アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

『ガザからの報告』にみる<下>「ハマス」の捉え方

2024年07月18日 | 国家と戦争
 

 土井敏邦氏の『ガザからの報告』でインパクトが大きいのは、「越境攻撃」(23年10月7日)を行ったハマス(土井氏の表記)についての記述です。

 M(同書の情報源のジャーナリスト)は土井氏に、「ガザ住民の怒りは、イスラエルとハマスの両方に向いている」と伝えてきました。

 土井氏は、ハマス指導部に対する住民の批判は今回の「越境攻撃」に始まったことではなく、少なくとも2014年から顕在化していると強調します。

「2007年のハマスによるガザの実効支配以降、ハマスの指導部と民衆は必ずしも一体ではない。…「イスラエルの植民地支配・占領」という大きな枠組みと、パレスチナ内部の矛盾はまったく次元が異なる問題だ。だが「パレスチナ支援者」の中には、前者を強調するために後者に目をつぶる傾向がある。とりわけ2014年ガザ攻撃以降に、より表面化したハマスの強権支配と暴走に苦しんできた民衆の声はほとんど伝えられてこなかった」

 土井氏は今回の事態についても、「ハマスによる越境攻撃は、そのやり方と結果から、「イスラエルの植民地支配・占領への武装闘争、抵抗暴力」だという主張は違うと私は思う」と言います。

 その理由として土井氏が挙げているのは、①あの攻撃は「テロ」である②あの攻撃はガザ住民の「植民地支配・占領からの解放」につながらず、逆に遠ざけた③その結果がもたらしたガザの甚大な被害と民衆の絶望―の3点です。

 こうした指摘は、これまで学習会などで学んできたパレスチナ問題の専門家の話と明らかに相違しています。

 例えば、岡真理・京都大名誉教授はこう指摘しています。

「ハマース(岡氏の表記)は…解放のためにガザのフェンスを越えて行っているんです。…もちろん民間人を襲撃し、彼らを人質に取るという作戦に関しては是認できないものがある。…しかし、歴史的文脈を踏まえたならば、彼らがユダヤ人憎しで民間人を殺しまくるテロリストだというのは、事実とまったく異なるということです。民間人を巻き込む作戦の是非は厳しく問われなければならないけれど、この軍事攻撃自体は占領された祖国解放のために実行されたものです」(『ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義』大和書房23年12月)

「10月7日以来、「ハマースとは何ですか」と何度も質問されました。…しかし、これは誤った問いだと私は思います。誤った問いから、正しい答えは出てきません。…「ハマースとは何ですか」、ではなく、むしろ問うべきは、「イスラエルとは何か」だと思います」(同)

 土井氏と岡氏の見解には、もちろん重要な共通点があります。土井氏も「現在のガザの問題の根源は、言うまでもなく「ハマス」ではなく“イスラエルの占領”である。それこそ34年間、私が伝え続けてきたことであり、本書『ガザからの報告』の大前提である」と強調しています。岡氏も上記のように民間人を攻撃し人質にしたハマースの作戦は「是認できないものがある」としています。

 しかし、両氏の見解には「力点の違い」を超えた相違があると思います。両氏とも永年パレスチナを取材、研究し続けている優れたジャーナリスト、学者です。この「相違」をどう考えればいいのか、私には答えを出す力はありません。

 ただ、「ハマースとは何か」、「ハマス(とりわけ指導部)と民衆の関係」はどうなっているか、私は問い続けたいと思います。なによりも、「現在のガザの問題の根源」は何かを見誤ってはならず、イスラエルのジェノサイドを一刻も早くやめさせなければならないことは言うまでもありません。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ウクライナ世論「国家の方向間違っている」47・4%が意味するもの

2024年07月12日 | 国家と戦争
   

 ウクライナのゼレンスキー大統領はNATO(北大西洋条約機構)首脳会議(写真左)に参加し、いっそうの軍事支援を要求しました。NATOは「来年にかけ最低でも約7兆円規模の支援実施」を約束してこれに応えました。戦争の激化・長期化は必至です。

