アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

自衛隊の「大東亜戦争」記述と「尊皇攘夷」思想

2024年04月16日 | 自衛隊・日米安保
   

 陸上自衛隊第32普通科連隊(さいたま市)が5日公式SNSに「大東亜戦争最大の激戦地硫黄島」と投稿したことが8日朝の報道で発覚して問題になったことから、自衛隊は同日午後、この記述を削除しました(写真左は削除前、中は削除後)。

「大東亜戦争」の記述はなぜ問題なのか。それを最も的確に報じたのは、(私が見た限り)韓国のハンギョレ新聞でした。

大東亜戦争という用語は、太平洋戦争のA級戦犯である東条英機内閣時代の1941年、公式な表現として閣議決定された。この表現は、日本の主張した「欧米の帝国主義からアジアの植民地を解放し、大東亜共栄圏を築いてアジアの自立を目指す」とする「大東亜共栄圏構想」から来たものだ。敗戦後、日本を占領した連合軍総司令部(GHQ)は、公文書などでもこの用語の使用を禁止した」(9日付ハンギョレ新聞デジタル日本語版)

 「大東亜」という用語が公式文書に登場したのは、東条内閣の閣議決定よりさらに1年前の第2次近衛文麿内閣にさかのぼります。

「1940年7月に成立した第二次近衛内閣は、同盟国ドイツのヨーロッパ戦線での快進撃という新情勢の展開に促され、組閣直後に「基本国策要綱」を閣議決定した。そこでは「大東亜新秩序の建設」が打ち出され、新たな中国支配構想を提唱した」(纐纈厚著『侵略戦争』ちくま新書1999年)

 「大東亜(戦争・共栄圏・新秩序)」が、帝国日本のアジア侵略・植民地支配を象徴する言葉であったことは明白です。

 さらに留意すべきは、「大東亜共栄圏」思想は天皇崇拝と密接な関係にあることです。

「大東亜戦争の目的は、アジア人が共存共栄する「大東亜共栄圏」の建設だとされました。ここに至っても、尊皇攘夷の思想が焼き直されているわけです。現実はもちろん違います。世界大恐慌のあと…東アジアだけでは資源が足りない。とくに石油がありません。そこで「東亜」を「大東亜」に拡大し、東南アジアや南アジアまでを占領し、ブロック経済をつくらなければならないと考えた。これが「大東亜共栄圏」の現実でしょう」(片山杜秀・慶応大教授、島薗進・東京大名誉教授との対談集『近代天皇論』集英社新書2017年)

 「大東亜共栄圏」思想は、幕末から明治維新にかけて天皇制政府を樹立・強化するための思想だった「尊皇攘夷」の焼き直しだという指摘です。
 さらにそれは、現在の自民党政権と無関係ではありません。

 前掲書で片山氏と対談した島薗進氏は、安倍晋三首相(当時)が2016年のG7サミットで各国首脳を伊勢神宮に参拝させた(写真右)ことについてこう指摘しています。

尊皇攘夷で育まれ、日露戦争勝利で膨張した対外優越意識が、伊勢志摩でよみがえってしまったところがありますね。戦前に回帰するように、現在の政権もなんとかして伊勢神宮に国家的な地位を与えようとしているわけです」(前掲、片山氏・島薗氏対談集)

 自衛隊は最近、陸自隊員や海自隊員の参拝、元将官の初の宮司就任など、靖国神社との接近を強めています(3月19日のブログ参照)。そして今度は「大東亜戦争」。
 それらは無関係なようで根は1つです。根底にあるのは「尊皇攘夷」思想―天皇崇拝と対外優越意識・アジア人民蔑視であり、行き着く先は侵略戦争・植民地支配肯定です。

 こうした自衛隊の体質が、「軍拡(安保)3文書」による日米安保条約(軍事同盟)のかつてない深化の中で表面化してきているところに、現在の情勢の危険性が端的に表れています。

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「台湾有事」で自衛隊が参戦―麻生暴言とその背景

2024年01月10日 | 自衛隊・日米安保
   

 台湾の蔡英文総統は8日、能登半島地震への支援を表明したSNSで、「日本有事は台湾有事」だと述べ、台湾と日本との“一体性”を強調しました(9日昼のTBSニュース)。

