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アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

「家族を取り戻す」ロシアで政権と闘う妻たち

2024年02月23日 | 国家と戦争
   

 ロシアでプーチン政権の弾圧に抗し、家族(夫)を戦場から取り戻そうとする妻たちのグループが運動を続けています。21日のNHK「国際報道2024」(BS、22日総合で再放送)が報じました。以下、番組から。

 運動している妻たちの会は、「プーチ・ダモイ(わが家への道)」。昨年8月から活動を始め、SNSの登録者は7万2000人にのぼります。デモのプラカードには「動員兵たちは家に戻るべきだ」と書かれています。

 会はマニフェストを発表しています。①部分動員の期限は招集から1年以内とする②国の指導部は問題を無視すべきではない―など。

 代表のマリア・アンドレエワさんは、「夫たちはすでに十分に責務を果たしたと思う。政権もそれを認めるべきだ」とプーチン政権を批判します。

 メンバーのひとりは、「子どもは1歳6カ月になるが、父親の顔を知らない。とても悲しい」と訴えます。

 ロシア政治の専門家は、「動員兵の妻たちはナワリヌイ氏の支持者でも、昔から体制を批判してきた人たちでもない。この運動はクレムリンにとって危険なだけでなく、この社会の機運がどこへ行くかを示す重要な指標でもある」と指摘します。

 「プーチ・ダモイ」を支持するジャーナリストは、「動員兵の妻たちはあらゆる手段で(社会の)変化をもたらそうとしている。戦争はすべての家族の生活に関わる問題。私たちの目的は、兵士たちを戦線から離脱させ戦争をやめさせること。できるだけ多くの人々を戦争に巻き込まれないようにすることだ」と強調します。

 当局が警戒を強める中、アンドレエワさんはこう言います。

「祖国のために喜んで死ねるほど国を愛せという。私はこの極悪非道の愛国主義に反対です」「(当局の弾圧は)正直に言えば怖い。でも、自分の良心と向き合い、いつか自分が何もしなかったと自覚することの方が怖い。娘から「お母さんは何をしたの?」と一生問われ続けることの方がもっと怖い」(写真右)

 以上が番組が報じた「プーチ・ダモイ」運動の概要です。

 ウクライナで広がっている「徴兵拒否」、兵士の人権擁護を求める運動(22日のブログ)も、ロシアの「動員兵の妻たち」の運動も、夫たちを戦場から家族の元に取り戻したい、という願いで一致しています。それが以前からの活動家たちの反戦運動ではなく、市井の妻たちが停戦を求めて声を上げている点も共通です。

 そこにあるのは、ロシアでもウクライナでも、「国・領土を守る」ためには兵士の犠牲はいとわないという「国家の論理」に対して、「人の命が第一。夫を1日も早く家族のもとへ」という「庶民の論理」の抵抗です。どちらの論理に立つのか。最も大切なものは何なのか。それが私たち一人ひとりに問われています。


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ウクライナの徴兵拒否報じた「クロ現」の限界

2024年02月22日 | 国家と戦争
   

 21日のNHK「クローズアップ現代」は、「侵攻から2年 ウクライナ最前線は今 徴兵拒否に揺らぐ社会」と題し、長引く戦争でウクライナに広がっている徴兵拒否・政府批判の実態を報じました。

 番組は、「兵士は奴隷ではない」というプラカードを掲げて抗議デモを行う兵士家族のもようから始まりました(写真左)。抗議デモはキーウ(キエフ)中央広場で連日のように見られるといいます。

