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アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

軍事侵攻を「越境攻撃」と称する偏向報道の責任

2024年08月17日 | 国家と戦争
   

「ロシア西部クルスク州への越境攻撃を続けるウクライナ軍のシルスキー総司令官は12日、ロシア領約千平方㌔を制圧したと明らかにした。ロシアが2022年2月にウクライナ侵攻を開始して以降、ウクライナがロシア領内で展開した初の大規模作戦で、最大級の軍事的成果となった」

 14日付の京都新聞が掲載した【キーウ共同】電です。6日ウクライナが奇襲的に開始したロシア領内への攻撃を、日本のメディアは一様に「越境攻撃」「越境作戦」と称しています。なぜ「軍事侵攻」と言わないのでしょうか(写真左は15日のNHK国際報道2024)。

 クルスク州(写真中)の知事代行はウクライナの攻撃によって、「住民12人が死亡、12万Ⅰ千人が既に避難しており、最終的な避難者は18万人に達する」(14日付共同)と述べています。

 ゼレンスキー大統領は11日の声明で、「越境攻撃について、ロシアが受ける「報いだ」として正当化を主張」(13日付京都新聞=共同)しました。軍幹部らとの会合でも「自衛権の行使だ」と主張(15日付朝日新聞デジタル)しました。

 しかし、民間人に対する攻撃は「自衛」の範囲を越えた報復であり、国際法に違反していることは明らかです。

 「自衛権の行使」という言い分で民間人攻撃が許されるというのは、ガザでジェノサイドを続けているイスラエルの言い分と変わりません。「自衛」の名目で国際法違反の民間人攻撃を正当化することはできません。

 22年2月24日にロシアが国境を越えてウクライナに侵攻したとき、ロシアは「軍事作戦」だと強弁しましたが、メディアは「軍事侵攻」あるいは「軍事侵略」と表記しました。

 ロシアには「軍事侵攻」、ウクライナには「越境攻撃」「越境作戦」。メディアの二重基準(ダブルスタンダード)は明らかです。こうした二重基準は何をもたらすでしょうか。

 NHKは今回も常連の防衛研究所の研究員(自衛官)を登場させ、「ウクライナの越境攻撃の成否が注目される」とコメントさせています(13日のニュース)。共同通信も「さらなる進軍か制圧地の守備強化か、越境作戦の今後の展開が焦点となっている」(15日付京都新聞)と配信しています。

 こうした報道はたんに偏向しているだけではなく、ウクライナの軍事侵攻を煽っていると言って過言ではないでしょう。

 ウクライナのロシアへの軍事侵攻は、ロシア市民の犠牲だけでなく、ロシアの報復によるウクライナ市民のさらなる犠牲も生みます。双方の戦争被害が拡大し、戦闘はさらにエスカレートします。

 いま必要なのは、双方が戦闘を直ちに停止し、停戦・和平協議を開始することです。
 軍事侵攻を「越境攻撃」と称する偏向・扇動報道が、停戦・和平を遠ざけているメディアの責任は重大です。

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イスラエル招待しない長崎市にG7 が圧力の言語道断

2024年08月08日 | 国家と戦争
   


 長崎市が9日の「平和式典」にイスラエルを招待しないことに対し、アメリカをはじめとするG7各国とEUが政治的圧力を加える「書簡」を送っていたことが分かりました。
 またアメリカやイギリスなどは「式典」への駐日大使の出席をとりやめました。
 イスラエルのジェノサイドを容認・支援するアメリカはじめG7 の実態をさらけ出したもので、言語道断と言わねばなりません。

 「書簡」の存在は朝日新聞が7日スクープとして報じました(以下抜粋)。

< 書簡は7月19日付。主要7カ国(G7)のうち、日本を除く米、英、仏、カナダ、ドイツ、イタリアとEUの大使や代理大使が直筆のサイン付きで、長崎市の鈴木史朗市長あてに送付した。(写真左)

 書簡によると、各国は79回目の平和祈念式典への招待を受け取ったとし、「毎年開かれる追悼行事と、平和のメッセージを伝え合うことの大切さを認識している」との文章で始まった。

 一方で書簡は、「しかしながら、在日イスラエル大使館に招待状が届かないことに、共通の懸念を持っている」と提起。イスラエルと、ウクライナに侵攻したロシアや同盟関係にあるベラルーシを同列に扱うことは、「残念なことであり、誤解を招く」としている。

 その上で、長崎市長に対し、式典が持つ普遍的なメッセージを保つためにも、イスラエルにも招待状を送って欲しいと要請。もしイスラエルが除外されたら、6カ国とEUもハイレベルの参加が難しくなると結んでいる。>(7日付朝日新聞デジタル)

 この記事に対し、弁護士の明石順平氏は7日、朝日新聞デジタルに次のように投稿しています。

< この書簡と同じ日に、国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)は、イスラエルに対し、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区などでのイスラエルの占領政策は国際法違反であり、「占領をできるだけ早く終結させなければならない」との勧告的意見を言い渡している。
 記事によると、駐日大使らは「イスラエルと、ウクライナに侵攻したロシアや同盟関係にあるベラルーシを同列に扱うことは、「残念なことであり、誤解を招く」」と述べているようである。しかし、ICJから国際法違反と指摘されているのだから、同列に扱っても「誤解」ではないだろう。私は長崎市の判断を支持する。>(7日付朝日新聞デジタル)

 イスラエルのガザ攻撃がジェノサイドだというのは世界の常識です。
 たとえば「グローバルサウス」の中心国の1つであるブラジルのルラ大統領は、すでに4月30日の日本メディアのインタビューで、「イスラエルについて「国連(の停戦決議)を無視してジェノサイド(集団殺害)をしている」と厳しく非難」(5月1日付朝日新聞デジタル)しています。