 同じ8日、自民党の麻生太郎副総裁は地元・福岡県内の「国政報告会」で次のように述べました。

<時代は大きく変わりつつある。今、台湾海峡を挟んで緊張が高まっている。…何かが台湾で起き、ことが戦争ということになった場合、我々は台湾にいる日本人を救出せねばならない。当然、海上自衛隊、そういう組織が救出する。そのときに台湾は中国と戦ってくれているのですか。それとも降参しているのですか。…今までとは状況が違います。我々は、台湾海峡で戦う。潜水艦で、軍艦を使って、というようなことになる。台湾の有事は間違い無く、日本の存立危機事態にもなります。>(8日付朝日新聞デジタル「発言録」、写真左。写真はすべて朝日新聞デジタルから。写真中は昨年8月の訪台)

 共同通信は、麻生氏は「(戦うことになる)しかるべき準備をしておかなければならない」とも述べたと報じています(9日付京都新聞)。

 かつて安倍晋三氏は「台湾有事は日本有事」だと公言して批判を浴びましたが、麻生氏の発言は安倍発言の意味は「台湾有事」=「日本の参戦」だということを明確に述べたものです。

 背筋が寒くなるような重大発言です。これは一衆院議員の暴言ではなく、自民党の副総裁、いまや岸田文雄首相の最大のバックボーンとみられている人物の公式発言です。

 この重大発言を問題視して見出しにとって報じたメディアは、私が見た限り皆無でした。メディアの機能不全も深刻です。

 麻生氏の暴言はたんに麻生氏の妄想ではありません。

 台湾は昨年発表した「国防白書」で、「中国が台湾に侵攻した場合の戦略を大きく変更」(9日付朝日新聞デジタル)しました。日本台湾交流協会台北事務所(大使館に相当)で軍事担当を務めた尾形誠元空将捕は「ウクライナの戦訓を学んだ結果だ」と語っています(同朝日新聞デジタル。自衛隊OBが事実上の大使館員になっていることも問題です)

 尾形氏はこう説明しています。

<(台湾の国防白書は新たに)「地域統合防衛機構との連携」を加えました。に日米同盟や米英豪の安全保障の枠組み「AUKUS」などとの連携強化を念頭に置いています。台湾が米国以外の国々との連携を唱えたのは初めてです。

 日本の現行法制が定める自衛隊を使った邦人救出は台湾有事では役に立ちません。台湾有事では、自衛隊は南西諸島の防衛を念頭に、兵員や武器の輸送に全力を挙げる必要があるからです。自衛隊の能力が使えないことを前提に、民間の航空機や船舶を使う体制づくりが必要です。>(同朝日新聞デジタル)

 「台湾有事」には自衛隊は戦闘で手一杯、「邦人救出」は「民間の航空機や船舶を使う」必要がある、というわけです。軍拡(安保)「3文書」が明記し沖縄で進行している「空港・港湾の軍民両用化」の意図が明確に述べられています。

 日米軍事同盟(安保条約)の深化によって、「国民」には知らされないまま、「台湾有事は日本有事」の名の下に日本(自衛隊と民間航空機・船舶)参戦の「準備」が着々と進行しています。

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陸自のオスプレイも撤去しなければならない

2023年12月01日 | 自衛隊・日米安保
   

 米軍岩国基地を飛び立って嘉手納基地へ向かっていた米軍のCV22オスプレイ(横田基地所属)が29日午後、屋久島沖で墜落・大破した事故は、オスプレイの欠陥機ぶりを改めて露呈しました。

 オスプレイは今年8月27日にもオーストラリアで墜落(MV22)し3人死亡したばかり。沖縄では2016年12月13日、米軍普天間基地所属のMV22が名護市沖に墜落し2人が負傷しました。

 米軍オスプレイを直ちに飛行停止・撤去させなければならないことは言うまでもありません。重要なのは、米軍オスプレイだけでなく陸上自衛隊のオスプレイ(V22、千葉・木更津駐屯地に暫定配備中、再来年7月までに建設中の佐賀駐屯地に移駐予定)も撤去する必要があるということです。

 なぜなら陸自オスプレイも墜落を繰り返している米軍オスプレイと「似た構造を持っている」(山口昇・元陸将、29日夜NHKニュース9)からです。
 事実、陸自オスプレイにも不具合が生じています。

「今年8月、静岡県の航空自衛隊静浜基地で、陸自のV22オスプレイが予防着陸した。原因は、オスプレイのナセル(エンジン収容体)の中にあるギアボックスの内部で、ギアなどが高速回転し、部品が摩耗して金属片が発生したこと。防衛省はギアボックスを交換することで飛行再開した」(防衛ジャーナリスト・半田滋氏、30日付沖縄タイムス)

