アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

ヘイト訴訟2つの画期的判決とメディアの責任

2023年10月14日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム
   

 ネットで「祖国へ帰れ」「差別の当たり屋」「被害者ビジネス」などヘイトスピーチの被害を受けた川崎市の在日コリアン3世、崔江以子(チェ・カンイジャ)さんが損害賠償を求めた訴訟の判決が12日あり、横浜地裁川崎支部(桜井佐英裁判長)はヘイトスピーチ解消法上のヘイトスピーチと断定し、篠内広幸被告に194万円の損害賠償を命じました(写真左=沖縄タイムスより)。

 崔さんの弁護団は声明で、「ヘイトスピーチを断罪する画期的な判決」と評価。とりわけ、「「祖国へ帰れ」との言動は、永く在日コリアンを苦しめ、現在も苦しめているヘイトスピーチの典型であり、かかる言動が違法な差別的言動に該当すると認められ、高額な慰謝料が認められたことは極めて意義がある」と強調しています。

 崔さんは「私たちは一緒に生きる仲間なんだと示してもらった。これ以上の被害を生まないよう、ネット上の差別を禁止する法規範につながればうれしく思う」と語りました(13日付沖縄タイムス)。

 ヘイトスピーチをめぐる裁判では、先週の4日にも注目すべき判決がありました。

 神奈川新聞の石橋学記者が取材の中で、元川崎市議選候補・佐久間吾一氏の差別的発言の誤りを指摘したのに対し、佐久間氏が「名誉毀損」として損害賠償を要求していた訴訟で、東京高裁(中村也寸志裁判長)が「(石橋氏の)発言の前提事実は真実で、意見や論評としての域を出ない」とし、1審判決を取り消し請求を棄却、石橋氏の逆転勝訴となったものです。

 判決後、石橋記者は「差別者を厳しく批判する記事は、厳しく向き合う取材から始まる。取材の正当性が認められたことは、差別と闘うべき報道機関全体にとって意義がある」と語りました(5日付沖縄タイムス、写真右も)。

 2つの判決はいずれもヘイトスピーチを根絶していくうえで画期的なものです。崔さんや石橋氏、支援者の闘いの成果です。崔さんが言う通り、これを差別禁止法の制定につなげていく必要があります。

 見過ごせないのは、この2つの画期的な判決を全国紙はじめほとんどの新聞がいずれも無視、あるいは小さなベタ記事や地域版に収めるなど、きわめて軽視したという事実です。

 これは、日本のメディアがヘイトスピーチ・人種差別に対していかに無知で鈍感かを端的に示すものです。今回の判決は、石橋氏が述べているように、「差別と闘うべき報道機関全体にとって意義がある」ものです。それをほとんどのメディアは理解していません。

 そんな中、神奈川新聞とともに一貫してこの問題を重視して報じているのが沖縄タイムスです。崔さんの勝訴について同紙の阿部岳編集委員は「解説」でこう書いています。

「崔さんのような差別被害の当事者が攻撃にさらされながら訴訟などを重ねて、日本の対策はここまで来た。次は、当事者が矢面に立たずとも差別が一律に違法と認定される差別禁止法が必要だ。本来、対策の責任は多数の日本人の側にある。出番は、とうに来ている」(13日付沖縄タイムス)

 日本人の1人として重く受け止めなければなりません。全国紙はじめ「本土」メディアの責任は決定的に重大です。ヘイトスピーチだけでなく、性暴力・ジェンダー問題を含め、メディアは差別・人権侵害に対する感覚と報道責任を根本的に問い直さなければなりません。

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杉田水脈人権侵犯問題が示す差別禁止法の切迫性

2023年10月03日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム
   

 自民党の杉田水脈衆院議員(安倍派)が行ったアイヌ民族、朝鮮民族を差別した投稿が「人権侵犯」と認定(札幌法務局、9月7日付)されたにもかかわらず、自民党は杉田氏を処分しないばかりか「注意・指導」すらせず、逆に党環境部会長代理に起用しました。世論をなめるにもほどがあります。

 こうした自民党の背景に「透けるのは、愛国保守をアピールする杉田氏に好意的な保守層を刺激すれば、選挙でマイナスになるという計算だ」(2日付地方各紙=共同)といいますから、開いた口がふさがりません。

