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アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

黙過できない埼玉・鶴ヶ島市議会の「市議発言自粛決議」

2025年08月14日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム
 

 埼玉県鶴ヶ島市議会(定数18、写真)で今月4日、外国人差別に反対して活動を続けている福島恵美市議(44)=無会派=に対し、発言の「自粛」を求める決議が圧倒的多数の賛成で成立する異常な事態が起こりました。

 福島市議は5日記者会見し、「(決議は)とても残念。私は差別に屈せず声を上げ続けていきます」と話しました(6日付朝日新聞デジタル、写真右)。

 経過はこうです。

<福島市議はXやYouTubeで鶴ケ島市議であることを明記した上で、クルド人をはじめとする外国人差別に反対し、ヘイトスピーチの現場で抗議する様子などを積極的に発信してきた。

 そんな活動を快く思わない一部の人たちから批判の矛先を向けられるようになる。福島市議によると、3月にクルド人の祭りに参加したと発信した直後から急増したという。X上では6月中旬、市役所の電話番号を添えて、「(福島市議に対する)抗議の電話をかけよう」と呼びかける投稿も確認できた。

 市や議会事務局によると、福島市議に関する意見が7月末までの2カ月間で約150件寄せられた。内容の大半は「議員を辞めさせろ」「議員としての品位がない」というものだった。

 こうした状況から、内野嘉広議長(60)は福島市議に3回にわたって、「事態が沈静化するまで、何らかの対応を考えてもらえないか」とSNS投稿の自粛を求めた。しかし、福島市議は「差別とたたかう地方議員が必要だ」として応じなかった。

 決議の引き金となったのは7月22日夜、市のメールフォームに届いたメッセージだった。

 「7月中に鶴ケ島市議会議員福島めぐみを誘拐して包丁で刺し殺す。7月25日13:00に鶴ケ島市役所を爆破する」

 市は県警に相談。議会事務局によると、議会は翌23日、福島市議がいない中で全員協議会を開いて対応を検討した。「役所の業務に支障をきたしている」「市議としての発信が原因の一つ」として、決議を出すという流れができあがった。

 議会は今月4日、福島市議に鶴ケ島市議の肩書を使った発信の自粛を求める決議を、賛成14、反対1の賛成多数で可決した。内野議長は「政治的な発言を制約する意味は全くない。少し配慮してもらえないかという趣旨だ」と説明する。

 今回の決議が報じられて以降、鶴ケ島市や議会事務局には140件以上の意見が寄せられており、福島市議への批判が引き続きある一方、「言論の自由を阻害するのか」といった決議への批判も増えているという。

 表現の自由に詳しい武蔵野美術大の志田陽子教授(憲法学)は、「議員にとってSNSや街頭での言論活動は重要な表現の一つであり、肩書を明記することは表現の自由に含まれる。鶴ケ島市議会が肩書の使用の自粛を求めるということは言論活動の制限にあたる。
 多様な言論に道を開いておくことは民主主義の根幹だ。議会が今回、市議の言論に制約を課すことで、加害者側に成功体験を与え、民主主義に不可欠な言論の自由に深刻なゆがみを生じさせてしまった。
 憲法の精神に沿わない決議だとして、議会が自発的に撤回に動くことが望ましい」と話す。>(13日付朝日新聞デジタル=抜粋)

 市議の言論活動の「自粛」要求を正面から正当化する者は多くないでしょう。だから「役所の業務に支障をきたす」などを口実とし、「制約する意味は全くない」などと弁明する。しかしこの「決議」が、脅迫に屈した言論弾圧であり、差別を助長する結果を招くことは明白です。

 これは鶴ヶ島市議会だけの問題ではありません。

 「日本人ファースト」を掲げる参政党の伸長に象徴されるように、外国人へのヘイトスピーチ・ヘイトクライム、マイノリティに対する差別がいっそう広がっている今、こうした事態は他の地方議会でも、さらには私たちの身近な地域社会でも起こる可能性は小さくありません。すでに起こっているかもしれません。絶対に黙過・容認することはできません

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参政党「日本人ファースト」が大衆暴力に火―辛淑玉さん弾劾

2025年07月31日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム

   

 参政党の「日本人ファースト」は大衆の暴力に火をつけた―在日コリアン3世の辛淑玉(シン・スゴ)さん(人材育成コンサルタント・「のりこえねっと」共同代表)(写真左)が共同通信のインタビューに答えてこう弾劾しています。全文転記します。

