アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

八重山の自衛隊配備・強化に反対しない「オール沖縄」とは?

2015年11月28日 | 沖縄と基地

    

 沖縄の八重山諸島(石垣、宮古、与那国)への自衛隊配備・強化の動きが加速しています。

 26日には防衛省の若宮健嗣副大臣が中山義隆石垣市長に、警備・地対艦ミサイル部隊として500~600人の陸上自衛隊配備を正式に要請しました。同省は、宮古島へ700~800人、与那国島へ150人、石垣と合せて八重山3島で計約1500人の自衛官を新たに配備する計画です。

 これが、「中国脅威論」を口実にした安倍政権の「島嶼防衛強化」に基づくものであることは言うまでもありません。そしてその根源が、日米安保条約の「新ガイドライン」に沿った対米公約であることも自明です。

 したがって、「近年の自衛隊と米軍との合同演習や基地の共同使用の状況をみれば、自衛隊基地の新設は、同時に米軍の誘致につながる」「石垣島に配備が計画されている自衛隊基地は、軍事的緊張を高め、住民の生命が脅かされる危険性がある」((高良沙哉沖縄大学准教授、16、17日付沖縄タイムス)との指摘は的を射ています。

 防衛省の要請に対し、「日本会議」のメンバーでもある中山市長は、「国の考えは十分理解できた」(27日)として、市議会や市民の動向をにらみながらGOサインを出すタイミングをうかがっています。
 これに対し、「新基地は違憲」(代執行訴訟の準備書面)として辺野古新基地建設に反対している翁長雄志知事や県政与党の「オール沖縄」は、当然、八重山への自衛隊配備強化にも反対、のはずですが、事実はそうではありません。

 翁長氏は八重山への自衛隊配備・増強には反対しない、というよりむしろ賛成の立場です。
 石垣への自衛隊配備計画について、翁長氏の意向を代弁して町田優知事公室長は、「地元の理解と協力が得られるように政府はしっかり説明してほしい」(27日付琉球新報)と、計画実行へ向けて政府を督促しています。

 翁長県政与党の共産党、社民党、社大党、県民ネットらいわゆる「革新」陣営はどうでしょうか。これらの党派は、八重山への自衛隊配備・強化には明確に反対のはずです。しかし、26日の防衛省の正式要請に対しては、「革新」陣営はコメントしていません(県2紙を見る限り)。「革新」陣営は町田発言に表れた翁長氏の容認方針を黙認するのでしょうか。

 もともと「翁長氏自身は保守系のため、自衛隊の駐留自体には理解を示してきた立場」(琉球新報、同)であり、それは今も変わっていません。この点で「革新」陣営とは重大な相違があります。この食い違いについて、<県幹部は「翁長県政は辺野古反対を軸に『腹八分、腹六分』で保守も革新もまといまってスタートした」と述べ、見解の違いが亀裂にはならないとした>(琉球新報、同)と報じられています。「革新」陣営が反対であろうが、翁長氏(翁長県政)は自衛隊配備・強化容認の立場を変えるつもりはないというわけです。

 辺野古新基地に反対しながら、八重山の自衛隊配備・強化には反対しない。こんなダブルスタンダードが許されるでしょうか。
 「革新」陣営はこの重大な政策の違いを、「腹八分、六分」と言って見過ごすのでしょうか。
 安倍政権の自衛隊配備・強化に反対しない「オール沖縄」とは、いったい何なのでしょうか。
 
 防衛省の正式要請は予定より半年ほど早まりました。来年の県議選や参院選への配慮ではないかとみられていますが、私には、「辺野古のどさくさに紛れて押し切ってしまえ」と言っている安倍政権の声が聞こえるようです。
 


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「下町ロケット」と宇宙軍拡

2015年11月26日 | 戦争・安倍政権

   

 テレビドラマ「下町ロケット」(池井戸潤原作、日曜夜・TBS系)を楽しみに見ています(原作は読んでいません)。中小企業、技術者の気骨を描いて見応えがあります。

 まるでドラマと歩調を合わせるように、24日、初の商業衛星を載せた国産ロケットH2Aが打ち上げられました。JAXA(宇宙航空研究開発機構)と三菱重工のコラボです。

 また今月11日には、国産初のジェット機MRJが試験飛行しました。これも三菱重工(三菱航空機)です。

 H2AもMRJもメディアで大きく取り上げられ、宇宙・航空ファンの喜ぶ姿が映し出されました。
 しかし、三菱重工の相次ぐ“空”への進出を、手放しで喜んだり、関係ないと無視してよいでしょうか。

 三菱重工は日本最大の軍需(兵器)産業です。「陸・海・空のあらゆる分野で最先端技術を駆使した装備品の開発・生産・運用支援・能力向上を行うことで、わが国防衛の一翼を担ってきた」(公式サイト)と豪語する企業です。「防衛・宇宙分野」の売上高は4839億円(2014年度)にのぼっています。

 三菱重工の宇宙・ロケット技術が、軍事(兵器)に転用されないと言えるでしょうか。というより、もともと「宇宙」と「軍事」は一体不可分です。同社の公式サイトが財務報告を含め「防衛・宇宙分野」と一体に扱っていることがそれを象徴しています。
 ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英氏も、「JAXAが開発した小惑星探査機『はやぶさ』も、多くの人々を感動させましたが、あの遠隔操作可能な高性能の無人探査機が軍事利用も可能なことは、科学者でなくても想像がつきます」(『科学者は戦争で何をしたか』)と指摘しています。

