選挙で問われるのは、政策と同時に、候補者の思想・人間性です。「天皇制」の是非が今回の都知事選(5日投開票)で争点になることはありませんが、候補者の人物像を示すものとしては重要なリトマス試験紙になるのではないでしょうか。
小池百合子氏は国会議員時代、右翼・改憲団体「日本会議」の思想・運動と連携する「日本会議議連(日本会議国会議員懇談会)」の副会長を務めてきました。
「日本会議」は、「皇室を中心に、同じ歴史、文化、伝統を共有しているという歴史認識こそが、『同じ日本人だ』という同胞感を育(む)」として、「皇室を敬愛するさまざまな国民運動や伝統文化を大切にする事業を全国で取り組んでまいります」(「日本会議が目指すもの」同HPより)と公言する皇国史観に基づく天皇制擁護推進団体です。
小池氏はまた、「靖国議連(みんなで靖国神社を参拝する国会議員の会)」のメンバーでもありました。「靖国議連」は、春・秋例大祭、敗戦記念日に靖国神社を参拝するので有名(悪名)ですが、それだけではありません。「英霊にこたえる議員協議会」「遺家族議員協議会」とともに自民党内の「靖国関係三協議会」を形成し、侵略戦争・植民地支配美化の先頭に立っている組織です。
さらに小池氏は、「天皇元首化」を第1条で明記した自民党改憲草案(2012年4月27日)に対し、知事に就任してからも賛意を示しています(2017年5月11日の安倍首相との会談)。
皇国史観に基づき、侵略戦争・植民地支配の最大の責任者である天皇裕仁を擁護し、戦前から連綿と続く天皇制の強化を目指す。それが小池氏の思想・政治信条です。
一方、宇都宮健児氏はどうでしょうか。
宇都宮氏には『天皇制ってなんだろう?―あなたと考えたい民主主義からみた天皇制』(平凡社、2018年)という著書があります。古代から今日までの歴史を振り返り、天皇制の本質と今日の問題点を簡明に指摘した優れた本です。
たとえば、天皇裕仁が侵略戦争・植民地支配責任を回避したことについてこう述べています。
「天皇の影響力の利用を考えたGHQと、天皇制をなんとか残したいという日本の支配層の思惑が一致した面があります。結果的に昭和天皇は『象徴天皇』として在位しつづけ、天皇制は象徴天皇制として残されることになりました。…第二次世界大戦後、敗戦国の王室はイタリア、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニアなど日本以外ではすべて廃止されています」
そしてこう締めくくっています。
「天皇制の問題について考えを進めるということは、原点にもどって、私たちの人権や民主主義、自由を考えることにつながっています。…民主主義的とはいいがたい今の日本社会ですが、『民主主義社会の主人公』の視点から、どんな天皇制を望むのか、あるいは望まないのか、国民的な議論によって探っていく必要があります。そのためには、遠回りのようですが、まずは民主主義の主人公になるところから始めることです」
天皇制に対する思想・信条には、その人・政治家の人権・民主主義に対する根本姿勢が表れます。その試験紙で見れば、小池氏と宇都宮氏はまさに対極に位置しているといえるでしょう。
なお、かつて園遊会で明仁天皇(当時)に手紙を渡して直訴しようとしたり(2013年10月31日)、政党名に元号を使う山本太郎氏は、天皇制についての基礎知識が不足していると言わざるをえません。
「コロナ禍」の中で行われる首都・東京の知事選には、特別の争点があるのではないでしょうか。「コロナ対策」の是非だけではありません。あらゆる差別のない社会をめざす、とりわけ民族差別に対する姿勢・思想が問われるべきではないでしょうか。
関東大震災(1923年)に乗じた朝鮮人大虐殺の犠牲者を追悼する9月1日の集会(写真中)に対し、小池百合子知事が主催団体に「管理上支障になる行為は行わない」などとする「誓約書」を要求している問題(5月25日のブログ参照)は、その後、山田朗明治大教授ら学者・文化人117名が抗議声明(6月11日)を出すなど、小池知事に対する批判の声が広がっています。
しかし小池氏はいまだに方針を撤回しようとしていません。
歴代都知事は、9月1日の追悼集会に「追悼文」を送ってきましたが、小池氏が知事に就任して2017年からそれを取りやめていることは周知の事実です。
そもそも小池氏は、都知事就任後初の定例記者会見で、「都有地を韓国人学校の用地として有償貸与する計画について『白紙に戻す』と明言」(2016年8月6日付毎日新聞)しました。
小池氏のこうした一貫した韓国・朝鮮人敵視は、たんなる個別問題ではなく、根っからの右翼・レイシズム思想に根源があります。
