アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

兵庫県知事選で問うべきは「公益通報制度」改革

2024年11月12日 | 日本の政治・社会・経済と民主主義
  

 斎藤元彦前知事の失職に伴う兵庫県知事選挙が17日行われます。全国的に注目されていますが、問われるべき争点は何なのか、肝心の問題があいまいになっていると言わざるをえません。

 斎藤氏が失職に至るまで、メディアはその動きを大きく取り上げてきましたが、もっぱら斎藤氏のパワハラと居直りに焦点を当ててきました。パワハラはたしかに軽視できませんが、根源的な問題は別にあります。それは「公益通報制度」の不備です。

 事態の本質は、県職員が公益通報者保護法(2006年施行)と兵庫県の職員公益通報制度に基づいて斎藤氏のパワハラや「おねだり」を内部告発したのに対し、斎藤氏が「通報者捜し」(探索)を行い、告発した職員を「守秘義務違反」で懲戒処分した(5月)ことです。職員は死をもって抗議しました(7月)。

 公益通報者に対する「通報者捜し」「懲戒処分」という不当がまかり通っているのは兵庫県だけではありません。

 今年4月には、鹿児島県警の相次ぐ不正(性暴力など)を内部告発した巡査長や県警生活安全部長が「探索」され、「守秘義務違反」で逮捕されるという事件が起きたばかりでした。

 公益通報者保護法の「指針」では「探索」を禁じています。にもかかわらずあとをたたず全国で横行しているのはなぜでしょうか。

 片山善博大正大特任教授(元総務相)はこう指摘します。

「そもそも公益通報者保護法は公益通報した者がそれによって解雇などの不利益を被ることがないように保護する仕組みである。その前提となる公益通報とは国民・消費者の安全を守ることをもっぱらにしている。…(ところが)せっかくの制度が知事やその側近によって、いとも簡単に踏みにじられているのが現状である。しかも踏みにじったからといって罰則が科せられるわけでもない。これでは「名ばかりの公益通報」というほかない…組織の長や幹部がそれを踏みにじった場合には相応の罰則を伴う仕組みにしなければならない」(「兵庫県政の混乱から得るべき教訓」、「世界」9月号所収)

 京都新聞(9月30日付)は、「京都市でも公益通報した後、市から懲戒処分を受けた男性職員(53)がいる」と報じました。

「男性職員は「内部告発者への報復が繰り返されている」と嘆き、「通報者捜しをした組織に対し、厳しい罰則を設けないと何も変わらない。(兵庫県の事態は)本当に身につまされる」と胸を痛めている」(9月30日付京都新聞)

 「探索」を禁じているのは「通達」であり、公益通報者保護法の条文自体ではありません。しかも罰則がありません。保護法の条文に「探索禁止」を明記し、違反には罰則を科すことが最低限必要です。兵庫県であれば、現在の県職員公益通報制度にそれを明記すべきです。

 公務員や企業社員の公益通報(内部告発)は、市民・消費者の利益を守り、行政・企業内の民主主義を守るために必要不可欠な制度です。勇気をもって告発した人が不利益を被らないよう制度改革するのは市民の責任です。兵庫知事選で問わなければならない最大の問題はこれです。


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ウクライナ戦争「北朝鮮の参戦」が示す2つの道

2024年11月11日 | 国家と戦争
  ウクライナ戦争への朝鮮民主主義人民共和国(以下、共和国)の「参戦」をめぐって情報戦が繰り広げられています。

 ゼレンスキー大統領は10月16日の最高会議の演説で、「ロシアによる侵攻に北朝鮮が「参戦している」と述べた」(10月17日付京都新聞=共同)のに続き、4日の声明で、「「ロシア西部クルスク州に「1万Ⅰ千人の北朝鮮兵がいる」と指摘」(6日付京都新聞=共同)しました(写真は「ロシアに派遣された北朝鮮軍」としてウクライナが発表した映像)。