 ゼレンスキー氏が推し進め、NATOがその背中を押している「徹底抗戦」=戦争継続路線。それは果たしてウクライナ「国民」の意思なのでしょうか。

 乏しい情報の中で、6月28日付の沖縄タイムスに注目すべきベタ記事(「キーウ発共同電」)がありました。見出しは<ゼレンスキー氏 国民の信頼低下 世論調査で53・8%に>。
 この見出しもインパクトはありますが、さらに注目されたのは、見出しにとっていない記事の内容です(以下抜粋、改行は私)。

<ウクライナのシンクタンク「ラズムコフ・センター」は26日、政治や社会情勢に関する世論調査結果を発表した。

 ゼレンスキー大統領を「信頼する」との回答が53・8%となり、1月の調査から15・2㌽下がった。ロシアによる侵攻が長期化する中、ゼレンスキー氏への国民の信頼は低下傾向にある。

 世論調査では、ゼレンスキー氏を「完全に信頼している」が18・0%、「どちらかと言えば信頼している」が35・8%。
 国家が「正しい方向に進んでいる」とした回答は32・9%で、「間違った方向に進んでいる」としたのは47・4%だった。>

 ウクライナにおいて「国家が進んでいる方向」とは、ゼレンスキー氏が推進している「徹底抗戦」=戦争継続に他なりません。それを「正しい」と思っている人は32・9%、「間違っている」と思っている人はそれより14・5㌽も多い47・4%だというのです。
 単純計算すれば、ゼレンスキー氏を「信頼している」人の中でも「正しい方向に進んでいる」と思っていない人が4割近くいることになります。

 四捨五入すれば、ゼレンスキー氏の「徹底抗戦」=戦争継続路線を支持しているウクライナ「国民」は約3割、支持しない「国民」が約5割、その他が約2割です(写真右はウクライナ政府に抗議する動員兵の家族たち)。

 これは重大な事実です。ゼレンスキー氏が「民主主義」を標榜するなら、「国民」の約半数が「間違っている」という「徹底抗戦」=戦争継続路線は改めるべきでしょう。そして直ちに停戦・和平協議へ舵を切るべきです。

 メディアの責任も重大です。

 日本のメディアが報じる「ウクライナ国民の声」は、ほとんど「徹底抗戦」を支持する「声」です。もちろんそういう「声」はあるでしょう。しかし、それと同じくらい、いや、それ以上にゼレンスキー氏の「徹底抗戦」に疑問を持ち、支持していない「声」があるのです。なぜそういう「声」を取材して報道しないのでしょうか。

 為政者(国家権力)の戦争推進政策と一体となり、「反戦」の声を無視する報道は、「鬼畜米英」を煽って戦争遂行に加担した80余年前の国策報道の二の舞いではないでしょうか。

 

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イスラエル蛮行の裏で武器売却続ける米国

2024年04月06日 | 国家と戦争
   

 ガザに対するイスラエルのジェノサイドが続く中、国連人権理事会は5日、各国にイスラエルへの武器輸出や提供をやめるよう求める決議案を賛成多数で採択しました。

「決議は、パレスチナでの戦争犯罪や人道に対する罪の可能性を含む深刻な人権侵害の報告をめぐってイスラエルに「重大な懸念」を表明した。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)にパレスチナで起きた人権侵害を記録して責任を追及するために、専門家らを派遣することを要請した」(5日付朝日新聞デジタル)。

 当然の決議ですが、遅きに失していると言わざるをえません。「昨年10月にイスラム組織ハマスとイスラエルの軍事衝突が始まって以降、同理事会がこの問題で決議を採択するのは初めて」といいますからため息が出ます。しかも決議に法的拘束力はありません。

 さらに驚くのは、この決議が理事会を構成する47カ国のうち28カ国の賛成という僅差でかろうじて採択されたことです。アメリカやドイツは公然と反対しました。日本はフランスなどとともに「棄権」し賛成しませんでした。

