アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

「やまゆり園事件」と優生思想と戦争

2024年07月27日 | 事件と政治・社会・メディア
   

 相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら45人が殺傷された事件から8年の26日、「事件が私たちに問いかけていることは何か」を考える講演会が京都市東九条でありました。講師は藤井渉・日本福祉大准教授(障害者福祉、東九条在住)。

 藤井氏の話でとくに印象的だったのは、事件と優生思想と戦争の関係です。

 裁判で植松聖死刑囚は「意思疎通がとれない障害者は不幸を生む」と述べました。事件後SNSにも「先天的障害者は社会のお荷物」などの書き込みがありました。

 藤井氏は「障害を、後天性と先天性で区別し、役立つかどうかで差別化するという認識は、まさに戦時期に強く見られたもの」と指摘し、以下のように論述しました。

 役立つかどうかによる差別化を制度化したものが「徴兵検査」である。それによって「甲乙丙丁」の4種に序列化され、「最下位」の「丁種」とされたのが障害者だった。

 障害者でも戦力になりえる者(例えばマッサージ師として空母に乗船させられた視覚障害者)は保護し、そうでない者は「自宅監置」などで隔離・排除された。「監置」された障害者が空襲でどのくらい犠牲になったのかの調査・研究はすすんでいない。

 1940年に「国民優生法」が制定された。それが「国民体力法」とセットだったことが重要だ。「国民体力法」によって学校では「林間学校」や「知能検査」が制度化された。

 同じ40年、ナチス・ドイツでは「T 4作戦」が実施され、1年余で障害者20万人以上が精神病院などで殺害された(T4とは実施本部があった地名)。ナチスはその蛮行を正当化するために優生学を利用した。

 優生思想はもともと約100年前に(ドイツではなく)イギリスとアメリカを拠点に世界的にまん延した。「社会的価値・コスト」という視点から「優秀ならざる者の剪除(せんじょ=切って取り除く)」が主張された。

 「徴兵検査」はまさにその優生思想にもとづくものだったが、優生学を日本にもたらしたのは福祉の研究者だった。海野幸徳著『社会事業とは何ぞ』はその代表である。

 戦後、「優生保護法」が議員立法で制定され(1948年)、入所施設では不妊手術が強制された。それが憲法違反と断定されたのは先日(7月3日)のことである。

 藤井氏はこう問題提起しました。

「戦争で人が序列化され、障害者が差別化されてきたこと。ナチスが障害者を「慈悲」などとして殺害したこと。戦後は福祉現場で障害者に優生手術が行われてきたこと。そして、福祉の元職員が「善いこと」だとして19人を殺害したこと。これらに重なるものは何だろうか?」

 あらためて振り返ってみれば、事件が起きたのは、安倍晋三政権が集団的自衛権を容認する戦争法(安保関連法)を強行成立(15年9月19日)させた10カ月後でした。

 障害者の序列化・差別化・排除と戦争を推進する政治(国家)の政策、そしてそれを容認する社会(市民)の空気―その関連性・親和性にあらためて目を向けなければならないと痛感します。



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「日本選手」とは?「国籍」で分類する五輪の国家主義

2024年07月26日 | 五輪と国家・政治・社会
   

 田中美南(女子サッカー)、笹生優花(ゴルフ)、張本智和(卓球)、大坂なおみ(テニス)―この4選手の共通点な何でしょうか?
 答えは、パリ五輪の「日本選手団」の中で親(一方あるいは両方)が外国人(外国籍)の選手です。

 パリ五輪の「日本選手団」は404 人ですが、そのうち、上記の4人を含め、親が外国人(外国籍)の選手は、私の集計では31人(7・7%)にのぼります(名前や出生地からの判断なので実際はもっと多いかもしれません)。

 親が外国人(外国籍)ということは本人も外国籍であったけれど、五輪へ向けて日本国籍を取得した選手も少なくありません。笹生優花選手(写真中)は前回の東京五輪には母の国であるフィリピンの代表として出場し、21年に日本国籍を取得しました。