 杉田氏の人権侵犯は、もはや杉田氏だけの問題ではなく、岸田・自民党全体の問題です。

 杉田氏は、月刊誌でLGBTを「生産性がない」と中傷・攻撃(2018年)するなど、マイノリティに対する差別発言の常習犯です。道理を説いて聞くような人物ではありません。ではどうするか。

 今回の報道の中で、次のような「政府筋」の発言がありました。

「政府筋は「杉田氏は刑事被告人ではない。大騒ぎする話だろうか」と受け流す」(2日付共同)

 この「政府筋」の言葉は反面教師として問題の核心を突いています。杉田氏の差別投稿は「人権侵犯」と認定されましたが、その代償は「啓発」を受けるだけです。損害賠償訴訟で名誉毀損が認定されても、差別発言そのものが違法とされて断罪されるわけではありません。ヘイトスピーチ解消法(2016年)は大きな前進ですが、対象が限定されたり罰則規定がないなどの弱点があります。

 根本的な問題は、日本に差別(発言・行為)そのものを違法とし罰則を科す差別禁止法がないことです。

 そのためにネットではヘイトスピーチが繰り返され、杉田氏のようなレイシズムの確信犯が国会議員として大きな顔をし、自民党がそんなレイシストをかばって恥じない、という事態が起きているのです。前出の「政府筋」の言葉を借りれば、杉田氏を刑事被告人にする法律が必要なのです。

 杉田氏の「人権侵犯」認定が報道されたのは9月20日ですが、くしくもこの日、弁護士や研究者らでつくる「ネットと人権法研究会」が「オンラインヘイトスピーチガイドライン」を公表しました(同研究会のサイトに掲載)。ネット事業者がヘイトスピーチを削除する際の指針として初めて策定されたものですが、一般市民にとっても、何がヘイトスピーチなのかを理解し、それを許さないための指針になります。

 同研究会のメンバーでもある弁護士の師岡康子氏は「ガイドライン」の発表にあたって、「国が差別禁止法を制定し、ネット上のヘイトについても法整備することが不可欠。法整備のポイントは何を差別として規制するかであり、ガイドラインは法整備にも役立つ」と強調しています(9月20日のシンポジウム)。

 杉田氏のような差別の確信犯を正当に罰するために、差別禁止法の1日も早い制定が切望されます。

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辛淑玉さんを苦しめ続ける日本社会

2023年08月30日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム
 

 DHCが制作した番組「ニュース女子」(2017年1月2日)で、沖縄基地反対闘争の「黒幕」「テロリスト」などとヘイトスピーチを浴びせられた辛淑玉(シンスゴ)さん(在日コリアン3世、人権団体「のりこえねっと」共同代表)は、6年間の過酷な闘いの末、今年4月26日の最高裁で完全勝利を勝ち取りました。

 しかし、辛さんへの差別・ヘイトは収まっていません。辛さんは沖縄県民間教育研究所の機関誌「共育者」(最新号)に「何が終わったのだろうか」と題して寄稿しています。(以下抜粋)

「この闘いは、日本のレイシズムを記録に残すために、経済的な打撃を覚悟して始めたものだ。しかしそれは、嘘を信じ込んだ大衆との命がけの闘いでもあることを、ここに改めて記しておこうと思う。

 移動のたびに、帽子をかぶってマスクをした二人組の男たちがレンタカーでついてきていた。

 自宅に人糞を投げ込まれたり、性処理した汚物を郵便受けに入れられたりと、生活空間に見知らぬ他者がずけずけと土足で入り込んで思う存分嫌がらせをしてくる。

 そういうことをしていいという「お墨付き」を「ニュース女子」は与えたのだ。

 確かなことは、今なお、辛淑玉はいたぶっていいと思い込んでいる人たちがいるということだ。彼らは裁判の結果などまったく気にしない。

 人間は、強度のストレス下に置かれるとあらゆる機能がマヒしてしまう。冷え性だった私は、体温調整ができなくなった。味覚もなくなってしまった。

 一度思い込んだら修正できない、修正したくない人たちによって、私の日常生活は今も侵食され続けている」

 辛さんはこうした自身へのヘイトクライムの根源は、「この国では、戦後日本の成り立ちそのものに、最初から差別が組み込まれていた」ことであるとして、具体的に例示しています。たとえば―。