「今回の事故と同型のCV22は昨年8月、クラッチの不具合による事故が相次いでいるとして全機を一時飛行停止に。陸自も米軍の事故調査などを受け、昨年と今年、V22の飛行を一時見合わせた経緯がある」(30日付共同配信)

 その危険な陸自オスプレイが10月24日、日米共同訓練の一環として民間の新石垣空港に降り立ちました(写真右)。

「訓練では前線で負傷した隊員の輸送を担った。ある陸自幹部は「戦闘ではなく負傷者の輸送なら、地元の反発も少ない」とあけすけに語る」(30日付共同配信)

 「負傷者の輸送」で「戦闘」をカムフラージュする。こうした姑息な策術を弄してまで政府・防衛省は危険なオスプレイを配備しようとしているのです。

 「自衛隊のオスプレイについても退役を検討する必要がある」「県民、国民の生命・財産を守るため、国内からオスプレイを全面撤去するしかない」(30日付琉球新報社説)。

 自衛隊が米軍と従属的に一体化している軍隊であることはもはやだれの目にも明らかです。それは自衛隊の装備・兵器も同様です。オスプレイだけでなく、巡航ミサイルトマホークも米軍の中古を高額で買わされたことが先日明らかになりました。

 オスプレイ撤去、軍事基地撤去の声は、米軍と同時に自衛隊にも向けていかねばなりません。

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加速する自衛隊の日米・日米韓合同訓練

2023年10月25日 | 自衛隊・日米安保
   

 昨日のブログで、自衛隊機がイスラエルに飛んだのは自衛隊の存在をアピールする政治的思惑だと書きましたが、それはたんなるアピールではなく、この間の自衛隊の重大な行動と表裏一体です。

朝鮮半島南端で初の日米韓3軍合同空中訓練(22日)

 航空自衛隊は22日、朝鮮半島南端で、米軍、韓国軍と初の合同空中訓練を強行しました。8月の3カ国首脳会談(米国・キャンプデービット、写真中)の合意に基づくもので、日米韓3カ国軍事同盟化へ大きく踏み出したことになります。

 米軍からは核兵器搭載が可能なB52戦略爆撃機、自衛隊からF2戦闘機、韓国軍はF15戦闘機が参加。「聯合ニュースによると、(自衛隊と韓国軍機が)B52 を護衛しながら飛行する訓練を実施した」(23日付京都新聞=共同)もの(写真左)。自衛隊はついに核兵器を搭載する米軍機を護衛することを想定するに至っているのです。

 韓国の市民団体「平和と統一を開く人々」は22日、「3カ国の空中訓練は日本の自衛隊の朝鮮半島領内での訓練参加に向けた手順であり、日本の朝鮮半島問題への介入と干渉を容認するとともに、自衛隊の朝鮮半島再侵奪を招く危険性がある」と批判しました(23日付ハンギョレ新聞日本語電子版)

陸上自衛隊と米海兵隊が最大規模の共同訓練(14~31日)、沖縄に陸自オスプレイが初飛来(19日)

 自衛隊機がイスラエルに飛び立ったのと同じ14日、陸自と米海兵隊の最大規模の共同訓練「レゾリュート・ドラゴン」が開始されました(31日まで)。沖縄と北海道で実施され、「自衛隊約5千人、米軍約1400人が参加。先島諸島では、石垣島に約80人、与那国島に約50人の米軍が派遣」(24日付朝日新聞デジタル)されました。

 19日には沖縄住民の強い反対・抗議を押し切って陸自オスプレイが初飛来。民間機が離発着する新石垣空港に着陸しました(写真右)。

 24日には沖縄での訓練の模様が報道陣に公開されました。敵基地攻撃を想定し、陸自の車両型「12式地対艦誘導弾」、それを守る車両型「中距離地対空誘導弾」などが参加。
「有事にあたり、敵の艦艇や航空機に対し、自衛隊が米軍の支援を受けながら前面に出て、相手を撃退する構図が浮かぶ」(24日付朝日新聞デジタル)

「(石垣市の)山里節子さん(86)は「島に基地をつくり、日米が一体となって訓練をしている。標的にされると思うと、たまらなく怖い。パレスチナ自治区ガザもそうだが、戦争になれば弱い立場の人が一番犠牲になる」と話した」(同)