 さらに5日の声明では、「北朝鮮との戦闘は「世界の不安定化の新たなページを開く」…「対抗措置は十分で、強力でなければならない」と述べ、各国に支援を呼びかけ」(7日付京都新聞=共同)ました。

 一方、「韓国大統領室は6日、「ロシアに派遣された北朝鮮軍がウクライナ軍と初めて交戦した」というウクライナ政府の公式発表を否定」(7日付ハンギョレ新聞日本語電子版)しました。

 ハンギョレ新聞には次のような記者コラムが掲載されました。

「ウクライナは北朝鮮軍の派遣と参戦を積極的に広める。その理由は、ゼレンスキー大統領の発言によってあらわになる。彼は、派遣された北朝鮮軍は脅威だと述べつつ、先制攻撃が行えるよう、西側が支援した長距離兵器でロシア領内を攻撃することを認めるよう要請する。西側がこれを認めれば、西側の人材がウクライナに公式に派遣されなければならない」(9日付ハンギョレ新聞)

 
 「北朝鮮参戦」の実態はまだはっきりしませんが、ゼレンスキー氏がこれを強調する意図はハンギョレ新聞の指摘通り明確です。

 ロシアと共和国は、「包括的戦略パートナーシップ条約」を結んでいます。その第4条では、一方が戦争状態になった場合は「遅滞なく保有するすべての手段で軍事的およびその他の援助を提供する」と定めており、共和国がウクライナ戦争に「参戦」しても不思議ではありません。

 こうした動向をけっして拱手傍観することはできません。

 「北朝鮮の参戦」がウクライナ戦争の新たな拡大であることは明白です。同時に、それは共和国がロシアの戦争に加わることであり、共和国自身にとっても、そして東アジアにとってもきわめて重大な問題です。

 この現実を前にして、2つの道の選択が迫られています。

 1つは、ゼレンスキー氏が要請しているように、NATO・日本、韓国を含む西側諸国がウクライナへの軍事支援をさらに強化してロシア・共和国に対抗する道。

 もう1つは、戦争が新たな拡大をしないうちに一刻も早く停戦する道です。

 戦争の犠牲者をこれ以上出さないために、どちらの道を選択すべきか明白です。

 共和国の核軍拡・軍事国家化の根源には日本の植民地支配の歴史と日米軍事同盟(安保条約)があります。私たち日本人がこのことを忘れることは許されません。

 ウクライナ戦争の即時停戦はロシアの軍事侵攻直後からの課題ですが、共和国の「参戦」が現実になろうとしている(なっている)今、それは文字通り喫緊の課題です。


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日曜日記327・それでも日本共産党にこだわる

2024年11月10日 | 日記・エッセイ・コラム
  あす(11日)開かれる特別国会の首班指名で、日本共産党はおそらく立憲民主党の野田佳彦代表に投票するだろう。総選挙で共産党に一票を投じた有権者・支持者への背信行為だ。

 共産党は、天皇が「お言葉」なるものを述べる国会開会式に出席したり、機関紙「しんぶん赤旗」に元号表記を復活させるなど、目に見える変質を続けてきた。

 また、「天皇制廃止」「日米安保条約廃棄」「自衛隊解散」など従来の中心政策を軒並み実質棚上げしてきた。今回の総選挙政策では、「安保条約廃棄」だけでなく「軍事費削減」の旗まで降ろしてしまった。これは一見して分かりづらいが、より深刻な変質だ。病膏肓(こうこう)に入る。

 しかし、それでも共産党にこだわる。

 共産党に入党したのは、大学2回生の1974年だった。ちょうど半世紀前だ。
 卒業後は専従活動家(共産党中央委員会勤務員)になった。約20年間の共産党員生活は、文字通り「党と革命の事業」に心血を注いだものだった。

 その間、公私にわたって失ったものは小さくない。最大の後悔は、ものの見方・考え方が狭くなったことだ。「民主集中制」という組織原則が根源にあるが、自分の不勉強・努力不足ももちろんある。振り返れば後悔の多い20余年だった。