▶1946年 日本国憲法制定にあたって、「外国人は法の平等な保護を受ける」という条文を削除した。
▶1947年 天皇裕仁の最後の勅令(外国人登録令)で朝鮮人、台湾人を「国民」の枠から排除した。
▶1952年 サンフランシスコ講和条約で在日は「正式に」日本国籍を剥奪された。
▶1986年 中曽根康弘首相の「単一民族国家」発言。
▶2000年 石原慎太郎都知事の「三国人」発言。
▶1952、62、70、2009年 各地の朝鮮学校に対する暴力的攻撃。

 辛さんは寄稿をこう結んでいます。

日本における「朝鮮人」とは、日本人が見下して優越感を保つために必要不可欠な存在であり、国民統合のための「仮想敵」であり、大衆感情のゴミ箱であり、不満のはけ口としてのサンドバッグなのだ。彼らは決してこの「お宝」を手放そうとはしない。
 生きるための闘いは、これからも続く

 「彼ら」とはすべての日本人のことです。政治的思惑から朝鮮人を政策的に差別し続けている政府・政治家、在特会などの差別団体、SNSでヘイトスピーチを繰り返す者たちはもちろん、差別の実態を知りながら何も言わない・しない「市民」、差別やヘイトスピーチに関心すら持たない「市民」―そのすべての日本人が辛さんたち在日コリアンを苦しめ続けているのです。

 差別の加害者とならないため、闘い続けなければならないのは、私たち日本人の方です。

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朝鮮学校へのヘイトクライム、政府・国会・メディアの責任重大

2022年10月20日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム
   

 朝鮮学校教職員と支援団体は18日、朝鮮学校生徒への日本人によるヘイトクライム(憎悪犯罪)が多発している現状に対し、これを許さないというメッセージを国として明確にすべきだと法務省人権擁護局に申し入れました(写真中=朝日新聞デジタルより)。

 全国朝鮮学校校長会によると、4日の朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)のミサイル発射後、8日までに、「確認できただけで、抗議電話なども含めて全国6つの朝鮮学校で計11件の被害があった」(19日付琉球新報)といいます。

「4日の夕、東京朝鮮中高級学校生徒が電車内で、50代ぐらいの男性から足を踏みつけられ「日本にミサイルを飛ばすような国が高校無償化とか言ってんじゃねーよ」と威嚇された」(同)

 きわめて悪質で、絶対に許すことはできません。
 これは十分予想された事態です。なぜなら、在日朝鮮人に対するヘイトクライムは、一部の日本人の差別意識の問題ではなく、「国家」によって意図的に作り出されているものだからです。
 この場合の「国家」には3つの意味があります。

 第1に、政府です。

「拉致事件」や「核・ミサイル」を口実に、何の関係もない朝鮮学校生徒の人権を蹂躙する高校無償化排除を決めたのは安倍晋三政権です。直接手を下したのは今あらためて悪名をとどろかせている下村博文文科相(当時)です(2012年12月28日の記者会見)。

 朝鮮学校の存在理由とその意義は、日本の植民地支配の歴史を抜きには考えられません。しかし、安倍政権は戦時性奴隷(日本軍「慰安婦」)、強制動員(「徴用工」)問題、さらには、長崎・端島(軍艦島)、佐渡金山の文化遺産登録などをめぐって、一貫して日本の植民地支配の歴史を改ざんし、責任にほうかむりしてきました。菅義偉前政権、岸田文雄現政権もそれを完全に踏襲しています。 

 第2に、国会です。

 4日の朝鮮のミサイル発射に対し、衆議院(5日)、参議院(6日)はいずれも全会一致(高良鉄美参院議員は棄権)で「北朝鮮に抗議する決議」を挙げました(写真右)。この「決議」はきわめて問題の多いもので、それを「全会一致」で挙げた意味は重大です(8日のブログ参照)。

 第3に、メディアです。

 NHKはじめ日本のメディアは、朝鮮の「ミサイル発射」のたびに、例外なく、「北朝鮮の挑発」とコメントします。しかし、朝鮮のミサイル発射は米韓合同軍事演習に対抗して行われています。4日の場合は日本も加わった日米韓合同軍事演習(9月30日)が引き金です。
 挑発とは問題の原因を作り出した側の行為です。この場合、挑発しているのはアメリカであり韓国であり日本です。
 この関係を逆転させて「北朝鮮の挑発」と繰り返すのは、明らかな偏向報道です。