小池氏は自民党代議士時代、右翼・改憲団体「日本会議」の思想の実現を目指す「日本会議国会議員懇談会(日本会議議連)」の副会長を務めました。
また、日本の侵略戦争・植民地支配の歴史的責任を隠ぺいする「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」のメンバーでもありました。
歴史修正主義者で韓国・朝鮮への敵視をむき出しにしている安倍晋三首相には思想的・政策的に親近感を持っています。2017年5月11日、小池氏は都知事として安倍氏と会談しています(写真右)が、「小池氏周辺によると、会談の申し入れは約10日前。憲法改正を巡る首相の一連の発言に賛意を示した小池氏が『直接会って、支持を伝えたい』と要望したものだったという」(2017年5月12日付日経新聞)と報じられています。
一方、宇都宮健児氏(写真左)は弁護士・日弁連会長として、一貫して差別の根絶に尽力してきました。
安倍首相が棚上げを図る植民地支配時代の強制動員(「徴用工」)問題でも、宇都宮氏は昨年9月、ソウルで行われた「日帝強制動員問題の争点と正しい解決の模索に向けた共同シンポジウム」に出席し、特別演説を行いました。
この中で宇都宮氏は、「報復的な輸出規制を直ちに撤回し、韓国政府と協力して強制動員被害者の救済を図るべきだ」と強調しました(2019年9月6日付ハンギョレ新聞電子版)
ハンギョレ新聞は、「宇都宮元会長は2010年、大韓弁護士協会と共同宣言を発表し、日本軍『慰安婦』と強制徴用被害者の救済及び被害の回復に向けた措置に乗り出すことを両国政府に求めるなど、日帝強制占領期(日本の植民地時代)の被害者賠償問題に長年取り組んできた」(同)と紹介しています。
小池氏と宇都宮氏の対照性は際立っています。あらゆる差別のない社会の実現がとりわけ求められているとき、どちらが首都・東京の知事にふさわしいかはあまりにも明白ではないでしょうか。
都知事選は投票日(31日)までわずかとなりましたが、このまま見過ごせない問題があります。自民党東京都連が告示直前に石原伸晃都連会長の名で所属議員に送付した文書(写真中)です。
「都知事選挙における党紀の保持について」と題したこの文書は、自民党が推薦を決めた増田寛也氏の劣勢を挽回するため、自民党所属議員に対し3項目の縛りをかけたものです。問題はその3番目です。
「各級議員(親族等を含む)が、非推薦の候補を応援した場合は…除名等の処分の対象となる」
政党が党議決定に背いた議員を「処分」することはありうることです。しかし、その処分対象となる行為が議員本人だけでなく、「親族等を含む」というのは驚くべきことです。しかもそれを文書で公言してはばかりません。
これは「親族等」も増田氏以外の候補を支持・応援してはいけないと強要するものであり、思想信条の自由、政党支持の自由の侵害であることは明白です。同時に、自民党は所属議員の「親族等」の選挙中の行動を監視・点検するということでもあります。
これをたんに今回の選挙だけの問題としてすませることはできません。なぜなら、この文書に表れた自民党の民主主義観、家族観は、同党の「日本国憲法改正草案」(2012年4月27日決定=写真右)の内容とけっして無関係ではないからです。
自民党は「改憲草案」で、現行憲法にはない「家族」についての条項を新設しようとしています。
「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」(草案第24条1項)
この条項を新設するのは、「昨今、家族の絆が薄くなってきている」(『日本国憲法改正草案Q&A』)からだといいます。
そもそも「家族の絆」という極めて個人の内面、個人の生活のあり方にかかわる問題を国家が憲法で規定しようとすること自体、憲法は国家を縛るものという立憲主義に反します。
しかも自民党がいう「家族」「家族の助け合い」とは、選挙における思想信条の自由、政党支持の自由を公然と蹂躙してはばからないものであることが、今回の文書で図らずも明らかになったのではないでしょうか。
都知事選の結果にかかわらず、こうした自民党の反民主主義的体質は、「改憲草案」の問題点とともに、銘記される必要があります。
東京都知事選は告示から8日、折り返し点ですが、かみ合った政策論争が一向に聞こえてきません。
自民党の小池百合子氏や増田寛也氏に実のある政策論争を期待するのは土台無理な話ですが、本来政策を前面に掲げてたたかうべき「野党統一候補」の鳥越俊太郎氏からも具体的な政策が語られないのはきわめて奇異です。