 アメリカは国際世論の批判が高まる中、イスラエルに「自重」を求めるようなポーズをとっていますが、その裏でイスラエルに武器を売り続けています。

「米紙ワシントン・ポスト電子版は29日、バイデン政権が…イスラエルに25機のステルス戦闘機F35や2300発以上の爆弾の売却を承認していたと報じた。…議会に通知せず水面下で手続きを進めていたという。ガザの人道危機を巡ってイスラエルとの関係がぎくしゃくしながらも、高性能戦闘機などの武器を着々と供与している実態が浮かび上がった」(3月31日付京都新聞=共同配信)

 連日ガザの犠牲が報じられながら、なぜイスラエルは蛮行をやめないのか。いらだちを禁じ得ませんが、それはアメリカの後ろ盾があるからです。アメリカは国連で公然とイスラエルを支持・擁護するだけでなく、水面下で武器売却を続けているのです。

 そして、国連人権理事会の「武器輸出・提供反対決議」でさえ過半数ぎりぎりでやっと可決するというのは、パレスチナに対するイスラエルの蛮行をこれまで支持・容認してきた国際社会の実態を示しています。

 武器売却・供与が戦争を苛烈化・長期化させているのはウクライナの事態も同じです。

 NATO諸国がウクライナに供与している砲弾を製造しているチェコの兵器産業会長は、「わが社だけでなくヨーロッパの同業者の生産能力はウクライナの需要に追いついていない」と嬉しい悲鳴をあげています(5日のNHKニュース、写真右)

 ガザ、ウクライナ、そして世界の戦争・紛争の背後には膨大な利益を上げている兵器産業があります。兵器産業と政権・政治家の癒着があります。その実態は厚いベールに包まれています。それを暴きメスを入れない限り、戦争はなくなりません。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ローマ教皇の「白旗」発言は間違っていない

2024年03月14日 | 国家と戦争
   

 ローマカトリック教会・フランシスコ教皇のいわゆる「白旗」発言(9日報道)が物議を醸しています。発言の経過と内容は次の通りです。

「「白旗」発言はバチカンメディアが9日、教皇が応じたスイスのテレビ局のインタビューの内容として、放送に先立って公開した。教皇は記者から「ウクライナには降伏の勇気、白旗を求める人たちがいる。しかし、それは強い側を正当化することになると言う人もいる」との質問を受け、「最も強いのは、状況を見て、国民のことを考え、白旗をあげる勇気を持って交渉する人だと思う」と述べたという」(11日付朝日新聞デジタル)

 さらに、教皇はこうも述べていました。

「教皇はインタビューで…パレスチナ自治区ガザ情勢にも触れ「交渉は降伏ではない」とも述べた。トルコなど仲介役の力を借りることができるとし「事態がさらに悪化する前に交渉するのは恥ではない」と強調した」(11日付京都新聞=共同)

 教皇発言の真意は明白です。

 これに対し、「全領土奪還を目指し、停戦交渉を否定するウクライナ政府は反発。クレバ外相は「私たちの旗は黄色と青だ。他の旗を掲げることはない」と主張した。日米欧の支援国からも「全く理解できない」「ウクライナの意思を尊重すべきだ」との意見が相次いだ」(13日付京都新聞=共同)。

 命より大切なものはない、という立場に立てば、教皇の主張はきわめて正当かつ重要です。

 実はロシアのウクライナ侵攻直後に同様の主張を行っていた識者がいました。世界的な反戦知識人として知られる米マサチューセッツ工科大のノーム・チョムスキー名誉教授(写真右)です。

 チョムスキー氏はメディアのインタビューに答え、「ウクライナについては二つの選択肢がある。一つ目は交渉による解決で、二つ目は最後まで戦うことだ」としたうえで、「私たちは、唯一の代案である外交的解決という現実を直視する」必要があると主張しました(2022年4月22日のブログ参照)。