 そのJAXAは、防衛省が公募した「軍事技術に応用できる基礎研究」の「マッハ5まで出る極超音速複合サイクルエンジン開発」に応募し、採択され、年間3000万円までの研究費(税金)を支給されることになっています。

 三菱重工やJAXAのこうした動向と関連して見落とせないのが、安倍政権が決定した「第3次宇宙基本計画」(2015年1月9日)です。
 藤岡惇立命館大教授によれば(「新型核戦争システムと宇宙軍拡」=「世界」2015年3月号)、「宇宙事業の三大分野」の順位は、これまでは「科学技術、産業振興、安全保障」の順番でしたが、同「計画」では「安全保障」がトップにすえられ、「軍事優先の姿勢が明確となった」といいます。
 さらに同「計画」は、「アジア太平洋地域に対する米国のアクセスが妨げられ」「米国の抑止力は大きく損なわれる」可能性が生まれてきたとし、「日本の宇宙衛星も、レーザー攻撃やミサイル攻撃を受けても破壊されぬように装甲を強化し、耐性を高めねばならぬ」と説いています。
 結局、同「計画」は、「日本は米国とともに『宇宙でも戦争する国』となり、米国戦略軍の指揮のもとで、日本の軍事衛星編隊が奮闘するための10カ年計画」であると藤岡氏は警鐘を鳴らしています。
 (藤岡氏の「世界」論文は、ピース・フィロソフィ・センターのサイトで読めます。ご参照ください。http://peacephilosophy.blogspot.ca/2015/10/blog-post.html

 直近にJAXAが決めた2人の宇宙飛行士(油井亀美也氏と金井宣茂氏)がいずれも自衛隊出身なのは、はたして偶然でしょうか。

 22日放送の「下町ロケット」で主人公(阿部寛)は、「日本でロケット開発が始まったきっかけは、多くの犠牲を出した台風の被害を繰り返さないためだ」(大要)と言いました。
 宇宙・ロケット技術が「平和と民生」のためになるのか、それともアメリカ追随の「宇宙軍拡」になるのか。私たちにはそれを監視し、声を上げる責任があります。


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深刻な沖縄米軍基地の土壌汚染、翁長知事は早急に対策を

2015年11月24日 | 日米安保・沖縄

   

 沖縄米軍基地(跡地)土壌汚染の深刻な実態が次々明らかになっています。

 今月11日、北谷町の宅地から環境基準の1・8倍に相当する有害物質・ダイオキシンが検出されたことが判明しました。宅地は1996年に返還された米軍嘉手納基地の一部。北谷町の野国昌春町長は、「米軍に起因する蓋然性が高い問題。返還から19年たつが、原状回復はきちんとしてほしい」(12日付沖縄タイムス)と訴えています。

 ダイオキシンはベトナム戦争で米軍が使用した枯れ葉剤と密接な関係があります。2年前の2013年6月、工事中の沖縄市のサッカー場(旧嘉手納基地の一部)から異臭を放つ数十のドラム缶が出てきました(缶は現在まで計100以上)。ドラム缶には枯れ葉剤メーカーのダウ・ケミカル社の名前が刻まれていました(写真右)。
 今回のことで北谷町の住民は「サッカー場の汚染問題を挙げ『米軍はごみをあちこちに埋めたまま。1カ所ではなく、周りも調査してほしい』と求めた」(13日付沖縄タイムス)と報じられています。

 一方、今年9月、浦添市の米海兵隊・牧港補給地区(キャンプ・キンザー)周辺で捕獲されたハブから高濃度のPCB(ポリ塩化ビフェニール)や農薬のDDTが検出されました。
 今月9日付の琉球新報は、「キンザー汚染、米認める」として、米軍が1993年7月に作成した「キャンプ・キンザーの有害物質による汚染の可能性に関する資料」で、「農薬や殺虫剤が原因の魚の大量死がしばしば発生していた」と明記していたことを明らかにしました。
 さらに23日付沖縄タイムス(共同配信)は、「キンザー調査『不十分』 環境汚染源存在の恐れ 90年代米軍文書で指摘」として、93年7月の米軍文書が「70~80年代の全ての調査を『表面的』『不十分だった』と断定し、実態解明に大規模調査が必要だと強調」していたと報じました。しかし米軍は、「必要な調査に50万㌦(当時の日本円で約7千万円)以上かかると見積もった上で、汚染物質の除去に要する費用は『見当もつかない』」として、その後調査さえしていません。基地が汚染源であることは分かっているが、金がかかるから何もしない、というわけです。

 安倍政権は9月末に米政府と「在日米軍基地内の現地調査に関する環境補足協定」を締結(写真中)、沖縄への配慮であるかのように喧伝しています。しかしそれは沖縄県が要求してきた「返還3年前」の立ち入り調査を「7カ月前」としたうえ、調査を認めるかどうかは米軍の裁量次第というまったく県民を愚弄するものでした。

 土壌・環境汚染に対するアメリカのこうした植民地的姿勢の根源が、日米安保条約・日米地位協定にあることは言うまでもありません(地位協定第4条「合衆国は、この協定の終了の際に日本国に基地を返還するに当たって、当該基地をそれらが合衆国軍隊に提供された時の状態に回復し、またはその回復の代わりに日本国に補償する義務を負わない」)