 「日本選手」とは「日本国籍を持つ選手」のことです。「日本選手」として五輪に出場するためには日本国籍が必要なのです。それは、五輪憲章が「出場する競技者は、参加申請を行うNOC(各国の五輪協会)の国の国民でなければならない」(規則41「競技者の国籍」)と規定しているからです。

 しかし、五輪は本来「国家」のものではなく「個人」のものだという建前です。五輪憲章の「オリンピズムの根本原則」は、「スポーツをすることは人権の 1 つである。 すべての個人は…いかなる種類の差別も受けることなく、スポーツをすることへのアクセスが保証されなければならない」とうたっています。

 競技者を「国籍」で分類することは「オリンピズムの根本原則」にも反しており、国家が五輪を「国威発揚・国力誇示」に利用する国家主義の根幹です。

 この点で、日本人が忘れてならないのが、孫基禎(ソン・ギジョン)選手の「日の丸抹消事件」(1936年)です。

 ヒトラーがナチスドイツの「国力誇示」に最大限利用した第11回ベルリン五輪(1936年)。日本は植民地支配していた朝鮮から孫選手をマラソンに出場させました。孫選手は見事優勝しましたが、表彰式では「日の丸」が揚げられ、「君が代」が流されました。その模様を報じた「東亜日報」は表彰台の孫選手の写真から胸の「日の丸」を消して朝鮮民族としての抗議の意思を示しました(写真右)。
 孫選手は後に、「「日の丸」が上がり「君が代」が演奏されることがわかっていたら、私はベルリンオリンピックで走らなかっただろう」と語っています(自伝『私の祖国、私のマラソン』1983年)。

 ベルリン五輪はヒトラーだけでなく、天皇裕仁を頂点とする帝国日本が国威発揚と植民地支配強化に最大限政治利用した場でもあったのです。(2019・7・30、20・3・5のブログ参照)

 オリンピックを続けるなら、少なくとも国家主義を一掃すべきです。アスリートを「国籍」で分類することなく、したがって表彰式での「国旗掲揚」「国歌演奏」も廃止し、あくまでも個人と団体が競い合う場にしなければなりません。


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米国だけではない、都知事選にみる日本の選挙の危機

2024年07月25日 | 日本の政治・社会・経済と民主主義
 

 アメリカの大統領選挙は、政策論争そっちのけで、バイデン・ハリス陣営とトランプ陣営の非難合戦の様相です。「民主政治の危機」と言われています。

 これはけっしてアメリカだけの現象ではありません。日本の(国政)選挙も重大な危機に瀕しています。先の東京都知事選はそれを端的に示す場となりました。

 蓮舫氏をしのいで165万票以上を獲得し2位となった石丸伸二氏。陣営の選対事務局長を務めた藤川晋之助氏(70)が朝日新聞のインタビューに答えてその躍進の“秘密”を明かしています。藤川氏は自民党議員秘書を経て大阪市議、後に選挙プランナーとして民主党・小沢グループや日本維新の選挙をサポートしてきました。

< 街頭演説を200回超やったが、特徴的なのは、細かい政策を全く言わないことだった。…政治の現場を知る人たちからは「中身がない」と批判ばっかりだった。だが、彼はそれを含めてわかってやっている。

 彼は「長い時間演説し、政策を主張したって、今までの政治家は政策や公約を守ったことあるのか」と言う。有権者が本気になって政策を見て、「この政策こそ必要だ」として投票するような選挙に、今は全くなっていない。

 (民主党政権から安倍晋三政権をへて)自民党にも立憲民主党も投票したくないという層が確実に存在するようになった。

 本来なら政策で勝負するけれど、政策で勝負しても全然意味がない。今までの有識者、政界の人たち、マスコミも含めてそういう政治のムードを作ってきてしまった。そこを直感的に理解した石丸氏だからこそ、ユーチューバーとして無党派層にアプローチするという本領を発揮できた選挙だった。>(12日付朝日新聞デジタルより。写真左は石丸氏の街宣)