<参政党の支持拡大を「一時のブーム」と軽視する見方もありますが、最も恐ろしいのは「日本人ファースト」というスローガンによって、大衆の暴力に火がつけられたことです。被害を受けるのは、外国人からマイノリティーへと広がっていく。「良い外国人」と「悪い外国人」とを分けようとしていますが、その線引きはすぐに意味を失います。

 今回の選挙期間中、アジア系の外国人から「街を歩けなくなった」という相談を多数受けました。外国人を差別する主張が連呼される中、民族名で生きている人たちは、病院で名前を呼ばれたり、電話で何かを注文したりすることにも恐怖を覚えます。そういう現実がこの国に存在しているということを、どれだけの人が想像できるでしょうか。

 「日本人ファースト」は、これまでの差別的な言葉とは質が違います。大衆の連帯感を生み出すキーワードとして機能したのです。「私たちは一番だよね」「私たちがこんなに苦しいのは外国人のせいだ」と再確認したい大衆の連帯感が可視化されたのです。差別や排除を正義と信じる人々が集い、権力と結びつく。それはナチス・ドイツの初期と極めて似た構図です。

 なぜこんな事態になったのか。政治の責任は重いと思います。安倍政権で排外主義の種がまき続けられ、参政党はそれを受け継いだとも言えます。そして今や、参政党でさえ制御不能なレベルで、差別の炎が広がっているのです。

 メディアは評論に終始し、現場の声を拾わない。差別におびえる子どもたちの姿を、私はテレビで見たことがありません。声を上げたマイノリティーが、さらにたたかれる構造が放置されています。差別の連鎖を止められるのは、日本社会で多数派の日本人だけなのです。

 参政党は交流サイト(SNS)などの新しいメディアを使いこなし、洗練された形で差別を社会に流通させてしまいました。リベラル勢力が十分な対応を取ってこなかったことのつけが回ってきたと言えます。

 こんなにも広く、軽やかに、暴力が日常化される時代は初めてです。この状況にあらがい続けることが、今最も必要なことだと思っています。>(30日付琉球新報)

 参政党の「日本人ファースト」がマイノリティーに対して持つ暴力性。「評論」はするけれどどれだけその「現実」を「想像」できていたでしょうか。

 差別とたたかい続けてきている辛淑玉さんの「こんなにも広く、軽やかに、暴力が日常化される時代は初めてです」という言葉に、かつてない事態の深刻さを思います。

「リベラル勢力が十分な対応を取ってこなかったことのつけが回ってきた」という指摘も痛切です。

 そして、「差別の連鎖を止められるのは、日本社会で多数派の日本人だけなのです」という警鐘を、あらためて正面から受け止めなければなりません。

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参院選で広がる排外主義に人権団体が反対声明、問われる有権者

2025年07月09日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム
  参院選で広がっている排外主義の扇動に対し、人権問題に取り組んでいる複数のNGOが8日記者会見し、「選挙運動におけるヘイトスピーチは許されない」とする緊急声明を発表しました。

 声明は、外国人人権法連絡会、「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)など8団体が呼びかけ、266団体が賛同しました。

「記者会見で、師岡康子弁護士は、米不足や物価高などへの不満が募る中、「外国人がスケープゴートにされている」と指摘。「(医療や年金、国民健康保険などで)外国人が優遇されている、というのは事実ではない」と強調した。また、移住連の鳥井一平さんは「外国人の存在なしに日本の社会はなりたたない」と訴えた」(8日付朝日新聞デジタル、写真も)