 沖縄の枯れ葉剤問題に一貫して取り組み、今回の米文書を情報公開請求で明るみに出したジョン・ミッチェル氏(英国人ジャーナリスト)はこう指摘します。
 「ダイオキシンだけが問題なのではない。米軍基地の跡地から、ヒ素や鉛、PCBが漏れ出しているのだ。・・・日米地位協定が公正なものに改定されなければ、跡地再開発の恩恵は何年もやってこないかもしれない。ベトナム戦争の負の遺産が、地元住民や元米兵、汚染エリアに住む住民にまとわりつき続けるであろう」(8月17日付沖縄タイムス)

 ではこの問題に翁長知事はどう向き合っているでしょうか。
 「環境補足協定」について翁長氏は、「協定が締結されたことは評価したい」とした上で、「十分とは言えない部分もある」(9月30日付琉球新報)とのコメントを発表しました。しかしその後、日米両政府に対し協定を抜本的に改める具体的な要求は行っていません。
 また、キャンプ・キンザーのPCBや北谷町のダイオキシンに対しても、なんら対策を講じていません。93年の米軍文書が明らかになったことに対して、「県は『(資料を)調べてみる』としている」(9日付琉球新報)といわれましたが、その後「調べた」という報道はありません。

 沖縄・生物多様性ネットの河村雅美共同代表は、「(キャンプ・キンザー問題で)県知事、浦添市長は日米政府に対し93年以降の汚染物の処理がどうなっているのか具体的に照会すべきである」(9日付琉球新報)、「(北谷のダイオキシン問題で)県は(土地使用履歴をまとめた)カルテ作成などを進めているが、足元の生活空間の危険性を現実的な問題として認識すべきだ」(13日付沖縄タイムス)と指摘しています。

 言うまでもなく沖縄の基地問題は「辺野古」だけではありません。日米地位協定の抜本的改定とともに、土壌・環境汚染に対する具体的な対策が急務です。


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ナビラさんの訴え・・・アメリカの空爆と日本

2015年11月21日 | 戦争・安倍政権

   

 パキスタンのナビラ・レフマンさん(11)=写真左は、2012年12月、無人機(ドローン)による空爆で、祖母を殺され、自身も大けがをしました。
 その実態を、アメリカ議会の公聴会で述べる機会がありました。公聴会に出席した下院議員は、435人中たったの5人。

 一方、同じくパキスタン人でナビラさんと住所も近く、同じ12年12月に被害に遭ったマララさん(ノーベル平和賞受賞)が訪米した時は、オバマ大統領が直接会い、対談しました。

 ナビラさんとマララさんに対するアメリカのこの極端な対応の違いは、いったいどこから生まれるのでしょうか。
 それは、マララさんを攻撃したのがパキスタンであったのに対し、ナビラさんらを攻撃した無人機空爆はアメリカが行ったものだった、という違いです。(以上、19日の「報道ステーション」より)

 国境なき医師団(MSF)がアフガニスタン北東部で運営していた外傷センターが、10月3日、空爆によって破壊され、患者10人(うち3人は子ども)、スタッフ13人が殺されました。
 アメリカは当初否定していましたが、2日後に爆撃が米軍によるものだと正式に認めざるをえませんでしたました。しかしそれでもなお、「爆撃はアフガニスタン政府の要請によるものだ」と責任転嫁しています。(MSFのメルマガより)

 これがアメリカです。アメリカ主導の有志連合による空爆の実態です。空爆は多くの一般市民を殺戮し、家や土地を破壊し、多くの難民を生み出します。まさに国家によるテロにほかなりません。
 そして「テロリスト」を最大限非難しながら、みずからの空爆=国家テロによる犠牲には目も向けず、責任逃れに終始する。それがアメリカなのです。

 「戦争は正義のためだと正当化しているが、人間の命を奪っているのはアメリカだと思います」
 沖縄「島ぐるみ訪米団」の玉城愛さん(シールズ琉球)は、19日ワシントンでの対話集会で、勇気を振り絞ってこう発言しました(21日付沖縄タイムス)。
 アメリカが行っている空爆は、まさに玉城さんの言葉を裏付けるものです。

 そのアメリカに追随し、軍事同盟(日米安保体制)をいっそう強化しようとしているのが日本の安倍政権にほかなりません。
 安倍首相は19日、マニラでオバマ大統領と会談し、「対テロ」で「緊密に連携」することを約束するとともに、「日米同盟について『国際社会の平和と安定に一層貢献していくための、新たな協力の序章にしたい』と強調」(共同配信)したのです。

 今月16日、ナビラさんらを東京に招き、市民との交流集会が開かれました。企画した現代イスラム研究センターの宮田律理事長は、こう訴えます(19日付中国新聞より)。

 「彼らが語るのは、『テロとの戦い』の美名の下で人権無視、むごい攻撃が続き、テロとは何の関係もない市民が犠牲になっている現状だ。理由もはっきりしないまま始まったイラク戦争はじめ、『テロとの戦い』で、イスラム世界では膨大な数の民間人が巻き込まれ犠牲になっている。日本人は『テロとの戦い』という抽象的な表現でなく、そこで起きている実像をよく知るべきだ
 「自爆テロにしか生きがいを見いだせない若者を救うためには、教育や就労の機会を与えることが一番の解決になる。日本はこうした点でこそ貢献していくべきだろう」
 「ナビラ・レフマンさんは東京の集会で『なぜ戦争をするのか。戦争に使うお金、武器を買うお金があるのならば、教育に使ってほしい』と訴えた。重く受け止めるべき言葉だと思う」