 こうした指摘は藤川氏だけではありません。自民党政権を厳しく批判する作家の黒川創氏もこう述べています。

「若い世代は、当初から「政策」に期待など抱かず、SNS中心のゲーム感覚で候補者を応援したりもする。ただし、この種の政治行動で特徴的なのは、「政策」への賛否をめぐる議論の空白を、候補者の「キャラ」への推し(心酔)が埋めていくことである」(24日付京都新聞夕刊)

 「政策」への不信・無関心。「政策の空白」をうめる候補者の「キャラ」への「推し」。それがSNSで加速・拡散される。確かにこれは日米共通の、あるいは欧州を含むいわゆる「民主政治」全体の現象であり危機でしょう。

 ではどうするのか。藤川氏も黒川氏もその点は言及していませんが、この「政策離れ」は克服し、「政策で勝負する」選挙に変えていかねばなりません。

 そのカギは多様な意見・政策・思想が政治(国会の議席)に反映されるしくみに変えることです。制度的には小選挙区制を廃止して全面的な比例代表制にすることです。

 「政策離れ」の背景には藤川氏が指摘するように、「今まで政策や公約を守ったことがない」政治家・政党への不信がありますが、されに根源的には、自民党から立憲まで、あるいは共産党も含め、政策的な違いが(ほとんど)なくなって政治(国会)が翼賛化している問題があります。

 政治がマジョリティー中心で、マイノリティーの声が無視されているのです。アメリカやイギリスの「二大政党制」はその典型です。
 政治にマイノリティーの声を生かす。それこそが本当の「民主政治」ではないでしょうか。



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報道されない独「平和少女像」撤去へ日本政府圧力

2024年07月24日 | 侵略戦争・植民地支配の加害責任
   

 韓国の市民団体がドイツ・ベルリン市に設置した「平和の少女像」(写真左=ハンギョレ新聞より)が撤去の危機に瀕しています。撤去へ圧力をかけ続けたのは日本政府(自民党政権)です(写真中は撤去に反対する韓国・ドイツ市民=2020年)。

 最新の状況をハンギョレ新聞(22日付日本語版デジタル)はこう報じています。

「ドイツ・ベルリンの平和の少女像を管轄する行政区であるミッテ区が、少女像を建てた市民団体「コリア協議会」に対し、今年9月までに像を撤去しなければ過料を科すとの方針を直接伝えてきたことが21日に分かった。ミッテ区では市民社会と区議会が何度も少女像存置決議をあげるなどの努力がなされてきたが、区は従来の方針を守るとの立場であるため、対立は強まるとみられる」

 不可解なのは、同区長があくまでも「少女像」を撤去させようとしている一方、「来年4月までにミッテ区内にすべての戦時性暴力の被害者のためのシンボルを設置する」としていることです。
 コリア協議会のハン・ジョンファ代表は、「少女像の意味は消し去り、すべての被害者のための記念碑を設置するということ自体が矛盾」(同上ハンギョレ新聞)だと語っています。

 区長はなぜこうした矛盾した行動をとるのか。とにかく「少女像」を撤去することが日本政府の再三の要請だからです。

 日本政府がいかに圧力をかけてきたか、表面化した主なものだけでも次の通りです。

▶2020年9月28日 「少女像」をベルリン市ミッテ区に設置(公共敷地に設置は初)
▶ 同 9月29日 加藤勝信官房長官(当時)が会見で「撤去へあらゆるアプローチをする」と表明
▶ 同  10月1日 茂木外相(当時)がドイツ外相に撤去要求
▶2022年4月28日 岸田首相が来日したショルツ独首相に撤去を要求
▶2024年5月16日 上川外相が来日したベルリン市長に撤去を要求
(20・10・10、同10・15、同12・5、22・5・19、24・5・30のブログ参照)

 そして今回のミッテ区の過料通達は、「今月12日に岸田首相がドイツを訪問してショルツ首相と首脳会談(写真右)を行う前に」(同上ハンギョレ新聞)行われたものとみられます。

 一連の日本政府の策動が許されないことは言うまでもありません。同時に(あるいはそれ以上に)問題なのは、こうした経過を日本のメディアがほとんど報道しないことです。結果、ほとんどの日本市民はこの事実を知らないでしょう。

