29日付の沖縄タイムスに<「神武天皇と今上天皇同じY染色体」自民衆院議員 古屋氏の投稿「根拠不明」本紙が調査>という見出しの記事が載りました(以下抜粋)。
< 自民党憲法改正実現本部長の古屋圭司衆院議員は今月6日、ツイッターにこう投稿した。「天皇制度は如何に男系男子による継承維持が歴史的に重要か、神武天皇と今上天皇は全く同じY染色体であることが、『ニュートン誌』染色体科学の点でも立証されている」
神武天皇は初代天皇とされる。宮内庁は本紙取材に「日本書紀などの文献に基づき歴代天皇に数えているが、実在するか否かについては諸説ある」との見解を示した。宮内庁は「神武天皇のご遺体が発見されたということは承知していない」と述べる。
Y染色体は父から男子に受け継がれる。しかし、神武天皇は実在も遺体も確認されておらず、「神武天皇のY染色体」をどう検査したのか不明だ。
科学雑誌「ニュートン」を発行するニュートンプレス社は「神武天皇と今上天皇のY染色体に言及した記事はない」と否定した。
古屋氏は真意を問う本紙の取材に回答しなかった。>(29日付沖縄タイムス)
宮内庁は「諸説ある」と言っているようですが、「『古事記』と『日本書紀』は…律令天皇制を正当化するために創作されたもので…神武から開化までの天皇は架空の存在」(岩波『天皇・皇室辞典』)というのが定説です。この一事をもってしても、古屋氏のツイートが荒唐無稽なフェイクであることは明白です。
その目的が、皇室の「男系男子」を強調し、「女性天皇」を阻止しようとすることにあるのも明らかです。
問題は、古屋氏(写真左)がただの自民党議員ではなく、第2次安倍晋三内閣で国家公安委員長を務めるなど安倍氏ときわめて近く、現在は自民党総裁直属の憲法改正実現本部長として改憲の先頭に立っていることです。「日本会議議連」や「明治の日を実現するための議連」の会長を務めるなど、自民党右派の代表格でもあります。
こうした自民党幹部が、公式ツイッターで明らかなウソを公然と振りまき、現行天皇制を維持しようとしていることは見過ごすことができません。
さらに問題なのは、この古屋氏のフェイクは個人的な妄言ではなく、日本の法律に関係していることです。それは「国民の祝日に関する法律」(祝日法)が2月11日を「建国記念の日」とし、その趣旨を「建国をしのび、国を愛する心を養う」(第2条)としていることです。
この日を「建国記念の日」としているのは、明治天皇制政府が1874年に2月11日を「紀元節」として祝い始めたことに起源があります。それは、紀元前660年のこの日、神武天皇が即位したという『日本書紀』の神話に基づくものです。
天皇制政府はこの紀元前660年からの始まりを「皇紀」とし、1940年を「皇紀2600年」と称して各種の行事を行いました。それは皇国史観を煽り、侵略戦争推進・植民地支配強化のテコとなりました。
古屋氏の「神武天皇」を使ったフェイクは、天皇制政府の「紀元節」「皇紀2600年」と同根です。そしてそれは、「祝日法」という法律によって現在に引き継がれ、「建国をしのび、国を愛する心を養う」日として天皇制ナショナリズム強化の手段となっているのです。
国家権力はウソ・フェイクを駆使して国家主義を煽り、支配強化を図ります。それは侵略を正当化し、「国民」を戦争に駆り立てる戦争国家化と表裏一体です。
「ウクライナ戦争」のさなかに憲法改悪の先頭に立つ自民党幹部が天皇制フェイクを撒き散らしたことは、決して偶然とは思えません。