 ほんとうの「正義」とは何なのか。日本はどういう道を歩むべきなのか。日本に生きる私たちは今、何を言い、何をしなければならないのか。ナビラさんの瞳が、私たち一人ひとりに問い掛けているようです。


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「辺野古裁判」ー争うべき「公益」とは何か

2015年11月19日 | 沖縄・辺野古

   

 政府が17日、代執行へ向けて翁長知事を福岡高裁那覇支部に提訴したことで、辺野古新基地建設(埋立承認取り消し)問題は、法廷闘争に入りました。
 「辺野古裁判」では、何が争点になるのでしょうか。

 沖縄の民意を踏みにじり、地方自治法、行政不服審査法などの脱法行為を重ねる安倍政権に対し、日本国憲法(第8章92条~95条)の「地方自治」を守るかどうか。これが大きな争点であることは言うまでもありません。その点でも、「辺野古裁判」はけっして沖縄だけの問題ではありません。

 しかし争点はそれだけではありません。根本的に問われなければならない問題があります。

 今回の国の提訴は、地方自治法の「代執行」の規定に基づきます。埋立承認の取り消しが「放置することにより著しく公益を害することが明らかであるとき」(同法第245条の8)に該当するかどうか。キーワードは「公益」です。

 石井啓一国交相は17日の記者会見で、この「公益」について、「普天間基地の危険な状況をそのまま放置することになる。あるいは米国との辺野古移設という国同士の約束事も守れないことになる。そういったことが公益を害することになる」(18日付沖縄タイムス)と述べました。
 「訴状」では前者を「国内的視点から」、後者を「国際的視点から」として分けて論じています。 
 「国内的視点から」の冒頭でこう言っています。「わが国と米国は日米安全保障条約4条を根拠として設置された日米安全保障協議委員会等において・・・合意し、これを実行すべく本件埋立事業を遂行する」
 また「国際的視点」ではこう述べています。「一連の合意の根本的基盤をなすのはわが国と米国との間で締結された日米安全保障条約ひいてはこれに基づく日米間の相互協力と安全保障の体制である」

 この「訴状」に明らかなように、政府が「代執行」のために掲げる「公益」とは、「国内的視点から」であろうと「国際的視点から」であろうと、その根は1つ、「日米安全保障条約」であり、「これに基づく日米間の相互協力と安全保障の体制」だということです。

 これに対し、翁長知事は17日の記者会見で、「日米安全保障体制に理解を示している」「安全保障について日本全体で議論し、負担を分かち合っていくことこそ、品格ある、世界に冠たる日米安全保障体制につながるものと信じている」(18日付沖縄タイムス)と繰り返し強調しました。
 日米安保=軍事同盟体制に理解を示し、「世界に冠たる日米安全保障体制」を求める立場から、日米安保に基づく政府の「公益」論に対抗することができるでしょうか。

 日米安保体制という政府と同じ土俵に立つ限り、基地はどこに置くのが適当かという議論になります。それでは根本的解決にならないばかりか、「『日本国の安全に関する国の高度の政治的、外交的判断に立ち入って適法性を審査することは司法権の限界を超える』」(統治行為論)と判断される可能性もないではない」(神谷延治・東京弁護士会沖縄問題対策部会員、19日付沖縄タイムス)という危険性を高めることになります。

 「辺野古裁判」で争うべきは、日米安保=軍事同盟という土俵の中で基地をどこへ移すのが適当かということではなく、基地は沖縄はもちろん日本のどこにもいらない、普天間基地は無条件即時撤去、という立場から、日米安保=軍事同盟の土俵そのものが沖縄の「公益」にも日本の「公益」に反していることを明らかにすることではないでしょうか。


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沖縄知事選1年。翁長氏の5つの公約違反・不履行

2015年11月17日 | 沖縄・翁長知事

  

 沖縄県知事選で翁長雄志氏が当選してきのうでちょうど1年でした。
 「この1年、『辺野古新基地は造らせない』という公約を貫き、全くぶれていない。見事だと思います」(仲地博沖縄大学長、16日付しんぶん赤旗)など、翁長氏を賛美する評価が目立ちます。果たしてその評価は妥当でしょうか。
 この1年、翁長氏はほんとうに「公約を貫いた」のか、検証します。

 翁長氏は2014年9月13日に正式に出馬表明しました(写真左)。それは同日、共産党、社民党、社大党など「県内5党・会派」との間で「沖縄県知事選にのぞむ基本姿勢および組織協定」(写真中、しんぶん赤旗より。以下「基本姿勢」)で合意に達したからです。
 この「基本姿勢」こそ、翁長氏を当選させた「オール沖縄」と翁長氏の共通の公約です。「基本姿勢」の内容と翁長氏の実際の行動を対比します。

①「新しい知事は埋め立て承認撤回を求める県民の声を尊重し、辺野古新基地は造らせません」(「基本姿勢」)
⇒翁長氏:「承認撤回」は棚上げ。「取り消し」も選挙から11カ月後