 結婚間もなく夫が戦地へ赴いた妻は、「兵士は疲弊しきっています。復員と休暇の権利を獲得するため声をあげ続けます」と語ります。

 これらは徴兵を拒否しているわけではなく、その期間短縮と兵士の人権擁護を訴えるものです。

 一方、ロシアの軍事侵攻直後に妻の妊娠が分かったという男性は、「父親として家族と一緒にいたい」との一念で、「不法」に国境を超えて出国しました。

 徴兵拒否(逃れ)で当局に拘束されたウクライナ市民は2万人以上にのぼるといいます。

 徴兵拒否の市民を監禁し、強制的(暴力的)に戦場へ送っている実態を訴えたというSNSも紹介されました。

 16~60歳の男性が原則出国禁止されているウクライナでは、徴兵期間の短縮を求める声や徴兵拒否、「不法」出国、それに関わる汚職が広がっていることはこれまでも報じられてきましたが、それが広がり、政府による強権的動員が強まっている実態が、侵攻から2年を前に詳しく報じられた意味は小さくありません。勇気ある報道とさえ言えるでしょう。

 しかし、番組は後半で視点が一変しました。

 市民の声、実態を報じた前半とは打って変わって、後半はウクライナ政府・軍の高官や報道官のインタビューを中心に、「家族や国を守るためによく考えてほしい」(軍報道官)と徴兵拒否を抑える論調に焦点を当てました。

 極めつけは、コメンテーターとして防衛研究所幹事の兵頭慎治氏が登場したことです(写真右の右側)。
 兵頭氏は侵攻直後からNHK番組の常連で、一貫して「対ロシア・徹底抗戦」を煽ってきた人物です。防衛省防衛研究所の職員は自衛官の一員ですから、その「解説」が政府・防衛省・自衛隊の代弁であることは自明です。
 この日も兵頭氏は、「力による現状変更は許さないという原点に立ち返ることが重要」と反戦気分・運動が広がっていることにクギを刺しました。

 こうして前半の「広がる徴兵拒否」を打ち消す形で後半に「徹底抗戦」が強調されたのは、いかにもNHKという構成です。

 ところが、兵頭氏の発言を受けて最後にコメントした桑子真帆キャスター(写真右の左側)はこう言って番組を締めたのです。「苦しい時間が長くなると本音が表に出にくくなります。それを今後も報じていきたい」(大要)

 そこには、ウクライナ市民の実態・願いを取材し一日も早い停戦を願う現場スタッフと、ロシア敵視で徹底抗戦を煽る日本政府と一体となっているNHK上層部との軋轢・葛藤があるのではないか、と私には思えました。

 いずれにしても、国家の論理ではなく、市民の願い・立場に立って、1日も早い停戦への道を取材・報道することがメディアの使命であることは疑いの余地がありません。

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ガザとウクライナ-岸田政権「支援」の二重基準

2024年02月20日 | 国家と戦争
   

 ブラジルのルラ大統領は19日、エチオピアのアディスアベバで、「イスラエルがパレスチナ人に対しジェノサイド(大量虐殺)を行っている」(19日昼のTBSニュース)、あるいは「ガザのパレスチナに起きていることは、ヒトラーがユダヤ人虐殺を決定した時と類似している。…これは戦争ではなく大量虐殺だ」(同テレビ朝日ニュース)と述べ、イスラエルを厳しく批判しました(写真左)。

 同時に、「ルラ大統領は、UNRWA(パレスチナ難民救済事業機関)への資金拠出を停止した国に人道支援を続けるよう訴えました」(同テレビ朝日ニュース、写真中)。

 アメリカがUNRWAへの資金拠出を停止したのが1月26日。日本がそれに追随して停止したのが同28日。それから3週間以上たちましたが、日米両国ともいまだに資金拠出を再開していません。ガザ市民の危機的状況がきわめて憂慮されます。

 一方、岸田政権は19日、経団連とともに「日ウクライナ経済復興推進会議」を経団連会館で開催。ウクライナへの支援を「官民一体となってオールジャパンで取り組む」(岸田首相)として、56本の「協力文書」を交わしました(写真右)。

 ガザとウクライナ。同じく戦場となっている地域・国でありながら、岸田政権の「支援」対応は真逆、明らかな二重基準(ダブルスタンダード)です。

 対応は真逆ですが、その底流は一貫しています。ガザに対してもウクライナに対しても、岸田政権がとっている対応はいずれもアメリカに追随しているということです。これが日米安保条約による日米軍事同盟の実態です。