 それでも、共産党にこだわるのはなぜだろう。

 友人の多くが共産党員であることは大きな要素だが、それだけではない。

 友人たちを含め、共産党員には、自分や家族の幸福を社会の民主的な発展の中で実現しようと考えている人たちが少なくない。そういう人たちが大半と言って過言でない。そうでなければ共産党員にはならないだろう。その人生観は間違いなく貴重で尊い。

 いまの日本・世界に明るい展望を持つことは難しい。残念だが、展望が切りひらけないまま人生を終えることになるだろう。子や孫の世代に申し訳ない。

 この閉塞した世の中を変えることができるとすれば、いや、変えなければならないのだが、その力は、やはり、自分の生活を社会のあり方に繋げ、自分や家族の幸福を社会の、世界の人々の幸福につなげる思想とそのための行動だろう。「幸福の連帯感」(哲学者・真下信一の言葉)だ。

 だからこだわる。日本共産党の党員と支持者にこだわる。その思想と行動の可能性に期待する。

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映画が追及する「カネミ油症事件」の真実と謎

2024年11月09日 | 事件と政治・社会・メディア
   

 「カネミ油症事件」。言葉は聞いたことがあってもその内容、経過を知る人は多くないでしょう。ましてそれが過去のことではなく、今なお多くの謎を含んでいることはあまり知られていない、知らされていないのではないでしょうか。

 そんな日本社会(マスメディア)に一石を投じたのがドキュメンタリー映画「母と子の絆~カネミ油症の真実」(監督・プロデュース=稲塚秀孝氏)です。京都市内では8日に公開されました。

 「カネミ油症事件」とは何か。

「森永ヒ素ミルク事件(1955年)、熊本水俣病事件(公式確認1956年)とともに、日本の三大食中毒事件の一つ。初めて公にされたのは、1968年10月10日付朝日新聞夕刊で、「正体不明の奇病が続出」と報道された。
 原因は、鐘淵化学工業(鐘化、現在のカネカ)が製造したPCB(ポリ塩化ビフェニル)が、カネミ倉庫(北九州市)製造の米ぬか油(写真中)に混入し、それを摂取したこと。福岡、長崎、山口、広島など西日本一帯で皮膚疾患、内臓疾患、免疫疾患、神経疾患など様々な症状を訴える被害者が続出。その数は約1万4000人。被害者は今も苦しみが続いている」(映画パンフレットより)

 この事件が現在進行形だというのは、第1に患者認定が遅々として進んでいない(国がすすめていない)ことです。厚労省が発表した最新の認定患者は2377人(2024年3月31日現在)。発症者(約1万4000人)の2割弱にすぎません。申請していない潜在的被害者数はいまだに不明です。

 第2に、カネミ油の毒(PCBに含まれるダイオキシン類)は母体から胎盤を通して生まれる子どもに移り、子どもは短命であったり病気がちであるにもかかわらず、患者認定されていないことです。

 そして、事件は発生当時から不条理と謎に包まれています。

 食中毒事件であるにもかかわらず、食品衛生法に基づく保健所への届け出がなされなかった(食品衛生法に基づいて処理されていれば認定は不要)。

 最初の報道から4日後に、九州大学医学部の教授らによって「油症研究班」が編成。以来、国(厚労省)と九大医学部が連携して患者認定を抑制してきた。

 患者認定は、検診→診断(九大油症班)→診定(診定委員会)→認定(知事)の4段階で行われる。診定委員会はメンバーも非公開というブラックボックス。不認定でも異議申し立てもできない。

 原因物質はPCBと分かっているが、それがどうして油に混入したのかはいまだに不明(「ピンホール説」か「工作ミス説」か)

 映画製作に協力し出演もしている原田和明氏(北九州市立大学)は、「複雑な「認定制度」といい、汚染原因の歪曲といい、カネミ油症事件は単なる「食中毒事件」ではなさそうだ」(映画パンフレット)と指摘しています。

 原田氏はパンフレットではここまでしか述べていませんが、自著『ベトナム戦争 枯葉剤の謎』(飛鳥出版2024年5月)では、三菱モンサント化成がPCBの国内製造を開始したのが事件発覚の翌年(1969年)であったことや、それまでカネミとは取引がなかった離島に突然事故油が持ち込まれたことなどをあげ、「人体実験疑惑」を指摘しています。