 以上のように、政府、国会(全政党)、メディアが総がかりで朝鮮に対して差別と偏見による不当な攻撃を加えているのです。市民のヘイトクライムがなくなるわけがありません。

 18日の申し入れに同席した外国人人権法連絡会の師岡康子事務局長は、「日本社会としてどうするのかが問われている。何もしなければ差別を放置しているのと一緒だ」と指摘しました(19日付琉球新報)。

 最も問われているのは政府であり、国会(全政党)であり、メディアです。そして、その不当・不正を許している「国民」です。

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「フジ住宅」ヘイトハラスメント判決は確定したけれど…

2022年09月12日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム
   

 東証プライム上場の大手不動産会社「フジ住宅」(大阪府岸和田市、今井光郎会長)が在日韓国人3世の女性(50代)に対し、職場で民族差別文書を配布するなどヘイトハラスメントを繰り返してきた問題(2020年7月14日のブログ参照)。
 女性が同社と今井会長に対して損害賠償を請求した裁判で、最高裁第1小法廷は8日付で会社側の上告を退け、同社と今井会長に132万円の賠償と文書配布差し止めを命じた大阪高裁判決(2021年11月18日)が確定しました。

 先日、京都府宇治市のウトロ地区に対する放火事件で、京都地裁が実刑の有罪判決を下した(8月30日)のに続き、ヘイトが厳しく断罪された意味は小さくありません。

 ジャーナリストの中村一成氏は、高裁判決が「(原告には)差別的思想を醸成する行為が行われていない職場又はそのような差別的思想が放置されていない職場において就労する人格的利益がある」と明言していることに注目し、その意義をこう指摘しています。

差別扇動の禁止のみならず、人種差別思想が醸成されない職場環境配慮義務を企業の一般的義務とした。これは初めての判断だろう」(「月刊イオ」2022年1月号)

 画期的な判決ですが、大きな弱点もあります。今井会長が文書を配布したのは女性を差別する「目的」だったと断定しなかったこと、配布の仕方にかかわらずヘイト文書の配布自体を違法な差別と認めなかったこと、などです。

 この弱点の根底には、ウトロ判決と同様、日本に人種・民族差別それ自体を違法とする差別禁止法がないことがあります。

 同時に、「フジ住宅」裁判の場合、もう1つ重要な問題があります。

 昨年11月の高裁判決後の記者会見で、女性はこう述べました。
「1審(有罪)判決が出てから、会社は何も変わらなかった。いくら司法が良い判決を出したとしても、受け止める会社側が変わらなければ、同じようなことが続く。正直、今も不安でいっぱいです」(2021年11月18日付朝日新聞デジタル、写真左は高裁判決後の報告集会で花束を受け取る女性=右端=同「月刊イオ」より))

 そして、判決が確定した後に出した談話でも、「(会社には)謝罪と、職場での人との関係を回復できる環境をつくってほしい」(9日付朝日新聞デジタル)と訴えています。「フジ住宅」の差別体質は、女性の懸念した通り、高裁判決後も変わっていないことがうかがえます。

 裁判で勝利することはもちろん重要です。抜本的な差別禁止法制定の必要性はいくら強調してもしすぎることはありません。しかし、それだけでは日本社会から民族・人種差別はなくなりません。差別を見て見ぬふりをしない、許さない。その目と声が、身近な生活の場、職場、地域で広がらなければ差別はなくなりません。

 毎日の職場で繰り返しヘイトハラスメントを受け、裁判で勝ってもなお差別され続けながら、屈することなくたたかい続けている女性の苦悩は計り知れません。女性は「談話」でこう述べています。

「(裁判が)一人一人が尊重されて働くことができ、多様性が当たり前に大切にされる社会の実現の後押しにつながればうれしい

 女性の不屈のたたかいに続きたいと思います。

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ウトロ判決が示した「差別禁止法」の必要性

2022年09月02日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム
   

 在日朝鮮人の人びとの集落、京都府宇治市のウトロ地区に放火(2021年8月30日)した有本匠吾被告(23)に対し、京都地裁(増田啓祐裁判長)は8月30日、求刑通り懲役4年の実刑判決を言い渡しました(写真中)。

 事件は在日朝鮮人を敵視した犯罪であり、求刑通りの実刑判決が下されたことは、当然とはいえ、一歩前進です。しかし同時に、日本の司法の大きな壁をあらためて示しました。判決文に「ヘイトクライム」「(民族)差別」という言葉が入らなかったことです。