 ダブルスタンダードといえば、NHKは19日「日ウクライナ経済復興推進会議」を詳細に報じました。夜の「ニュース9」ではシュミハリ首相に単独インタビューするなどウクライナ支援に肩入れしました。しかしその一方、ブラジル・ルラ大統領の発言はまったく報じませんでした。NHKのダブルスタンダード、偏向報道は目に余ります。

 イスラエルに対しては先に南アフリカが「ジェノサイド条約に違反する」とICJ(国際司法裁判所)に訴え、ICJはイスラエルに同条約の義務を遵守するよう命じる仮処分命令を行いました(1月26日)。

 南アフリカ、ブラジルというグローバルサウス諸国がイスラエルのジェノサイドを告発し、ガザ・パレスチナ市民の生命・安全を守るために奮闘している姿が印象的です。
 これらの国々は、ウクライナ戦争においても、中立的立場から早くから停戦を呼び掛け、和平案を示してきました。

 日本は核覇権国・アメリカに追随するのではなく、グローバルサウスの国ぐにとこそ協調すべきです。
 その第1歩として、直ちにUNRWAへの資金拠出を再開しなければなりません。

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「帰還権」と沖縄とパレスチナ―植民地主義批判の視点で

2024年02月17日 | 国家と戦争
   

 琉球新報に大城尚子氏(北京工業大講師)の論稿「帰還権と沖縄」が上下連載で掲載されました(15、16日付)。沖縄の米軍基地撤去の正当性を「帰還権」という視点から解明したものです。それは同時に、現在のイスラエルによるガザ(パレスチナ)攻撃の深層解明にとっても重要です。以下、大城氏の論稿から(抜粋)。

 「帰還権」とは何か。

< 帰還権が最初に認められたのはパレスチナ難民だった。
 国連は、1947年7月29日、アラブとユダヤの国をつくるという「パレスチナ分割決議」を採択した(国連総会決議181号)。イスラエルは48年5月14日に建国宣言を行った。
 状況を案じた国連は、同年12月11日に、パレスチナ難民に対して「故郷に帰還を希望する難民は可能な限り速やかに帰還を許す、そう望まない難民は損失に対する補償を行う」ことを採択した(国連総会決議194号)。

 だが、同年以降、アラブ居住区は破壊され、農地は没収され、ユダヤ人移民がアラブ村落に入植して居住を始めた。パレスチナ難民の帰還は物理的に不可能な状況ではあるが、パレスチナ難民は諦めていない。>

 大城氏は、国際人権法である世界人権宣言、人種差別撤廃条約、自由権規約に「帰還権」が定められているとし、とくに詳述されている自由権規約委員会の説明を引き、こう指摘します。

< 帰還権は、一時的な出国後の帰還を禁止することも含めあらゆる種類の政府政策によって禁止されない。…帰還権は不可侵の権利である。>

 同じく「帰還権」について、林裕哲(リム・ユチョル)氏(パン=アメリカニズム・第三世界論)は、それを「帝国主義・植民地主義批判の視点」で捉えることの重要性を強調します。

< 帝国主義や植民地主義を批判する視点を失ってはいけないと思います。それを失った途端、(イスラエルが)どのような意味で人道に反しているのかという批判の立脚点が危うくなるからです。
 例えば「人道的な」配慮として、ガザから人々を出してあげるという意見もありましたが、しかしイスラエルはパレスチナ人の帰還権を認めていないわけですから、その帰還権を論じないままだと彼ら(ガザの人々)は再難民化します。

 歴史的な存在としてのパレスチナがこれまでの闘争や苦難で相手にしてきたものが何かを問う視点なくしては、絶対に糸口は導き出せません。それは、第三世界のうねりが再び生まれつつある国際社会の常識でもあると思います。>(「現代思想」2月号=写真右)