 「承認撤回」と「取り消し」は違う意味合いを持ち、「撤回」こそ有効な手段であることは繰り返し述べてきました。翁長氏も選挙中は「撤回」を口にしていたのです。そして就任後初の県議会一般質問(2014年12月17日)でも「知事選に示された民意は埋め立て承認を撤回する事由になると思う」(同12月18日付琉球新報)と答弁しました。「基本姿勢」の「承認撤回を求める県民の声を尊重」する立場に立つなら、就任後ただちに承認を「撤回」すべきでした。
 ところが翁長氏は今に至るも、「撤回」は棚上げしたまま。「取り消し」も世論に押されてやっと11カ月後(10月13日)。この間、政府の既成事実化と辺野古現場での強権的市民弾圧を許してきました。これは明らかに公約違反ないしは公約不履行だと言わねばなりません。「新基地は造らせない」と言っていれば「公約を実行」したことになる、というのは大きな間違いです。

米軍普天間基地を閉鎖・撤去し、県内移設断念を求めます」(「基本姿勢」)
⇒翁長氏:「普天間飛行場の県外移設を求めてまいります」(2015年度県政運営方針」、2015年2月19日県議会)など

 「県内移設反対」と「県外移設」には大きな違いがあります。その違には歴史的経緯があり、県内の政党・会派にとってはとりわけ重大な問題です。「オール沖縄」の旗印である「建白書」(2013年1月28日)が明記しているのは、「県外移設」ではなく「県内移設を断念すること」です。「県外移設」は一致点にならないからです。「基本姿勢」もその「建白書」を踏襲しています。
 ところが翁長氏はその重要な相違にフタをし勝手に「県外移設」を表明してしまいました。その後の政府との「協議」の中でも「県外移設」を主張し続けています。
 これは明白な「基本姿勢」・「建白書」違反です。
 「オール沖縄」の党・会派はなぜをこれを黙認しているのでしょうか。少なくとも日本共産党は、「県外移設」すなわち「本土移設」には明確に反対のはずです。にもかかわらず翁長氏のこの勝手な公約違反になぜ口をつぐんでいるのでしょうか。

③「くらしと経済を壊すTPP(環太平洋連携協定)に反対します」(「基本姿勢」)
⇒翁長氏:TPP「大筋合意」への態度を保留

 沖縄タイムスが県知事と県内41首長に行ったアンケート調査(4日付)によれば、「TPP大筋合意は評価できない」と反対した首長は20人(47・6%)にのぼりました(名護市長、うるま市長など)。一方、「その他」として態度を保留した首長も同じく20人でした。翁長氏はどうか。「その他」の方です。理由は、「詳細な説明が不十分」(4日付沖縄タイムス)だからだといいます。
 しかし、TPP「大筋合意」は、「国民裏切り、米国いいなり」(日本共産党・紙智子参院議員、11日の参院予算委員会)の産物であり、沖縄にとっても「離農者が増えて耕作放棄地が増大する」(うるま市、同沖縄タイムス)など、重大な影響は必至です。
 にもかかわらず態度を保留する翁長氏は、「TPPに反対します」という公約に反しているのではないでしょうか。

④「自然環境の保全、回復に力を入れます」(「基本姿勢」)
⇒翁長氏:泡瀬干潟の自然破壊を推進

 仲井真前知事が進めていた泡瀬干潟(沖縄市)の埋め立てに対し、「泡瀬干潟を守る連絡会」など住民が工事中止を求めている裁判(第2次泡瀬訴訟)で、那覇地裁は2月24日、不当にも住民の請求を棄却しました。
 この判決に対し、翁長氏はなんとコメントしたか。「今後とも国や沖縄市と連携し、環境に十分に配慮しながら早期完成に向けて取り組んでいく」(2月25日付沖縄タイムス)と埋め立て推進を強調したのです。
 泡瀬干潟の自然環境破壊を進める点で、翁長氏は仲井真前知事や国とまったく変わらないのです。

⑤「憲法9条を守り、県民のくらしの中に憲法を生かします。解釈改憲に反対し、特定秘密保護法の廃止を求めます」(「基本姿勢」)
⇒翁長氏:戦争法案に反対せず、重要な局面で安倍政権に“助け舟”

 安倍政権が強行した戦争法案(安保法案)は、「解釈改憲」の最たるものであり、憲法9条を土足で踏みにじるものです。「基本姿勢」の合意に立てば、戦争法案に反対して当然、いや、戦争法の影響を最も被る沖縄の知事として、反対の先頭に立ってしかるべきではないでしょうか。
 ところが翁長氏は、県議会で共産党などが何度となく見解をただしても、自ら答弁することを避け、事実上戦争法案を容認してきました。法案成立後も「審議不十分」と手続きは問題にしましたが、戦争法そのものには反対していません。共産党が提唱する「戦争法廃止の国民連合政府」にも口をつぐんだままです。
 それどころか翁長氏は、安倍政権が支持率低下で窮地に陥っているまさにその時に、「1カ月の集中協議」(8月11日から9月7日)を設け、その間は「承認取り消し」は行わないという“政治休戦”で戦争法強行へ助け舟を出したのです。「支持率が下がり、相手が弱っている時に、自由にさせてはいけなかった」(吉元政矩元副知事、10月25日付沖縄タイムス)という指摘は当然です。

 以上、5点にわたって検証しました。「公約実行」どころか、翁長氏の重大な公約違反・不履行は明白です。
 政治家の評価は主観的な感情ではなく、客観的な事実で行うべきではないでしょうか。


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後藤さんの遺志に逆行する「制裁の空爆」

2015年11月14日 | 戦争・安倍政権

   