とくに鳥越氏は、いち早く政策を掲げて出馬表明していた宇都宮健児氏を無理やり降ろして「野党統一候補」になっただけに、政策を前面に掲げないで選挙を行うことは、宇都宮氏に対しても、支援する市民に対しても、そして有権者都民に対しても、背信的行為と言わざるをえません。
宇都宮氏が立候補を取り下げた経緯はいまだに不透明ですが、出馬辞退会見(13日夜)で宇都宮氏は、「私たちの政策を参考にすると伺いましたので」と述べ、鳥越氏が宇都宮氏の政策を参考にして取り入れると約束したことが「出馬取り下げ」の理由の1つだと明かしました(写真中)。
ところが、鳥越氏の「政策」には、宇都宮氏の政策の肝心な部分がすっぽり抜け落ちているのです。両氏の政策を比較してみましょう。
<宇都宮氏の政策「希望の政策・7」(HPより)。各項の詳細は略>
1、都政のすべてを都民のために。…税金のムダをけずり、クリーンな都政を実現します。
2、「困った」を見捨てない、頼りになる都政を。…すべての人が働きやすく、くらしやすい東京をつくります。
3、子どもたちのことを、第一に。…すべての子どもたちが生き生きと育ち、学べる環境をつくります。
4、にぎわいとふれあい、あたたかみのある東京へ。…地域経済を活性化し、個人商店・中小企業の元気な東京をつくります。
5、3・11をわすれない。原発のない社会を東京からめざします。
6、コンパクトでシンプルな五輪を!…開催経費を最小限に抑え、「平和の祭典」として成功させます。
7、人権・平和を守る東京を。
<鳥越氏の政策「あなたに都政を取り戻す」(17日付しんぶん「赤旗」より)。各項の詳細は略>
■都政への自覚と責任
■夢のある東京五輪の成功へ
■都民の不安を解消します
■安全・安心なまちづくり
■笑顔あふれる輝く東京へ
■人権・平和・憲法を守る東京を
一目りょう然なのは、宇都宮氏の政策の柱にあって鳥越氏のそれにないものがあることです。それは「3・11をわすれない。原発のない社会を東京からめざします」です。その項の詳細には次のことも盛り込まれています。
「東京都は東京電力の大株主。原発再稼働と原発輸出に反対します」
鳥越氏の政策にも「原発」は1カ所だけありますが、それは「安全・安心なまちづくり」の中で、「原発に依存しない社会に向け、太陽光やバイオマスなど、再生可能エネルギーに普及に取り組みます」といっているだけです。「再稼働反対」も「原発輸出反対」も「東京電力」もまったくありません。
前回2年前の都知事選で「原発」が大きな争点になったことと比べても、「反原発」が影を潜めた鳥越氏の政策はきわめて異常と言わざるをえません。まるで「3・11」の風化を促進するようなものです。
もう1つ、上記の引用だけではわからない重要な違いが両氏の政策にはあります。それは宇都宮氏の「人権・平和を守る東京を」の中の次の一項です。
「東京に米軍基地・オスプレイはいりません。」
鳥越氏の政策には、オスプレイどころか「基地」の文字さえどこにもありません。
「子育て」「介護」「安全」などは小池氏や増田氏も言います。自民党候補との大きな政策の違いは、まさに「原発」であり「基地」でしょう。その2点で鳥越氏が宇都宮氏の政策から大きく後退していることが、いまの「政策論争なき都知事選」を作り出していると言っても過言ではないでしょう。
自民党との重要な相違点を避けた鳥越氏の政策に、「安全確認を得ていないものは再稼働しない」(「安全確認」という条件付きで原発再稼働容認)、「米軍再編の日米合意を実施」(日米軍事同盟下での米軍基地容認)(いずれも「参院選公約」7月9日付中国新聞=共同より)という民進党の政策が色濃く投影していることは明らかでしょう。
きょう14日告示された東京都知事選で、野党4党(民進、共産、社民、生活)は、鳥越俊太郎氏を統一候補として推薦しています。
自民、公明が推薦した猪瀬、舛添両知事が「カネ」で失脚したあとの知事選で、自公に反対する市民目線の新知事が切望されていることは言うまでもありません。
しかし、鳥越氏が「野党統一候補」になった経緯には、いくつもの疑問・問題点があります。
「鳥越氏擁立」に至る経過を振り返ってみましょう。
7月6日 宇都宮健児氏、「政策など整いつつある。どれだけ支援の輪が広がるか」とし、11日に正式に出馬表明する意向を表明
8日 石田純一氏(タレント)、「野党統一候補が必要。自分が選ばれれば出させてもらいたい」と、市民団体の代表とともに出馬表明
11日(参院選投開票日) 宇都宮氏、正式に出馬表明。 石田氏、出馬断念