 増田裁判長は犯行動機について、「在日韓国朝鮮人という特定の出自を持つ人々への偏見や嫌悪感などに基づく独善的かつ身勝手なもの」と指摘しました。

 しかし、有本被告の犯行は、「偏見や嫌悪感」などという一般的なものではありません。とくに「嫌悪感」という言葉は全く不適切です。有本被告は確信的な韓国朝鮮人差別者です。それは本人が自認しています。

 有本被告は最終意見陳述でこう述べました。「私のように差別、偏見という感情を持つ人は国内の至る所にいる。単なる個人的な感情に基づくものではない」(8月30日の朝日新聞デジタル)
 また、判決後の朝日新聞記者の面会取材でも動機について、「差別感情そのものと言われても否定できない」(同朝日新聞デジタル)と述べています。

 まさに確信犯です。この事件は朝鮮人に対する民族差別による犯行、ヘイトクライムであり、それが最大の動機です。判決はそのことを明記すべきでした。

 判決後の記者会見で、被害者弁護団長の豊福誠二弁護士は、「求刑通りの判決は珍しく、裁判所が重く見たのはわかったが、被告が自ら述べた『差別』という言葉が全く使われず、不十分だ」と批判しました(31日の朝日新聞デジタル)。

 ウトロ平和祈念館のキム・スファン(金秀煥)副館長も、「声は届いたが、差別は罪だと認めてほしかった。残念な気持ちもある」と述べました(同)。

 ヘイトクライムの裁判は当事者らのたたかいで各地で前進していますが、最大の壁は判決文に「差別」の言葉が入らないことです。
 それは司法の後進性を示すとともに、日本に人種・民族差別そのものを犯罪として禁止する「差別禁止法」がないことが根源です。

 今回の判決は、「差別禁止法」の制定が急務であることを改めて示しました。

 ウトロ地区は、1940年に帝国日本が国策で建設した「京都飛行場」に集められた在日朝鮮人労働者たちの飯場跡につくられた集落です。敗戦後は使い捨てにされ、過酷な差別と貧困の中、在日の人びとが力を合わせて生き抜いてきました。

 強制撤去の危機も、日本人支援者たちの協力や、韓国の市民・政府の支援で乗り越えてきました。

 そうした歴史を広く知らせ後世に残すため、地区住民は日本人支援者らとともに、ウトロ平和祈念館の建設を計画しました。有本被告は放火によってこの平和祈念館の開設を妨害しようとしたのです。

 しかし、ウトロ平和祈念館(写真右)は妨害をはねのけ、今年4月に開館しました。そのHPには次のような記述があります。

ウトロは戦争の時代に形づくられた、日本社会から「置き去りにされた」朝鮮人のまちでした。しかし困難に直面しながら声を上げた人々と、ウトロに寄り添ってきた日本市民、在日コリアン、そして韓国市民が協力してウトロの歴史と居住権を守った歴史は日本と朝鮮半島が互いに理解を深めあい、力を合わせ、地域社会で「小さな統一」をつくることによって新しい社会と未来を築いていけることを示してくれています

 ウトロの闘いは日本の財産です。私たちはその闘いに学び、在日朝鮮人への差別はもちろん、あらゆる差別のない日本社会をつくらねばなりません。
 「差別禁止法」の制定はその第一歩です。

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ヘイト企業「フジ住宅」断罪判決とその限界

2021年11月22日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム

    
 大手不動産会社「フジ住宅」(大阪府岸和田市、今井光郎会長)が在日コリアンの女性従業員に対し、差別文書などで繰り返しヘイトハラスメントを続けてきた問題で、大阪高裁(清水響裁判長)は18日、その違法性を断定し、文書配布の差し止めと132万円の損害賠償を命じました。1審・大阪地裁堺支部の判決(2020年7月2日)に続く有罪判決です。

 「フジ住宅」の卑劣で執拗な手口などについては、2020年7月14日のブログをご参照ください。(https://blog.goo.ne.jp/satoru-kihara/d/20200714

 今井会長(写真右=同社HPより)のハラスメントがエスカレートしてきたのは2013年からですが、前年の12月には第2次安倍晋三政権が発足しています。これはけっして偶然ではないと思います。