 声明(全文)を転載します。

  参議院選挙にあたり排外主義の煽動に反対するNGO緊急共同声明

 私たちは、外国人、難民、民族的マイノリティ等の人権問題に取り組むNGOです。
 日本社会に外国人、外国ルーツの人々を敵視する排外主義が急速に拡大しています。NHK等が先月に実施した調査では、「日本社会では外国人が必要以上に優遇されている」という質問に「強くそう思う」か「どちらかといえばそう思う」と答えた人は64.0%にものぼります。
 外国人、外国ルーツの人々へのヘイトスピーチ、ヘイトクライムが止まりません。例えば2023年夏以降、埼玉県南部に居住するクルド人へのヘイトデモ、街宣が毎月のように行われ、インターネット上は連日大量のヘイトスピーチであふれる深刻な状況となっています。
 6月の都議会選挙では、選挙運動として「日本人ファースト」等のヘイトスピーチが行われました。また、外国ルーツの候補者たちが「売国奴」などのヘイトスピーチによって攻撃されました。
 来る参議院選挙でも「違法外国人ゼロ」「外国人優遇策の見直し」が掲げられるなど、各党が排外主義煽動を競い合っている状況です。政府も「ルールを守らない外国人により国民の安全安心が脅かされている社会情勢」として「不法滞在者ゼロ」政策を打ち出しています。
 しかし、「外国人が優遇されている」というのは全く根拠のないデマです。日本には外国人に人権を保障する基本法すらなく、選挙権もなく、公務員になること、生活保護を受けること等も法的権利としては認められていません。医療、年金、国民健康保険、奨学金制度などで外国人が優遇されているという主張も事実ではありません。
 「違法外国人」との用語は、「違法」と「外国人」を直結させ、外国人が「違法」との偏見を煽るものです。「不法滞在者」との用語も、1975年の国連総会決議は、全公文書において「非正規」等と表現するよう要請しています。難民など様々事情があって書類がない人たちをひとくくりで「違法」「不法」として「ゼロ」すなわち問答無用で排斥する政策は排外主義そのものです。
 本来政府、国会などの公的機関は、人種差別撤廃条約にもとづき、ヘイトスピーチをはじめとする人種差別を禁止し終了させ、様々なルーツの人々が共生する政策を行う義務があります。社会に外国人、外国ルーツの人々への偏見が拡大している場合には、先頭に立って差別デマを打ち消し、闘うべきなのに、偏見を煽る側に立つことは到底許されません。法務省もヘイトスピーチ解消法に則り、選挙運動にかこつけて行われるヘイトスピーチは許されないとの通知を出しています。
 ヘイトスピーチ、とりわけ排外主義の煽動は、外国人・外国ルーツの人々を苦しめ、異なる国籍・民族間の対立を煽り、共生社会を破壊し、さらには戦争への地ならしとなる極めて危険なものです。
 私たちは、選挙にあたり、各政党・候補者に対し排外主義キャンペーンを止め、排外主義を批判すること、政府・自治体に対し選挙運動におけるヘイトスピーチが許されないことを徹底して広報することを強く求めます。また、有権者の方々には、外国人への偏見の煽動に乗せられることなく、国籍、民族に関わらず、誰もが人間としての尊厳が尊重され、差別されず、平和に生きる共生社会をつくるよう共に声をあげ、また、一票を投じられるよう訴えます。

 声明は以上です。

 とりわけ参政党、日本保守党、NHK党などによる排外主義の扇動、ヘイトスピーチは目に余ります。メディアのファクトチェックでもこれらの党の演説にはウソが多いことが証明されています。これらの党にどういう審判を下すのか。有権者が問われています。

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ヘイトクライムを見逃す社会は何を招くか

2025年03月15日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム
   

 今月2日、石川県金沢駅近くの在日本大韓民国民団(民団)の事務所(写真左=ハンギョレ新聞より)に車が突入し、男が1人逮捕されました。

「現地メディアによると…男性が乗っていた車には、所属する右翼団体の名前とともに軍国主義の象徴である旭日旗などがあった。…「尹奉吉(ユン・ボンギル)追悼案内館」の推進に不満を抱いて犯行に及んだという」(4日付ハンギョレ新聞日本語電子版)

 「尹奉吉」とは、「日帝強占(植民地支配―私)期に中国の上海での爆弾義挙後、日本軍に処刑された義士」(同ハンギョレ新聞)。その「殉国記念碑」と「墓碑」が金沢市にあり、日韓市民が金沢駅近くに「追悼案内館」を建設する計画があると1月に地元紙が報じていたといいます。

 今回の右翼の犯行は、その妨害を図ったもので、明白なヘイトクライム(人種・民族差別による犯罪)です。

 ところが、日本のメディアは地元紙を除いてこの事件を報じていません。上記ハンギョレ新聞を読んだあと、朝日新聞、毎日新聞、京都新聞(共同配信)を調べましたが、ベタ記事もありませんでした。

 日本のメディア、社会は、日本の植民地支配に根源を持つ問題で行われたヘイトクライムを見逃したのです。その重大さはこの件だけの問題ではありません。

 自民党は8日、ヘイトスピーチを繰り返し法務当局からも人権侵犯を認定された正真正銘のレイシスト(人種・民族差別者)杉田水脈前衆院議員(写真中)を参院選比例区の公認候補に決めました。