 チョムスキー氏はプーチン大統領と停戦交渉するのは「醜悪だ」とまで言いながら、「あなたはこの案を好まないかもしれないが、明日ハリケーンが来るのに『ハリケーンは好きではなく』『ハリケーンを認めることはできない』などと言うばかりではそれを防ぐことはできず、何の効果もない」と喝破しました。

 事実、このころウクライナとロシアの間で「和平草案」がまとめられていたことが最近明らかになりました。それを潰して戦争を継続させ、ウクライナ、ロシア双方に甚大な犠牲をもたらしたのはアメリカを中心とするNATO諸国でした(7日のブログ参照)。

 今回、教皇の即時停戦交渉発言を非難・攻撃しているのも「日米欧の支援国」です。アメリカとその軍事同盟諸国はあくまでもウクライナとロシアを戦わせたいのです。

 2年前に世界がチョムスキー氏の主張を実行していれば、多くの命は失われずにすんだでしょう。
 その轍を踏まないよう、いま世界は教皇の主張を傾聴し、即時停戦交渉を支持する世論を強める必要があります。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イスラエルに殺されたパレスチナ詩人が遺したもの

2024年03月09日 | 国家と戦争
   

 7日のNHK国際報道2024で、イスラエルによる空爆で殺されたパレスチナ人の教師・詩人のリフアト・アルアライールさん(写真左、中)が紹介されました。以下は同番組から。

 生前、リフアトさんは語っていた。「われわれは物語によってふるさとを愛し、またふるさとによって物語を愛する」「私の家にある武器はペンだけです。もしイスラエル人がわれわれを殺すために家に押し入ることがあれば、私はペンを投げつけるだけです」

 次の詩は、リフアトさんが亡くなる直前に書いたもの。

もしも私が死ななければならないのなら
あなたは生きなければならない

私の物語を伝えるためと
私の遺品を売り
私の布切れと少しの糸を買うために

ガザのどこかにいる子どもが 天を仰ぎ見て
炎に包まれ旅立った父を待つとき

私の凧が 舞い上がるのを見て
ほんのひととき 天使が
愛を届けにきてくれたと思えるように

もし私が死ななければならないのなら
それが希望をもたらしますように
それが物語になりますように

 リフアトさんの教え子のナディヤさん(写真右)が述懐する。

「先生は、「ユダヤ人そのものを憎んではいけない」と教えられました。

 初めての授業で先生は、学生たちに短い物語を読ませ、悪役の視点から書き直すよう言われました。視点によって登場人物の印象がどう変わるかを教えられたのです。他の人種、宗教やその苦難について学生たちに気付かせたかったのです。

 先生自身、アラブ人やイスラム教徒をひいきせず、学生たちにもそうあって欲しいと思っていました。

 学生が無知から少しでも反ユダヤ的な発言をすると、たとえ授業の時間が残り少なくても、先生はその学生を止め、発言を訂正するよう求めました」

 ナディヤさんはいま、リフアトさんの遺志を引き継ごうとしている、一刻も早い停戦を願いながら。

「いま、生きる人たちに希望をもたらす唯一の方法は、この戦闘を止めることです。それが私の祈りであり、願いです」

 以上が番組が紹介した、リフアトさんが遺したものです。

「「言葉とヒューマニティ、それが私たちの武器」と主張する岡真理氏は…『ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義』(大和書房)において、強大な軍事力を持つイスラエルが集団虐殺の暴力をやめるには、「パレスチナ人が人間である」ということが語られなければならないという」(小川公代・上智大学教授、8日付朝日新聞デジタル)。

 リフトアさんこそ「言葉とヒューマニティ」を武器に、「パレスチナ人が人間である」こと、優れた人間であることを身をもって示したと言えるのではないでしょうか。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Nスぺ「戦火の放送局Ⅱ」・死滅するジャーナリズム

2024年03月06日 | 国家と戦争
   

 2日のNHKスペシャルは「戦火の放送局Ⅱ ウクライナうつりゆく“正義”」。22年8月7日放送「戦火の放送局」(22年8月18日のブログ参照)の続編です。ウクライナ戦争下の公共放送局・ススピーリネの記者たちのその後です。