<昼前> 鳥越氏、民進党幹部に電話で「知事選に出ようかと思う。支援してくれないか」(13日付中国新聞=共同)
<夜> 鳥越氏、民進党・岡田代表と会談(擁立決定)
民進党・枝野幹事長、共産党・小池書記局長との話し合いで鳥越氏を「野党統一候補」とする方針で一致。
枝野、小池両氏、宇都宮氏に「鳥越氏を4党で推すことにした」と伝え、2度にわたり出馬断念を要請
12日 <午後2時> 鳥越氏、出馬表明の記者会見
<午後4時半> 野党4党が鳥越氏を統一候補とする正式決定(写真左)
13日 <午後2時> 日本記者クラブで、宇都宮、鳥越、増田、小池4氏の共同会見。宇都宮氏は出馬の意向を重ねて表明
<午後7時すぎ> 宇都宮氏、出馬断念を表明(写真右)
以上の経過から、疑問・問題点は少なくとも7つあります。
① 共産、社民が「宇都宮擁立」でまったく動かなかったのはなぜか。
前回の知事で100万票近くを獲得し、本人が出馬の意向を示している宇都宮氏は、当然「統一候補」の最有力とされてしかるべきでした(2日のブログ参照)。しかし、前回、前々回宇都宮氏を推薦した共産、社民両党はまったくその動きを見せませんでした。
② 「市民(グループ)」が”蚊帳の外”に置かれたのはなぜか。
参院選では「野党と市民の共闘だ」(共産党・志位委員長)と言いながら、このかん肝心の「市民」が一貫して蚊帳の外に置かれたのはなぜなのか。「鳥越擁立」の過程で「市民」の姿はまったく見えませんでした。
「市民」の姿が見えたのは、石田純一氏が出馬表明する過程と、宇都宮氏の支援グループでしたが、結局そのいずれの声も無視されました。
③ 「公約」も「政策」もない鳥越氏をわずか半日で「統一候補」に決めたのはなぜか。
経過で明らかなように、鳥越氏が民進党幹部に出馬の意向を伝えてから「統一候補」に決まるまでの時間はわずか半日です。しかもその時点では鳥越氏は明確な「公約・政策」もなかったことは、出馬会見で自身が認めた通りです。
野党4党は、「公約」も「政策」もない鳥越氏を、信じがたい短時間で「統一候補」に決めたのです。
④ 「政策協定」も結ばずに「統一候補」に決めたのはなぜか。
鳥越氏と野党4党の間で「政策協定」が結ばれたという報道は、少なくとも14日(告示)朝の時点までありません。「政策協定」も結ばないまま「統一候補」に決めるなど、少なくとも「市民目線」の政党のやることではありません。
⑤ 野党4党は「候補者統一」のために何をしたのか。
「統一候補」をめぐって報道されてきたのは民進党(本部、都連)の混迷した動きばかりです。鳥越氏が名乗り出たのはいわば「タナボタ」でしょう。
統一候補擁立へ向けて4野党は何をしてきたのか。どんな議論をし、どういう動きをしたのか。有権者の前に明らかにする必要があります。
⑥ 宇都宮氏が出馬断念したのはなぜか。
宇都宮氏は鳥越氏が「統一候補」に決まったことに対し、「とにかく勝てる候補をというのは今までの自公の選び方と全く同じじゃないか」(13日、写真中)と批判し、出馬の意向を堅持していました。13日の共同記者会見やテレビ番組でも「出馬の意向は変わらない」と言明していました。
ところが同日の夜になって急転直下の「断念」。「断念会見」でも「今の野党の統一候補、選定過程が全く不透明ですよね」(写真右)となおも批判していました。それなのになぜ「断念」したのか。その間何があったのか。共産党などからどのような働きかけがあったのか。
⑦ 一貫して「密室」の中でことがすすめられてたのはなぜか。
宇都宮氏が指摘する通り、舛添氏辞任以降、鳥越氏擁立決定まで、「統一候補」をめぐる野党4党の動きは一貫して不透明でした。市民の目が届かない密室の中で進められてきました。これで「市民も含めた共闘」と言えるでしょうか。
以上の「7つの疑問」は、実は「1つの解」ですべて説明がつくでしょう。
それは、「野党共闘」といいながら、その実は一貫して民進党主導であり、民進党の密室の非民主的な候補者決定に共産、社民、生活3党が唯々諾々と従ったということです。
「民進党にとって鳥越氏は前身の民主党時代から続く意中の人。前回の2014年の都知事選では舛添要一氏の対立候補として細川護熙元首相を担ぐ前に擁立が検討された。…鳥越氏も前向きだったが家族の反対で断念した経緯がある」(13日付中国新聞=共同)。鳥越氏はまさに民進党の候補者なのです。
そして前回宇都宮氏を擁立した共産、社民両党は、そうした民進党との「共闘」を最優先し、信義も道理も踏みにじって宇都宮氏に煮え湯を飲ませたのです。
これが「共闘」と言えるでしょうか。こんな「野党共闘」でいいのでしょうか。