 イスラエルはパレスチナ人をガザに閉じ込めるだけでなく、そこに入植して土地を収奪する植民地支配を行っています。イスラエルのギラド・エルダン国連大使は2023年7月の演説で、「帰還権など存在しない」と明言しています(「Arab news」2月8日のサイト)。

 沖縄の米軍基地は、アメリカと日本政府が結託して沖縄(琉球)の土地を強制的に奪い、住民を追い出して造り現在に至っています。まさに大城氏が指摘する通り、帰還権の侵害にほかなりません。それは沖縄が現在軍事植民地化されていることと表裏一体です。

 沖縄の基地問題、ガザ・パレスチナ問題を、「帰還権」というキーワードで、植民地主義批判の視点から捉えることはきわめて重要です。

 

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UNRWA資金拠出停止に重大疑惑・カナダ学者指摘

2024年02月12日 | 国家と戦争
   

 イスラエルによるジェノサイドによってガザ市民の犠牲がさらに拡大することが懸念される中、アメリカ、日本など15カ国以上によるUNRWA(アンルワ、国連パレスチナ難民救済事業機関)への資金拠出停止がいまだに再開されていません(8日のブログ参照)。

 UNRWAのラザリーニ事務局長はNHKの単独インタビューで、疑惑がもたれている元職員に対しては「非常に迅速にこの時点でできることはすべて対応した」とするとともに、「このままでは3月から資金不足になるだろう。資金拠出の再開を切望している」と訴えました(11日のNHKニュース、写真左)

 そんな中、アメリカなどによる資金拠出停止の経過には重大な疑惑があるという指摘が出ています。問題提起しているのは、カナダ・クイーンズ大学のアルディ・イムセイス助教(国際法)。イムセイス氏はUNRWA事務局長の法律顧問を務めた経歴があります。イムセイス氏が共同通信の取材に対しこう述べています。

<UNRWAはパレスチナ自治区ガザでの人道支援の命綱。拠出停止は人道状況の悪化を招く。

 まだ(元職員らの疑惑の)調査が進んでいる段階で資金拠出を止めるのは無責任で残酷だ。仮に12人の犯罪行為への関わりが証明されても、UNRWAには適切な処罰をする枠組みがある。拠出停止はパレスチナ人全体への集団懲罰で、ナンセンスだ。

 奇妙なのは、ICJ(国際司法裁判所)の仮処分命令(イスラエルにジェノサイド=民族大量虐殺条約の義務を遵守するよう命じた)が出た直後に、UNRWAスタッフが奇襲に関わった疑惑があると米主導で発表されたことだ。イスラエル批判を展開したメディアの注意をそらす思惑を感じる

 ICJの仮処分命令に従い、世界各国がさらに支援する必要があるときに、支援機関への資金拠出を停止するのはナンセンスで、ジェノサイド条約の義務違反に当たる可能性がある。>(9日付京都新聞=共同)

 ICJがイスラエルに対して仮処分命令を出したのが1月26日(写真右)。そしてUNRWAの「職員疑惑」が発表されたのも同じ26日。アメリカは同日直ちに資金拠出停止を発表し、日本は2日後の28日にアメリカに追随することを決めました。

 これによってICJの仮処分に関するメディアの報道は打ち消され、完全に「UNRWA問題」に移りました。まさにイムセイス氏が指摘した疑惑を裏付ける経過になっています。

 イムセイス氏はまたこうも指摘しています。

「パレスチナ難民は現在イスラエル領となった故郷への帰還を訴えている。ユダヤ人ではないという理由で難民帰還権を認めないイスラエルの勢力はUNRWAを解体し、帰還権を消滅させたいと考えている。今回の動きもその一環だ」(同前)

 UNRWAへの資金拠出停止が、イスラエルのジェノサイド条約違反報道を打ち消すとともに、UNRWA自体の解体を狙うものである疑惑は濃厚です。
 イスラエルとアメリカによるこの重大な政治的策略に、日本が追随・加担していることを、私たちは日本人は見過ごすことができません。