 政権党のこんな愚挙が通用する(と自民党は高をくくっている)。それは日本社会がヘイトスピーチ・クライムを見逃していることと決して無関係ではありません。

 もう1つの事例。韓国映画の「ハルビン」(ウ・ミンホ監督、写真右=公式サイトより)の未公開です。

 「ハルビン」は、日帝の朝鮮侵略・植民地支配の首謀者の1人、伊藤博文をハルビン駅で暗殺(1909年10月26日)した安重根(アン・ジュングン)を描いた映画です。「韓国で観客動員数400万人を突破」(2月19日付京都新聞)した大ヒット映画です。

 カナダでこれを観たジャーナリストの乗松聡子氏はこう書いています。

「安重根と同志たちが、独立の闘いの中で死んだ仲間の無念を胸に刻みながら、残忍な植民地支配の首謀者の一人を暗殺するに至る経過を丁寧に描写していた。(中略)
 日本の侵略戦争や植民地支配を扱う映画は日本では敬遠される傾向があるが、日本の人たちにとっては、やられた側の立場に立てる貴重な機会になると思う。…ぜひ日本の人たちにこそ観てほしい」(1月24日付琉球新報「乗松聡子の眼」)

 ところが、「ハルビン」はいまだに日本では公開されていません。公開の予告もありません(私が知る限り)。その理由を報じた記事も目にしていません。

 この映画に右翼や歴史「修正」(改ざん)主義者らが反発するのは必至です。右翼による暴力的妨害も予想されます。日本の配給会社・関係者はそれを恐れて公開を「自粛」しているのではないか。そう推測されます。

 ヘイトスピーチ・クライムを見逃し、放置する社会は、差別・人権侵害がはびこる社会であるとともに、言論・表現の自由が圧殺される社会でもあります。
 あらゆる意味で、ヘイトスピーチ・クライムを見逃すことは絶対にできません。

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ヘイト訴訟2つの画期的判決とメディアの責任

2023年10月14日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム
   

 ネットで「祖国へ帰れ」「差別の当たり屋」「被害者ビジネス」などヘイトスピーチの被害を受けた川崎市の在日コリアン3世、崔江以子(チェ・カンイジャ)さんが損害賠償を求めた訴訟の判決が12日あり、横浜地裁川崎支部(桜井佐英裁判長)はヘイトスピーチ解消法上のヘイトスピーチと断定し、篠内広幸被告に194万円の損害賠償を命じました(写真左=沖縄タイムスより)。

 崔さんの弁護団は声明で、「ヘイトスピーチを断罪する画期的な判決」と評価。とりわけ、「「祖国へ帰れ」との言動は、永く在日コリアンを苦しめ、現在も苦しめているヘイトスピーチの典型であり、かかる言動が違法な差別的言動に該当すると認められ、高額な慰謝料が認められたことは極めて意義がある」と強調しています。

 崔さんは「私たちは一緒に生きる仲間なんだと示してもらった。これ以上の被害を生まないよう、ネット上の差別を禁止する法規範につながればうれしく思う」と語りました(13日付沖縄タイムス)。

 ヘイトスピーチをめぐる裁判では、先週の4日にも注目すべき判決がありました。

 神奈川新聞の石橋学記者が取材の中で、元川崎市議選候補・佐久間吾一氏の差別的発言の誤りを指摘したのに対し、佐久間氏が「名誉毀損」として損害賠償を要求していた訴訟で、東京高裁(中村也寸志裁判長)が「(石橋氏の)発言の前提事実は真実で、意見や論評としての域を出ない」とし、1審判決を取り消し請求を棄却、石橋氏の逆転勝訴となったものです。

 判決後、石橋記者は「差別者を厳しく批判する記事は、厳しく向き合う取材から始まる。取材の正当性が認められたことは、差別と闘うべき報道機関全体にとって意義がある」と語りました(5日付沖縄タイムス、写真右も)。

 2つの判決はいずれもヘイトスピーチを根絶していくうえで画期的なものです。崔さんや石橋氏、支援者の闘いの成果です。崔さんが言う通り、これを差別禁止法の制定につなげていく必要があります。

 見過ごせないのは、この2つの画期的な判決を全国紙はじめほとんどの新聞がいずれも無視、あるいは小さなベタ記事や地域版に収めるなど、きわめて軽視したという事実です。

 これは、日本のメディアがヘイトスピーチ・人種差別に対していかに無知で鈍感かを端的に示すものです。今回の判決は、石橋氏が述べているように、「差別と闘うべき報道機関全体にとって意義がある」ものです。それをほとんどのメディアは理解していません。

