きのう(30日)夜放送の「外国人記者は見たプラス」(BS-TBS)で、北朝鮮に対する米トランプ政権の軍事圧力に関連して、中国人の記者がこう言いました。「一番得をしているのは安倍首相だ」
短い発言の中で記者が挙げたその意味は次の4点です。
①日米同盟の強化
②日本の防衛力の強化(防衛費の増大)
③「戦争ができる国」になれる
④念願の憲法改正につながる
なるほど。きょう1日、海上自衛隊の護衛艦「いずも」が戦争法(安保法制)によって初めて米軍の補給艦を武装して護衛するのも、上記①③の具体例です。
また、トランプ大統領のシリア空爆の直後から安倍政権は「日本独自の防衛力強化」を声高に強調し、高高度防衛ミサイル(THAAD)の日本配備の動きも出ています(トランプ大統領は韓国に設置したTHAADの費用は韓国側が負担すべきだと言っています)。上記②に拍車がかかるのは必至です。
しかし、安倍首相が「得をする」のはこの4点だけではありません。少なくともあと5つあります。
⑤辺野古新基地の埋め立て(護岸工事)強行
安倍政権が沖縄の民意を踏みにじって辺野古の護岸工事を開始したのが4月25日。「朝鮮人民軍創建記念日」で情勢が緊迫していたさ中でした。沖縄の基地強化が①②③に直接関係していることも言うまでもありません。
⑥「共謀罪」法案の強行
「共謀罪」法案(「組織犯罪処罰法改正案」)が衆院法務委員会で実質審議入りしたのは4月19日。先に上程されていた刑法改正(性犯罪の厳罰化)をおしのけ、安倍政権は今国会中の強行を目論んでいますが、「朝鮮半島情勢」で重要な審議がかすんでいます。
同法案は「内心の自由」を侵害し、「監視社会」をさらにすすめるものですが、国家権力によるこうした動きが、戦争への道(上記①②③)と表裏一体であることは、治安維持法を柱とした戦前・戦中の歴史が証明しています。
⑦「生前退位」はじめ憲法にかかわる「天皇制問題」の論議抑制
「生前退位」の「有識者会議最終報告」が出されたのが4月21日。憲法や皇室典範に抵触する重大な問題が山積している(後日詳述)にもかかわらず、野党の翼賛化も手伝って、肝心な議論がないまま、特例法のレールが敷かれようとしています。
余談ですが、護衛艦「いずも」をはじめ海上自衛隊の艦船の名前に「神話(神道)」に関係するものが少なくないのは、自衛隊(軍隊)と天皇制の関係の一端を示すものです。
⑧「森友・昭恵問題」の隠ぺい
先日の安倍首相のロシア、イギリス訪問には昭恵夫人が同行しました(写真左)。もうほとぼりは冷めたと思ったのでしょうか。しかし、籠池泰典前理事長の新たな証言(4月28日)で昭恵氏のかかわりが改めて浮き彫りになっています。安倍氏は自ら「私や妻、事務所が(認可や国有地払下げに)関わっていれば、首相も国会議員も辞める」(2月17日の衆院予算委員会)と言ったのです。目を外(北朝鮮)に向けさせて逃れようとしても、そうは問屋が卸しません。
⑨世論調査の「支持率」挽回
就任後史上最低を記録していたトランプ大統領の支持率が、「シリア空爆」でハネ上がりました(35%→42%)。「9・11」の時もそうでしたが、外に敵をつくれば大統領の支持率が上がるのがアメリカの、異常な現実です。
しかしそれはアメリカだけではありません。安倍内閣の支持率も、前回(3月)の52・4%から今回(4月22、23日調査)58・7%に上がりました(共同通信)。「朝鮮半島情勢」が影響したのは明らかでしょう。
以上、日米が一体となった北朝鮮への軍事圧力は、安倍首相にとっていわば゛一石九鳥”です。度重なるトランプ大統領との会談で、安倍氏の方から軍事圧力を要請したのではないかとさえ思えるほどです。