 自衛隊と米軍の一体化の深化、さらに日米韓3軍合同の進行は、すでに戦時体制と言っても過言ではない状況を呈しています。

 さらに深刻なのは、こうした自衛隊・日米軍事同盟(安保条約)の危険な実態を、「本土」メディアがまったく問題にしていないばかりか、野党第1党の立憲民主はじめ、ほとんどの政党・勢力が容認・同調・黙過していることです。

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木原防衛相発言はたんなる自衛隊利用ではない

2023年10月17日 | 自衛隊・日米安保
   

 長崎県佐世保市で行われた衆院長崎4区補欠選挙自民候補の集会(15日)で、木原稔防衛相が行った発言が問題になっています(16日に「撤回」)。木原氏はこう言ったのです。

「しっかり応援していただくことが自衛隊ならびにそのご家族のご苦労に報いることになる」(16日付各紙=共同)

 共同通信は「自衛隊の政治利用と取られかねない発言で、野党が行政の中立性を逸脱したと反発する可能性がある。自衛隊法は、隊員の政治的行為を制限している」と配信しました。

 「政治利用と取られかねない」ではなく紛れもない「政治利用」です。しかし留意しなければならないのは、これはたんなる「政治利用」ではないということです。

 木原氏は、自民党候補に投票することが「自衛隊のご苦労に報いることになる」、すなわち有権者は投票で「自衛隊の苦労」に応える必要があると言ったのです。戦時中、帝国日本は「兵隊さん、ありがとう」という軍国主義教育を徹底させました。木原発言は現代版「兵隊さん、ありがとう」の強要にほかなりません。

 これが一議員の発言ではなく、現職の防衛大臣の公式な場における発言であることを重視する必要があります。

 そもそも自民党内でも軍拡の急先鋒、そして沖縄県民への敵対で名をはせた木原氏を防衛相に任命したこと自体が問題です。

 2015年6月23日の「沖縄慰霊の日」、沖縄の式典に出席した安倍晋三首相(当時)は県民から「帰れ」の声を浴びました。これに対し木原氏は、「明らかに動員されていた」とウソを平気で述べ安倍氏を擁護しました。沖縄県民から厳しい批判を浴びたのは当然です。

 さらにその2日後の同年6月25日、木原氏が代表を務める自民党内の「文化芸術懇話会」で講師を務めた作家の百田尚樹氏が、「沖縄の2つの新聞(琉球新報、沖縄タイムス)は潰さなあかん」と発言。木原氏は責任を問われ党青年局長を更迭されました。

 その木原氏が、沖縄がミサイル基地化して新たな戦争の前線基地にされようとしている重大な時に、防衛相の座に就いたのです。

 木原氏は、岸田政権が昨年12月閣議決定した「安保3文書」改定の「与党実務者協議(WT)」のメンバーでした。そして今年4月から攻撃性ある武器を輸出する「武器輸出(防衛装備移転)三原則」見直しでもWTのメンバーを務めてきました。
 加えて、統一教会との関係でも、教団の会合に出席して講演したことを認めた“統一教会議員”の1人でもあります。

 その木原氏の防衛相としての“初仕事”が、ワシントンに飛んで米製中古トマホークを前倒して購入する約束をしてオースティン米国防長官を喜ばせたことだったのは記憶に新しいところです(9日のブログ参照)。

 それに続く“第2の仕事”が今回の「自衛隊のご苦労に報いる」発言。これはたんに木原氏の問題ではなく、こういう防衛族の右派議員をあえて防衛相に任命した岸田首相の責任問題であり、日米軍事同盟(安保条約)による日本の戦争国家化がきわめて危険な段階にきていることの表れに他なりません。
 

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自衛隊に“米軍従属の大本営(統合司令部)”

2023年02月09日 | 自衛隊・日米安保
   

 6日付琉球新報(共同配信)は、<市谷に自衛隊統合司令部>の見出しでこう報じました。「政府は、陸海空3自衛隊を一元的に指揮する常設の統合司令部について、防衛省がある東京・市谷に新設する方針を固めた」

 統合司令部は、岸田政権が閣議決定した「軍拡(安保)3文書」の中の「国家防衛戦略」第4章で、「既存組織を見直し、陸自・海自・空自の一元的な指揮を行い得る常設の統合司令部を創設する」と明記されているものです。

 自衛隊にはすでに3軍を統合する統合幕僚長がいます。その上新たに統合司令官を置くのはなぜか。「関係者によると…(統合司令部)設置後、統合幕僚長は防衛相の補佐に集中し、統合司令官が部隊運用を受け持つ」(6日付琉球新報)といいます。