 そんな中、神奈川新聞とともに一貫してこの問題を重視して報じているのが沖縄タイムスです。崔さんの勝訴について同紙の阿部岳編集委員は「解説」でこう書いています。

「崔さんのような差別被害の当事者が攻撃にさらされながら訴訟などを重ねて、日本の対策はここまで来た。次は、当事者が矢面に立たずとも差別が一律に違法と認定される差別禁止法が必要だ。本来、対策の責任は多数の日本人の側にある。出番は、とうに来ている」(13日付沖縄タイムス)

 日本人の1人として重く受け止めなければなりません。全国紙はじめ「本土」メディアの責任は決定的に重大です。ヘイトスピーチだけでなく、性暴力・ジェンダー問題を含め、メディアは差別・人権侵害に対する感覚と報道責任を根本的に問い直さなければなりません。

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杉田水脈人権侵犯問題が示す差別禁止法の切迫性

2023年10月03日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム
   

 自民党の杉田水脈衆院議員(安倍派)が行ったアイヌ民族、朝鮮民族を差別した投稿が「人権侵犯」と認定(札幌法務局、9月7日付)されたにもかかわらず、自民党は杉田氏を処分しないばかりか「注意・指導」すらせず、逆に党環境部会長代理に起用しました。世論をなめるにもほどがあります。

 こうした自民党の背景に「透けるのは、愛国保守をアピールする杉田氏に好意的な保守層を刺激すれば、選挙でマイナスになるという計算だ」(2日付地方各紙=共同)といいますから、開いた口がふさがりません。

 杉田氏の人権侵犯は、もはや杉田氏だけの問題ではなく、岸田・自民党全体の問題です。

 杉田氏は、月刊誌でLGBTを「生産性がない」と中傷・攻撃(2018年)するなど、マイノリティに対する差別発言の常習犯です。道理を説いて聞くような人物ではありません。ではどうするか。

 今回の報道の中で、次のような「政府筋」の発言がありました。

「政府筋は「杉田氏は刑事被告人ではない。大騒ぎする話だろうか」と受け流す」(2日付共同)

 この「政府筋」の言葉は反面教師として問題の核心を突いています。杉田氏の差別投稿は「人権侵犯」と認定されましたが、その代償は「啓発」を受けるだけです。損害賠償訴訟で名誉毀損が認定されても、差別発言そのものが違法とされて断罪されるわけではありません。ヘイトスピーチ解消法(2016年)は大きな前進ですが、対象が限定されたり罰則規定がないなどの弱点があります。

 根本的な問題は、日本に差別(発言・行為)そのものを違法とし罰則を科す差別禁止法がないことです。

 そのためにネットではヘイトスピーチが繰り返され、杉田氏のようなレイシズムの確信犯が国会議員として大きな顔をし、自民党がそんなレイシストをかばって恥じない、という事態が起きているのです。前出の「政府筋」の言葉を借りれば、杉田氏を刑事被告人にする法律が必要なのです。

 杉田氏の「人権侵犯」認定が報道されたのは9月20日ですが、くしくもこの日、弁護士や研究者らでつくる「ネットと人権法研究会」が「オンラインヘイトスピーチガイドライン」を公表しました(同研究会のサイトに掲載)。ネット事業者がヘイトスピーチを削除する際の指針として初めて策定されたものですが、一般市民にとっても、何がヘイトスピーチなのかを理解し、それを許さないための指針になります。

 同研究会のメンバーでもある弁護士の師岡康子氏は「ガイドライン」の発表にあたって、「国が差別禁止法を制定し、ネット上のヘイトについても法整備することが不可欠。法整備のポイントは何を差別として規制するかであり、ガイドラインは法整備にも役立つ」と強調しています(9月20日のシンポジウム)。

 杉田氏のような差別の確信犯を正当に罰するために、差別禁止法の1日も早い制定が切望されます。

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辛淑玉さんを苦しめ続ける日本社会

2023年08月30日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム
 

 DHCが制作した番組「ニュース女子」(2017年1月2日)で、沖縄基地反対闘争の「黒幕」「テロリスト」などとヘイトスピーチを浴びせられた辛淑玉(シンスゴ)さん(在日コリアン3世、人権団体「のりこえねっと」共同代表)は、6年間の過酷な闘いの末、今年4月26日の最高裁で完全勝利を勝ち取りました。

 しかし、辛さんへの差別・ヘイトは収まっていません。辛さんは沖縄県民間教育研究所の機関誌「共育者」(最新号)に「何が終わったのだろうか」と題して寄稿しています。(以下抜粋)