 日本の大手企業が職場で繰り返しているヘイトハラスメントに対し、司法が断罪した意味はきわめて大きいものがあります。しかし同時に、判決には見過ごせない限界もあります。

 原告の女性は2審判決後、こう語りました。
「1審判決が出てから、会社は何も変わらなかった。いくら司法が良い判決を出したとしても、受け止める会社側が変わらなければ、同じようなことが続く。正直、今も不安でいっぱいです」(18日に朝日新聞デジタル)

 「フジ住宅」が判決を踏みにじって恥じないのは、今井会長のレイシズムだけでなく、現行法制度の不備の反映でもあります。

 もともと1審の有罪判決にも、「(今井会長のヘイト文書配布を)原告個人に向けられた差別的言動とは認めなかった。…人種差別の本質・問題性を理解していないといわざるを得ない」(弁護団「声明」)という弱点がありました。

 今回の2審判決でも清水裁判長は、「女性個人に対する差別的言動とは認められない」としたうえで、同社が東証1部上場企業であることから、「職場で民族差別的思想が醸成されない環境作りに配慮することが社会的に期待される立場にもかかわらず、怠った」(同朝日新聞デジタル)として、民事の損害賠償を科したのです。

 これでは1審判決同様、「人種差別の本質・問題性」を理解しているとは言えません。
 これはたんに裁判官の問題ではなく、日本の法制度の根本的欠陥にかかわっています。それは、日本には人種差別自体を違法として禁じる差別禁止法がないことです。

日本では、社会生活上の人種差別を明文で禁止した法律がない」「(国連の)人種差別撤廃委員会はこれまで日本に対して、包括的な人種差別禁止法を制定し、ヘイトスピーチについても禁止規定をおくべきことを繰り返し勧告してきた」「この法律(2016年成立のヘイトスピーチ解消法―引用者)は、差別的言動が「許されない」と前文で理念的に宣言しているものの、ヘイトスピーチを違法として禁止する明文規定はなく、当然罰則もなく…人種差別撤廃条約で求められている対策を履行したものとは言い難いものだ」(シン・ヘボン(申惠丰)青山学院大教授『国際人権入門』岩波新書2020年)

 人種差別撤廃条約(「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」)は1965年に国連で採択されました。日本政府は1995年にやっとこれに加入しました。しかしそれは形だけで、一貫してその義務を果たそうとしていません。日本で人種・民族差別がなくならないどころか逆に強まっている原因の1つはここにあります。

 人種差別撤廃条約に基づく人種差別禁止法を早急に制定することは日本の責務です。


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DHCヘイト・辛淑玉さん勝訴が示すもの

2021年09月04日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム

   

 沖縄・高江の米軍ヘリパッド建設反対運動をめぐり、DHCテレビジョン(山田晃社長)が制作した番組「ニュース女子」(2017年1月2日)で、「テロリスト」「黒幕」などと誹謗中傷された辛淑玉(シンスゴ)さん(在日コリアン3世、写真左)が、同社などを訴えていた裁判で、東京地裁(大嶋洋志裁判長、写真中)は1日、名誉棄損を認定し、550万円の支払いとウェブサイトへの謝罪文の掲載を命じました。

 画期的な判決です。辛さんのたたかいが実りました。辛さんは番組で攻撃されただけでなく、その後もSNSでヘイトスピーチを浴びせられ、脅迫を受け、身の安全のためしばらく海外へ移らなければなりませんでした。命がけのたたかいでした。

 1日の記者会見で辛さんは、「私を使って沖縄の平和運動を愚弄する、最も悪質なフェイクニュースでした」「反戦運動に声を上げること、沖縄に思いをはせること。そこを巧みに利用された」(2日付沖縄タイムス)と述べました。

 在日コリアンに対する差別に乗じて人権活動家を悪者に仕立て上げ、同時に沖縄の反基地運動を攻撃する。ここには二重の差別・レイシズムがあります。その相乗効果を狙ったまさに最悪のフェイトです。

 辛さんは会見で、声を詰まらせながら、こうも言いました。

沖縄で起きていることが見て見ぬふりをされるのは、どんな司法判断が出ても変えられない。私たち一人一人が真摯に目を向けなければ」(同沖縄タイムス)

