アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

自民幹部の天皇制フェイクと「建国記念の日」

2022年03月31日 | 天皇制と政治・社会

    

 29日付の沖縄タイムスに<「神武天皇と今上天皇同じY染色体」自民衆院議員 古屋氏の投稿「根拠不明」本紙が調査>という見出しの記事が載りました(以下抜粋)。

< 自民党憲法改正実現本部長の古屋圭司衆院議員は今月6日、ツイッターにこう投稿した。「天皇制度は如何に男系男子による継承維持が歴史的に重要か、神武天皇と今上天皇は全く同じY染色体であることが、『ニュートン誌』染色体科学の点でも立証されている」

 神武天皇は初代天皇とされる。宮内庁は本紙取材に「日本書紀などの文献に基づき歴代天皇に数えているが、実在するか否かについては諸説ある」との見解を示した。宮内庁は「神武天皇のご遺体が発見されたということは承知していない」と述べる。

 Y染色体は父から男子に受け継がれる。しかし、神武天皇は実在も遺体も確認されておらず、「神武天皇のY染色体」をどう検査したのか不明だ。

 科学雑誌「ニュートン」を発行するニュートンプレス社は「神武天皇と今上天皇のY染色体に言及した記事はない」と否定した。

 古屋氏は真意を問う本紙の取材に回答しなかった。>(29日付沖縄タイムス)

 宮内庁は「諸説ある」と言っているようですが、「『古事記』と『日本書紀』は…律令天皇制を正当化するために創作されたもので…神武から開化までの天皇は架空の存在」(岩波『天皇・皇室辞典』)というのが定説です。この一事をもってしても、古屋氏のツイートが荒唐無稽なフェイクであることは明白です。

 その目的が、皇室の「男系男子」を強調し、「女性天皇」を阻止しようとすることにあるのも明らかです。

 問題は、古屋氏(写真左)がただの自民党議員ではなく、第2次安倍晋三内閣で国家公安委員長を務めるなど安倍氏ときわめて近く、現在は自民党総裁直属の憲法改正実現本部長として改憲の先頭に立っていることです。「日本会議議連」や「明治の日を実現するための議連」の会長を務めるなど、自民党右派の代表格でもあります。

 こうした自民党幹部が、公式ツイッターで明らかなウソを公然と振りまき、現行天皇制を維持しようとしていることは見過ごすことができません。

 さらに問題なのは、この古屋氏のフェイクは個人的な妄言ではなく、日本の法律に関係していることです。それは「国民の祝日に関する法律」(祝日法)が2月11日を「建国記念の日」とし、その趣旨を「建国をしのび、国を愛する心を養う」(第2条)としていることです。

 この日を「建国記念の日」としているのは、明治天皇制政府が1874年に2月11日を「紀元節」として祝い始めたことに起源があります。それは、紀元前660年のこの日、神武天皇が即位したという『日本書紀』の神話に基づくものです。

 天皇制政府はこの紀元前660年からの始まりを「皇紀」とし、1940年を「皇紀2600年」と称して各種の行事を行いました。それは皇国史観を煽り、侵略戦争推進・植民地支配強化のテコとなりました。

 古屋氏の「神武天皇」を使ったフェイクは、天皇制政府の「紀元節」「皇紀2600年」と同根です。そしてそれは、「祝日法」という法律によって現在に引き継がれ、「建国をしのび、国を愛する心を養う」日として天皇制ナショナリズム強化の手段となっているのです。

 国家権力はウソ・フェイクを駆使して国家主義を煽り、支配強化を図ります。それは侵略を正当化し、「国民」を戦争に駆り立てる戦争国家化と表裏一体です。
 「ウクライナ戦争」のさなかに憲法改悪の先頭に立つ自民党幹部が天皇制フェイクを撒き散らしたことは、決して偶然とは思えません。

 

 


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「黒人の命軽視」駐日大使・大統領に「人道」語る資格あるか

2022年03月29日 | 差別・人権

    
 岸田首相とラーム・エマニュエル駐日米大使は26日、広島市の平和公園を訪れ、「核戦力をちらつかせるプーチン大統領をけん制」(27日付共同配信記事)しました。

 エマニュエル氏は、「大使として広島に来ることが大事だった」と述べるとともに、ウクライナ情勢について、「第2次世界大戦以降、最悪の人道危機」と表現し、日本にも避難民受け入れ態勢が必要だと述べました(26日朝日新聞デジタル)。

 いかにも“平和の大使”という図ですが、果たしてエマニュエル氏に「人道」「平和」を語る資格があるでしょうか。なぜなら、彼はシカゴ市長時代、警察官による黒人射殺の事実を否定・隠ぺいし、遺族らから「黒人の命を致命的に軽視するシンボル」だと呼ばれ、駐日大使就任に反対する「声明」まで出されていた人物だからです。

 駐日大使への起用が内定した昨年6月の報道を引用します。

< ラーム・エマニュエル氏の駐日大使起用をめぐり、同氏が市長時代に警察官に射殺された被害者の黒人らの遺族ら28人が(2021年6月)10日、エマニュエル氏の駐日大使起用に反対する声明を発表した。