 このブログを書いている14日午前現在、パリで発生した「連続テロ」はまだ同時進行中です。事件の背景は明らかになっていません。

 この約1日前、アメリカ国防総省は、IS(「イスラム国」)が「首都」と位置づけるシリア北部ラッカを無人機で空爆したと発表しました。
 パリの「連続テロ」がISと、またこの空爆と関係があるのかどうかはまだ分かっていません。
 しかし、少なくとも言えることは、ISとアメリカ主導の「有志連合」の抗争が激化していることです。

 ここで見過ごせないのは、アメリカのラッカ空爆が、「フリージャーナリスト後藤健二さんらを殺害したとみられる覆面男、通称『ジハディー(聖戦士)・ジョン』に対し」(共同通信)て行なわれたとされていることです。日本のメディアは「後藤さん“殺害犯”に空爆」などと報じ、これがまるで後藤さん殺害に対する制裁行為として正当化されるかのような印象を与えています。

 とんでもないことです。後藤さんはけっして「制裁の空爆」など望んではいないでしょう。それどころか逆に、一般住民を殺戮し住居・土地を破壊する空爆という「国家テロ」を、誰よりも許せなかったのが後藤さんではなかったでしょうか。

 後藤さんの母親の石堂順子さんは13日夜のテレビニュースで、涙ながらに訴えました。
 「この世からこういう争いはもう消えてほしい。世界平和を望みながら逝った彼(後藤さん)の思いを実現してほしい。心からそう思います
  これこそが母の切なる願いであり、後藤さんの遺志ではないでしょうか。

 忘れてならないのは、米軍のラッカ空爆も、パリの「連続テロ」も、日本とけっして無関係ではないということです。無関係どころか、戦争法(新安保法)によって、日本はまさに当事国の1つになっているのです。

 戦争法の集団的自衛権によって、日本はアメリカ主導の「有志連合」の一員に入ってしまいました。少なくとも、当のISはそう認識しています。「『イスラム国』はこのほど発行した機関誌で、米国が主導する中東での軍事作戦に加わる『連合国』の一員として日本を名指しした」(10月5日付共同配信記事)のです。

 安倍政権はそれを必死で隠そうとしています。メディアも沈黙しています。そのため多くの国民は、ISと日本は直接関係ない、と能天気に構えているようにみえます。
 実際は、海外で日本人がテロに巻き込まれたり、標的になるだけでなく、いつ日本で連続テロが起こっても不思議ではありません。
 それがアメリカに追随する集団的自衛権、戦争法の実態です。

 私たちはそういう危険な領域に入ってしまったのだという恐怖をリアルに認識し、絶対に戦争法を廃止しなければなりません。
 そして、戦争法の根源である日米軍事同盟をなくする世論をいまこそ広げなければなりません。
 「軍事で安全は守れない。国家安全保障は完全に時代遅れ。・・・人間が人間らしく生きる社会をどうつくるのか。・・・人と人のつながりを大切にする『人間の安全保障』が最大の平和構築になる」(古関彰一氏、11日付琉球新報)

 それこそが後藤さんの遺志を引き継ぐことではないでしょうか。


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琉球新報はなぜ「知事会見全文」掲載をやめたのか

2015年11月12日 | 沖縄・メディア・文化・思想

   

 沖縄県の翁長雄志知事は9月14日に「辺野古埋立承認取り消し」を表明して以来、きのうまでに重要な記者会見を7回行っています。
 沖縄の情勢を詳細に報道する琉球新報(以下、新報)、沖縄タイムス(以下、タイムス)は、知事の重要記者会見はこれまで「一問一答」の全文、または要旨を掲載してきています。
 この7回の報道状況は以下の通りです。(〇=全文掲載、×=要旨掲載。掲載日はいずれも会見日の翌日)

                               琉球新報   沖縄タイムス
・9月14日  埋立承認取り消しを表明        〇         〇
・10月13日 埋立承認取り消しを実行        〇         〇
・10月21日 「意見書」を国交相に送付        △        なし
・10月27日 国交相の執行停止に抗議       ×         ×
・11月2日  係争委員会に申し立て         ×         〇
・11月6日  国交相の是正勧告を拒否       ×         〇
・11月11日 是正勧告拒否の文書送付       ×         ×

 明らかなことは、10月13日の「取消会見」(14日付)まで「一問一答全文」を掲載していた新報が、27日の会見からは「全文」をやめ、「要旨」に変えていることです(10月21日の会見は全文とも要旨とも明記していない)。逆に沖縄タイムスはそれまで「要旨」が多かったのが、最近は全文が増えています。

 琉球新報はなぜ知事の記者会見「全文」を「要旨」に変えたのでしょうか。

 もちろん、新聞編集上、記者会見の報道を要旨にすることはあります(全国紙はそれが通例)。しかし新報の場合、それまで「全文」を掲載しながら、「取り消し」以後それを「要旨」に変更しているのです。

 8月23日付新報の「紙面批評―新報を読んで」に、「歴史刻む全発言掲載」と題した仲本和彦氏(アーキビスト)の論稿が掲載されました。仲本氏はこう指摘しています。
 「最近とてもよい傾向だと思う点を一つ。それは、知事や閣僚の談話や記者会見が全文で掲載されることだ。・・・全文掲載は発言の内容だけでなく趣旨やニュアンスをつかむ上でありがたい。・・・ある意味、新聞は『歴史』をつくっている。しかし、掲載が断片的だと、何度読んでも語り手の本意がつかめないことがある。紙幅の関係はあろうが、『新聞=史料』という視点も持って余すところなく載せてほしい