 統合幕僚長は防衛相・政府の対応に専念し、3軍の軍事的指揮は統合司令官が行うというわけです。これは戦時中の「大本営」の復活であり、統合司令官はかつての参謀長に他なりません。
 「大本営」は「戦争や事変の際に設置された陸海軍の最高統帥機関。軍隊を動かす「統帥権」を持つ天皇に直属し、内閣や議会のチェックは働かなかった」(8日付沖縄タイムス)組織です(写真右は1943年4月の大本営のもよう)。

 現代版「大本営」である統合司令部の創設は、政府の「戦時体制」づくりが本格化することを意味します。

 重要なのは、統合司令部にはかつての「大本営」にはなかった大きな特徴があることです。それは、完全に米軍に従属した司令部だということです。

 纐纈厚・明治大学国際武器移転史研究所客員研究員はこう指摘します。

「アジア太平洋戦争時には陸海軍をまたぐ組織として大本営が組織されたが、事実上統合司令部は戦時を想定した場合には大本営的な組織となる。
 現在…統合幕僚長が存在するが、その役割は総理大臣・防衛大臣との連絡役に特化し、米軍との連携を徹底するために統合司令部機能を確保し、統合司令官がアメリカの野戦指揮官と一体となって作戦指導を果たす任務を担おうとする役割分担が明確化されることになろう」(「今、憲法を考える会」通信「ピスカトール」1月26日号)

 纐纈氏の指摘を裏付けるように、こう報じられています。

司令部設置で自衛隊と米軍の過度な一体化も危ぶまれる。…防衛省筋は「自衛隊の運用を事実上、米側が主導することにはならないか。注視が必要だ」と指摘している」(6日付琉球新報)

 纐纈氏は、統合司令部設置について、「参謀本部と軍令部とが政治の関与を排除し、逆に武力を背景に政治に介入し、軍事的政治集団として「軍部」を形成し、戦争へと誘導していった歴史を想起せざるを得ない」(同前)と警鐘を鳴らします。

 同時にそれは、単なる歴史の繰り返しではなく、日米軍事同盟(安保条約)による“対米従属の大本営”という新たな重大な特徴・危険性を持つことを銘記する必要があります。

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自衛隊性暴力告発を逆利用させないために

2023年02月02日 | 自衛隊・日米安保
  

 自衛隊内で性暴力被害を受けた元自衛官の五ノ井里奈さんが1月30日、国と加害者の元自衛隊員5人を相手取り、損害賠償を求める訴訟を横浜地裁に起こしました。

 同日、日本記者クラブで会見した五ノ井さんはこう述べました。

「(元隊員らは)反省していないと感じた。このままではハラスメントの根絶は不可能なんじゃないかと思った」
「震災で自衛隊の方々に助けてもらったので(五ノ井さんは宮城県東松島市の出身)、自衛隊への感謝は忘れないし、今でも好き。好きな自衛隊を辞めざるを得ず、たくさんのものを失っているので、その責任をしっかりとって頂きたい」
一人ひとりが大切にされて、正しい正義感を持った隊員や組織になってほしい」(30日付朝日新聞デジタル)

 五ノ井さんの提訴に対し、浜田靖一防衛相は31日、「ハラスメントは隊員相互の信頼関係を失墜させ組織の根幹を揺るがす、決してあってはならないものだ。ハラスメントを一切許容しない組織環境を構築するよう努めたい」(写真右)と述べました。

 性暴力が許されないことは言うまでもなく、さまざまな重圧に抗して告発・提訴した五ノ井さんの勇気は称賛されます。

 しかし、そこには大きな落とし穴があることを見落とすことはできません。

 上記の浜田防衛相の言葉とまったく同じ文言を最近目にしました。
自衛隊員の能力を発揮するための基盤の強化・ハラスメントを許容しない組織環境
 これは「軍拡(安保)3文書」(12月16日閣議決定)の1つ「国家安全保障戦略」の第4章「優先する戦略的なアプローチ」の一節です。

 政府・防衛省は、自衛隊内のハラスメント対策を、43兆円の大軍拡・「敵地攻撃能力保有」と一体の「国家戦略」の中に位置づけているのです。それは自衛隊の組織的強化であると同時に、大軍拡に対する市民の批判をかわすうえでも必要な「戦略的アプローチ」です。