「この闘いは、日本のレイシズムを記録に残すために、経済的な打撃を覚悟して始めたものだ。しかしそれは、嘘を信じ込んだ大衆との命がけの闘いでもあることを、ここに改めて記しておこうと思う。

 移動のたびに、帽子をかぶってマスクをした二人組の男たちがレンタカーでついてきていた。

 自宅に人糞を投げ込まれたり、性処理した汚物を郵便受けに入れられたりと、生活空間に見知らぬ他者がずけずけと土足で入り込んで思う存分嫌がらせをしてくる。

 そういうことをしていいという「お墨付き」を「ニュース女子」は与えたのだ。

 確かなことは、今なお、辛淑玉はいたぶっていいと思い込んでいる人たちがいるということだ。彼らは裁判の結果などまったく気にしない。

 人間は、強度のストレス下に置かれるとあらゆる機能がマヒしてしまう。冷え性だった私は、体温調整ができなくなった。味覚もなくなってしまった。

 一度思い込んだら修正できない、修正したくない人たちによって、私の日常生活は今も侵食され続けている」

 辛さんはこうした自身へのヘイトクライムの根源は、「この国では、戦後日本の成り立ちそのものに、最初から差別が組み込まれていた」ことであるとして、具体的に例示しています。たとえば―。

▶1946年 日本国憲法制定にあたって、「外国人は法の平等な保護を受ける」という条文を削除した。
▶1947年 天皇裕仁の最後の勅令(外国人登録令)で朝鮮人、台湾人を「国民」の枠から排除した。
▶1952年 サンフランシスコ講和条約で在日は「正式に」日本国籍を剥奪された。
▶1986年 中曽根康弘首相の「単一民族国家」発言。
▶2000年 石原慎太郎都知事の「三国人」発言。
▶1952、62、70、2009年 各地の朝鮮学校に対する暴力的攻撃。

 辛さんは寄稿をこう結んでいます。

日本における「朝鮮人」とは、日本人が見下して優越感を保つために必要不可欠な存在であり、国民統合のための「仮想敵」であり、大衆感情のゴミ箱であり、不満のはけ口としてのサンドバッグなのだ。彼らは決してこの「お宝」を手放そうとはしない。
 生きるための闘いは、これからも続く

 「彼ら」とはすべての日本人のことです。政治的思惑から朝鮮人を政策的に差別し続けている政府・政治家、在特会などの差別団体、SNSでヘイトスピーチを繰り返す者たちはもちろん、差別の実態を知りながら何も言わない・しない「市民」、差別やヘイトスピーチに関心すら持たない「市民」―そのすべての日本人が辛さんたち在日コリアンを苦しめ続けているのです。

 差別の加害者とならないため、闘い続けなければならないのは、私たち日本人の方です。

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朝鮮学校へのヘイトクライム、政府・国会・メディアの責任重大

2022年10月20日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム
   

 朝鮮学校教職員と支援団体は18日、朝鮮学校生徒への日本人によるヘイトクライム(憎悪犯罪)が多発している現状に対し、これを許さないというメッセージを国として明確にすべきだと法務省人権擁護局に申し入れました(写真中=朝日新聞デジタルより)。

 全国朝鮮学校校長会によると、4日の朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)のミサイル発射後、8日までに、「確認できただけで、抗議電話なども含めて全国6つの朝鮮学校で計11件の被害があった」(19日付琉球新報)といいます。

「4日の夕、東京朝鮮中高級学校生徒が電車内で、50代ぐらいの男性から足を踏みつけられ「日本にミサイルを飛ばすような国が高校無償化とか言ってんじゃねーよ」と威嚇された」(同)

 きわめて悪質で、絶対に許すことはできません。
 これは十分予想された事態です。なぜなら、在日朝鮮人に対するヘイトクライムは、一部の日本人の差別意識の問題ではなく、「国家」によって意図的に作り出されているものだからです。
 この場合の「国家」には3つの意味があります。

 第1に、政府です。

「拉致事件」や「核・ミサイル」を口実に、何の関係もない朝鮮学校生徒の人権を蹂躙する高校無償化排除を決めたのは安倍晋三政権です。直接手を下したのは今あらためて悪名をとどろかせている下村博文文科相(当時)です(2012年12月28日の記者会見)。