 これは「本土」の日本人へ向けた言葉です。この訴訟は、けっしてDHCを裁くだけのものではありません。沖縄、そして在日朝鮮人に対する差別に無関心な日本人、結果、差別に加担している日本人と日本のメディアに対する警告でもあります。そこにこの裁判の重要な意味があります。

 辛さんは以前、ある雑誌にこう書いたことがあります。

「耳を澄ましてほしい。見えていないものを見てほしい。そして、一人でも泣いている人がいたら、その人のそばに寄り添ってほしい。それが、ジャーナリストの仕事ではないだろうか」

 これが辛さんの一貫したジャーナリズム論であり、人間論であり、思想です。

 DHCテレビジョンは「不当判決だ」と居直り、控訴するとしています。辛さんもまた、今回認定されなかった長谷川幸洋氏(番組司会)の名誉毀損や番組の配信停止を求めて控訴する意向です。

 辛淑玉さんのたたかいは続きます。一緒にたたかいたいと思います。とりわけ、差別・ヘイトスピーチを名誉毀損ではなく差別そのものとして罰する差別禁止法の制定は急務です。

 見て見ぬふりをすることは許されません。沖縄の構造的差別に対しても、在日コリアンに対する歴史的差別に対しても。問われているのは私たちです。


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日本社会が問われている「DaiGoヘイト」

2021年08月23日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム

    

 「メンタリスト」(意味不明!)のDaiGoなる人物は、見たこともなければ、名前を聞いたこともありませんでした。その彼がとんでもない差別発言を行ったことはニュースで知りましたが、まともに批判する気にもなりませんでした。

 しかし、それはやっぱりよくない、きっちり批判しなければならないと思い直しました。そう気づかせてくれたのは、稲葉剛氏(生活困窮者支援「つくろい東京ファンド」代表理事、写真中)のインタビュー記事(17日朝日新聞デジタル)でした。

 DaiGo氏は8月7日公開の動画でこう言ったといいます。「僕は生活保護の人たちにお金を払うために税金を納めているんじゃない。生活保護の人に食わせる金があるんだったら猫を救ってほしい。生活保護の人が生きていても僕は別に得をしないけど、猫は生きていれば得なんで」「自分にとって必要のない命は、僕にとっては軽いんで。だからホームレスの命はどうでもいい」…(写真左、同朝日新聞デジタルより)。

 典型的かつ古典的な「優生思想」であり、生活保護攻撃です。きわめて悪質なヘイトスピーチであることは明白です。彼は「著名なテレビタレント」で「ユーチューブのチャンネル登録者数は250万人に及ぶインフルエンサー」なのだそうです。稲葉氏は、「若い世代への悪影響は計り知れない」と警鐘を鳴らしています。

 稲葉氏は、「インフルエンサーの芸能人だけでなく、国会議員や大学教員など、社会に大きな影響力を持つ人が人の命の価値を否定するような発言をした場合『一発アウト』、その職を続けるべきではないと私は考えています。そういう対応を社会が積み重ねていかない限り、また同じような差別や先導が繰り返され、いつか暴力が誘発され、社会が壊される事態になってしまう」と述べています。まったく同感です。

 続けて稲葉氏はこう述べています。

「ただ、本当に重要なのは、DaiGo氏が今後どうするかということよりも、こうした問題に社会がどう向き合うか、だと思います

 稲葉氏ら生活困窮者支援をおこなっている4団体は、この問題で「緊急声明」(8月14日)を出しました。そこで5項目の要求をあげ、5番目にこう主張しています。

私たち市民は、今回のDaiGo氏の発言を含め、今後ともこのような発言は許されないことを共に確認し、これを許さない姿勢を示し続けること

 稲葉氏や「緊急声明」が最も強調しているのは、DaiGo氏個人の問題ではなく、そのヘイトスピーチ・差別発言を受け止める社会の問題、それを絶対許さないという日本社会の姿勢です。

 差別を傍観することは差別に加担するに等しい。それは自明のことと頭では分かっているつもりでしたが、「批判する気にもならない」と黙っていることは、結局、差別を傍観していることになると思い直しました。

 差別の現場に立ち合ったときの「アクティブ・バイスタンダー(Active Bystander)」の役割について考えましたが(8月8日のブログ)、それは至近距離での立ち合いだけでなく、社会の一員として、日本の中で、あるいは世界で起こったヘイトスピーチ・差別に対してどういう姿勢をとるかの問題であることを、あらためて胸に刻みたいと思います。