 2年前は前線で取材し、「やるべき事をやり、闘い続けます」と言っていたアナスタシア(写真左)はススピーリネにはとどまっているものの、取材記者を離れ、資料部門に移っていました。

「戦争の現実を理解することが自分でさえできない。ジャーナリストの仕事の困難さを抱えてしまった。もう精神がもたなくなった」

 アナスタシアには母親としての葛藤もあります。息子(22)は徴兵を回避してドイツに避難しています。

「動員の話題はすべてのウクライナ人にとって苦痛です。今私は、早く戦争が終わり、自分の子どもが死なないことだけを望むようになりました」
 
 アナスタシアとコンビを組んでいたカメラマンのビクトル(写真中)は、ススピーリネを辞め、軍の学校でドローン操縦を教えています。

「多くのことが伝えられなくなり、言うべきことが言えなくなった。私を必要としていたのは(メディアではなく)軍の任務だった。奴ら(ロシア兵)をもっと殺したい」

 2年前、「ジャーナリストは常に中立的でなければならない。しかし、現状では必ずしもそれができない」と苦悩していた支局長のアラ(写真右)は今、取材した反政府デモの映像を自らボツにします。

「自己検閲をしている。兵士の命を守るためには見せてはいけないものがある。ジャーナリストとしても人間としても最大の脅威はロシアの攻撃だ。それが私の(自己検閲の)動機になっている。葛藤はない」

 夫たちの帰還を求める女性たちのデモ。参加者が言います。「今日も彼ら(ウクライナメディア)はいませんでした」「なぜ私たちのことが見えないの」

 三者三様ですが、共通しているのは、2年間の戦争が彼女・彼らのジャーナリストとしての“生命”を奪ってしまったということです。

 戦争の継続・激化とともに国家によるメディア統制は強まり、自由な報道・言論はいっそう困難になる。それに悩み葛藤する者はメディアの現場から去る。自ら兵士になる。そうでない者はますます国家との一体化を強め、すすんで自己検閲を行うようになる。

 痛感するのは、戦争がいったん始まってしまえば、記者・メディアが国家の統制をはね返して取材・言論の自由を保つことは極めて困難だということ。だから戦争を始めさせてはいけない、戦争が始まる(参戦する)前にそれを阻止しなければならい、ということです。

 それが「戦火の放送局」から日本の記者・メディアが、そして日本の市民が受け取るべき最大のメッセージではないでしょうか。

 アナスタシアは今回取材を受けた理由をこう言います。
「戦争を知らない人たちに、私たちの話を伝えてほしい。それが今の私にできることです」

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

五ノ井さん「勇気賞」と戦場の女性兵士

2024年03月05日 | 国家と戦争
     

 陸上自衛隊の性暴力を告発した五ノ井里奈さんが米国務省から「勇気賞」(世界の勇気ある女性賞)を受賞しました(1日、写真左は4日の授与式)。メディアは称賛していますが、果たして喜べることでしょうか。

 授賞理由は、「セクシュアルハラスメントと説明責任を国民的議論に押し上げ、伝統的な日本社会でタブー視されてきた問題に光を当てた」(2日付朝日新聞デジタル)こととされています。確かにその意義はあります。しかし、授賞理由はそれだけではありません。

「(米国務省は)また、五ノ井さんの行動をきっかけに、「自衛隊はジェンダーを問わず日本人が尊厳を持って国を守れるよう、より安全な職場の構築を進めている」と指摘した」(同朝日新聞デジタル)

 五ノ井さんの性暴力告発は自衛隊を「ジェンダーを問わず」軍隊として機能する場に改善することに寄与したという評価です。
 五ノ井さんが告発した当時、「自衛隊性暴力告発を逆利用させないために」と書きましたが(2023年2月2日のブログ)、今回の授賞はまさに米国務省によるその逆利用にほかなりません。