 朝鮮学校の存在理由とその意義は、日本の植民地支配の歴史を抜きには考えられません。しかし、安倍政権は戦時性奴隷(日本軍「慰安婦」)、強制動員(「徴用工」)問題、さらには、長崎・端島(軍艦島)、佐渡金山の文化遺産登録などをめぐって、一貫して日本の植民地支配の歴史を改ざんし、責任にほうかむりしてきました。菅義偉前政権、岸田文雄現政権もそれを完全に踏襲しています。 

 第2に、国会です。

 4日の朝鮮のミサイル発射に対し、衆議院(5日)、参議院(6日)はいずれも全会一致(高良鉄美参院議員は棄権)で「北朝鮮に抗議する決議」を挙げました(写真右)。この「決議」はきわめて問題の多いもので、それを「全会一致」で挙げた意味は重大です(8日のブログ参照)。

 第3に、メディアです。

 NHKはじめ日本のメディアは、朝鮮の「ミサイル発射」のたびに、例外なく、「北朝鮮の挑発」とコメントします。しかし、朝鮮のミサイル発射は米韓合同軍事演習に対抗して行われています。4日の場合は日本も加わった日米韓合同軍事演習(9月30日)が引き金です。
 挑発とは問題の原因を作り出した側の行為です。この場合、挑発しているのはアメリカであり韓国であり日本です。
 この関係を逆転させて「北朝鮮の挑発」と繰り返すのは、明らかな偏向報道です。

 以上のように、政府、国会(全政党)、メディアが総がかりで朝鮮に対して差別と偏見による不当な攻撃を加えているのです。市民のヘイトクライムがなくなるわけがありません。

 18日の申し入れに同席した外国人人権法連絡会の師岡康子事務局長は、「日本社会としてどうするのかが問われている。何もしなければ差別を放置しているのと一緒だ」と指摘しました(19日付琉球新報)。

 最も問われているのは政府であり、国会(全政党)であり、メディアです。そして、その不当・不正を許している「国民」です。

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「フジ住宅」ヘイトハラスメント判決は確定したけれど…

2022年09月12日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム
   

 東証プライム上場の大手不動産会社「フジ住宅」(大阪府岸和田市、今井光郎会長)が在日韓国人3世の女性(50代)に対し、職場で民族差別文書を配布するなどヘイトハラスメントを繰り返してきた問題(2020年7月14日のブログ参照)。
 女性が同社と今井会長に対して損害賠償を請求した裁判で、最高裁第1小法廷は8日付で会社側の上告を退け、同社と今井会長に132万円の賠償と文書配布差し止めを命じた大阪高裁判決(2021年11月18日)が確定しました。

 先日、京都府宇治市のウトロ地区に対する放火事件で、京都地裁が実刑の有罪判決を下した(8月30日)のに続き、ヘイトが厳しく断罪された意味は小さくありません。

 ジャーナリストの中村一成氏は、高裁判決が「(原告には)差別的思想を醸成する行為が行われていない職場又はそのような差別的思想が放置されていない職場において就労する人格的利益がある」と明言していることに注目し、その意義をこう指摘しています。

差別扇動の禁止のみならず、人種差別思想が醸成されない職場環境配慮義務を企業の一般的義務とした。これは初めての判断だろう」(「月刊イオ」2022年1月号)

 画期的な判決ですが、大きな弱点もあります。今井会長が文書を配布したのは女性を差別する「目的」だったと断定しなかったこと、配布の仕方にかかわらずヘイト文書の配布自体を違法な差別と認めなかったこと、などです。

 この弱点の根底には、ウトロ判決と同様、日本に人種・民族差別それ自体を違法とする差別禁止法がないことがあります。

 同時に、「フジ住宅」裁判の場合、もう1つ重要な問題があります。

 昨年11月の高裁判決後の記者会見で、女性はこう述べました。
「1審(有罪)判決が出てから、会社は何も変わらなかった。いくら司法が良い判決を出したとしても、受け止める会社側が変わらなければ、同じようなことが続く。正直、今も不安でいっぱいです」(2021年11月18日付朝日新聞デジタル、写真左は高裁判決後の報告集会で花束を受け取る女性=右端=同「月刊イオ」より))

 そして、判決が確定した後に出した談話でも、「(会社には)謝罪と、職場での人との関係を回復できる環境をつくってほしい」(9日付朝日新聞デジタル)と訴えています。「フジ住宅」の差別体質は、女性の懸念した通り、高裁判決後も変わっていないことがうかがえます。

 裁判で勝利することはもちろん重要です。抜本的な差別禁止法制定の必要性はいくら強調してもしすぎることはありません。しかし、それだけでは日本社会から民族・人種差別はなくなりません。差別を見て見ぬふりをしない、許さない。その目と声が、身近な生活の場、職場、地域で広がらなければ差別はなくなりません。