 こうした疑惑の究明とともに、なによりも重要なのは、苦しみ続けている被害者の認定を抜本的にすすめること、あるいは症状がありながら申請をためらっている被害者を救済することです。

 映画上映のあと舞台挨拶した稲塚監督(写真右)は、認定をすすめる上で“母と子の絆”である「へその緒」の検査が決定的なカギを握っていると強調しました。国や九大がやろうとしないので、監督は自ら被害者の岩村定子さんの3人の子どもの「へその緒」を預かり、自費で民間の機関に検査を依頼しました。

 その結果が先月22日に報告され、母体から胎盤を通して毒性物質が移行したことが明確になりました。
 稲塚監督は、「今後、国と九大油症治療班に対し、へその緒検査を推進するよう働きかけねばならない」と述べるとともに、「周りのかたがたに「カネミ油症事件」を伝えていただきたい」と訴えました。

 「食品公害」をめぐる国の不条理・被害者切り捨て、企業、大学と一体となった事件の矮小化・隠ぺい、枯葉剤と通底するPCBの製造―「カネミ油症事件」は多くの問題を突き付けています。このまま闇に埋もれさせることはできません。

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天皇が「ロ大統領にお言葉」の政治関与・戦争介入

2024年11月08日 | 天皇制と憲法
  

 アメリカ大統領選挙の報道で持ち切りの7日付朝刊(京都新聞)国際面最下段に、見過ごすことができない記事(共同通信配信)がありました。

「天皇陛下、ロ大統領にお言葉 信任状奉呈式で大使が伝達」。以下抜粋です。

<【モスクワ共同】日本の武藤顕駐ロシア大使が5日、モスクワのクレムリンでロシアのプーチン大統領に信任状を手渡した際、天皇陛下のお言葉を伝達していたことが分かった。在ロシア日本大使館が共同通信の取材に答えた。日本大使館は「やりとりの内容は明らかにできない」としており、伝達されたお言葉の内容は不明。

 2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は今月中旬で千日を迎える。これまで天皇陛下はあらゆる機会に世界平和への願いを表明されている。

 5日は新任大使28人によるプーチン氏への信任状奉呈式が実施された。会話が一切ない大使も多い中、武藤氏は記念撮影の間も含め、プーチン氏と短時間、言葉を交わす様子が国営テレビで生中継された。>(7日付京都新聞)
 
 日本大使館が「内容は明らかにできない」としているため「お言葉の内容は不明」としていますが、記事の流れから、徳仁天皇のプーチン氏へのメッセージは、「ロシアによるウクライナ侵攻」すなわちウクライナ戦争に関するものであったことは間違いないでしょう。記者はそれを知っていながら、大使館との関係で明記はせずそれとなく示唆したものとみられます。

 これは重大な問題です。なぜなら、ウクライナ戦争は言うまでもなく現在の最大の政治問題であり、それに関して天皇が発言することは、「天皇は…国政に関する権能を有しない」(第4条)と天皇の政治関与を禁じている憲法に対する明白な蹂躙だからです。

 しかも、たんなる政治的関与ではありません。戦争の当事国の元首にメッセージを伝えることは、戦争への介入にほかなりません。

 今回は信任状奉呈式のもようがテレビで生中継されたため「メッセージ」の事実が明るみになり新聞記事にもなりましたが、中継されていなければおそらくこの事実は知られることがなかったでしょう。

 天皇は主権者である市民が知らないうちに、報道されない所で、今回のように政治的発言・関与を頻繁に行っているのではないか、という疑念が深まります。

 天皇の政治関与を禁じている現憲法の規定が、天皇主権の大日本帝国憲法の反省の上に立ったものであることは言うまでもありません。その憲法規定が天皇と政府によって蹂躙されていることは、「象徴天皇制」の危険性を露呈したものであり、絶対に看過することはできません。

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