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ヘイトスピーチと「名前」

2021年07月01日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム

    

 在日コリアンの母を持つ川崎市在住の中根寧生(ねお)さん(大学1年)が、ネットの投稿で受けたヘイトスピーチを訴え、損害賠償を求めた民事訴訟の控訴審判決が東京高裁でありました(5月12日、写真中は高裁へ向かう中根さん=中央)。
 白井幸夫裁判長は、「投稿は著しく差別的、侮辱的。個人の尊厳や人格を損ない、きわめて悪質」と認定し、加害者の大分市の男(68)に130万円の支払いを命じました。

「判決後の記者会見で中根さんは「匿名の卑怯な差別を許さず発信することで、差別的攻撃を受けている人の勇気や力になりたい」と実名を公表。代理人の師岡康子弁護士は「差別を人格権侵害と認定し、差別されず平穏に生活する権利を認めた画期的な判決」と評価」(5月13日朝日新聞デジタル)しました。

 中根さんが控訴審で意見陳述を行う決意をした経緯を、月刊「イオ」(朝鮮新報社発行)最新号(7月号)で中村一成(イルソン)氏が紹介しています。

 <(警察の聴取のなかで、中根さんは)名前を愚弄された悔しさに話が至ると、肩が震え、涙が止まらなくなった。親の希望が詰まった名、地域で皆から呼ばれ、名乗ってきた名前を踏み躙られたのだ。帰路でオモニが言った。「私が朝鮮人だからこんな思いをさせてしまって、ごめんね」。思いもよらぬ、悲しく悔しい言葉だった。その思いを法廷で述べることにした。「オモニは悪くない。悪いのは朝鮮人ではなくて差別なんだって伝えたかった」>

 中根さんのオモニ(お母さん)は崔江以子さん(写真左は中根寧生さんと崔江以子さん、「イオ」7月号より)。崔さんは川崎市ふれあい館の館長で、ヘイトとたたかい続け多文化共生社会をめざしています。

 男はネットで、中根さんや崔さんの名前を晒し、「在日という悪性外来寄生生物種」「通名などという『在日専用の犯罪用氏名』など許しているものだから、面倒くさい」などとヘイトスピーチを繰り返しました。

 裁判当日、中根さんはこう陳述しました。
「僕は悪性外来寄生生物種ではなく、家族に愛されて、家族を大切に思う人間です。僕は母が朝鮮人であることは自慢ではあるけれど酷いなんて思ったことはない」

 中根さんの名前は、<オモニの信条「丁寧」の寧、朝鮮語のアンニョン(安寧―引用者)の寧を取り、寧生と名付けられた。出会いを丁寧に積み重ね「安寧」な人生を送って欲しい。両親の願いが込められていた>(中村一成氏、同上)

 中根さんの悲しさ、悔しさは、親の愛情がこもった名前を愚弄されたことにあります。名前―それは在日コリアンに対する差別の標的であり、歴史的に、日本の植民地支配の重要なツールでした。日本は朝鮮民族の名前を奪い、「日本名」を強制することで同化政策を推進してきました。それは今も継続しています。

 たとえば、大阪府の「ピースおおさか」(大阪国際平和センター)には、大阪大空襲(1945年3月13日)で犠牲になった在日コリアン(1500人以上)を追悼する銅板がありますが、そこに刻まれているのは「日本名」です。関係者は「本名こそが人間の尊厳を表す」と、本名(民族名)の記載を要求しています。

 ことしの大阪大空襲の追悼式で、水野直樹京大名誉教授は「本名で追悼することの意味」と題して講演しました。

「日本は植民地支配秩序の維持、強化を目的に「民籍法」(1909年)、「創氏改名」(1940年)といった「名前政策」を実施してきた。日本は朝鮮人の名前、アイデンティティを植民地権力の都合に合わせて統制してきた。植民地支配の罪科を明らかにし、それらを踏まえたうえで朝鮮人犠牲者を本名で追悼することの意味を考えるべきだ」(月刊「イオ」5月号)

 個人と民族の尊厳にとって「名前」がいかに重要であるか。だからこそそれを奪うことが日本の植民地政策の中心の1つでした。そして「名前」は、今もヘイトスピーチ、在日コリアン差別のテコになっています。そのことの意味を直視し、ヘイトスピーチを根絶しなければなりません。


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