 見過ごせないのは、“軍隊におけるジェンダー平等”の喧伝が、女性を兵士として戦場に駆り立てる動きと一体となっていることです。それが最も先鋭化した形で進行しているのがウクライナです。

 ウクライナ国防省は昨年10月、「軍と契約を交わし、兵士として勤務する女性の数が、ロシア軍が全面侵攻を開始する前の2021年と比べて1万2千人増え、4万3千人になった」と発表しました(23年10月18日付朝日新聞デジタル)。さらに、「現地メディアによると、現在6万人以上の女性がウクライナ軍に所属しており、うち5千人が兵士として前線で戦っている」(23年12月28日付朝日新聞デジタル)といいます。

 22年2月までキーウ(キエフ)で中学校の教師をしていたユリア・ボンダレンコさん(31)はロシア軍の侵攻後、市民の志願兵でつくる「領土防衛隊」に入りました(写真中)。
 両親は入隊に反対しましたが、ボンダレンコさんは「国のために貢献できるのであれば、死ぬことなんて怖くない」と言います。

 ボンダレンコさんの軍服姿を見た女子の教え子たちは「先生、かっこいい」「私も先生のようになりたい」とSNSでメッセージを送ってきました。

 ウクライナの15歳~25歳1 千人超を対象に行われた世論調査(22年11月)では、回答した女性の58%が「女性も男性と同様に徴兵制を設けるべきだ」と答えました。

 前線の女性兵士のために女性用軍服の製作を進める団体も創設。創設者の女性キーウ市議は、「将来的には、妊婦用の軍服も作りたい。妊婦でも軍に参加したいという決断を尊重したいし、それが男女平等だ」と話します。(以上、23年3月8日付朝日新聞デジタルより)(写真右はウクライナ国防省が認可した女性兵士用の防弾チョッキ=23年12月28日付朝日新聞デジタルより)

 女性を戦場に送り出そうとしているのは、もちろんウクライナだけではありません。

 プーチン大統領は昨年3月8日、国際女性デーにあたってビデオメッセージで、「祖国を守るという最高の使命を選んだ女性兵士を祝いたい。あなたの勇気や決断は、筋金入りの兵士さえ驚かせる」(23年3月9日付朝日新聞デジタル)と述べ、直接女性兵士をたたえました

 国際女性デー(3月8日)は女性の人権向上、男女同権をめざすものであり、女性兵士をたたえるなど本末転倒も甚だしいと言わねばなりません。

 「男女平等」「ジェンダー平等」の名で女性を戦場に駆り立てる。五ノ井さんの「勇気賞」をそんな戦争国家化の強化に利用することは許せません。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

殺すな!いま傾聴すべき鶴見俊輔の反戦論

2024年02月10日 | 国家と戦争
  

 小熊英二・慶応大総合政策学部教授(写真右)が、「戦後日本の「リベラル」と平和主義 その所与条件と歴史的経緯」と題した論稿(「世界」2月号)で、「(戦後)平和主義の思想的営為として挙げられる例」として、ベトナム戦争に反対した市民グループ・ベ平連(ベトナムに平和を!市民連合、1965年結成)を取り上げています。

 べ平連に対しては、ベトナムが共産主義化したらベトナム人は圧政に苦しむ結果にならないか、という批判がなされました。これに対し、呼びかけ人だった哲学者の鶴見俊輔(1922-2015、写真左)は「以下の趣旨で反論した」、として小熊氏はこう紹介しています。

「ベトナムが共産主義化すれば世界がよくなるとは自分は考えておらず、アメリカが手を引けば事態は悪くなるかもしれない。だが特定の価値観で介入してもその判断は間違う可能性がある。人間は完全ではなく必ず間違うことがある。間違った判断で人間を殺せば取り返しがつかない。ゆえに、どちらが正義かの議論より先に、まず殺してはいけない。それゆえアメリカは北爆をやめるべきで、日本はそれに協力すべきではない」