 そもそも、自衛隊が「一人ひとりが大切にされて、正しい正義感を持った組織」になることは不可能です。

 自衛隊は正真正銘の軍隊です。「軍拡(安保)3文書」が実行されれば、「ロシアや英国を抜き、米中印に次ぐ世界4位になる可能性が高い」(12月17日付朝日新聞)世界有数の軍隊です。
 しかも、「日米同盟の抑止力と対処力を一層強化する」(「国家安全保障戦略」)ことを目指している対米従属の軍隊です。
 その根源は、憲法の平和原則に反する日米軍事同盟=安保条約です。

 軍隊は戦争(殺戮)が本業であり、軍隊と性暴力は一体です(2022年10月4日のブログ参照)。自衛隊が「正しい正義感を持った組織」になることなどあり得ません。それは「核の平和利用」が幻想なのと同じです。

 五ノ井さんの告発が、「軍拡3文書」に基づく自衛隊の組織強化、大軍拡・戦争国家化の推進に逆利用されないためには、自衛隊の性暴力をゆるさないたたかいを、憲法違反の自衛隊解散(災害救助組織への改組)、日米軍事同盟=安保条約廃棄と一体ですすめることが重要です。

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自衛隊のアイヌ文化盗用は「同化・皇民化政策」

2023年01月24日 | 自衛隊・日米安保
    

空自航空団の新マークは「アイヌ文化の盗用」か デザインめぐり議論>―20日付の朝日新聞デジタルにこんな見出しの記事が出ました。概要は次の通りです。

< 航空自衛隊第2航空団(北海道千歳市)が昨年12月に発表した新しいマーク(自衛隊機の垂直尾翼などに付ける)は、熊の頭と鳥の羽根、中心部分に唐草風のデザインがあしらってあるもの(写真左)。隊員からの公募をもとに決めたという。
 中心部分のデザインは渦巻きとひし形で構成され、研究者によると「アイヌ文様の基本形」(写真中)と重なる表現だという。

 マーク制定に際し、航空団は、北海道アイヌ協会など関係団体や特許庁に照会し、問題がないことを確認したという。
 だが、マークの発表後、アイヌの男性が「文化の盗用だ」とツイッターに投稿し、議論が起きた。「文化の盗用」とは、先住民族など社会的少数派の文化を、優越的な地位にある側が異なる文脈で流用する行為を指す。

 武蔵野美術大学の志田陽子教授(芸術法)は「先住民族の文化は、これまで著作権法の保護対象にならないとされてきたが、最近は集団の知的財産として保護すべきだとの議論がある。多数者側が利用する際は、当事者に敬意を払い、意に反する安易な流用を避ける配慮が必要だ」と話す。

 アイヌは、北海道や樺太(現サハリン)などに暮らす先住民族。長年にわたり植民者である「和人」から収奪と差別の対象とされ、明治以降は同化政策が進められてきた。志田教授は、アイヌ民族が平和を重んじてきた歴史にふれ、「アイヌの中には、自衛隊ということで反発する人もいる。デリカシーを持ってほしかった」と言う。

 アイヌの人と研究者らでつくるアイヌ政策検討市民会議は「アイヌ民族の権利をないがしろにする行為であり、国連宣言の精神に反するものだ」と指摘する。市民会議は16日、岸田文雄首相と航空団司令らに宛てて、使用差し止めを求める要請文を郵送した。>

 先住民族の文化をどう制度的に保護するかという重要な問題ですが、ここでは別の視点から考えたいと思います。それは、自衛隊がアイヌ民族の文化を盗用したことがどういう意味を持つかです。

 上記の記事は、「明治以降は同化政策が進められてきた」と過去形で書いていますが、これはまさに“現代の同化政策”に他なりません。その意味は2つあります。

 1つは、志田教授が指摘しているように、平和を重視してきたアイヌ民族の文化を軍隊である自衛隊のシンボルマークに使うことは、アイヌ民族の歴史の蹂躙・冒涜であり、ヤマトの軍事政策への包摂にほかなりません。それは明治以降の帝国日本が「富国強兵」=戦争国家政策として行ってきた「同化政策」と本質的に変わりません。

 政府・自民党が「軍拡3文書」で新たな戦争国家への道を猛進しようとしている今、この問題が起こったことは偶然とは思われず、その意味はとりわけ重大です。これは「デリカシー」の問題ではなく、日本政府の戦争国家化政策の問題です。

