7月27日の翁長知事の「撤回表明」を検証する2つ目の視点は、「撤回」の理由です。
②翁長氏の「撤回」は新基地自体を否定するものか
同じ「撤回」という言葉を使っても、何を理由にするかによって、2つに大別されます。「要件撤回」と「公益撤回」です(7月17日ブログ参照)。
「要件撤回」とは、埋め立て承認時の約束事を守らなかったことを理由とするいわば“事務的・行政的撤回”です。
これに対し「公益撤回」は、新基地建設自体が平和を望む県民・市民の意思に反している、民意に反して(公約違反)埋め立てを承認したこと自体が誤りだったとする、地方・住民自治に立った”政治的撤回“です。
翁長氏は27日の会見でこう述べました。
「沖縄防衛局の留意事項違反や処分要件の事後的不十分などが認められるにもかかわらず公有水面埋め立て承認処分の効力を存続させることは、公益に適合し得ないものであるため、撤回に向けた聴聞の手続きを実施する必要があるとの結論に至った」(28日付琉球新報「会見全文」より。以下、会見の引用は同じ)
「公益」という言葉を使っているので紛らわしいですが、これは「公益撤回」ではありません」。「埋め立て承認」時の「留意事項」や「処分(承認)要件」に「違反」や「(実行)不十分」があったので「承認の効力」を「存続」させることはできない、とする「要件撤回」です。これが翁長氏の「撤回」理由です。
仲井真前知事が行った公約違反の「埋立承認」を否定するのではなく、その際の約束事が守られていないことを問題にする、すなわち新基地建設自体を否定するものではないのです。だから「聴聞の手続き」をとるのです。
こうした事務的・行政的手続き上の「違反」で争う限り、政府は裁判になっても勝てると踏んでいます。政府だけでなく、県の担当部局(土木建築部)からも、「留意事項に違反したからといって公水法(公有水面埋立法)にまで抵触するとは言いにくい」(29日付沖縄タイムス)という声が出ています。
そこで翁長氏は、「留意事項違反」だけでなく、「承認」後に分かった「新たな事実」として、「軟弱地盤」や「高さ制限」を挙げました。これが今回の「撤回表明」の特徴とみられています。しかし、「地盤」や「高さ制限」も基地建設の条件(その区域の適合性)を問うものであり、新基地自体を否定するものではありません。
政府は「軟弱地盤」や「高さ制限」についても「反論」を準備していますが、政府の「反論」が認められなければ、それらの心配がない別の場所に新たに基地を造りたいと申請し直すでしょう。そのとき県はそれを承認せざるをえません。なぜなら、今回の「撤回」が、場所の条件いかんにかかわらず新基地は認められないという「撤回」ではないからです。
結局、新基地自体の是非を問い、その不当性を主張しない「撤回」では、「法や行政手続きの解釈など主に技術的な問題が争われ、本質が置き去りにされる可能性がある」(7月20日付沖縄タイムス)のです。いいえ、可能性ではなく「置き去りにされる」のです。それは「取り消し訴訟」の最高裁判決(2016年12月20日)で経験済みです(写真右は政府との「和解」=2016年3月4日)。
今回の翁長氏の表明で、すでにその懸念は現実になっています。
表明翌日の28日、全国紙の「朝日」「毎日」「読売」「産経」の4紙がこの問題で社説を出しました。安倍政権べったりの「読売」「産経」は論外として、「朝日」「毎日」は安倍政権に一定の注文をつけました。しかしその内容は、「政府は…納得できる説明をしなければならない」「新たな対応が求められる」(「朝日」)、「知事選の結果を待ったうえで土砂投入の是非を判断した方がよい」(「毎日」)というものにすぎず、新基地建設自体を問い直し批判する論調はありません。「本質が置き去り」にされているのです。
翁長氏は会見で、「南北首脳会談」や「米朝首脳会談」にふれ、「こういう状況の中で…新辺野古基地を埋め立てていく。もう理由がない」と述べました。この限りでは一定の妥当性があるように思えますが、留意しなければならないのは、これは「南北会談」後の情勢に対する翁長氏の私見であり、それを「撤回」の理由にはしていないことです。
「翁長氏は27日の会見で緊張緩和に向かう朝鮮半島情勢にも言及し…政府方針を批判した。防衛省関係者は『今後裁判になったとしても争点はそこではない。行政手続きや技術面でどちらが正しいかだ』と冷ややかに受け止める」(30日付琉球新報)
政府・防衛省がこう高をくくるのも、翁長氏の「撤回」が「本質を置き去り」にしたものだからです。
翁長氏が「承認取り消し」(2015年10月13日)に続いて今回の「撤回」でも、あくまでも行政上の手続きや条件を問題にし、新基地建設自体、あるいは在沖米軍基地の存在自体を争点にしようとしないのはなぜでしょうか。
それは翁長氏が、「沖縄県は日米安保条約の必要性を理解する立場だ」(3月16日付琉球新報)、「(アメリカと日本・沖縄が)日米安保体制の強い絆で結ばれるのはいい」(3月15日付沖縄タイムス)、「日米が世界の人権と民主主義を守ろうというのが日米安保条約だ」(2017年11月21日付沖縄タイムス)と公言してはばからない、強固な日米安保条約信奉者だからです。ここに「辺野古問題」に対する翁長氏の姿勢の根源があります。
※「3つ目の視点」は明日書きます。