 日本政府が「少女像」の撤去に執念を燃やすのは、「少女像」が戦時性暴力の被害者、とりわけ帝国日本軍による性奴隷(「慰安婦」)の被害を象徴しその罪を告発するものだからです。

 安倍晋三元首相をはじめ歴史修正(改ざん)主義者らはその歴史的事実を隠ぺいし加害責任にほうかむりするため、「少女像」を目の敵にし、世界各地で撤去へ圧力をかけてきました。

 こうした事実、その意味を報道しないメディアは、日本政府と同じ立場に立っていると言わざるをえません。そして、「知らない」日本市民は無意識のまま、歴史修正主義者らに取り込まれているのです。

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「徴兵」と「自衛隊員不足」と「マイナンバー」

2024年07月23日 | 国家と戦争
   

「14日、ウクライナの首都キーウ郊外で、軍事警察が通りすがりの男性たちを捕まえた。遠くにいた男性たちは近くの商店や別の道に逃れた。――ロイター通信が報じたこのような「路上徴兵」の場面は、ロシアの侵攻を受けているウクライナが直面する兵力不足現象を端的に示している」(18日付ハンギョレ新聞日本語電子版)

 ウクライナでは5月に動員法が「改正」され、徴兵の下限年齢が27歳から25歳に引き下げられました。さらに、16歳~60歳の男性の個人情報を軍に登録することが義務付けられました。

 ウクライナ調査会社の世論調査では、この動員法「改正」を「支持しない」人は52%にのぼっています(20日のNHKニュース)。

「戦争に対する国民の不満も高まっている。男性たちは徴兵を逃れようと賄賂を渡して国外に逃れ、キーウでは約20万人の男性が徴兵官を避けるアプリを使っていると、BBCなどが最近報道した」(同ハンギョレ新聞)

 「兵力不足」はもちろんウクライナだけではありません。ロシアでもイスラエルでも深刻な問題になっています。
 膨大な死亡による兵力の不足、それを補う兵力確保、そのための徴兵強化、それは戦争当事国の宿命です。

 戦争当事国では(今のところ)ありませんが、深刻な「兵力不足」に陥っているのが自衛隊です。

 防衛省が8日発表した2023年度の自衛官の採用状況によれば、1万9598人の募集に対し採用は9959人。採用率50・8%は過去最低でした。「自衛隊は約24万7千人の定数に対し実数が約2万人不足している状態」(8日付朝日新聞デジタル)です。

 自民党・防衛族からは、「防衛力の抜本的強化と言っても人がいないと、骨太筋肉質の自衛隊ではなく…人的有事だ」(佐藤正久参院議員・元陸上自衛官、5月9日の参院外交防衛委員会=6月16日付朝日新聞デジタル)との声が上がっています。

 危機感を強めた防衛省は8日、省内に「人的基盤の抜本的強化に関する検討委員会」(委員長・鬼木誠防衛副大臣)を設置し、8月下旬に報告書を公表するとしています。

 少子化の中でますます困難になっている自衛官の確保。岸田政権が閣議決定した「軍拡(安保)3文書」でも「人的基盤の強化」が掲げられており、「(自衛官)募集能力の一層の強化を図る」としています。

 そこで想起されるのが「マイナンバーカード」です。自民党政権が普及に躍起になっている「マイナンバーカード」は、自衛隊の「兵力不足」と果たして無関係でしょうか。

 自衛官の「募集能力の一層の強化」のためには、所得や家族構成、病歴・健康状態を含め、「国民」の「個人情報」を細部にわたって全面的に把握する必要がある。この先なんらかの形で「徴兵制」を導入する場合はなおのこと。それが「マイナンバーカード」の一元的普及を図る政府の思惑ではないでしょうか。

 岸田自民党政権は「ウクライナはあすの日本かもしれない」とさかんに喧伝して大軍拡を図っています。その論法によれば、「国を守る」自衛隊員(兵力)不足を補うためになんらかの形での「国民動員」(実質的徴兵)を図ってくる危険性がないとは言い切れないでしょう。

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