 あらゆる点からUNRWAへの資金拠出停止は不当で許されません。岸田政権は直ちに資金拠出を再開しなければなりません。

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ガザ市民の命奪う国連UNRWAへの資金停止

2024年02月08日 | 国家と戦争
   

 ガザ市民の死者数は2万7585人にのぼっています(7日現在)。その犠牲がさらに急増しようとしています。アメリカなどが国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=アンルワ)への資金拠出を停止しているからです。

 UNRWAは1日、資金拠出停止が続けば、パレスチナ自治区ガザだけでなく中東での活動全体が2月末までに閉鎖に追い込まれるとの見通しを示しました。

 停止の理由は、UNRWAの複数の職員が10月のハマスによる襲撃に関与していたという疑惑です。これ自体は重大で、国連のグテーレス事務総長は5日、UNRWAの中立性を検証する独立調査団を立ち上げ、3月下旬に中間報告、4月末に最終報告書を公表する予定と発表しました。

 疑惑は究明される必要があります。しかし、それと、UNRWAへの資金拠出停止は別問題です。

 UNRWAへの資金拠出を停止しているのは、拠出1位のアメリカ(3億4393万㌦)はじめ上位10カ国中6カ国(写真左の赤枠黄色)など18カ国。注視しなければならないのは、この中に拠出6位の日本(3015万㌦)が入っていることです(6日のNHK国際報道2024)。

 拠出5位のノルウェーは停止に反対しています。同国のアイデ外相は、「UNRWAはガザの人たちの命綱だ。活動が滞ればガザの悲惨な人道危機がさらに悪化する」とし、「世界はUNRWAを支持する必要がある」と訴えています(同)。

 今回の資金停止はたんに職員疑惑に対する制裁ではなく、イスラエルが一貫してUNRWAを敵視してきた背景があります。

 錦田愛子・慶応大教授(中東政治・難民研究)は、「疑惑を持たれたUNRWAの職員らが、国連機関職員の立場を利用して情報収集をしたり、攻撃を手引きしたりするなどしていたとすれば、大問題だ」とした上で、こう指摘します。

「ただ、資金拠出を止めた国々の反応を見ると、ハマスやイスラム世界への嫌悪を感じる。
 ガザでの人道支援は、UNRWAが一手に担ってきたのが現実だ。その活動を止めることは、ガザの人たちに「死ね」と言っているのに等しい。各国の選択が、市民の命に直結する
 イスラエルがかねて、UNRWAを強く批判してきたのは、パレスチナ難民という存在が彼らにとってやっかいだからだ
 「難民」には、もともといた場所に戻りたい、戻るべき人たちという意味がある。しかしユダヤ人国家を掲げるイスラエルは、自国の領内にパレスチナ人が帰ってこられては困る。彼らを難民として支援する国連機関は、友好的な関係を築ける相手ではないのだろう」(3日付朝日新聞デジタル)

 すでに2万7千人を超えるガザ市民が殺戮され、さらに犠牲が拡大しようとしている現実に対し、私たちは何ができるか、何をすべきなのか。

 日本政府は、イスラエルのアパルトヘイトを支持するアメリカへの追随をやめ、UNRWAへの資金拠出を直ちに再開すべきだ、という声を上げていく必要があります。日本の選択が、ガザ・中東市民の命に直結するのです。

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イスラエルへの虐殺防止命令(ICJ判決)を即時停戦へ

2024年01月29日 | 国家と戦争
   

 イスラエルがガザで繰り返している無差別攻撃に対し、国際司法裁判所(ICJ)は26日、ジェノサイド(民族大量虐殺)を防ぐ「あらゆる措置」を取るよう命じた仮処分(暫定措置)を出しました。南アフリカ共和国の提訴(昨年末)を受けたものです(写真左・中)。

