リニア中央新幹線の建設をめぐる静岡県・川勝平太知事とJR東海・金子慎社長の会談(6月26日、写真右)は不調に終わりました。「リニアよりも(大井川の)水」という川勝知事の主張はきわめて当然です。ただ、川勝氏も「リニアそのものには反対ではない」と言っていますが、リニア自体、不要であるばかりか弊害物以外の何物でもありません。それは「コロナ後」の社会においていっそう明確です。
そもそも膨大な経費がかかるリニアは、安倍政権の特別の優遇措置があって動きだした計画です。
「安倍政権は、JR東海が低金利で資金調達できる環境を整えるなどしてリニアの早期整備をサポートしてきた。…財政投融資で調達した3兆円を融資している」(6月27日付共同配信)
この優遇の背景には、JR東海のドン・葛西敬之名誉会長と安倍首相の特別の関係があります。産経新聞「正論」の常連執筆者でもある葛西氏は、思想的にも安倍氏と近く、たびたび会食するなど、安倍氏を支える財界人の1人です。リニアはいわば安倍人脈事業の1つです。
「コロナ」との関係では、2つの視点からリニアを見直す必要があります。
1つは、「東京一極集中」の是正です。
「新型コロナウイルスはこの社会のシステムの欠陥を明らかにした。被害の特徴は公害と似ている。公害は年少者・高齢者・障碍者等の生物的弱者と社会的弱者に集中するので、自主責任に任せず社会的救済が必要である。…(コロナ対策も―引用者)まずは公衆衛生を軸とする医療体制の改革であるが、根底は被害を深刻にした東京一極集中の国土と文明の変革である。(中略)
大東京圏をこのままにすれば、国土の社会経済の破綻は避けがたいことが今回はっきりした。…国土の環境を破壊し大東京圏集積を進めるリニア新幹線建設をまず、中止するべきではないか」(宮本憲一大阪市立大名誉教授・環境経済学、「図書」6月号岩波書店)
「私は『都市集中から地方分散へ』という方向こそが、アフターコロナの日本社会を考える上で最も重要な軸になると考える。
しかもこの場合、分散型という方向性は、東京一極集中の是正といった、国土の空間的構造のみに関わるものではない。…いわば、個人の生き方や人生デザイン全体を含む、包括的な意味での『分散型』社会だ」(広井良典京都大こころの未来研究センター教授、6月20日付中国新聞=共同配信)
「東京一極集中」の弊害は、日々発表される東京の「新規感染者数」を見るだけで明白でしょう。
もう1つの視点は、自然環境破壊からの脱却です。
「パンデミックの根本的な原因は人間の環境破壊だ。その結果、逃げ場を失って人里に出て来た野生動物や人間が野生動物の聖域に入り込み、捕まえた野生動物を食べることによって未知のウイルスに感染した。…人間が短期的な利益目的でその多様な生態系を破壊した結果、新型コロナウイルスのような人間に都合の悪いウイルス誕生した。(中略)
農耕革命以来、自然を操作して便利で、快適で、物質的に豊かな暮らしを続けてきた人間にとって大きな試練だ。この試練を有効に使い、どのように自然と付き合っていくかを真剣に考え、生き方を変えていかなければいけない」(関野吉晴武蔵野美大名誉教授・人類学・探検家・医師、『新型コロナ19氏の意見』農文協編)
東京と名古屋を「40分」で結ぶ必要が、大企業の経済効率性以外に、どこにあるのでしょうか。全長の9割をトンネルにするほど人間の身勝手な自然環境破壊があるでしょうか。リニアの環境破壊が、大井川の水だけでなく、中部日本の生態系に重大な変化をもたらすことは必至です。
リニアはきっぱり中止すべきです。問われているのは、私たちの「生き方」の転換です。