

埼玉県鶴ヶ島市議会(定数18、写真)で今月4日、外国人差別に反対して活動を続けている福島恵美市議(44)=無会派=に対し、発言の「自粛」を求める決議が圧倒的多数の賛成で成立する異常な事態が起こりました。
福島市議は5日記者会見し、「(決議は)とても残念。私は差別に屈せず声を上げ続けていきます」と話しました(6日付朝日新聞デジタル、写真右)。
経過はこうです。
<福島市議はXやYouTubeで鶴ケ島市議であることを明記した上で、クルド人をはじめとする外国人差別に反対し、ヘイトスピーチの現場で抗議する様子などを積極的に発信してきた。
そんな活動を快く思わない一部の人たちから批判の矛先を向けられるようになる。福島市議によると、3月にクルド人の祭りに参加したと発信した直後から急増したという。X上では6月中旬、市役所の電話番号を添えて、「(福島市議に対する)抗議の電話をかけよう」と呼びかける投稿も確認できた。
市や議会事務局によると、福島市議に関する意見が7月末までの2カ月間で約150件寄せられた。内容の大半は「議員を辞めさせろ」「議員としての品位がない」というものだった。
こうした状況から、内野嘉広議長(60)は福島市議に3回にわたって、「事態が沈静化するまで、何らかの対応を考えてもらえないか」とSNS投稿の自粛を求めた。しかし、福島市議は「差別とたたかう地方議員が必要だ」として応じなかった。
決議の引き金となったのは7月22日夜、市のメールフォームに届いたメッセージだった。
「7月中に鶴ケ島市議会議員福島めぐみを誘拐して包丁で刺し殺す。7月25日13:00に鶴ケ島市役所を爆破する」
市は県警に相談。議会事務局によると、議会は翌23日、福島市議がいない中で全員協議会を開いて対応を検討した。「役所の業務に支障をきたしている」「市議としての発信が原因の一つ」として、決議を出すという流れができあがった。
議会は今月4日、福島市議に鶴ケ島市議の肩書を使った発信の自粛を求める決議を、賛成14、反対1の賛成多数で可決した。内野議長は「政治的な発言を制約する意味は全くない。少し配慮してもらえないかという趣旨だ」と説明する。
今回の決議が報じられて以降、鶴ケ島市や議会事務局には140件以上の意見が寄せられており、福島市議への批判が引き続きある一方、「言論の自由を阻害するのか」といった決議への批判も増えているという。
表現の自由に詳しい武蔵野美術大の志田陽子教授(憲法学)は、「議員にとってSNSや街頭での言論活動は重要な表現の一つであり、肩書を明記することは表現の自由に含まれる。鶴ケ島市議会が肩書の使用の自粛を求めるということは言論活動の制限にあたる。
多様な言論に道を開いておくことは民主主義の根幹だ。議会が今回、市議の言論に制約を課すことで、加害者側に成功体験を与え、民主主義に不可欠な言論の自由に深刻なゆがみを生じさせてしまった。
憲法の精神に沿わない決議だとして、議会が自発的に撤回に動くことが望ましい」と話す。>(13日付朝日新聞デジタル=抜粋)
市議の言論活動の「自粛」要求を正面から正当化する者は多くないでしょう。だから「役所の業務に支障をきたす」などを口実とし、「制約する意味は全くない」などと弁明する。しかしこの「決議」が、脅迫に屈した言論弾圧であり、差別を助長する結果を招くことは明白です。
これは鶴ヶ島市議会だけの問題ではありません。
「日本人ファースト」を掲げる参政党の伸長に象徴されるように、外国人へのヘイトスピーチ・ヘイトクライム、マイノリティに対する差別がいっそう広がっている今、こうした事態は他の地方議会でも、さらには私たちの身近な地域社会でも起こる可能性は小さくありません。すでに起こっているかもしれません。絶対に黙過・容認することはできません