 今回のICJの判決は、イスラエルの行為をジェノサイドと認定しておらず、軍事作戦停止にも踏み込んでいない不十分さはありますが、その意味は決して小さくありません。

 南アフリカの提訴について、同志社大学の三牧聖子准教授(米国政治外交)はこう解説します。

「なぜ地理的にもガザから遠く離れた南アフリカが、パレスチナ市民の命と権利のためにここまで戦うのか。そこには冷戦時代にさかのぼる歴史的な経緯がある。イスラエルが建国され、多くのアラブ人が居住地を追われて難民化した1948年は、南アフリカで白人支配者による黒人に対するアパルトヘイト(人種隔離)体制が成立した年でもある。イスラエルは西側諸国とともにアパルトヘイト体制を強力に支持し、その存続を支えた国家だった。
 長い闘争の果てにアパルトヘイトの撤廃を実現し、1994年、すべての人種が参加した歴史的な選挙で同国初の黒人大統領となったマンデラがこう改めて強調したことはよく知られている。「パレスチナ人にも自由が与えられなければ、私たちの自由も完全ではない」」

 そして三牧氏はこう続けます。

「今回の判決自体は停戦を命ずるものではないが、この先に停戦、さらにはパレスチナの人々の権利と生命を組織的に抑圧してきたイスラエルによる「アパルトヘイト」体制の打破を実現していかなければならない。今回の判決をどのように受け止め、どう行動するかは、私たちひとりひとりの問題でもある」(26日付朝日新聞デジタル)

 パレスチナ問題を一貫して追究しているイスラエル人のジャーナリスト、アミラ・ハス氏は、国際社会の責任こう指摘します。

「もう内部(イスラエル、パレスチナ)からの変化は望めません。外からの介入が必要です。軍事介入ではなく政治介入です。軍事介入は事態の悪化を招くだけです。世界はもうこの争いを止めることを諦めてしまったかのようです。しかし、血まみれの惨状をどうして放っておけるでしょうか。この争いは世界大戦を引き起こす恐れすらあるのです」(28日のNHKスペシャル、写真右)

 イスラエルが建国され、多くのアラブ人が難民化したのが1948年。南アでアパルトヘイト体制が成立したのも1948年。そしてジェノサイド禁止条約が制定されたのも1948年です。この年はまさに近現代史の画期と言えるでしょう。

 そして私たち日本人が忘れてならないことがやはり1948年に起こりました。大韓民国の成立(8月15日)と朝鮮民主主義人民共和国の成立(9月9日)です。日本の植民地支配によって朝鮮半島の分断が決定的になったのも1948年なのです。

 こうした歴史のめぐり合わせ(けっして無関係ではない)からも、私たちはイスラエルによるジェノサイド、アパルトヘイトに無関心でいることは許されません。
 ICJの判決を即時停戦につなげるために、声を上げ続けなければなりません。


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ウクライナ政府に軍事支援を約束した上川外相

2024年01月11日 | 国家と戦争
   

 上川陽子外相は7日ウクライナを訪れ、クレバ外相、ゼレンスキー大統領と相次いで会談しました。

 ゼレンスキー氏に対し上川氏は、「ウクライナが提唱する和平案「平和の公式」の議論に日本が貢献する考えを伝え」(9日付京都新聞=共同)ました(
写真左=朝日新聞デジタルより)。

 一方、それに先立つクレバ外相との会談はこう報じられています。
「国際社会の支援疲れが表面化する中でも日本は支援を続けると伝達。対無人航空機検知システムなどを供与するため、北大西洋条約機構(NATO)の基金に新たに約3700万㌦(約53億円)を拠出すると表明した」(同)

 メディアはゼレンスキー氏との会談を大きく取り上げ、「上川氏「和平議論に貢献」ゼレンスキー大統領に伝達」(同京都新聞)など、日本政府が「和平に貢献」するかのように報じました。

 しかし、注目すべきはクレバ外相との会談の方です。「和平」云々はリップサービスですが、クレバ氏に約束したことはきわめて具体的な内容であり、しかもそれは日本が禁止されているはずの軍事支援の約束だからです。