゛九鳥”の中で、あえて言えば、一番問題なのは9番目ではないでしょうか。安倍首相のさまざまな暴挙の共通の基盤は世論調査の「高支持率」であり、それを許しているのが「主権者・国民」にほかならないからです。
靖国神社をめぐる気になる動きが相次いでいます。
★南城市・糸数壕(アブチラガマ)入り口に大砲。説明版に「靖国神社」
沖縄県南城市の糸数壕は「平和教育」の場として知られていますが、その入り口に今年3月、旧日本軍の大砲と魚雷が設置(移設)されたことを、乗松聡子さん(ピース・フィロソフィー・センター代表)の論稿で知りました(琉球新報10月2日付「論壇」)。
しかもその説明版には、移設にあたって、次の文がひときは大きなの文字で書き加えられたといいます。
「現在砲としては、靖国神社遊就館にも展示されている。 平成28年3月移設 南城市」
乗松さんは、「県内外からの訪問客も多い、平和教育の重要拠点である糸数壕での兵器展示と『靖国』の碑文の問題は、南城市だけでなく沖縄戦の記憶継承全体に関わる重大な問題だ」と指摘しています。
なぜあえて大きな文字で「靖国神社」を付け加えたのか。
南城市の古謝景春市長は、日本会議メンバーの佐喜真淳宜野湾市長とは選挙応援に駆けつける仲です。
★石原慎太郎氏らが靖国神社に「合祀」要求
靖国神社(前身の東京招魂社)はもともと幕末の戊辰戦争で明治新政府の側の人々を慰霊するために建てられたもので、幕府や会津の人々は祀られていません。これに対し、「幕府、会津両軍の戦没者の合祀を求める動きが出始めた」(10月26日付中国新聞、柿崎明二・共同編集委員コラム)といいます。
「亀井静香元金融相、石原慎太郎元東京都知事らが呼びかけ人となり、有志の会を立ち上げ、(10月)12日に徳川康久宮司に会い、合祀するよう求めたのだ」(同)
徳川宮司(15代将軍徳川慶喜の曾孫)は「すぐ直ちにそういたします、とは言えません」と答えたそうですが、「ある神道関係者は『そもそも申し入れに直接対応することが異例。問題提起をきっかけに国民が新政府側一辺倒の明治維新観を見直すことを期待しているのではないか』と見る」(同)
「明治維新観の見直し」というより「靖国神社観の見直し・拡大」を図ろうとする狙いではないでしょうか。
★靖国神社・招魂齋庭が「戦争準備」?
靖国神社には招魂齋庭という場所がありますが、そこに異変が起こっているといいます。「中国人戦争被害者の要求を実現するネットワーク」の機関紙(「すおぺいネットワークニュース」10月号、写真右)の、「靖国神社の『戦争準備』」と題した記事です。抜粋して紹介します。
<靖国神社は「戦死者を神様にする」神社です。戦死者を神様にする儀式をおこなっていました。招魂齋庭の前に牛車に載せた戦死者の名簿を祭壇に示し、そこから本殿に奉納するのです。この招魂齋庭は長い間使われていませんでした。戦後70年以上たち、新たな戦死者がでていないからです。そこで、招魂齋庭の前の広場を「月極駐車場」として利用していました。財政上の理由から「定期収入」を得るための措置でした。招魂齋庭は鳥居と石碑が残っているだけでした。
ところが、この7月以来、「月極駐車場」をなくしてしまいました。招魂齋庭の前庭は更地になっています。
これはどういうことでしょうか。昨年来の安全保障法制の成立にともなって、自衛隊の海外派兵もできるようになっています。「駆けつけ警護」(写真中は南スーダンに派遣されている自衛隊員ー引用者)も可能と言っています。新たな「戦死者」がでるかもしれません。靖国神社はそのときに備えて、戦死者を神様にする儀式はすぐにできますよ、とアピールしているようです。>
招魂斎庭の駐車場が更地になった真相は分かりません。しかし、「新たな戦死者」が出る危険が目前に迫っているのは事実です。招魂齋庭をふたたび「神様にする儀式」に使わせてはなりません。