 もう1つは、天皇制との関係です。自衛隊は今も天皇制と切っても切れない関係の軍隊です。

 天皇制帝国日本が侵略戦争・植民地支配の文字通り旗印としたのが「旭日旗」。それを今も「隊旗」としているのが自衛隊(陸自・海自)です。

 安倍晋三政権は2018年3月、「日本の海兵隊」といわれる「水陸機動団」を創設しましたが、その「旗印」は「三種の神器」の1つ「草薙の剣」(写真右)です。

 神武天皇ゆかりの「八咫烏(やたがらす)」をシンボルマークにしている陸自部隊(中央情報隊・中部方面情報隊)もあります(日本サッカー協会だけでなく)。

 今回の盗用は、アイヌ文化をこうした天皇制と一体化したシンボルマークに包摂するものです。それはたんなる「同化政策」ではなく、今日における「皇民化政策」といえるでしょう。

 あるゆる角度から、自衛隊による「アイヌ文化の盗用」は絶対に許すことができません。

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「防衛省オピニオンリーダー」問われる「文化・著名人」

2022年12月31日 | 自衛隊・日米安保
  

 来年は、岸田政権が閣議決定した「軍拡(安保)3文書」をめぐる大軍拡・軍事国家体制づくりが最大の争点になります。
 政府・防衛省は、カギを握るのは世論対策だとして、「人工知能(AI)を活用した世論操作の研究」に乗り出しています(12日のブログ参照)。

 世論対策として政府・防衛省がとりわけターゲットにしているのが「若者世代」です。

 11月18日、東京・武道館で「自衛隊音楽まつり」が開催されました。
「各隊は人気アニメ「鬼滅の刃」の主題歌や、森山直太朗さんの「さくら」などを演奏。高校生や保護者らを招いた前日のリハーサル公演には若者に人気の音楽グループ「EXILE」の派生ユニットがサプライズ主演する一幕も。自衛隊関係者は「若者向けの曲目が多いのは、自衛官のなり手の青少年がターゲットだからだ」と話す」(10日付朝日新聞デジタル)

 そんな中、見過ごせないのが「防衛省オピニオンリーダー」なるものの存在です。

「防衛省は近年、特に若者へのアピールを強めている。SNSの多数のアカウントを駆使し、登山家の野口健さんや将棋棋士の羽生善治さん、落語家の林家三平さんら26人を「防衛省オピニオンリーダー」に任命した」(同朝日新聞デジタル)

 「オピニオンリーダー」とは何か。防衛省はこう説明しています。

「防衛省オピニオンリーダーとは、各界における著名人や有識者の方々に、防衛施策や自衛隊の活動、防衛問題についての認識を深めていただくことを目的としたものです。現在は、大学教授など、26名の方々を委嘱しています。
活動内容
〇陸海空自衛隊の部隊見学や各種行事への参加
〇防衛政策等に関する説明会の実施
〇防衛省・自衛隊に関する各種資料の提供    2022年4月6日更新 」(防衛省・自衛隊HP)

 各界の「著名人や有識者」に積極的に「防衛政策や自衛隊の活動」について説明(洗脳)し、世論操作の中心に据えようというのが「防衛省オピニオンリーダー」です。

 林家三平氏は「オピニオンリーダーとして防衛白書の作成にも携わって」いるといいます。そして、2021年10月26日には沖縄の海上自衛隊基地を「慰問」し、掃海艇「ししじま」に乗船もし、盾を贈られています(海上自衛隊沖縄基地隊のHPより。写真右も)

 「26名」がそれぞれどういう意向・いきさつで「防衛省オピニオンリーダー」になったのかは分かりませんが、はたして軍隊としての自衛隊の本質、対米従属の日米軍事同盟(安保条約)の実態を知ったうえで「オピニオンリーダー」を務めているのでしょうか。
 もし、「災害救助」を見て自衛隊に協力しようと思ったのだとしたら、それは政府・防衛省の戦略にまんまとだまされていると言わねばなりません、多くの「国民」がだまされているように(写真中は自衛隊の募集サイト)。

 帝国日本の侵略戦争・植民地支配に多くの「文化・著名人」が加担・協力したことは歴史の事実です。その戦争責任について、映画監督の伊丹万作(1900~46、故・伊丹十三氏の父)は敗戦後まもなくこう書いています。

「だますものだけでは戦争は起こらない。だますものとだまされるものとがそろわなければ戦争は起こらない。だまされたものの罪は、ただ単にだまされたと言う事実そのものの中にあるのではなく、あんなにも造作なくだまされるほど批判力を失い、思考力を失い、信念を失い、家畜的な盲従に自己の一切をゆだねるようになってしまっていた国民全体の文化的無気力、無自覚、無反省、無責任などが悪の本体なのである」(「映画春秋」創刊号1946年、『伊丹万作エッセイ集』ちくま文庫所収)