 無人航空機とは、「いわゆるドローン(マルチコプター)、ラジコン機など」(国交省HP)です。ウクライナ戦争においてロシア、ウクライナ双方がドローンを有効な武器として多用していることは周知の事実です。「対無人航空機検知システム」は武器であり、その「供与」は軍事支援にほかなりません。(写真右はウクライナ上空を飛ぶドローン=朝日新聞デジタルより)

 自民党は安倍晋三政権で「武器輸出禁止三原則」を改悪し、「防衛装備移転三原則」に変えました(2014年)。しかしそれでも「紛争当事国」に武器を移転(供与)することは禁じられています。
 上川氏がウクライナ政府に約束したことはこの原則に明確に違反します。

 それだけではありません。

 アメリカをはじめとするNATO諸国のウクライナ政府に対する「支援疲れ」。NHKはじめメディアはそれを否定的なことと報じていますが、けっしてそうではなく、肯定すべきことです。もちろん、ロシアを利するからではありません。戦争の停止(停戦)を近づけるからです。

 これまで繰り返し述べてきたように、停戦と終戦は別です。今回の戦争の原因・経過・結果については国際的監視の下で外交(協議)によって明確にすべきです。今何よりも必要なのはこれ以上を犠牲者を出さないこと。そのために直ちに停戦することです。
 その意味で、ウクライナに対するNATO諸国の軍事支援の後退は前進的なことです。

 ところが岸田・自民党政権は、「支援疲れが表面化する中でも日本は支援を続ける」と表明し、巨額の軍事支援を約束しました。
 これは軍事同盟国であるアメリカの肩代わりをしようとするものであり、「和平に貢献」どころか、弱火に向かいつつある戦争の火に油を注ぐことに他なりません。

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ガザ即時停戦へ、国境なき医師団シンポが提起したこと

2024年01月01日 | 国家と戦争
   
 ガザの死者は2万1千人を超えました。新年を祝う日本とは別世界の日常がそこにあります。ガザの「即時停戦」のために、日本の私たちは何をすべきなのか―。

 ガザで命懸けで医療活動を続けている「国境なき医師団(MSF)」が12月11日、「ガザ地区で目撃した現実―今、私たちに何ができるのか」と題したシンポジウムを東京で行いました(写真中)。録画を昨年末に見ました。

 ガザから12月に帰国したMSFスタッフの白根麻衣子氏が、現地で活動を続けているパレスチナ人スタッフから届いたメッセージを紹介しました。

 死者が毎日増えていて、もう1万8千人になった。
 でもこれは増えていくだけの数字ではない。
 その一つ一つの命があり、家族がいて仲間がいた。
 多くの人の生活があったということを忘れないでほしい

 ガザ北部のアル・アウダ病院で勤務していた鵜川竜也医師の同僚医師2人が、爆撃で殺害されました。その医師が最期にホワイトボードに書き遺したメッセージが映し出されました(写真左)。

 最後まで残った人は伝えてください。
 私たちはできることをした。
 私たちを忘れないでください

 鵜川氏は、「医療者が命懸けでそこに向かわねばならない現実を作ってはいけない」と訴えました。

 白根氏は、「ガザに戻ることもできない私に唯一できるのは、声を上げること。民衆の声が世界を変えると信じていたい」と述べました。

 ガザを取材してきた作家のいとうせいこう氏(写真右の左)は、「人間は無力だが、それでもガザの人たちに少しでも自分たちのメッセージが伝われば」「声を上げれば、回り回って伝わっていく。このまま何もしないで時がたち、自分のことを何もしなかった人間だと思うことがあってはならない」。

 TBSの前中東支局長の須賀川拓氏(写真右の右)は、「問題は複雑だと思われがちだが実際はシンプル。占領している側(イスラエル)が占領されている側(パレスチナ)の権利を抑圧しているだけだ」と指摘。「パレスチナ、イスラエル双方と関係を結んでいる日本だからこそ、戦争当事者の憎しみに巻き込まれないよう距離をとって問題を過激化させないことが重要」と述べました。