 毎日の職場で繰り返しヘイトハラスメントを受け、裁判で勝ってもなお差別され続けながら、屈することなくたたかい続けている女性の苦悩は計り知れません。女性は「談話」でこう述べています。

「(裁判が)一人一人が尊重されて働くことができ、多様性が当たり前に大切にされる社会の実現の後押しにつながればうれしい

 女性の不屈のたたかいに続きたいと思います。

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ウトロ判決が示した「差別禁止法」の必要性

2022年09月02日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム
   

 在日朝鮮人の人びとの集落、京都府宇治市のウトロ地区に放火(2021年8月30日)した有本匠吾被告(23)に対し、京都地裁(増田啓祐裁判長)は8月30日、求刑通り懲役4年の実刑判決を言い渡しました(写真中)。

 事件は在日朝鮮人を敵視した犯罪であり、求刑通りの実刑判決が下されたことは、当然とはいえ、一歩前進です。しかし同時に、日本の司法の大きな壁をあらためて示しました。判決文に「ヘイトクライム」「(民族)差別」という言葉が入らなかったことです。

 増田裁判長は犯行動機について、「在日韓国朝鮮人という特定の出自を持つ人々への偏見や嫌悪感などに基づく独善的かつ身勝手なもの」と指摘しました。

 しかし、有本被告の犯行は、「偏見や嫌悪感」などという一般的なものではありません。とくに「嫌悪感」という言葉は全く不適切です。有本被告は確信的な韓国朝鮮人差別者です。それは本人が自認しています。

 有本被告は最終意見陳述でこう述べました。「私のように差別、偏見という感情を持つ人は国内の至る所にいる。単なる個人的な感情に基づくものではない」(8月30日の朝日新聞デジタル)
 また、判決後の朝日新聞記者の面会取材でも動機について、「差別感情そのものと言われても否定できない」(同朝日新聞デジタル)と述べています。

 まさに確信犯です。この事件は朝鮮人に対する民族差別による犯行、ヘイトクライムであり、それが最大の動機です。判決はそのことを明記すべきでした。

 判決後の記者会見で、被害者弁護団長の豊福誠二弁護士は、「求刑通りの判決は珍しく、裁判所が重く見たのはわかったが、被告が自ら述べた『差別』という言葉が全く使われず、不十分だ」と批判しました(31日の朝日新聞デジタル)。

 ウトロ平和祈念館のキム・スファン(金秀煥)副館長も、「声は届いたが、差別は罪だと認めてほしかった。残念な気持ちもある」と述べました(同)。

 ヘイトクライムの裁判は当事者らのたたかいで各地で前進していますが、最大の壁は判決文に「差別」の言葉が入らないことです。
 それは司法の後進性を示すとともに、日本に人種・民族差別そのものを犯罪として禁止する「差別禁止法」がないことが根源です。

 今回の判決は、「差別禁止法」の制定が急務であることを改めて示しました。

 ウトロ地区は、1940年に帝国日本が国策で建設した「京都飛行場」に集められた在日朝鮮人労働者たちの飯場跡につくられた集落です。敗戦後は使い捨てにされ、過酷な差別と貧困の中、在日の人びとが力を合わせて生き抜いてきました。

 強制撤去の危機も、日本人支援者たちの協力や、韓国の市民・政府の支援で乗り越えてきました。

 そうした歴史を広く知らせ後世に残すため、地区住民は日本人支援者らとともに、ウトロ平和祈念館の建設を計画しました。有本被告は放火によってこの平和祈念館の開設を妨害しようとしたのです。

 しかし、ウトロ平和祈念館(写真右)は妨害をはねのけ、今年4月に開館しました。そのHPには次のような記述があります。

ウトロは戦争の時代に形づくられた、日本社会から「置き去りにされた」朝鮮人のまちでした。しかし困難に直面しながら声を上げた人々と、ウトロに寄り添ってきた日本市民、在日コリアン、そして韓国市民が協力してウトロの歴史と居住権を守った歴史は日本と朝鮮半島が互いに理解を深めあい、力を合わせ、地域社会で「小さな統一」をつくることによって新しい社会と未来を築いていけることを示してくれています

 ウトロの闘いは日本の財産です。私たちはその闘いに学び、在日朝鮮人への差別はもちろん、あらゆる差別のない日本社会をつくらねばなりません。
 「差別禁止法」の制定はその第一歩です。

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