斎藤元彦前知事の失職に伴う兵庫県知事選挙が17日行われます。全国的に注目されていますが、問われるべき争点は何なのか、肝心の問題があいまいになっていると言わざるをえません。
斎藤氏が失職に至るまで、メディアはその動きを大きく取り上げてきましたが、もっぱら斎藤氏のパワハラと居直りに焦点を当ててきました。パワハラはたしかに軽視できませんが、根源的な問題は別にあります。それは「公益通報制度」の不備です。
事態の本質は、県職員が公益通報者保護法(2006年施行)と兵庫県の職員公益通報制度に基づいて斎藤氏のパワハラや「おねだり」を内部告発したのに対し、斎藤氏が「通報者捜し」(探索)を行い、告発した職員を「守秘義務違反」で懲戒処分した(5月)ことです。職員は死をもって抗議しました(7月)。
公益通報者に対する「通報者捜し」「懲戒処分」という不当がまかり通っているのは兵庫県だけではありません。
今年4月には、鹿児島県警の相次ぐ不正(性暴力など)を内部告発した巡査長や県警生活安全部長が「探索」され、「守秘義務違反」で逮捕されるという事件が起きたばかりでした。
公益通報者保護法の「指針」では「探索」を禁じています。にもかかわらずあとをたたず全国で横行しているのはなぜでしょうか。
片山善博大正大特任教授(元総務相)はこう指摘します。
「そもそも公益通報者保護法は公益通報した者がそれによって解雇などの不利益を被ることがないように保護する仕組みである。その前提となる公益通報とは国民・消費者の安全を守ることをもっぱらにしている。…(ところが)せっかくの制度が知事やその側近によって、いとも簡単に踏みにじられているのが現状である。しかも踏みにじったからといって罰則が科せられるわけでもない。これでは「名ばかりの公益通報」というほかない…組織の長や幹部がそれを踏みにじった場合には相応の罰則を伴う仕組みにしなければならない」(「兵庫県政の混乱から得るべき教訓」、「世界」9月号所収)
京都新聞(9月30日付)は、「京都市でも公益通報した後、市から懲戒処分を受けた男性職員(53)がいる」と報じました。
「男性職員は「内部告発者への報復が繰り返されている」と嘆き、「通報者捜しをした組織に対し、厳しい罰則を設けないと何も変わらない。(兵庫県の事態は)本当に身につまされる」と胸を痛めている」(9月30日付京都新聞)
「探索」を禁じているのは「通達」であり、公益通報者保護法の条文自体ではありません。しかも罰則がありません。保護法の条文に「探索禁止」を明記し、違反には罰則を科すことが最低限必要です。兵庫県であれば、現在の県職員公益通報制度にそれを明記すべきです。
公務員や企業社員の公益通報(内部告発)は、市民・消費者の利益を守り、行政・企業内の民主主義を守るために必要不可欠な制度です。勇気をもって告発した人が不利益を被らないよう制度改革するのは市民の責任です。兵庫知事選で問わなければならない最大の問題はこれです。