 小熊氏は、これは鶴見が「朝日ジャーナル」(1966年8月14日号)に投稿した「すわりこみまで」という論稿で述べた論旨で、『鶴見俊輔著作集 第五巻』(筑摩書房)に収められていると書いています。

 同書に収められている「すわりこみまで」から、該当部分を引用します。

「私は、戦争中から殺人をさけたいということを第一の目標としてきた。その信念の根拠を自分の中で求めてゆくと、人間には状況の最終的な計算をする能力がないのだから、他の人間を存在としてなくしてしまうだけの十分の根拠をもちえないということだ。殺人に反対するという自分の根拠は、懐疑主義の中にある。だから、私はあらゆる死刑に反対であり、スターリンによるにせよ、アメリカ政府によるにせよ、また東京裁判のような形をとるものにせよ、政治裁判による死刑執行を認めることができない。まして戦争という方式で、国家の命令でつれだされて、自分の知らない人を殺すために活動することには強く反対したい

 小熊氏が「世界」で紹介した鶴見の論旨は、小熊氏の言葉で平易に言い換えられていますが、その意味はもちろん同じです。
 「人間には状況の最終的な計算をする能力がない(人間は完全ではなく必ず間違うことがある)」から、「あらゆる死刑に反対である(間違った判断で人間を殺せば取り返しがつかない)」。「まして戦争には強く反対する」。

 無条件で「戦争に賛成する」人はまずいないでしょう。でも、必ずしも「国家の命令」ではなくても、自ら戦場に赴く。そこにあるものは、それが祖国を守るため、家族を守るための「正義」だという判断ではないでしょうか。

 ウクライナで「戦争継続・徹底抗戦」の世論が強い(と報じられている)状況、「戦うウクライナ」を支持する国際世論(日本市民を含む)の背景にあるのもその「正義」ではないでしょうか。

 でも、その「正義」は果たして絶対的なものでしょうか。鶴見俊輔はそうではないと言っています。「人間は完全ではなく必ず間違う」と。鶴見のような懐疑主義でなくても、現代の情報戦の中、限られた情報で判断する「正義」はますます「間違う可能性がある」のではないでしょうか。

 だから、「どちらが正義かの議論より先に、まず殺してはいけない」。この反戦論に深く共感します。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ウクライナ「クリスマス変更」の裏に教会弾圧

2023年12月27日 | 国家と戦争
   

 ウクライナ政府は「クリスマス」をこれまでの1月7日(ロシアと同じ旧来のユリウス暦に基づく)から欧米と同じ12月25日に変更しました。ゼレンスキー大統領が7月、そのための法案に署名しました。

 ウクライナの独立調査機関の世論調査(9月)では、変更された12月25日に祝うとしたのが42%、従来の1月7日は17%、両日祝うが21%だったといいます(24日付共同配信)。日本のメディアは、「反ロ感情の劇的な高まりを背景に「欧米式」の生活様式が市民に定着しつつある」(同)と報じました。

 無宗教で「クリスマス」にも関心のない私は、そういうものかとあまり気にとめませんでした。

 しかし、この「クリスマス変更」の裏には見過ごすことができない問題があることが分かりました。25日のNHKBS「国際報道2023」(26日NHK総合で再放送)が、ウクライナ政府によるロシア正教会系の教会に対する弾圧を報じたのです。

 それによれば、「ウクライナ当局は、“ロシアとのつながりの深い教会が軍事侵攻を後押ししているおそれがある”として取り締まりを強化」。「キーウのベチェルシク大修道院は去年11月、“礼拝中にロシア賛美の言葉が聞こえた”などとして捜査」されました。「地元メディアは、“修道院の代表が宗教間の憎悪を扇動した疑いで自宅軟禁になった”」と報じました。代わって修道院代行に就いた人物は、「私たちは歴史的に正しい方向に戻しているのです」と語っています(写真左・中)。

 「クリスマス変更」に反対している教会の広報担当者は、「今、信教の自由が制限されていて、祈りの場を失っている人もいる。ソビエト時代のやり方が復活しているのだ」と述べています(写真右)。