 声明を出したのは、2016年にシカゴ市警の警察官に射殺された16歳の黒人少年のおばや、14年に同じく警察官に射殺された25歳の黒人男性の母親ら。声明では、「エマニュエル氏はシカゴ市での警察官による無分別な殺害という事実の否定と隠ぺいに手を貸した」と非難。さらに同氏を「黒人の命を致命的に軽視するシンボルだ」とし、バイデン氏(大統領)に対してエマニュエル氏を駐日大使に指名しないように求めた。

 もともとエマニュエル氏の人事には民主党左派から強い反対論が出ている。14年に起きた17歳の黒人少年が警察官に射殺された事件をめぐり、警察当局は1年間にわたって事件状況を映したパトカーのビデオ映像を公開しなかったが、その「情報隠し」に関与したと批判されたのがエマニュエル氏だった。>(2021年6月10日の朝日新聞デジタル)

 遺族の痛切な訴えや民主党内の反対を無視して、バイデン氏はエマニュエル氏の駐日大使起用を強行しました。それは両氏が個人的にきわめて親しい関係だからです(写真右)。エマニュエル氏は26日の広島訪問の際にも、自らを「大統領の友人」(28日付ハンギョレ新聞)と誇示しました。

 このような人物が、何事もなかったような顔で駐日大使に就任し、平和公園で献花する姿は醜悪極まりないと言わざるをえません。

 日本のメディアは当然、射殺された黒人遺族の「声明」や民主党内外の反対は知っています。知っていながら、エマニュエル氏の駐日大使就任にあたってその事実・経過を報じ、大使としての資格を問い、バイデン氏の任命責任を追及したメディアはありませんでした。
 日本メディアの差別・人権感覚の乏しさ、アメリカ追随姿勢があらためて問われます。

 バイデン氏はウクライナ戦争でさかんに「人道」「民主主義」を口にし、その擁護者であるかのように振る舞っていますが、氏の実像はおよそ「人道・民主主義」とは無縁であることが、エマニュエル駐日大使問題にもはっきり表れています。


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ウクライナ戦争の誘因「マイダン・クーデター」仕掛けた米国

2022年03月28日 | 国家と戦争

    

 何故ロシアはウクライナに侵攻したのか。その背景にはアメリカを盟主とする軍事同盟NATO(北大西洋条約機構)の「東方拡大」がありますが、もう1つ見過ごせないいのは、2014年の「マイダン・クーデター(革命)」です(写真中・右。マイダンとはウクライナ語で「広場」)。

 「マイダン・クーデター」は、2014年2月、当時の親ロ政権・ヤヌコーヴィチ政権がクーデターで倒され、親米政権がつくられたものです。重要なのは、このクーデターはアメリカが仕掛けたもので、その中心にバイデン現大統領(当時副大統領)がいたことです。

 ハンギョレ新聞(3月21日日本語デジタル版)に掲載されたソ・ジェジョン国際基督教大教授の論稿から抜粋します。

< 2014年2月のことだった。当時のウクライナ情勢は爆発的だった。2013年末に始まったユーロマイダンのデモが花火のように広がっていた。

 火種はEUとの関係だった。ヤヌコーヴィチ政権が、ウクライナ・EU委員会条約とウクライナ・EU自由貿易協定の署名を無期限に延長したことが、火種を地上に引きだした。長い歴史を持つウクライナ西部の親西側勢力の反対デモに火がついた。警察の暴力的な鎮圧が火を大きくして、政府の暴力に怒った市民が四方で立ち上がり、次第に暴力的な様相を帯び始めた。2014年初めにはデモが反政府の性格を帯び、政府庁舎と議会の占領運動に飛び火した。

 まさにその時だった。親ロシア派のヤヌコーヴィチ政権の失脚が可視化され、野党の動きが活発になったまさにその時、ヌーランド(米国務省)次官補とピオット(駐ウクライナ米国)大使が電話で会話した。「そのシナリオ」に言及し、「デモ後」を企てた。反対派のリーダーと連絡を取っていることを打ち明けた。誰が政権に入ってはならず、誰が「そのシナリオ」にふさわしいのかについて論議した。

 その構想を推進するにはEUはあまり役に立たないとみて除けておいた。国連の協力は確保した。同時に、自分たちより「国際的地位」が高い人物の介入が必要だと共感した。その人物とはジョー・バイデン副大統領(当時)だった。彼は介入する意志もあった。

 この電話での会話以降、米国政府がどう動いたのかについては、まだ公開されていない。ただし、ウクライナで何が行われたのかについては、誰もが知っている。2014年2月18日、デモが全国的な蜂起に爆発した。翌日、政府と野党勢力、デモ隊が休戦に合意したが、極右民族主義派の右翼セクターや全ウクライナ連合「自由」(スヴォボーダ)系列などのデモ隊は、合意案を拒否した。彼らは銃器を振り回し、武力でキエフ市内と議会を掌握した。生命に危険を感じたヤヌコーヴィチ大統領は身を隠し、与党は議会から身を避けた。野党が掌握した最高議会は、ヤヌコーヴィチ大統領を弾劾し、5月の早期大統領選挙を決定した。