 きわめて共感できる内容です。ところが新報は、この掲載から2カ月後にその「全文掲載」をとりやめてしまったのです。自紙に掲載された自紙への「評価」と「期待」に、後足で砂を掛けたものと言わざるをえません。

 「全文」と「要旨」では雲泥の差があります。「要旨」には当然ながら編集の取捨選択が働きます。例えば、11月6日の会見で、翁長氏は警視庁の機動隊派遣について質問され答えていますが(前回10日のブログで取り上げました)、新報はこの部分をすっぽり落としています。
 また、仲本氏が指摘する通り、「要旨」では発言者(翁長知事)のニュアンスや「本意」がつかににくいという欠点があります。例えば、11月2日の会見で、翁長氏は「承認撤回」について聞かれ、自ら答えることを避けて竹下顧問弁護士に答弁を振っています。全文掲載のタイムスではその様子が伝わってきますが、その部分をカットした新報ではそれが伝わりません。
 新報が「全文」から「要旨」に変えたことで、翁長氏の重要な答弁が落とされたり、状況がつかめないという弊害が現に生じているのです。

 新聞週間にあたって、沖縄県内で活動している各層から新報、タイムスに対して要望が寄せられました。
 「足元の行政監視して―日米両政府に対するのと同じような厳しい目を、県や市町村にも向けているか。両政府を批判することで、思考停止に陥っていないか。足元の行政にも、監視の目を光らせてほしいと思います」(河村雅美さん・沖縄・生物多様性市民ネットワーク共同代表、10月21日付タイムス)
 「知事批判の視点必要―沖縄の新聞を読んでいて思うことは、翁長雄志知事のやることや政策に関してもろ手を挙げて賛成し過ぎではないかということです。・・・応援と問題提起、両方の指摘が必要だと思っています」(元山仁士郎さん・シールズ琉球メンバー、10月15日付タイムス)

 新報は、「思考停止」に陥ることがないよう、翁長氏に「もろ手を挙げて賛成し過ぎ」ることがないよう、まずは、記者会見の全文掲載を直ちに復活すべきです。


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翁長知事は即刻、機動隊派遣要請の取り下げを指示すべき

2015年11月10日 | 沖縄・翁長知事

  

 警視庁の精鋭機動隊約130人が辺野古新基地建設に反対する市民に対峙している光景はまさに異例・異様です。沖縄県民の意思を無視してあくまでも新基地建設を強行しようとする安倍政権の強権ぶりが如実に表れています。現場ではケガ人や逮捕者も出ており、猶予できません。

 翁長知事がこの状況を放置していることはきわめて重大です。

 6日の記者会見で記者が、「警視庁の大量導入は県警の要請に従って行ったと菅官房長官は説明している。県議会では県警本部長が県の部局同様に、議事者側に席を連ねている。県の意向を無視して、県警が警視庁に要請を行ったとの理解でいいか」と質問したのに対し、翁長氏はこう答えました。

 「県警は私たちとそういった交渉は一切やらないのが今日までの状況だ。だから独自でもって議会の答弁もしている。これはたぶん他の都道府県でも一緒だと思う。また、人事権についてもやはり独自の人事権を持っている。・・・具体的なことについては個別個別に、意見等を申し上げていくことになろうかと思う」(7日付沖縄タイムス「知事会見全文」)

 その後、翁長氏が警視庁の機動隊派遣中止を求めたというニュースはなく、異常な状況が続いています。
 翁長氏は県警は「独自」だからなんともしようがないかのように言いますが、法に基づけばけっしてそうではありません。知事には機動隊派遣を中止させ、東京へ帰す力があります。

 警視庁機動隊の沖縄派遣は、沖縄県警が「県公安委員会を通し警視庁に応援部隊の派遣を要請していた」(6日付沖縄タイムス社説)ものです。
 警察法第60条は「都道府県公安委員会は、警察庁又は他の都道府県警察に対して援助を要求することができる」としています。今回の機動隊派遣要請もこれに基づくものです。言い換えれば、県公安委員会の要求がなければ、都道府県を越えて警察を派遣することはできないのです。

 警察法は第38条で都道府県公安委員会の「組織及び権限」を規定しているように、各県の公安委員会には大きな権限が与えられています。それは「公安委員会とは、警察民主化のために設置された行政委員会であり、警察の民主的管理機関」(原野翹氏、『警察法入門』有斐閣)だからです。

 たしかに県警本部長の任免権は国家公安委員会が直接握っています(警察法第50条)。日本の警察が中央集権的であるといわれる理由の1つです。しかし、その県警本部長の任免についても、「都道府県公安委員会の同意を得て」(同第50条第1項)とされているように、都道府県公安委員会を無視しては行えないのです。

 そうした権限を持つ県公安委員会と県知事とはどういう関係にあるでしょうか。
 警察法第38条第1項は、「都道府県知事の所管の下に、都道府県公安委員会を置く」と明記しています。さらに、公安委員(5人)は、「都道府県知事が都道府県の議会の同意を得て、任命する」(同第39条)とされています。委員長は「委員が互選」(同第43条)します。また、同41条によって、知事には公安委員の罷免権も与えられています。
 こうした条文から、県知事が県公安委員会に対しきわめて大きな権限を持っていることは明白です。