 ロシア正教会のトップはプーチン大統領と親密な関係で、今回の軍事侵攻も支持していると言われています。そのロシア正教会との関係を断ち切る一環が「クリスマス変更」だったわけです。

 どの宗派・宗教を信仰するかは言うまでもなく個人の自由です。ウクライナ政府がロシア正教会系の教会を弾圧し、信者にとって重要な意味をもつ「クリスマス」を法律で変更することは明らかに信教の自由に反します。

 このことは、戦争当時国(ウクライナに限らず)は、報道の自由、言論・集会の自由はもとより、信教の自由をも抑圧することを示しています。

 そして日本のメディアは、ロシアの「民主主義抑圧」はさかんに報じる一方、ウクライナ政府の反民主的行為・政策については批判的に報じることがきわめて希です(上記の共同通信の記事でも分かるように)。その偏向報道ぶりがここにも表れています。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

戦争と兵器―ウクライナ支援口実に武器輸出拡大図る日・米・韓

2023年11月09日 | 国家と戦争
   

 自民党と公明党は8日、「防衛装備移転(武器輸出)3原則」見直しの実務者協議を再開しました。焦点は、①7月の「中間報告」で可能とした他国と共同開発した武器輸出の具体化②武器輸出の5類型(救難・輸送・警戒・監視・掃海)の撤廃(無制限化)とされています。

 加えて、自民党内で強まっているのが、迎撃用ミサイル「パトリオット」など「防空ミサイル」の輸出解禁です。それは武器輸出大国化へ踏み出す重大な政策転換です。

 その大きな壁を越えるための口実にされようとしているのが、ウクライナ戦争・ウクライナ支援です。

「自民にはウクライナに防空ミサイルを提供するための仕組み整備を求める声もくすぶる。…実務者協議の自民メンバーの一人は「いずれ議題になるだろう」と話す」(7日付朝日新聞デジタル)

 こうした自民党・岸田政権の動きと歩調を合わせるようなウクライナ政府の発言も出ています。

「ウクライナのセルギー・コルスンスキー駐日大使は9月、朝日新聞の取材に、ドローン(無人機)攻撃に対応するための日本の防空システムの提供に関心を示した」(7日付朝日新聞デジタル)

 「ウクライナ支援」といえば反論できない(反論を許さない)風潮がつくられ、それに乗じて武器輸出の拡大、重大な政策転換が強行されようとしています。

 同様の事態は韓国でも起きています。

「ウクライナ侵攻などにより需要が高まる武器の国際市場で…尹錫悦(ユンソンニョル)政権は「世界4位の武器輸出大国」をめざすという目標を掲げ、売り込みに力を入れている。…ウクライナ侵攻後、各国が軍事費を増額する中、韓国の防衛産業の2022年の輸出額は173億ドル(約2兆6千億円)と、前年の2・4倍に急増した」(5日付朝日新聞デジタル)

 戦争の陰には必ず兵器産業の利益・暗躍があります。

 バイデン政権が提出したウクライナ軍事支援予算を通すため、米国防総省は議会に対し、「(ウクライナへの軍事支援は)防衛産業基盤を強化し、米国民に高度な技術を要する雇用の創出を提供する」と説明しています(10月31日のNHK国際報道2023=写真右)。

 焦点の中東で、そもそもアメリカがイスラエルを支援することになった背景にもロッキード社など米兵器産業の思惑があります。当時、兵器産業の担当者は「イスラエルは米兵器の重要な実験場」と語っていました(8日深夜NHKスペシャル=2004年の再放送)

 兵器産業は戦争を必要とし、戦争が殺人兵器の開発をすすめ、兵器産業に膨大な利益をもたらします。このスパイラル(螺旋)に、日本が入って行こうとしているのです。

 悪のスパイラルは断ち切らねばなりません。そのためにも、ウクライナ、中東・パレスチナの戦闘・戦争を一刻も早くやめさせることです。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする