アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

参院選挙の最大の教訓は何か

2022年08月01日 | 政治・選挙
  

 7月10日投開票の参院選挙で、メディアはいっせいに「自民大勝」と報じました。確かに、議席は増やしましたが、けっして「勝利」とはいえません。各党の獲得議席と得票率(比例代表区)をあらためて見てみましょう。

     獲得議席(比率) うち選挙区  比例区(比率) 比例区得票率

自 民  63(50・4%)  45(60・0%) 18(36・0%)   34・43%
立 民  17(13・6%)  10(13・3%)  7(14・0%)    12・77%
公 明  13(10・4%)   7(9・3%)  6(12・0%)  11・66%
維 新  12(9・6%)     4(5・3%)  8(16・0%)  14・80%
共 産   4(3・2%)   1(1・3%)   3(6・0%)   6・82%
国 民   5(4・0%)    2(2・7%)  3(6・0%)   5・96%
れいわ    3(2・4%)   1(1・3%)  2(4・0%)   4・37%
社 民    1(0・8%)   0                 1(2・0%)   2・37%

 この表から分かるのは次のことです。

①自民党は50・4%の議席を得たが、選挙における政党支持を正確に表す比例代表得票率は34・43%にすぎない。34%の得票で50%の議席を得た。比例代表得票率はむしろ前回参院選の35・37%から0・94㌽後退している。

②得票率に対して獲得議席が多い、すなわち不当に議席が多いのは、自民と立憲で、それ以外はすべて不当に少ない。

③得票率に対して議席獲得率が最も低い、すなわちいちばん不当に議席が少ないのは社民党。続いて、共産、れいわ。

④選挙区と比例区をくらべると、比例区では各党ともほぼ獲得議席が得票率に見合っている。一方、選挙区ではその乖離が大きく、自民党は得票率の約2倍の議席を不当に得ている。

 これが小選挙区制の実態です。

 今回の自民党の「勝利」は、「野党共闘が十分に機能せず、その結果として選挙区、とりわけ1人区で大勝したからにすぎない」(中北浩爾一橋大学院教授、26日付中国新聞=共同)という分析が一般的です。現象面は確かにその通りですが、さらにその原因をみれば、「1人区」の小選挙区制こそが「自民大勝」の陰の演出者だということです。

 これはもちろん今回の選挙だけではありません。「1人区」の選挙区の割合が参院より大きい衆院では自民の不当な議席かすめ取りの割合はさらに大きくなっています。
 たとえば、昨年10月の衆院選で、自民党は比例区得票率が34・6%でしたが、議席は選挙区(小選挙区)で189議席(65・4%)、比例区で72議席(40・9%)、合計261議席(56・1%)を得ています。

 「自民党絶対多数政権」は小選挙区制がつくりあげた虚構にすぎません。

 小選挙区制は、そもそも議席に結びつかない「死票」を大量に生む非民主的制度です。同時に、大政党が不当に議席を得、多様な主義主張を持つ小政党を排除して政治の翼賛化をすすめる最悪の選挙制度です。

 衆参両院の選挙で小選挙区(制)を廃止し、全国1区の比例代表選挙に切り替えること。それが、主権在民の公正な選挙・政治を実現するために不可欠です。そのことがあらためて証明されたのが、今回の参院選挙の最大の教訓です。


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若者の選挙争点意識にみるこの国の危うさ

2021年10月30日 | 政治・選挙

    

 選挙の若者の投票率を上げるため、飲食店で割引を受けられる「選挙割」などの取り組みが若者たち自身によって行われています(写真)。自主的な活動は貴重ですが、若者の投票行動については、もっと考えるべき問題があるのではないでしょうか。

 若者は今回の衆院選で何が争点だと考えているか―。それに関する1つの調査があります。日本財団がネットで、10代の有権者916人に「31項目」を示し、衆院選で重視する度合いを点数にして集計したものです。その結果、上位10位は次の通りです(21日付中国新聞=共同)。

①保健衛生②経済成長と雇用③子育て・少子化④災害対策・復興⑤子どもの貧困⑥教育・学校⑦子どもの権利・保護⑧税金・税制度⑨社会保障・ヘルスケア⑩成人・労働者の貧困

 その特徴は一目瞭然、すべて直接自分や家族の生活にかかわるものです。平和や近隣諸国との関係、在日朝鮮人や外国人実習生など在日外国人の人権に関する項目はありません。 

 もともと日本財団が挙げた「31項目」にそうした選択項目がなかったのかといえば、そうではありません。日本財団のHPで全項目を見ると、「外交政策・他国との関係」は26位、「日本へ移民・難民・就労・差別など」は28位となっています。

 この調査結果だけで断定することはできませんが、10代の有権者の政治的関心がきわめて内向き、生活保守主義的であることは確かでしょう。それは自身や家族の経済的窮状の反映にほかなりませんが、そうだとしても、これでいいのでしょうか。

 この傾向はもちろん、若者たちだけではありません。たとえば朝日新聞の世論調査(10月21日付)でも、「衆院選で最も重視するテーマ」の第1位は「社会保障」(29%)、2位「景気・雇用」(27%)、3位「新型コロナウイルス対策」(18%)で、「外交・安全保障」は9%にすぎません。これは近年の国政選挙に共通の傾向です。

 生活保守主義、内向き志向は日本人・日本社会全体の特徴であり、若者の意識はその反映にほかなりません。

 自民党政権による生活・雇用破壊から暮らしを守ることはもちろん重要です。しかし、国政選挙は本来、国の進路を問うものではないでしょうか。

 アメリカ従属の日米軍事同盟(安保条約)を強化し、中国、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)敵視をあおり、「戦争国家」へ突き進んでいる自民党政治に対し、それとは根本的に違う進路を示し、それを争点とする。それが国政選挙のあるべき姿ではないでしょうか。そうであってこそ、若者の政治的関心が高まり、投票率も上がるはずです。

 内向きの生活保守主義選挙を繰り返しても、日本の政治・社会の基底は変わらないと考えます。


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日本の政治・社会を変えるカギは小選挙区制の廃止

2019年07月25日 | 政治・選挙

     

 「1人区では候補を1本化しない限り自民党には対抗できない」。これが「野党共闘」の理由(口実)です。そのためには政策の違いを度外視して結集する必要があるというわけです。
 これこそ小選挙区制(定数1)の論理にほかなりません。小選挙区制は第2党以下の糾合(野合)を不可避にし、「二大政党制」を実現するための選挙制度です。

 単純小選挙区制では反対にあうとして一部比例代表と組み合わせたのが衆院の小選挙区比例代表並立制です。参議院選は小選挙区制(1人区)と中選挙区制(複数区)と比例代表(ブロック制)の組み合わせです。

 衆院選に小選挙区比例代表並立制が導入されたのは1996年ですが、それを推進したのが小沢一郎氏(当時新進党幹事長)でした。その目的は、政権交代のある保守2大政党制の実現です。
 日本のメディアは例外なく小選挙区制を支持し、後押ししました。

 やがて民主党政権が生まれ(1998年)、確かに「政権交代」は実現しました。しかし、それが市民の期待に応えるものではなかったことは周知の通りです。

  一方、小選挙区制の弊害の方は確実に現実のものとなっています。

  第1に、死票の増大です。第1得票者以外の候補に投じられた票はすべて議席に反映しないのですから死票が増えるのは当然です。制度が導入されて以降、死票は過半数を超えています。

  第2に、少数政党の排除です。定数1では勝ち目のない少数政党が排除される、あるいはそもそも新たな政党が生まれにくくなるのも当然です。

  少数政党が排除される、新しい政党が生まれないことは何を意味するでしょうか。市民の多様な要求・価値観が国政に反映されないということです。
 今回の参院選で山本太郎氏の政党が2議席を獲得しましたが、比例代表制の併用がなければ不可能でした。

  自分の投票が無駄になり(死票増大)、多様な要求・価値観が反映しない(少数政党排除)のであれば、有権者が投票所に足を向けなくなるのは当然でしょう。衆院選の投票率は1996年に初めて60%を切り(59・63%)ました。以後一時持ち直しますが、2012年以降再び60%以下に落ちています(写真右)。1996年は小選挙区制が導入された年です。
 今回の参院選で改めて投票率の低下が問題になっていますが、その大きな要因は小選挙区制度だと言わねばなりません。

 少数政党が排除されるということは、少数意見が多数意見になっていく道が閉ざされることでもあります。日米安保条約廃棄、天皇制廃止は今はいずれも少数意見ですが、歴史的にみればやがて多数意見となるべき主張です。しかし、小選挙区制の下ではそれはきわめて困難です。逆にそうした主張は政治の舞台から消える恐れがあります。現在の日本の政治状況がまさにその危機に直面していると言えるでしょう。

  1人ひとりの意思が政治に反映される民主主義の基本原則からも、多様な要求・価値観を反映する少数政党に活動の場を与えるためにも、また今は少数でもやがて多数意見になりうる主張・政策の発展のためにも、それらを抹殺する諸悪の根源である小選挙区制は廃止しなければなりません。廃止して比例代表制への1本化、あるいは比例代表と中選挙区制(複数定員)の併用へ向かうべきです。


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参院選・そんな「野党共闘」でいいのか

2019年07月23日 | 政治・選挙

     

 「政策論争深まらず 与党過半数 強力な野党不在勝因」
 22日付の琉球新報はこうした見出しで、参院選で自民・公明の与党が改選議席の過半数を獲得したのは「強力野党の不在と世論の関心の低さが大きな要因だ。年金、憲法、消費税の論戦は深まらず」と「解説」(共同配信)しました。

 確かに政策論争は深まりませんでした。それが48・80%という過去2番目の低投票率の1つの要因でもあるでしょう。ただし、選挙で政策論争が深まらないのは今回だけではありません。なぜ政策論争は深まらないのでしょうか。

 安倍晋三首相が予算委員会も開かず、都合の悪いことは隠ぺい、重要問題(日米軍事協力・貿易摩擦など)は先送りし、政策論争を避けて印象操作に終始していることが第1の要因であることは明らかです。
 しかしそれだけではありません。

 根本問題は、そもそも政党間で基本的な政策の違いがなくなっていることです。基本的な政策とは、国政の根本である日米安保体制(日米軍事同盟)、独占資本(大企業)支配に対する政策です。
 立憲民主も国民民主も日米安保体制を積極的に擁護しています。また両党とも労使協調の連合から支援を受けており、大企業と対決する姿勢はありません。
 日米安保支持・大企業擁護という根本で、自民党と公明、維新はもちろん、立憲民主、国民民主の間に基本的な政策の違いはないのです。政策論争が深まるわけがありません。

 そんな中で問われているのは日本共産党です。
 共産党はいまでも綱領上は、「日米安保条約廃棄」「自衛隊違憲」「大企業規制」の旗は降ろしていません。その立場で論戦を展開すれば政策論争はもっと深まったはずです。
 しかし、そうはなりませんでした。共産党が自ら政策論争を抑えたからです(政策論争力の衰退は別として)。とりわけ現下の重大問題である日米安保の深化=日米軍事一体化、自衛隊配備強化に対する批判・論戦は封印しました。なぜでしょうか。

 「野党共闘」のためです。立憲民主や国民民主と共闘して1人区で統一候補を立てる。そのために共産党候補を無所属候補にさえする。安保・自衛隊、大企業支配という基本問題で大きな違いがある立憲や国民と統一候補を立てるため、折り合わない政策は論戦も封印する。それがいまの「野党共闘」です。これでは政策論争が深まらないのは当然でしょう。

 本来、政党間の共闘は「政策協定」が前提であるはずです。しかし、今回の(過去の衆院、参院選も同様)「野党共闘」には「政策協定」がありませんでした。「安倍政権を打倒する」とか「立憲主義に立つ」などの抽象的スローガンは政策協定ではありません。

 例えば、「辺野古新基地」問題の根源である日米軍事同盟、沖縄への自衛隊配備増強反対、あるいは憲法原則に反する重大問題である朝鮮学校への差別解消など、具体的な政策を協議し、一致点で協定を結ぶ。それが本来の政党間共闘です。

 ところがいまの「野党共闘」は政策の一致ではなく、1人区で自民党に対抗するためには候補者を1本化する必要がある、ということから出発しています。これは本末転倒の小沢一郎的発想と言わねばなりません。

 これでは政策論争が深まらないばかりか、共産党は自らその存在意義を減滅させているようなものです。共産党は今回、大阪選挙区で有能な現職を失い、比例区で議席を減らしました(5から4へ)。共産党(党員・支持者)はその後退の意味、要因を真摯に分析し、政策協定なき「野党共闘」から脱却すべきです。

 一方、「1人区では野党が候補者を1本化しなければ自民党に対抗できない」という言い分にも一定の説得力があります。ではどうすればいいでしょうか。次回それを考えます。


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朝鮮学校無償化排除の差別解消を参院選の争点に

2019年07月09日 | 政治・選挙

     

 「生活・家計・くらし」を守ることよりも重視しなければならない問題、そして野党の選挙公約が欠落させている問題、それは朝鮮学校を無償化制度から排除している差別を解消する問題です(社民党の選挙公約には「高校無償化を外国人学校等にも差別なく適用します」とあり評価できますが、朝鮮学校に対する差別をなくするとは明記されていません)

 なぜそれを参院選の重大争点にすべきなのか。理由は4つあります。

 第1に、政治的思惑から朝鮮学校の生徒たちを差別していることは、「子どもの権利」侵害であり、「法の下の平等」にも反する明白な憲法違反だからです。野党が「立憲主義」「憲法を活かす」と標榜するなら、この人権侵害、憲法違反を解消することは焦眉の課題のはずです。

 第2に、朝鮮学校を無償化制度から排除していることは、たんなる差別ではなく、豊臣秀吉の朝鮮侵略、明治政府の朝鮮併合(1910年)以来の朝鮮侵略・植民地支配の歴史的帰結であり、今日的表れだということです。
 朝鮮学校に対する差別をなくすることは、日本の侵略・植民地支配の歴史的責任を負う日本人の今日的課題です。人を差別し権利を侵害しておきながら、自分の生活が守られればいい、ということにはならないはずです。

 第3に、朝鮮学校に対する差別解消は、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)との対話・国交正常化の不可欠の条件だということです。
 安倍首相は朝鮮半島をめぐる情勢に乗り遅れまいと、朝鮮との「前提条件なしの対話」を口にしていますが、侵略・植民地支配の歴史的責任にほうかむりし、さらに朝鮮学校(在日朝鮮人)に対する差別を続けながら、「前提なし」とはまさに盗人猛々しいというもの。朝鮮との「対話・会談」をいうなら、少なくともまず朝鮮学校に対する差別政策を改めなければなりません。
 それが「拉致問題」の真の前進にとっても必要であることは言うまでもありません。

 第4に、国政選挙といえば「生活・家計・くらし」という内向きな生活保守主義から脱却し、歴史認識・世界認識をも争点にする選挙へ脱皮すべきだからです。朝鮮学校差別解消はそのきっかけになりうる課題ではないでしょうか。有権者の意識がそうした問題にも向かうようになれば、日米安保(軍事同盟)・天皇制タブーを打ち破る歴史的課題への道も開けていくのではないでしょうか。

 朝鮮学校に対する差別を確定的にしたのは安倍政権ですが(2012年12月28日の下村博文文科相会見)、そのレールを敷いたのは民主党政権です(2010年、鳩山・菅政権)。その流れをくむ立憲民主党、国民民主党はいまこの問題をどう考えているのか、過去の誤りを認め改める意思はあるのか、明確にすべきです。

 共産党は選挙公約で、「子どもの権利を尊重して、教育と子どものための施策をすすめます」としながら、朝鮮学校差別問題に一言も触れていないのは、いったいなぜなのでしょうか。

 高校無償化制度から朝鮮学校を排除している差別問題、人権・憲法問題、歴史認識問題にどう向き合うのか。それは各政党の「立憲主義」の本音・実態を示すリトマス紙であり、同時に、有権者・日本人の生き方が問われる試金石ではないでしょうか。


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「生活・家計・くらし」第一の選挙でいいのか

2019年07月08日 | 政治・選挙

     

 参院選公示前日の3日に行われた党首討論会で、各党の党首がボードに書いた「訴えたいこと」は次の通りでした。
 「政治の安定」(安倍・自民党総裁)、「小さな声を聴く力」(山口・公明党代表)、「生活防衛」(枝野・立憲民主党代表)、「家計第一」(玉木・国民民主党代表)、「くらしに希望を」(志位・日本共産党委員長)、「身を切る改革 消費税凍結」(松井・維新の会代表)、「憲法を活かす支え合う社会」(吉川・社民党幹事長)

 与党の自民、公明、実質与党の維新は別にして、安倍政権とたたかう(はずの)野党4党は、社民党を除き、すべて「生活」「家計」「くらし」を最重視しています。その後の公示第一声や党首討論会などでもその基調は変わりません。

 はたして、それでいいのでしょうか。

 国政選挙で野党が「生活・家計・くらし」を前面に掲げるのは今回だけではありません。少なくともこの数十年の一貫した特徴といえるでしょう。
 それは有権者の意識を反映した現象にほかなりません。今回の参院選に対しても、NHKが行った「最も重視する政策課題は何か」という世論調査(6月末)では、社会保障=32%、経済生活=20%、消費税=19%、合計71%が「経済・くらし」という結果でした。

 この背景に、安倍政権はじめ歴代政権の「くらし・福祉」破壊があることは明らかです。
 実質賃金の減少、不安定な雇用、かさむ医療・介護・教育費負担の中で、生活防衛、将来への不安対策が切実であることは言うまでもありません。年金だけでは生活できずアルバイトを掛け持ちしている私自身、それは痛感しています。 

 しかし、人間には時として、自分や家族の「くらし・経済」よりも大切なものがあるのではないでしょうか。
 日本の政治(社会)のありかたを問う国政選挙で、「生活・家計・くらし」を常に圧倒的に重視してきたことによって、日本は、日本人は大切なもの見失ってこなかったでしょうか。

 日米安保体制(軍事同盟)や(象徴)天皇制のことを言っているのではありません。日米安保や天皇制が日本の政治・社会の在り様を規定している根本問題であることは明らかです。が、今回の選挙でそれを争点として前面に掲げるべきだと言うのではありません。
 日米安保、天皇制には賛成だという人も含め、すぐに取り組まねばならない課題であるにもかかわらず、野党の選挙公約から欠落している重要な問題があります。(明日に続く)


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米中間選挙からくむべき教訓は何か

2018年11月08日 | 政治・選挙

     

 アメリカの中間選挙は、上院で共和党が多数派を維持し、下院は民主党が8年ぶりに多数派を奪還、トランプ大統領に痛手、さて今後のトランプ政権は…というのが日本のメディアの主な論調ですが、米中間選挙はほかの視点から見るべきではないでしょうか。

 今回の中間選挙の大きな特徴は、①投票者が初めて1億人を超え、投票率が前回より約10㌽上昇した投票率の高さ②民主党から多くの女性候補が当選した過去最高となった女性議員の選出③それらの背景になった「ブルーウエイブ」といわれる社会主義的主張も含む新たな政治運動―でしょう。これらはいずれも重要で、今後の展開が注目されます。

 しかしそれでも、今回の選挙でアメリカの政治・世界戦略に基本的な変化があるとは思えません。なぜならそもそも共和党と民主党の間に政策上の基本的な相違はないからです。

 アメリカの核・世界戦略、覇権主義は共和・民主両党の政権によって進められてきました。広島など日本の一部でもてはやされているオバマ前大統領が核開発を進めてきたことは周知の事実です。

 TPPはじめとする「グローバリズム」もアメリカ利益第一主義という点で「トランプイズム」と基本的に変わるところはありません。

 アメリカの政治・世界戦略が変わらない根源は、2大政党制にあります。民主党と共和党の完全な2大政党制の中では、新たな政治潮流(政党)が芽を出し成長する余地はありません。「ブルーウエイブ」の波に乗って当選したオカシオコルテス候補らに代表される、サンダース上院議員に近い人々の活動は注目されますが、彼らも民主党の枠から出ることはできません。

 私たちにとって重要なのは、こうしたアメリカの2大政党制が日本の政治と無関係ではないことです。

 日本の基本的な選挙制度である小選挙区制度(定数1)は、アメリカ的2大政党制を志向するために導入されたものです。それを推進したのが、小沢一郎現自由党党首(当時自民党幹事長)であったことは周知の事実です。

 小選挙区制は日本の政治・政界に何をもたらしているでしょうか。

  第1に、「第3政党」以下の「少数政党」は台頭の余地がなく、したがって「少数意見」、「少数政党」を支持する有権者の意思は政治から基本的に排除されています。

  第2に、選挙は2大政党の争いになるため政党間で政治理念・政策を度外視した離合集散・数合わせが横行し、「政策・組織協定」抜きの「選挙共闘」がすすみます。

  第3に、「政権交代」が自己目的化し、結果、仮に「政権交代」が起きても政治の基本的変化・転換はなく、政治不信・無関心を助長します。

  以上の3点は、まさに今日(数十年来)の日本の政治・政界の縮図ではないでしょうか。

 政治理念・政策抜きの「政権交代」がどんな結果をもたらしたかは、民主党政権の醜態が示した通りです。

 「自民・公明」の与党に対し、立憲民主党をはじめ野党はとにかく「結束」だとして数合わせの「選挙共闘」を目指しています。

 この流れに日本共産党も自らすすんで加わり、「政策・組織協定」なき「選挙共闘」をすすめています。その結果、日米安保条約(日米軍事同盟)、自衛隊(日本軍隊)、天皇制という政治・国家体制の根幹にかかわる問題で、共産党自身の政策を歪めています。
 それはすなわち、日米安保(軍事同盟)・自衛隊・天皇制反対という「少数意見」を政治に反映させる政党が存在しないことを意味します。

 こうした政治・政党の腐敗・退廃の根源が、2大政党制を志向する小選挙区制にほかなりません。

 たとえ今は「少数意見」でも、それが真理であり人々の幸福につながるものであれば、やがて必ず「多数派」になります。それが歴史の進歩ではないでしょうか。

 少数意見を抹殺する小選挙区制は廃止し、全国1区の比例代表制に転換すべきです。そして少数者の意見、少数政党の政策が反映する「政策・組織協定」に基づいた連立政権を目指すべきです。
 それが、米中間選挙を反面教師として私たちがくみとるべき教訓ではないでしょうか。


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麻生「北朝鮮のおかげ」発言の核心は何か

2017年11月01日 | 政治・選挙

  

 「左翼という勢力が2割を切ったのは、始まって以来のことが起きた感じがしている。明らかに北朝鮮のおかげもあるだろう」

 麻生太郎副首相兼財務相が10月26日の都内での会合で行った発言。総選挙の「自民党大勝」は「北朝鮮のおかげ」だというわけです。
 立憲民主党など野党は「とんでもない発言だ」(10月27日、長妻昭立憲民主党代表代行)と批判し、きたる特別国会でも追及する構えです。

 確かにこれは「とんでもない発言」です。ではどこが問題なのでしょうか。

 野党側は「わが国が北朝鮮の核とミサイルの脅威にさらされていると自民党も強調していた。…危機を利用したと受け取られかねない」(長妻氏、10月28日付共同配信)からだといいます。果たしてそうでしょうか。

 麻生氏は翌日、発言の趣旨は「国民は北朝鮮の危機に対応できる政府として(自民党を)選んだ」(10月28日付共同配信)ということだと“釈明”しました。自民党と同じ「北朝鮮の危機」論に立つ限り、この”釈明”に反論できないはずです。

 麻生氏の「北朝鮮のおかげ」発言の核心は何か。
 それは、「北朝鮮の危機」自体が、安倍首相を先頭に自民党が作り出したフィクションだということです。
 
 このかんの経過を振り返ってみましょう。

 8月20日 米韓合同軍事演習開始

 8月29日 北朝鮮がミサイル発射

 8月31日 航空自衛隊(F15)と米軍(B1)が合同演習

 9月11日 国連安保理が制裁決議

 9月19日 米トランプ大統領が国連演説で、金正恩委員長を「ロケットマン」と揶揄し、「北朝鮮を完全に破壊する」と公言

 9月20日 安倍首相が国連演説で「必要なのは対話ではなく圧力だ」と強調

 9月21日 北朝鮮の金正恩委員長がトランプ演説を「最悪の宣戦布告」と批判

 9月25日 安倍首相が「北朝鮮の危機」を前面に「国難突破解散」を表明

 10月16日 米韓合同軍事演習

 以上で明らかなように、アメリカは常に韓国との合同軍事演習で北朝鮮を挑発し、安保法制(戦争法)成立以降それに日本(自衛隊)を公然と巻き込み、さらに国連を使って北朝鮮への圧力を強めてきました。

 北朝鮮のミサイルはこれに対する対抗手段であり、それはまさに「挑発ではなく反発」(金時鐘氏・詩人、9月16日付朝日新聞)というべきものです。

 アメリカが先制攻撃しない限り、北朝鮮が先に攻撃することはありえません。トランプ大統領自身がそれをよく知っているからこそ、日本に来て安倍首相と能天気にゴルフに興じようとしているのではありませんか。

 総選挙で安倍・自民党が行ったことは、架空の「北朝鮮の危機」を自分で作り出しておいて、それに対応できるのは自民党政府だと言って票を集める。まさに典型的なマッチポンプです。この作為を思わず吐露したところに麻生発言の核心があります。

 その麻生発言の核心を野党が突けないのは、米日両政府の戦略である「北朝鮮の危機」論の土俵に野党も上がっているからにほかなりません。


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小池氏の「排除」発言を批判するのはお門違い

2017年10月26日 | 政治・選挙

     

 小池百合子氏が「右翼政治家」であり、今回の総選挙でも「自民党圧勝」の陰の立役者であることは、このブログでも再三指摘してきました。したがって小池氏を擁護するつもりは、さらさらありません。しかし、希望の党の連中が選挙結果の責任を小池氏に押し付けている姿は、あまりにも醜悪だと言わざるをえません。

 選挙前は「小池人気」にあやかって、主義主張などお構え無しに「希望」になびき、それが思い通りにならなかったら今度は小池氏をこきおろす。彼らには政治家としての、いや人間としての矜持などかけらも見られません。

 なかでも見過ごせないのは、小池氏の「排除します」発言(9月28日)があたかも「希望」敗北の元凶であるように言われていることです。
 これは「希望」の議員・候補者だけでなく、「小池氏は衆院選直前、民進党出身者の公認申請を巡り、一部を「排除する」と発言して党勢は一気に失速」(26日付共同配信)など、メディアにも広く流布しています。

 「希望」失速の原因を「排除」発言に求めるのは全くのお門違いです。
 それは2つの意味で間違っています。

 第1に、「希望」の候補者に対して有権者から集中した批判は、「排除」ではなく「変節」「無節操」です。安保法制(戦争法)について、民進党にいたときは「憲法違反」と言って反対しておきながら、賛成・推進の「希望」に行くとは何事か、というきわめて当然の批判です。

 安保法制や改憲をめぐって、「希望」が自民党の補完勢力でしかないことが露呈した。それが「希望」失速の主な原因です。それを「排除」発言のせいにするのは事態の本質を見誤らせます。

 第2に、「排除」発言自体は、なんの問題もありません。
 排除とはふるい落とし、選別です。小池氏は「政策協定書」(写真右)を示し、これに同意できない者は「排除」する、すなわち公認できないと言ったのです。「政策」の内容はともかく(自民党政治の補完そのものですが)、政党が「政策協定」を基準に公認のふるいにかけるのはきわめて当然であり、なんら批判されるべきことではありません。

 にもかかわらず「排除」発言がこれほどやり玉に挙げられるのはなぜでしょうか。
 そこには、「排除」という言葉が意味する内容に対する批判ではなく、語感、さらには小池氏のものの言い方、態度に対する反発があるのではないでしょうか。いわば一種の個人攻撃とも言えます。
 
 乗松聡子氏(「アジア太平洋ジャーナル・ジャパンフォーカス」エディター)は、ネットや新聞紙上で「小池氏をその政策で批判するのではなく「〇〇婆あ」とか、女性であることを標的にした攻撃が氾濫している」と指摘したうえで、こう強調しています。
 「私は小池知事の防衛政策やマイノリティーに対する差別的姿勢を批判する立場だ。しかしこのような個人攻撃やセクハラは誰に対するものでも容認できない」(9日付琉球新報)。政治家に対する「個人攻撃」の問題点を指摘した重要な指摘です。

 「排除」発言の取り上げ方とセクハラは同一ではありませんが、通じるものがあります。それは、本来政治家や政党を判断する基準であるべき政策や政治理念は棚上げし、本質から外れたところで批判・攻撃がされていることです。

 政治家・政党を判断する基準は、政策・政治理念である。この基本が定着しない限り、選挙は何度やってもブームに漂うただの「人気投票」に終わってしまうでしょう。

 ※28日、30日、31日はお休みし、次回は11月1日に書きます。


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「33%の得票で74%の議席」―今こそ小選挙区制の廃止を

2017年10月24日 | 政治・選挙

     

 「自民党の圧勝」で終わった総選挙。しかし、安倍・自民党を支持する国民は決して多数派ではありません。にもかかわらず「圧勝」。そのカラクリは小選挙区制にあります。
 今回の総選挙から小選挙区制の弊害(害悪)をあらためて検証します。

 ★「33%の得票で74%の議席」=民意からの大幅な乖離

 今回自民党の比例代表選挙での得票率は33・27%。これが自民党に対する有権者の支持率とみることができます。
 これに対し、小選挙区での議席獲得は289議席中215議席、その率はなんと74・39%。比例区は176議席中66議席、37・5%ですから、ほぼ得票率に見合っています。
 小選挙区ではいかに得票率と議席獲得率が乖離しているか、有権者の意思が議席(国会の勢力図)に正しくい反映されていないか明白です。

 朝日新聞の直近の世論調査では、「安倍首相の続投」を望むが34%、望まないが51%。「自民党だけが強い勢力を持つ状況」が「よい」というのは15%、「よくない」が73%だったという世論状況からも、今回の選挙結果が「民意」から大きくかけ離れていることは明らかです。

 自民党が33%の得票率で74%の議席を得たということは、自民党以外に投票した67%の有権者の意思は26%しか小選挙区の議席に反映しなかったということ、すなわちそれだけ大量の死票が生じたということです。

 ★戦後2番目の投票率の低さ―小選挙区制導入で続落

 今回の確定投票率は、53・68%。戦後最低だった前回(2014年衆院選)の52・66%に続く戦後2番目の低さでした。
 小選挙区比例代表制が導入されて1回目の衆院選(1996年)は投票率は59・65%。その前の93年選挙は67・26%、そのまた前の90年は73・31%。民主党が政権をとった09年の69・28%を例外として、小選挙区制導入によって投票率が続落していることは否定しようがありません(写真中)。
 それが小選挙区制の特性です。

 「はじめから当選を競い合うような政党が二つくらいしかなく、出てくる候補者が毎度おなじみで、しかもその当落がほぼ予想できるということになれば、人びとの選挙への興味と関心は大幅に減退するでしょう。中小政党が排除され、自分の願いを託せる候補者いず、二大政党が競い合っていてもそのどちらも支持できないという人の場合、はじめから「投票するな」といわれているようなものだからです。当然、投票率は下がります」(五十嵐仁法政大教授『一目でわかる小選挙区比例代表並立制』労働旬報社)

 ★対米従属・大企業本位の「保守二大政党制」への道

 民進党の希望の党への合流は、「保守二大政党制」を目指したものでした。それを選挙制度から促進するのが小選挙区制です。
 そしてそれは、自民党のスポンサーである財界の悲願でした。

 「日本の財界は1980年代後半から小選挙区制の導入に向けて周到な政治工作を行いました。財界幹部が中心になって『民間政治臨調』をつくり、小選挙区制を導入すれば『政治腐敗はなくなる』『政権交代ができる』との『政治改革』キャンペーンをはって導入を推進しました。…財界の本当の目的は、小選挙区制導入による保守二大政党制へと誘導し、保守二大政党制によって憲法改悪と新自由主義的政策をアメリカ言いなりに実行することにありました」(志田なや子弁護士『ここがヘンだよ日本の選挙』学習の友社収録)

 ★そもそも憲法原則(主権在民、代表制)に反する

 そもそも小選挙区制は憲法の原則に反します。
 これまでも違憲訴訟が起こされましたが、最高裁は「立法裁量権」から違憲の主張を退けました(1976年4月)。学説もさまざまあります。そうしたものを踏まえた上で、辻村みよ子東北大教授はこ指摘します。

 「選挙を主権者人民(市民)の主権行使の場として捉えるならば、選挙による主権者の主権行使が十分に実現されるために、選挙制度自体が選挙民の意思を正確に反映するものでなければならない。…選挙制度は民意を可能な限り忠実に議会に反映させるのに相応しいものでなければならない
 「現行の衆参両院の選挙制度は、選挙区制(小選挙区制ー引用者)の点で投票価値平等を実現しえず、選挙活動上の不平等や自由の過度な制約を伴うことによって、一層民意を歪曲し選挙権の権利性を弱める結果を導くものといえる」(辻村みよ子『日本国憲法解釈の再検討』有斐閣収録)

 日本のメディアは今回の選挙の論評で、「なぜ、衆院選で自民党は多数を得たのか。死票の多い小選挙区制の特性もあるが…」(23日付朝日新聞社説)、「政権批判票の分散が、小選挙区制の下で自民を利した」(同毎日新聞社説)、「安倍首相の続投を支持しない人が多いにもかかわらず、自公両党が過半数の議席を得るのは、一選挙区で一人しか当選しない小選挙区制を軸とした現行の選挙制度が影響していることは否めない」(同東京新聞社説)など、一様に小選挙区制の弊害を指摘しています。

 にもかかわらず、「小選挙区制の廃止」を主張している論説は皆無です。きわめて奇異な現象と言わねばなりません。

 憲法原則に照らし、主権者・国民の意思をより正確に政治(国会の議席)に反映させ、対米従属・財界本位の自民党(安倍)独裁、「保守二大政党制」を許さないために、いまこそ小選挙区制を廃止すべきです。そして、全国一区比例代表制を実現すべきです。

 


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