともに「日ウクライナ経済復興推進会議」を経団連会館で開催。ウクライナへの支援を「官民一体となってオールジャパンで取り組む」(岸田首相)として、56本の「協力文書」を交わしました(写真右)。

 ガザとウクライナ。同じく戦場となっている地域・国でありながら、岸田政権の「支援」対応は真逆、明らかな二重基準(ダブルスタンダード)です。

 対応は真逆ですが、その底流は一貫しています。ガザに対してもウクライナに対しても、岸田政権がとっている対応はいずれもアメリカに追随しているということです。これが日米安保条約による日米軍事同盟の実態です。

 ダブルスタンダードといえば、NHKは19日「日ウクライナ経済復興推進会議」を詳細に報じました。夜の「ニュース9」ではシュミハリ首相に単独インタビューするなどウクライナ支援に肩入れしました。しかしその一方、ブラジル・ルラ大統領の発言はまったく報じませんでした。NHKのダブルスタンダード、偏向報道は目に余ります。

 イスラエルに対しては先に南アフリカが「ジェノサイド条約に違反する」とICJ(国際司法裁判所)に訴え、ICJはイスラエルに同条約の義務を遵守するよう命じる仮処分命令を行いました(1月26日)。

 南アフリカ、ブラジルというグローバルサウス諸国がイスラエルのジェノサイドを告発し、ガザ・パレスチナ市民の生命・安全を守るために奮闘している姿が印象的です。
 これらの国々は、ウクライナ戦争においても、中立的立場から早くから停戦を呼び掛け、和平案を示してきました。

 日本は核覇権国・アメリカに追随するのではなく、グローバルサウスの国ぐにとこそ協調すべきです。
 その第1歩として、直ちにUNRWAへの資金拠出を再開しなければなりません。

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