 まさにクーデターと言うに値する急激な政権交替が行われた。親ロシア派政権は追い出され、親西側政権になった。しかし、すぐに親ロシア派勢力が反発し始めた。クリミア自治共和国が独立を宣言し、ドネツクとルガンスクがその後を追った。ウクライナ政府は防衛軍を新たに構成し、これらを攻撃した。ウクライナ内戦が本格化した。

 米国政府の立場は確実で堅固だった。2014年以降、ウクライナ政府に20億ドル(約2400億円)相当の軍事支援を提供した。ネオナチのアゾフ大隊が防衛軍に加担しても意に介さず、議会が彼らに対する支援を禁止しても、軍事援助は打ち切られなかった。ピオット大使は、マイダン運動を「民主化運動」、これに反対する勢力を「テロリスト」と指し示すことをはばからなかった。そもそも、交渉を通じた平和的解決には関心がなかった。

 2014年のウクライナの「クーデター」は、ロシアを窮地に追い込んだ。何らかの措置を講じなければ、ウクライナは親西側政権が掌握し、西側の影響力がロシアの目前にまで拡張されるはずだ。しかし、軍事的に介入するには、巨額の費用を支払わなければならないだろう。プーチン大統領は妙案を思いついた。クリミア半島だけを占領し、それ以上は戦争の拡大を避けた。

 しかし、バイデン政権は発足直後、ウクライナ政府に6億5000万ドル(約770億円)を支援することにした。ウクライナのクーデターを画策したヌーランド次官補は、バイデン政権で国務副長官に栄転した。彼女と協力していたサリバン副大統領補佐官は、バイデン大統領の大統領補佐官(国家安全保障問題担当)になった

 ウクライナ政府の親ロシア派勢力への攻撃も激化し、親西側への歩みも速まった。ロシアのプーチン大統領が解決案を出したが、まともな交渉は一度もなされなかった。再び窮地に追い込まれたプーチン大統領は、今回は戦争を選択した。>

 上記の中で「野党が掌握した最高議会は、ヤヌコーヴィチ大統領を弾劾」とありますが、オリバー・ストーン監督のドキュメンタリ―「ウクライナ・オン・ファイア」によれば、「弾劾」したとされる2014年2月20日の最高議会は、弾劾に必要な4分の3の賛成に達していなかったといいます。にもかかわらずアメリカは、クーデター政権を直ちに「合法政権」と認定しました。

 今回のウクライナ戦争が「マイダン・クーデター」から一連のものであることは衆目の一致するところです。その「マイダン・クーデター」はアメリカが仕掛けたものであり、その中心にバイデン氏がいたことはきわめて重大です。

 バイデン氏は、「マイダン・クーデター」を画策したヌーランド次官補やサリバン副大統領補佐官をバイデン政権で栄転させるとともに、政権発足直後からウクライナの親米政権に巨額の援助を行ってきました。

 そして今回の「戦争」で、プーチン大統領を「虐殺者」と言い放ち、ウクライナへの膨大な軍事支援で戦争を泥沼化し、この機にNATOや日米軍事同盟のいっそうの強化を図ろうとしているのがバイデン大統領であることを銘記する必要があります。


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日曜日記190・「当事者になる」こと「なかったことにしない」こと

2022年03月27日 | 日記・エッセイ・コラム

 国際女性デーの3月6日、琉球新報の「論壇」に、「沖縄の性差別問題 「女たちの自由」発信を」と題した論稿が掲載された。投稿者はうるま市在住の玉城愛さん(27)。冒頭、玉城さんはこう書いている。

「「AV女優に似ている」と沖縄の政治家から言われたことがある。その衝撃は、瞬時に怒りへと変わった。同時に、見えない力に沈黙も強いられ、無力感に襲われる。隣の男性は、政治家の言葉を容認した。私はその行為を、私に対するセカンドレイプだと呼びたい

 自分が「隣の男性」だったら、どうしただろう。

 瞬時に「政治家」をたしなめただろうか。もし、私が記者で、取材のために「政治家」の隣にいたのだとしたら、果たしてこの場面で声を発することができただろうか。

 玉城愛さんはこうも書いている。

「性差別は家庭や学校、職場、組合、社会運動、地域などあらゆるコミュニティーの内部に今日も潜んでいる。例えば…沖縄の基地撤去の平和運動で正義を振りかざす組合青年部の男性らが、コザの街で買春行為に走るというような…」

 「組合青年部の男性ら」に、「平和運動」と「買春行為」は根源的に両立しえないという認識はあるだろうか。
 逆に彼らにあるのは、「組合」という組織の関係性の中で、「みんなで渡れば怖くない」という「仲間意識」ではないだろうか。

 「日曜日記185」(2月20日)で書いた佐藤雪絵さん(早稲田大学大学院)の言葉が想起される。

この社会に、性差別の当事者でない人はいない。差別する者、差別される者、傍観する者、抗議する者―あらゆる人が当事者である。しかし、すべての人が当事者になっているわけではない。…当事者になることは、勇気のいることである」(在日総合誌「抗路」第9号)

 「当事者になること」とおそらく正反対の態度が、「見て見ぬふりをする」ことだろう。先の「政治家」の横にいた男のように。

 人類学者の磯野真穂さんは、それを「なかったことにする」ことだとしてこう述べている(カッコは私)。

「相互行為(人間関係)の背景に見え隠れするのは、相手とより良い関係を築きたいといった高尚な意志ではなく、むしろこれまでやってきたことを変えてしまうことへのささやかな、時に巨大な恐怖と言えるだろう。…私たちは、変化を加えたほうがいいような場面であっても「なかったことにする」選択をし、新しい投射(働きかけ)によって自分と相手を生成し、そのありようを発見する可能性を棄却する。
 「なかったことにしない」とは、置かれた状況と自ら関わり、その関係性の内部で動き、それによって引き起こされる変化の中で生き直すことを許容することである」(『他者と生きる―リスク・病い・死をめぐる人類学』集英社新書2022年)

 「なかったことにしない」。それが「当事者になる」ことだろう。
 「なかったことにしない」生き方を、身近な「関係性」から心掛けよう、訓練しよう。

 それがきっと、世界の各地で起こっている悲惨な出来事と自分の「関係性」を凝視し、「変化」を恐れず、何らかの「動き」をし、その「変化の中で生き直す」ことにつながるはずだ。


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ウクライナの情報戦略と偽画像

2022年03月26日 | 国家と戦争

     

「ウクライナはネット上の情報戦に勝利しました。「勝っている」のではなく、勝利したのです」。SNSに詳しい戦略家といわれるP・W・シンガー氏はこう断言します(12日朝日新聞デジタル)。

ウクライナのシナリオは、自身を「被害者であり、同時に英雄である」として描き、「あなたたちは助けるべきだ」という状況になることです。日本政府は数年前なら考えられないような援助を約束しました。スイスとスウェーデンがウクライナへの支援に加わっています。ヒトラーの対する制裁措置さえ実施しなかった国です」(シンガー氏、同)

 ウクライナの情報戦の先頭に立っているのがゼレンスキー大統領です。SNSでの発信やオンライン演説を繰り返すゼレンスキー氏の手法・狙いについて、ウクライナ研究が専門の藤森新吉氏(北海道大)はこう指摘します。

「ゼレンスキー氏はテレビタレント出身で政治経験が乏しく、双方向の政策討論は得意ではありません。オンライン演説ならば、議論を求められたりする場面は減るでしょう。ゼレンスキー氏は聴衆の心の琴線に触れる表現にたけています。…今のウクライナ大統領府には、ゼレンスキー氏と関係の深いテレビプロダクションのスタッフも入っています。彼らが発信のあり方について、何らかのアドバイスをしている可能性はあるかもしれません」

戦争の構図は「国際社会または民主主義諸国」VS.「野蛮なロシア」という構図になりつつあります。ウクライナ政府はこの構図を強調し、民主主義諸国の最前線で自分たちが犠牲になっているとして、世界中から支援を得たいと考えています」(19日朝日新聞デジタル)

 そうしたウクライナの情報戦には、偽情報(画像)も含まれています。

 22日放送のNHK「国際報道2022」は、「ウクライナ国防省の投稿とみられる映像」(写真中)が、「ウクライナ軍兵士がロシア軍に屈せず死ぬまで戦った」とする情報とともに拡散されたが、「実際は全員生存」しており、「勇敢に戦っているイメージを作り上げた」と報じました。

 情報リテラシーに詳しい坂本旬法政大教授は、「戦争になると、情報戦になります。日本にいても知らず知らずのうちに各国のプロパガンダに加担してしまうことが大いにありえるのです」と警鐘を鳴らします(10日の朝日新聞デジタル)

「日本には欧米メディアの情報ばかりが入って来ます。それも危険なことではありませんか?」という記者の質問に、坂本氏はこう答えています。

物の見方が偏る可能性は大きいです。…例えば、ロシア軍が街に入ってくることを阻止するためにあるウクライナ兵が自爆して橋を壊した、というニュースが日本語でも流れました。でも情報の出どころはウクライナ軍。軍隊が自らを美化するような情報を出したら「これは危ないかも」と思わなければいけません」(同)

 19日付沖縄タイムス(共同配信)は、<「爆撃映像」実は落雷>の見出しで、「ロシアの侵攻による爆撃」と思われたSNSの動画が実際は「過去の落雷」だったことが判明したと報じています。この偽動画は再生回数約600万回におよび世界中に広がりました。重大なのは、「大手メディアも(この)動画を基にニュースを配信した」ことです。

 三木義一元青山学院大学長(法学者)は、ウクライナの事態に関し、「現在おきているのは、国家間の戦争だ。双方とも情報操作に必死になっているはずだ。だから、本当のことは専門家でもよくわからない」「現代の戦争報道の多くは広告代理店が仕掛けている。だからより慎重にならねば」と警鐘を鳴らしています(24日付東京新聞)

 SNSが大きな役割を果たしている国家の情報戦。その中でどうすればより正確な情報が得られるのか。きわめて難しい問題です。

 ただ、少なくとも言えるのは、いま日本に流布しているメディア情報はウクライナとアメリカを先頭とする「西側」情報に偏っており、それを鵜呑みにすることはきわめて危険だということです。


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沖縄戦の悪夢・ゼレンスキー大統領はなぜ「徹底抗戦」するのか

2022年03月24日 | 国家と戦争

    
「国家間の直接的な地上戦によって4人に1人の県民が犠牲になった。米軍が撮影した77年前の戦闘記録とウクライナからの映像が重なって見える県民も多いのではないか。戦禍に巻き込まれる市民をこれ以上増やしてはならない」(22日付琉球新報社説)

 確かに、ウクライナの惨状は沖縄戦の悲劇をほうふつとさせます。ウクライナは地続きですが、孤島の沖縄県民は逃げる所さえありませんでした。

 米軍司令官のバックナーは帝国陸軍沖縄第32軍の牛島満司令官に二度(1945年6月10日、14日)にわたって「降伏勧告」しました。しかし牛島はこれに応えず、6月19日、「最後迄敢闘シ悠久ノ大義ニ生クベシ」、すなわち絶対降伏してはならないと各部隊に命じ、自らは無責任にも長勇参謀長とともに同23日(22日説も)自決しました。「降伏」は大本営の「戦陣訓」も禁じていました。

 こうした日本軍の降伏拒否=徹底抗戦が、兵士だけでなく沖縄県民の膨大な犠牲につながったのです。

 翻ってウクライナ。ゼレンスキー大統領はロシアの侵攻直後から、「絶対に降伏しない」と「徹底抗戦」を主張し今に至っています。それを「祖国」を守る「勇敢な態度」(細田博之衆院議長、23日)と賛美する論調があふれています。果たしてそうでしょうか。

 圧倒的な戦力差による戦争で「徹底抗戦」すれば、壊滅的被害を受けるのは必至です。それは同時に、交渉による停戦を遅らせ、兵士・市民の犠牲はさらに拡大します。それがまさに今のウクライナの状況ではないでしょうか。

 ゼレンスキー氏が一貫して「降伏拒否、徹底抗戦」を主張しているのはなぜでしょうか。

 ロシアは侵攻当初、ゼレンスキー政権の退陣を「停戦条件」の1つにしていました。しかし、何回かの「停戦協議」を経るうちに、「政権退陣」は「条件」から外れたと報じられています。ゼレンスキー氏はプーチン氏との直接交渉に強い意欲を示しています。

 ゼレンスキー氏はプーチン氏が会談に応じなければ「第3次世界大戦」になると述べています(20日の米CNNテレビ)。アメリカはじめ「西側」諸国は、ウクライナに大量の兵器を供与し、戦闘を長引かせています。

 戦争を終わらせるために武器を置くことは、けっして「敗北・屈服」ではありません。武力行使を直ちにやめることこそ停戦を早める道です。なによりも重要なのはこれ以上犠牲者を出さないことです。

 沖縄戦は、天皇制国家が「国体(天皇制)護持」を降伏の条件とするために、沖縄県民を犠牲にする「徹底抗戦」で時間稼ぎを図ったものです。ゼレンスキー氏の「徹底抗戦」が政権維持の条件づくりだとすれば、それは沖縄戦の悪夢の再現に他なりません。


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「NATOは違法な組織」国際民主法律家協会が「声明」

2022年03月22日 | 日米安保・軍事同盟と政治・社会

     
 ジャーナリストの乗松聡子氏は「ロシア「悪魔視」に疑問」と題した琉球新報掲載の論稿(17日付「乗松聡子の眼」)で、「この戦争を止めるためにも、西側だけに偏らない情報収集・発信をすべき」と述べています。きわめて重要な指摘です。

 この中で乗松さんは、「50カ国以上の法律家が参加する「国際民主法律家協会(IADL)」の声明では、ロシア軍の行動を「違法な侵略である」と非難すると同時に、NATOを「国連憲章に違反する違法な組織」とし、この侵攻を招いた西側軍事同盟の責任を厳しく問うている」と紹介しています。

 IADLは2月26日に「すべての当事者に軍事行動を直ちに停止するよう要求する」とする「声明」を出しました。そして3月8日、それに続く第2弾の「声明」を発表しました。その「声明」全文から、特に注目される記述を抜粋します(太字も原文)。

< 軍事活動の停止につながる即時停戦

 ロシアは、即時かつ永続的な停戦に同意し、ウクライナからの軍の撤退を開始し、その間に逃亡者のための人道的回廊を作り、人道支援を提供すべきである。 IADLは、ウクライナから逃れてきたアフリカや南アジア出身の人たちに対する人種差別に反対する。

 同時に、NATOは、NATOの直接介入につながりかねない行動を含め、その挑発を直ちに中止しなければならない。ロシアとの国境にあるNATO諸国でのさらなる軍事力増強は挑発的である。この増強には、ポーランドに建設中の新しい米軍基地が含まれ、ロシア国境からわずか100マイルのところに米国の核武装ミサイルを配備する可能性がある。 この基地は開設されるべきではない。

 西側による挑発の停止

 米国とNATOは、10年以上にわたってロシア連邦に対して極めて挑発的な振る舞いを行ってきた。 2014年、米国政府は、著しい超国家主義者やネオナチ勢力を含むマイダン運動を支援し、ウクライナの内政に大きく関与した。

 ソ連と東欧の社会主義諸国が崩壊したとき、米国とNATOは、旧ソ連とワルシャワ条約機構諸国をNATOに統合せず、非同盟・中立の地位に置くことを明確に約束した。 その公約の拘束力を否定しようとする無責任な声がある。しかし、国際法、特に国連憲章は、当時約束されたことを正確に要求しているのである。

 NATOは、国連憲章に違反する違法な組織である。国連憲章は、紛争の平和的解決において国連を支援することができる地域連合を認めているにすぎない。NATOはそのような組織ではない。 NATOは軍事同盟であり、その軍隊はセルビア、イラク、アフガニスタン、リビア、シリアなど多くの事例で攻撃的な目的のために使用されてきた。他国に対する武力行使は、武力攻撃に対する自衛の場合、または安全保障理事会の承認がある場合を除き、禁止されている。

 IADLがNATO軍事同盟を国連憲章の下で違法な編成と見なしているように、IADLは、米国やその他の外国の軍事基地が世界中に拡大することを、憲章の国際紛争における武力行使や武力行使の脅威の禁止に違反する挑発的脅威として一貫して反対してきた。

 世界的な平和交渉では、紛争の根本原因に対処し、中央ヨーロッパに平和地帯を作る必要がある

 この紛争の根本原因に対処し、NATOによるすべての挑発的な行動を阻止するだけでなく、逆転させない限り、中欧に永続的な平和はありえない。国連憲章の文言と精神は、ソ連とヨーロッパの旧社会主義諸国が崩壊した後、この地域全体を非同盟・中立・非武装の平和地帯にすることを求めている。

 一方的な強制措置(制裁)を課すことは、外交ではない

 国連憲章は、加盟国が憲章を遵守し、攻撃的な行動をやめるよう圧力をかける方法として、安全保障理事会に加盟国に対する経済的強制措置を課す権限を与えている。これらの措置は、安全保障理事会だけが合法的に課すことができる。憲章は、加盟国がこのような強制的な措置を一方的に課すことを認めていない。>

 日本はアメリカをはじめとする「西側」が発する情報・論評で溢れています。そんな中、IADLの「声明」が、「NATOは直ちに挑発を中止しなければならない」「NATOは国連憲章に違反する違法な組織」「一方的な経済制裁は外交ではない」と断じたことはたいへん注目されます(写真中はNATO軍の軍事訓練、右はロシアを非難するストルデンベルクNATO事務総長)。

 一言付け加えます。

 NATOが「国連憲章に違反する違法な組織である」と同様に、日米安保条約による日米軍事同盟も国連憲章違反です。日米安保=軍事同盟はさらに日本国憲法にも違反しています。二重に違法です。日米軍事同盟をはじめすべての軍事同盟を廃止することが、かつてなく重要になっています。

 国際民主法律家協会(IADL) 1946年に設立された非政府組織。国際連合経済社会理事会(エコソック)と国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)での協議資格を有している。日本からは日本国際法律家協会が加入している。刑事法学者・新倉修が役員を務める。(ウィキペディアより)

 日本国際法律家協会 1955年にインド・カルカッタで開催されたアジア法律家会議、1956年にベルギー・ブリュッセルで開催されたIADL第6回大会に参加した日本代表による活動を母体に、1957年4月に設立。学者・弁護士はじめ、国際法、国際問題に関心を持つ人やNGO、NPOの活動を通じて人権問題に取り組んでいる人などが集い、活動している(同協会HPより)

 IADLの「声明」は日本国際法律家協会のHPに掲載されています。また、乗松氏が主宰する「ピース・フィロソフィー・センター」のサイトにも転載されています。http://peacephilosophy.blogspot.com/2022/03/statements-by-iadl-international.html


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ゼレンスキー大統領の「国会演説」は賛成できない

2022年03月21日 | 日米安保・軍事同盟と政治・社会

    

 ウクライナのゼレンスキー大統領が打診していた日本の国会でのリモート演説について、自民党と立憲民主党の国会対策委員長が協議した結果(2党だけの密室協議は問題)、23日に国会内の会議室で行われることになったと報じられています(18日の朝日新聞デジタル)。22日の議院運営委員会理事会で正式に決定する見通しです。

 ゼレンスキー氏の国会演説は、イギリス(8日)、カナダ(15日)、アメリカ(16日)に続くものです。

 議運委理事会では与野党すべての賛成で決定するとみられます(れいわ新選組は理事会メンバーではない)。しかし、ゼレンスキー氏の国会演説には大きな問題があり、到底賛成するわけにはいきません。

 第1に、ウクライナは戦争当事国であり、その大統領の演説が国権の最高機関である国会で行われることは、日本が戦争当事国の一方の側に立つことを意味します。

 「ウクライナ戦争」の実態(真相)、背景、評価は今後明らかにされる必要がありますが、ロシアだけに責任があるものでないことは明らかです。

 たとえば英ガーディアン紙(2月28日付)は、「多くがNATO拡大は戦争になると警告した。それが無視された。我々は今米国の傲慢さの対価を払っている」とのタイトルで、「ロシアのウクライナ攻撃は侵略行為」だと断じる一方、「NATOの傲慢な聞く耳持たぬとの対ロシア政策が同等の責任を負う」とアメリカ・NATO(北大西洋条約機構)の責任を指摘しています(外交評論家・孫崎亨氏の3月14日農業協同新聞掲載論稿より)。

 そのアメリカ・NATO側のウクライナ大統領だけが国会で演説することは、明らかな戦争加担です。

 第2に、ゼレンスキー氏が「西側」諸国の議会で演説する目的です。

「ゼレンスキー氏が各国議会に向けた演説に力を入れる背景には、欧米から一層強力な軍事支援を引き出したい狙いがある」(17日の朝日新聞デジタル)のです。

 イギリス議会での演説(写真中)後、ジョンソン首相は「英国と同盟国は、ウクライナが必要な武器の供与を推進する」と表明しました。カナダでの演説(写真右)後には、最大野党・保守党の代表が「同盟国と一緒にウクライナの領空の安全確保に向けてさらに努力」すると述べました。そして米議会での演説(写真左)後には、バイデン大統領が約10億㌦(1180億円)の新たな軍事支援を表明しました。ゼレンスキー氏の思惑通りです。

 ゼレンスキー氏が日本の国会でも兵器提供を含むさらなる支援を求めるのは確実です。岸田政権はすでに2度にわたりウクライナへ兵器(防弾チョッキ)などを提供していますが、ゼレンスキー氏の演説が行われれば、それに呼応する形で、イギリス、カナダ、アメリカとともに、一層軍事支援を強化することは目に見えています。

 「ウクライナ戦争」を一刻も早く終結させることができるのは平和的外交だけです。憲法9条を持つ日本は非戦の立場から平和外交に力を尽くす必要があります。ゼレンスキー氏の国会演説を認めることがそれに逆行することは明らかです。


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日曜日記189・在日ロシア人への攻撃はなぜ起こるのか

2022年03月20日 | 日記・エッセイ・コラム

 「ウクライナ戦争」勃発後、在日ロシア人への理不尽な中傷・攻撃が続いているという。ネットでは、「戦争をする犯罪民族は日本へ来るな」などの書き込みがあり、ロシア料理店への営業妨害もある(19日付琉球新報)。

 国家の行為をめぐる報道で、その国を祖国とする在日外国人が攻撃を受ける。もちろん今回の在日ロシア人が初めてではない。悪しき典型は、在日朝鮮人に対するそれだ。朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)に関する報道で在日朝鮮人が差別され攻撃される。とりわけ朝鮮学校の子どもたちへの差別、物理的(暴力的)・精神的攻撃は卑劣極まりない。

 なぜこうしたことが起こるのか。

 ネットなどでヘイトスピーチを行う個人の責任はもちろん不問にできない。匿名性が悪用されるネット・SNSの問題も見過ごせない。
 しかし、この根底には個人の責任ではすまされない構造的問題がある。

 第1に、日本のメディアの一方的な偏向した報道がヘイトを生み、助長していることだ。

 朝鮮が飛行体の発射実験を行うと、メディアはそろって「ミサイルと思われる」ものを発射して「北朝鮮が挑発」したという決まり文句で朝鮮敵視を煽る。アメリカの挑発(軍事演習など)は不問にして。今回の「ウクライナ戦争」でも、日本のメディアは自らは現場取材もせず、何ものかの画像を使って、「ロシアの蛮行」と決めつけている。
 こうした偏向報道が、民族・人種差別を助長していることは明らかだ。

 第2に、国家権力が意図的に「国家」と「市民」を混同していることだ。

 朝鮮や中国、ロシアの行為に対する評価は人それぞれで、批判的見解を持つ人もいるだろう。しかし、それはあくまでも朝鮮、中国、ロシアの国家(為政者)の行為であり、その国の(在日を含め)市民に責任があるものでないことは言うまでもない。在日外国人に対するヘイトは「国家」と「市民」を完全に混同している。

 問題は、その混同が権力によって意図的に行われていることだ。

 安倍晋三をはじめ歴代自民党政権や民主党政権(当時)が、朝鮮の行為を「理由」に高校無償化制度から朝鮮学校を排除し、現在に至っていることはその典型だ。

 今回のウクライナの事態について、衆参本会議は「ロシアによるウクライナ侵略を非難する決議」をあげた。この中で、「本院は、改めてウクライナ及びウクライナ国民と共にあることを表明する」と述べている。これは明らかにウクライナ国家とウクライナ国民を意図的に混同するものだ。