 一方、首相が国家公安委員会を直接指揮監督することができないように、知事が公安委員会を直接指揮することはできないといわれています。しかしその趣旨は、「政党政治の悪い影響から免かれ公正中立な警察行政を実現するため」(原野氏、前出)です。問われるのは警察行政の「公正中立」さなのです。

 そもそも警察法は、「警察の責務」をこう規定しています。
 「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び検査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の秩序の維持に当たることをもってその責務とする。
 警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであって、その責務の遂行に当たっては、不偏不党且つ公平中立を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあってはならない(第2条)

 「私たちは、『そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権利は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する』という日本国憲法前文第一段の規定の意味を、警察についても、もう一度、考えてみる必要があると思います」(杉村敏正氏、『警察法入門』同前)

 以上から、翁長知事は憲法と警察法の趣旨・条文に基づいて、県公安委員会に対し警視庁への派遣要請を直ちに取り下げるよう指示すべきです。そして、辺野古の機動隊を即刻東京へ帰すべきです。


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「南京大虐殺」と「シベリア抑留」-安倍政権のダブルスタンダード

2015年11月07日 | 戦争・安倍政権

   

 馳文科相のユネスコ総会での演説(日本時間6日)など、安倍政権は引き続き、中国が申請した「南京大虐殺」の世界記憶遺産登録に反発しています。
 この問題についてはすでに取り上げました(10月15日、http://blog.goo.ne.jp/satoru-kihara/d/20151015)。
 ここでは、安倍政権の「南京大虐殺」に対する姿勢と、日本政府の申請で同じく世界記憶遺産に登録された「シベリア抑留」のダブルスタンダード(身勝手な二重基準)を明らかにし、その意味するものを考えます。

 安倍政権が「南京大虐殺」の登録に反発しているのは、「ユネスコを政治利用するもの」(菅官房長官)という理由です。
 一方、日本が申請した「シベリア抑留資料」に対し、ロシア外務省は10月22日「声明」を発表し、「旧ソ連・ロシアとの合意文書を『乱暴に歪曲している』と批判」(10月23日付共同配信記事)しました。「旧ソ連に連行された日本軍将兵は、戦争終結後に不当に留め置いた『抑留者』ではなく、戦争継続中に合法的に拘束した『捕虜』である」(同)というものです。そして、「1991年に当時のゴルバチョフ・ソ連大統領が訪日して調印した協定でも『抑留』との文言は使用しなかった」(同)と指摘しています。

 日本政府は旧ソ連・ロシアとの公式な「協定」に反して、一方的に「抑留」としロシアに批判の矛先を向ける、ある種の政治利用だというのがロシアの見解です。
 このロシアの「批判声明」に対し、日本政府はどう反論したのでしょうか。

 反論はできないはずです。「ソ連に連れ去られた日本の軍人たちは、国際法上の『捕虜』であり、日本政府もそれを認めている」(栗原俊雄氏『シベリア抑留―未完の悲劇』)からです。
 「しかし帰還後、『捕虜ではなく抑留者』とする旧軍人関係者も少なくない」。なぜか。天皇(大元帥)の名による「戦陣訓」が「捕虜」を恥じと教え込んだうえ、「ソ連に身柄を拘束されても『俘虜=捕虜』とは見なさないと、天皇の「『勅語』と『大陸命』はそう約束していた」からです。そのため「政府は旧軍関係者の感情をおもんばかり、法律や行政文書では『抑留者』と呼称している」のです(引用は栗原氏の前掲著より)

 そもそも「抑留60万人、死者6万人」といわれる「シベリア抑留」はなぜ生じたのでしょうか。
 敗戦必至の1945年7月、天皇裕仁は終戦の仲介を依頼するため、近衛文麿元首相をソ連に派遣することを決めました。その際、用意したのが「和平交渉の要綱」です。
 「要綱」は「国体の護持は絶対にして、一歩も譲らざること」を前提にしたうえ、「海外にある軍隊は現地に於て復員し、内地に帰還せしむることに努むるも、止むを得ざれば、当分その若干を現地に残留せしむることに同意す」(要綱三)、「賠償として、一部の労力を提供することは同意す」(要綱四)としたのです。

 近衛のソ連派遣は実現しませんでしたが、「要綱」はソ連側に伝わったといわれています。
 天皇裕仁の政府は、「国体」=天皇制護持のため、満州などにいた日本兵をソ連に提供することを決めたのです。これが「シベリア抑留」の根源です。

 さらにその背景には、連合国による「ヤルタ会談」(1945年2月)の「現物賠償」の規定があります。シベリア抑留帰還者からも、「シベリア抑留は連合国に対する現物賠償であることは間違いない。・・・国が負担すべき賠償金をシベリア抑留者が負担した」(松本宏氏『真相シベリア抑留』)という批判の声が上がっています。

 こうした天皇裕仁、天皇制軍隊・政府の責任には触れず、 「日本人捕虜」の日記やはがきなどを「記憶遺産」として登録申請し、「抑留」の犠牲・悲惨さのみを示すことが、公正な態度と言えるでしょうか。
 中国が申請した「南京大虐殺」への反発・攻撃と、自らが申請した「シベリア抑留」の一面的なアピール、ソ連からの批判無視は、明らかにダブルスタンダードと言わねばなりません。

 安倍政権のこうしたダブルスタンダードの根底に、アジア・太平洋戦争の加害責任にはほうかむりし、自らを被害者と描こうとする歴史修正主義が横たわっていることは明白です。


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