 登壇者4氏が異口同音に強調したのは、まずガザの現実を「知る」こと。そして犠牲になり、今も苦しみ続けている人々(イスラエルの人質家族も含め)、医療関係者らを「忘れない」こと。さらに、命を救うには即時停戦しかないと「声を上げる」ことでした。示唆に富んだシンポでした。

 ただ1点、須賀川氏の「日本だからこそ…距離をとって」という主張は疑問です。なぜなら、日本は国連総会の「人道的休戦決議」(10月27日)に棄権するなど、けっして「中立」ではないからです。その根底に日米軍事同盟(安保条約)によるアメリカ追従があることは明白です。

 いま必要なのは言うまでもなく「即時停戦」です。同時に、停戦後の平和を維持・創造するためにも、軍事同盟のない国際社会を目指さねばなりません。日米安保条約を廃棄して対米従属から脱し、真の中立を実現することは日本の現実的な課題です。


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ウクライナ停戦へ、注目される独州首相の「領土」発言

2023年12月30日 | 国家と戦争
   

 ウクライナ戦争が越年しようとしています。ウクライナ兵の犠牲は増え続け、厳寒の中市民の困窮はいっそう強まっています。米欧の軍事支援の動向とともに、ウクライナの犠牲はさらに大幅に拡大するでしょう。
 ガザとともに、ウクライナでの戦闘を一刻も早く止めねばなりません。

 停戦協議への動きがみられない(報じられない)中、アメリカに次いでウクライナへの武器支援に積極的なドイツの州首相の主張が注目されています。

 発言は、ドイツ東部ザクセン州のクレッチマー首相(CDU=キリスト教民主同盟)(写真右=朝日新聞デジタルより)が、26日配信された独メディアで行ったものです。

<クレッチマー氏は記事で「停戦する場合、ウクライナはまず、特定の領土に一時的にアクセスできなくなることを受け入れなければならない可能性がある」と主張。ウクライナ領がロシア領になるわけではないと強調しつつ、「ロシアを弱体化させるという考え方は19世紀にさかのぼるもので、さらなる紛争の理由となる」とし、対ロ政策転換の必要性を訴えた。>(28日付朝日新聞デジタル)

 「ウクライナは領土を一時的に放棄すべきだ」という趣旨の発言(同朝日新聞デジタル)です。

 重要なのは、クレッチマー氏が「ウクライナ領がロシア領になるわけではないと強調」していることです。「停戦」=「終戦」=「領土の確定」ではないということです。あくまでも「領土を一時的に放棄」するもので、領土の確定は停戦後に講和条約の締結に向けて、国連など国際的監視・関与の下で行われることになります。

「停戦は、降伏と明確に異なる。戦争の結果とは無関係だ。領土・帰属問題の決着や戦争犯罪の取り扱いは、むしろ戦闘行為が中断されてから時間を掛けて議論すべきだ」(伊勢崎賢治氏、2022年5月20日付琉球新報)

 「領土」の問題では、ウクライナの世論にも変化が生まれています。

 ウクライナのキーウ国際社会学研究所が今月発表した世論調査によると、回答者の74%が「いかなる状況でも領土を譲渡するべきではない」とする一方、「平和を実現し、独立を維持するためなら仕方ない」と答えた人が19%ありました。これはこの1年間で11ポイント増え、全面侵攻開始以来最多です(写真中のグラフ)。

 「領土の譲渡」でこの数字です。「譲渡」ではなく「一時的放棄」を選択肢に入れれば、その数字は相当数にのぼるでしょう。

 「停戦(領土の一時的放棄)」と「終戦(領土の譲渡・確定)」との違いを明確にして、「停戦」へ向けた世論を国際的に拡大し、「停戦協議」を実現することが今必要であり、今こそその好機ではないでしょうか。
 これ以上人の命が失われていくことを、なんとしても止めなければなりません。

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