








尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の罷免を決めた歴史的な憲法裁判決から一夜明けた5日。午後4時からソウルの中心、光化門(カンファムン)前で民主派の集会があると聞いたので向かった。
少し早めに着いたら、思いがけず尹支持派の集会も光化門の南のソウル市庁舎付近で行われていたのに出くわした。
偶然、両陣営(と同列に形容することは正しくないが)の集会を見ることになり、その違いを痛感した(尹支持派の集会は短時間見ただけだが)。
尹支持派の集会(写真7~9)は人数の多さに圧倒された。巨大スクリーンを3つも使い、道路幅いっぱいに100㍍以上続いていただろう(このうちどのくらいが自発的な参加なのだろうか)。
一見した雑駁な感想だが、参加者の特徴は高齢者が多いこと。スクリーンに映し出される舞台上の演説は、諸団体の幹部と思われる男性が多く、力強くはあるが、絶叫調であること。そして、太極旗(韓国国旗)とともに星条旗が目立ったこと。なぜかイスラエル国旗まであった。
民主派の集会は様相が一変した。
若者が多い。女性が多い。司会も若い男女だ。家族連れが多い。家族連れといっても小さな子を連れた家族だけではない。若い(10代と思われる)娘と母親、中年の娘・息子と高齢の母親。そんな家族連れを方々で見た。まるで週末の遊園地のようだ。
歌と音楽が絶えない。これが日本でニュースや雑誌で見た、読んだ「まるでコンサート」と言われる集会か。実際にその場にいて感じたのは、歌や音楽(バンド演奏)が政治集会にマッチしていることだ。演奏者は参加者と一体となり、歌・音楽が参加者を励ました。
各界代表のスピーチ(内容は分からないが)も、若い人がほとんどだ。団体の幹部と思われる高齢男性はいなかったと思う。スピーチの合間に、バンド演奏や歌、参加者との合唱が入る。歌・音楽の力を改めて感じた。
この日は朝から雨だったが、集会が始まって1 時間(5時)ごろには雨脚が強くなってきた。座っていられないくらい。立ち上がって避難する人もいたが、それでも座り続けている人たちも少なくなかった(写真4)。カッパを着て傘をさして寄り添って声援を送っている目の前の母娘(おそらく)の姿に胸が熱くなった(写真5)。
4月といってもソウルの雨の夕暮れは肌寒い。それでも6時半に散会するまで集会の熱気は冷めなかった。いや、かえって熱くなった。最後は全員でスローガンの合唱だ。
スローガンやスピーチの内容は分からなかったが、「ミンチュチュギ」(民主主義)と「ウリ」(私たち)が多用されていることは聞き取れた。
会場で配られたプラカード(写真6)には、「民主主義が勝利した」「内乱勢力 清算しよう」と書かれている、と帰って辞書で調べて分かった。
こんな政治集会、初めて目の当たりにした。このパワー、エネルギーはどこから生まれるのだろう。
この日のハンギョレ新聞の社説がこう書いている。
「2017年の朴槿恵(パク・クネ)元大統領に続き、8年後に2回目の大統領罷免となったことは、国家的な不幸だ。しかし、2回の大統領弾劾は、市民の常識と憲法的熱望の勝利という点で、われわれの誇りであり希望でもある。反動を勝ち抜いた源泉は、主権者である国民だ。尹錫悦や極右勢力、与党政治家たちが詭弁と扇動で惑わしても、国民は揺らぐことなく、「憲法守護」の声を上げた。民主主義が危機に直面するたびに、これを救ったのは、いつも市民だった」(日本語電子版)
この言葉の意味の一端が、分かったような気がした雨の中の集会だった。