 戦禍に苦しむウクライナ市民を支援したいというのは人間として自然な感情だ。しかし、それは国家戦略にもとづいて行動しているウクライナ国家と「共にある」ことと同義ではない。
 日本政府はそれを意図的にすりかえ、ウクライナ市民への支援感情に乗じてウクライナ国家へ武器(防弾チョッキ)を供与する軍事支援を行っている。

 衆参本会議の決議は、政府のこの混同・すり替えに同調したものだ。

 第3に、日本政府による朝鮮、中国、ロシアに対する憎悪の醸成は、日本のさらなる軍拡と日米軍事同盟(安保条約体制)の強化によって日本を文字通り「戦争をする国」にする国家戦略と表裏一体だということだ。

 市民が冷静な精神状態・思考力を保っているうちは、国家は軍拡・戦争をやりにくい。そのため相手国を悪魔に仕立て、憎悪を掻き立てることで「国民」をマインドコントロールし、戦争に引き込む。

 それは国家権力の常套手段だ。戦時中の「鬼畜米英」のスローガンはまさにそれであり、アメリカ政府による「悪の枢軸」規定も同じ。今回、バイデンがプーチンを「戦争犯罪人」と断定して悪魔化しているのも同じ手法だ。

 在日朝鮮人、中国人、ロシア人に対する差別・ヘイトの根底にあるこうした国家戦略を、冷静な思考で打ち破っていかねばならない。

 


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「非武装中立」こそ憲法9条の道

2022年03月19日 | 日米安保・軍事同盟と政治・社会

 「中立化」と日本は無縁だと思う人が少なくないかもしれませんが、実はそうではありませんでした。以下、礒村英司著『戦争する国にしないための中立国入門』(平凡社新書2016年)を参考に振り返ってみます。

 敗戦直後、外務省に「平和条約問題研究幹事会」が設置され、1946年に第1次研究報告が提出されました。その中で、「永世中立を希望すること、極東委員会構成国(11カ国)による集団的安全保障機構を設置すること」が提案されました。

 一方、連合軍最高司令官・ダグラス・マッカーサーは1949年、英紙デイリー・メールの会見で、戦争が起こった場合にアメリカが日本に望むことは、中立を維持することであるとして、こう述べました。
日本は太平洋のスイスとなるべきである

 これが朝日新聞で報道されると、永世中立国として長年にわたり戦争を回避してきたスイスのイメージが、敗戦直後の国民の反戦感情や九条の戦争放棄条項と重なりあい、中立化は広く支持されるようになりました。

 「日本の安全保障の方式」を問う新聞の世論調査では、「永世中立」を支持する人が、朝日新聞調査(1949・12・15)39%、毎日新聞(1949・11・21)48%、読売新聞(1949・8・18)73%でいずれもトップでした。

 当時、講和条約のあり方について、日本が交戦状態にあった55カ国との全面講和か、アメリカ中心の「西側」44カ国との片面(単独)講和かで国論が二分されました。そんな中で学者・研究者から永世中立論がさかんに発表されました。

 たとえば、法哲学者・恒藤恭、政治学者・丸山真男らの「平和問題談話会」は1950年、「講和問題は全面講和以外にない」とし、「講和後は中立不可侵とあわせて国連加盟を希望する」「いかなる国に対しても軍事基地を与えることは絶対に反対する」という方針を示しました。

 しかし、サンフランシスコ講和条約(1951年9月8日調印)は片面講和となり、同時に日米安保条約(軍事同盟)が締結され、「中立化」論は急速に衰えていきました。

 それでも「永世中立論」が消えたわけではありません。中でも注目されるのは、憲法学者・田畑忍(同志社大名誉教授)の主張です。田畑忍(1902~94)は、末川博、羽仁説子らと憲法会議を結成、土井たか子(元衆院議長)の師だったことでも知られています。礒村氏の前掲書の記述から引用します。

「憲法学者として1950年代から本格的に日本の永世中立論を主張しはじめた田畑忍は、1981年、『非戦・永久中立論』を著し、非戦力・非戦の中立国を提唱した。
 田畑によれば、永久で絶対の戦争放棄のなかには、当然に永世中立の理念が入っていなければならず、したがって、政府や国会は憲法九条にしたがって永世中立を宣言し、各国に承認を求めなければならない。憲法九条を厳守する限り、九条はそれだけで日本の大きな自衛力となるのであり、危険な戦争的自衛権を放棄して、武力・戦力・戦争によらない安全な平和的自衛権を確立するための条件として、永世中立を宣言し、非戦力・非戦の中立国となる必要性を説く。
 田畑の永世中立論の特徴は、非武装永世中立が憲法九条の要請であると指摘した点にある」

「ウクライナ戦争」に便乗して政府・自民党が、軍備拡張、日米軍事同盟強化、非核三原則骨抜き、憲法改悪を強行しようとしている今こそ、田畑忍のこの理論・主張が顧みられ、真剣に検討される必要があるのではないでしょうか。


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