 過ちを繰り返してはなりません。
 政府・防衛省が本格的に広報戦略を展開しようとしているとき、「文化・著名人」はその見識・社会的責任がこれまで以上に問われます。
 もちろん、一番問われる、一番だまされてならないのは、私たち「市民」です。
 2023年は勝負の年です。


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なぜ「敵地攻撃」賛成が多数なのか

2022年12月22日 | 自衛隊・日米安保
   

 各種世論調査で、岸田政権の「不支持」が「支持」を大きく上回る結果が常態化しています。「軍拡増税」にも「反対」が「賛成」を上回っています。
 ところが、「敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有」についてだけは、「反対」より「賛成」が多数という結果になっています。

 例えば、共同通信の世論調査(17、18日実施)では、「反対」42・6%に対し「賛成」50・3%。朝日新聞の世論調査(17、18日実施)でも、「反対」38%で「賛成」は56%にのぼっています。

 「朝日」の調査結果を細かく見ると、「男女別」では男性=「賛成」66%、「反対」29%、女性=「賛成」47%、「反対」47%。年代別では、「賛成」が最も多いのは18~29歳(65%)で、最も少ないのは70歳以上(51%)でした。男性・若年層に「賛成」が最も多い傾向があることになります。

 さらに、「防衛費」の増額に「反対」と答えた人(48%)でも、「敵基地攻撃能力保有」には36%が「賛成」しています。支持政党別でも、立憲民主党支持者の47%が「賛成」(「反対」は46%)。共同通信の調査では日本共産党支持者でも19・4%が「賛成」しています。

 「敵基地攻撃能力保有」が、「専守防衛の原則を空洞化させ…国際法違反の先制攻撃になりかねない危険や、対抗措置によってかえって地域の緊張を高める恐れ」(17日付朝日新聞「社説」)があることは広く指摘されています。

 にもかかわらず、それに「賛成」する人があらゆる層に広がっているのはなぜでしょうか。

 主な原因は2つあるのではないでしょうか。

 1つは、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)、中国に関する日本政府とメディアが一体となったプロパガンダです。

 例えば、朝鮮の「ミサイル発射」は、アメリカと韓国の合同軍事訓練(写真中は最新の合同訓練)に対する朝鮮の対抗措置です。それに最近は日本軍(自衛隊)も加わり、日米韓3軍合同訓練で朝鮮を挑発していることが元凶です。
 ところが、日本のメディアは異口同音、十年一日のごとく「北朝鮮の挑発」と繰り返しています。原因と結果の逆転であり、意図的なすり替えです。それが「敵地(北朝鮮)への先制攻撃はやむなし」という世論を醸成していることは明らかです。

 もう1つは、ウクライナ情勢(戦争)に対する平和主義的視点の後退です。

 これも日本政府とメディアによって、アメリカはじめNATOによるウクライナへの武器供与が肯定(催促)され、「徹底抗戦」が賛美されています。
 これが、停戦・和平交渉を遠ざけているばかりか、「目には目を」の戦争論理を煽っています。ウクライナ情勢に対する平和主義的アプローチはかき消されています。

今回の(ウクライナ)戦争が投げかけた第1の論点は、中立の是非である。…(ところが)戦争が勃発すると、日本はただちに西側諸国と連携してロシアに対する経済制裁に参加し、またウクライナの要請に応じて防弾チョッキや監視用ドローンの提供を始めた。すなわち、今回の戦争において中立の立場をとらないことを早々に決めたということである」(松元雅和日本大学教授「ウクライナ戦争と平和主義のゆくえ」、「世界」12月号所収)

 日本政府が「中立の立場」を検討することもなく早々と「西側諸国と連携」したのは、日米軍事同盟(安保条約)があるからです。軍事同盟による平和主義の圧殺がここにはっきり表れています。

 ソウルの日本大使館前では20日、民族問題研究所など市民団体によって、「日本の安全保障関連3文書改定糾弾記者会見」が行われ、「太平洋戦争敗戦後70年以上「防衛」にとどまっていた安保政策が攻撃能力を保持するようになった」と糾弾の声を上げました(21日付ハンギョレ新聞、写真右)

 日本政府とメディアが一体となったプロパガンダに抗し、平和主義を守り前進させることができるのか。日本の市民が問われています。

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