ウクライナ戦争を1日も早く終結させるためには、ウクライナ軍・政府が「降伏」して、停戦協定を結ぶ以外にありません。
そう言うと、「ロシアの無法を許すことになる」「国際秩序が保てない」などの批判の声が出ますが、はたしてそうでしょうか。世界的な反戦知識人として知られる米マサチューセッツ工科大のノーム・チョムスキー名誉教授(94=写真左)も、「醜悪」だが「ウクライナがロシアに譲歩すべきだ」と主張しています。
チョムスキー氏の意見を報じたのは19日付のハンギョレ新聞(日本語電子版)。記事の要点を抜粋します(写真左も同紙から)。
< チョムスキー教授は13日、米国の急進的政治メディア「カレント・アフェアーズ」のネイサン・ロビンソン編集長との対談で、「ウクライナについては二つの選択肢がある」とし、一つ目は「交渉による解決」で、二つ目は現在のように「最後まで戦うこと」だと述べた。
チョムスキー教授は「私たちはゼレンスキー(大統領)に戦闘機や高性能兵器を提供できるが、プーチンはウクライナに対する攻撃を急激に強め、高性能兵器の供給網を攻撃しうる。そして、すべてを完全に破壊する核戦争に陥る可能性がある」と述べた。核兵器を保有するロシアが、実際にそれをウクライナを対象に使うこともありうると警告したのだ。
チョムスキー教授は、そのような側面から最近、「プーチンによりいっそうの圧力をかけ、ウクライナへの支援を強化しなければならない」と主張したヒラリー・クリントン元米国務長官らを批判した。
チョムスキー教授は、もう一つの選択肢である「交渉を通じた解決」について、「私たちは、唯一の代案である外交的解決という現実を直視する」とし、「プーチンと少数の側近に退路を開くものであり、醜悪なものだ」と述べた。
チョムスキー教授は具体的に、妥協案の「基本的な枠組みは、ウクライナの中立化、おそらく、ウクライナの連邦の構造のなかで、ドンバス地域に高度の自治権を付与するものかもしれない」とし、「好むと好まざるとにかかわらず、クリミア半島は交渉対象ではないということを認めなければならない」と述べた。
親ロシア派分離主義勢力が掌握するウクライナ東部のドンバス地域を、ウクライナは独立地域と認めなければならず、2014年にロシアが強制合併したクリミア半島についても、ロシアの支配力を認める必要があると助言した。
チョムスキー教授は「あなたはこの案を好まないかもしれないが、明日ハリケーンが来るのに『ハリケーンは好きではなく』『ハリケーンを認めることはできない』などと言うばかりではそれを防ぐことはできず、何の効果もない」と述べた。彼は「(譲歩案がロシアの)もとに届くようなものかどうかは、試してみることでわかるにもかかわらず、私たちはそのような試みを拒否している」と述べた。>(19日付ハンギョレ新聞)
ウクライナ情勢に対する評価は千差万別でしょう。事態の真相、原因もまだ解明されていません。しかし、これ以上犠牲を出さないために1日も早く戦闘を終わらせなければならないことは、一部の好戦的権力者・為政者を除いて、ほとんどの人の一致点でしょう。
チョムスキー氏は、このまま「最後まで戦」えば「核戦争」の可能性が現実的にあるとみます。だから、「醜悪」だけれど、ウクライナ政府は「譲歩」しなければならない、それが「唯一の代案」である「交渉による解決」への道だと言います。
チョムスキー氏の意見に全面的に賛成するわけではありませんが、けっして「親ロシア派」ではない同氏の主張・提案は、停戦を願う多くの人々の共感を得るものではないでしょうか。
ウクライナ東部マリウポリのアゾフスターリ製鉄所(写真左)をめぐる情勢が重大な局面を迎えています。
ロシア国防省は17日、「このままでは全員に耐え難い運命が待ち受けている」とし、「生命は保証する」から武装解除して投降するよう要求しました。その後も何度か「期限」は延長され、20日午後8時(日本時間)が期限の最後通告とされました。
これに対しウクライナ政府・軍は、「徹底抗戦」の姿勢を崩さず、ゼレンスキー大統領はビデオ演説で欧米各国にさらなる兵器・軍事支援を要求しました。
重大なのは、同製鉄所にはウクライナ軍とともに一般市民が数百人~千人避難していることです。
同製鉄所は、「地下には溶鉱炉などをつなぐトンネルが張り巡らされ、爆撃に耐えられるように設計されている。独自の通信システムも備えた「ミニ要塞」(米専門家)」(20日沖縄タイムス=共同)となっています。
そして、「(製鉄所構内に立てこもっている)部隊はマリウポリに本拠を置く民族主義勢力「アゾフ連隊」が主力」(18日付中国新聞=共同)です。
ネオナチ集団・アゾフ大隊(写真中)は、「ミニ要塞」となっている製鉄所に立てこもり、そこに子どもを含む多数の市民を避難させ、投降を拒否し、「徹底抗戦」を続けようとしているのです。これは多くの市民をまさに“人間の盾”にするもので、絶対に許されることではありません。
ウクライナ公共放送の映像では、製鉄所に避難している女性の1人は、「ここにいる必要はない」と述べ、子どもと一緒に外に出ることを望んでいました(写真右、20日のNHKニュース)。
NHKは19日、「ウクライナの「アゾフ大隊」が動画を公開」したとして、アゾフ大隊が発信した「製鉄所内の映像」を流しました。「製鉄所内の市民」とする映像によって国際世論を味方につけ、ロシアのミサイル攻撃を止めようとする狙いです。この映像について米CNNは、「信ぴょう性の確認は十分にはできていない」(19日のNHKニュース)としています。
軍隊が市民と一緒に立てこもり、「投降」を禁じて市民を「徹底抗戦」の巻き添えにする。それはまさに、沖縄戦の戦場・壕の惨状を想起させるものです。
ロシアの軍事侵攻が許されないことは言うまでもありません。同時に、ネオナチ集団・アゾフ大隊を中心とするウクライナ軍・政府の「徹底抗戦」が戦争を長引かせ、犠牲を拡大していることを見過ごすことはできません。とりわけアゾフ大隊が市民を“盾”にしているのは言語道断です。
ロシア軍、ウクライナ軍とも武器を置き、直ちに再び停戦協議に臨むべきです。少なくとも、製鉄所内の市民は即刻外に出て、安全な場所へ避難することが許されなければなりません。
※あす(金曜)も更新します。