 「ロシアと同列に扱うことは残念」など言うなら、イラクに対するアメリカの空爆(2003年)やリビアに対するアメリカ、イギリス、フランスの空爆(2011年)などについてはどう釈明するのでしょうか。G7 の「二重基準」は明白です。

 とりわけ許せないのはアメリカです。「8・9長崎平和式典」は何のため、だれを追悼して行われるのでしょうか。その原因を作りだした張本人(原爆投下の国際法違反の主犯)はアメリカではありませんか。
 そのアメリカが長崎市に「書簡」で圧力をかけ、思う通りにならないから駐日大使を欠席させるというのです。厚顔無恥も甚だしいと言わねばなりません。

 こうしたアメリカを中心とするG7 に日本も加わり、「核抑止」(核兵器維持・拡散)やガザ・ウクライナの事態に一体となった行動をとっているのです。その重大性に日本の市民は改めて目を向ける必要があります。

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ゼレンスキー氏が停戦拒否の口実にする「ミンスク合意」の真相

2024年08月02日 | 国家と戦争
   

 ウクライナのゼレンスキー大統領はNHKの単独インタビュー(7月29日放送)の中で、なぜ即時停戦に応じないのかについて、「ミンスク合意の教訓」だとし、「(ミンスク合意は)停戦を重視するあまり、結果的に領土を占領された」「ウクライナの新しい国境線を固定化させるものだった」などと述べました(写真中、右)。

 この主張は正当でしょうか。

 「ミンスク合意」とは、2014年の親米派による「マイダン革命(クーデター)」に端を発したウクライナ東部の戦闘をめぐるロシアとウクライナの停戦合意で、「ミンスク合意Ⅰ」(2014年9月5日)と「ミンスク合意Ⅱ」(2015年2月11日)があります。

「ミンスク合意とはウクライナとロシアによる和平合意で、ウクライナ東部における即時停戦と重火器撤去、さらにウクライナの憲法を改正し、ドンバス地方に特別な法的地位を与えることを規定したものである。欧州安全保障協力機構(OSCE)の援助の下、ベラルーシの首都ミンスクで調印されたので「ミンスク合意」と呼ばれている。

 このOSCEとは…欧州での地域的集団安全保障なので敵味方の区別はなく、同機構にはロシアもウクライナも加入している。

 さらに2015年2月には、ミンスク合意Ⅱが締結された。同じくOSCE監督の下で結ばれた停戦協定だが、こちらはフランスとドイツが国際的に仲介しており、同年2月にデバリツェボの戦闘でウクライナ側が敗北した後に締結された。

 このときオバマ(米)大統領も、マイダン革命における米政府の関与をCNNのインタビューで認めている。(中略)

 大統領就任(2019年5月)当初のゼレンスキーは、ミンスク同意Ⅱの和平案を促進するかと思われた。ところが2019年末には対ロ強硬派の主導により、ゼレンスキーはNATO早期加盟へと態度を豹変させる。その背景には民族右派やネオ・ナチの圧力に加え、大統領の人気低下もあった」(下斗米伸夫・法政大名誉教授著『プーチン戦争の論理』集英社インターナショナル新書2022年10月)

 さらに、「ミンスク合意Ⅱ」には、ドイツ、フランス(NATO)の驚くべき政治的策略がありました。

<ミンスク合意の調停者の一人だったメルケル前ドイツ首相が2022年12月7日に掲載されたドイツの「Die Zeit」紙のインタビューで次のように語ったのです。

「2014年のミンスク合意はウクライナの時間稼ぎためのものだった。ウクライナはこの時間を使って、今日ご覧のように強くなった

 つまり、ミンスク合意はウクライナが軍事力を強化するための時間稼ぎに過ぎなかったと告白したのです。…フランスのオランド前大統領もメルケル氏の発言を認めており、「地政学的な状況はウクライナにとって有利ではなく。西側諸国は一息つく必要があった」と述べています。

 何のことはない、ロシア以外のミンスク合意に関する西側当事国は、揃いも揃って、もともとミンスク合意など守る気もなく、ウクライナの軍事強化のための方便として利用したに過ぎなかったのです。>(安斎育郎・立命館大国際平和ミュージアム終身名誉館長『ウクライナ戦争論』安斎科学・平和事務所発行2023年6月20日)

「2022年12月、(ミンスク)合意締結に関わったメルケル前独首相とオランド前仏大統領が、実際は将来の対ロ戦争へ向けて、ウクライナ軍増強のための時間稼ぎの口実に過ぎなかったと証言した。…このような対米従属に、モラルハザードの深刻化が見えてくる」(荻野文隆・東京学芸大名誉教授「泥沼化するロシア・ウクライナ戦争をどう見るか」藤原書店発行月刊「機」2024年2月号所収)

 「ミンスク合意」はウクライナが対ロ戦争へ向けて軍備を増強するための時間稼ぎだった―ゼレンスキー氏がいま、またしても「ミンスク合意」を口実に即時停戦を拒否しているのは、“軍備増強のための第2の時間稼ぎ”と言えるのではないでしょうか。

 ロシア、ウクライナ双方とも、直ちに停戦協議のテーブルにつくことが求められます。

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「徴兵」と「自衛隊員不足」と「マイナンバー」

2024年07月23日 | 国家と戦争
   

「14日、ウクライナの首都キーウ郊外で、軍事警察が通りすがりの男性たちを捕まえた。遠くにいた男性たちは近くの商店や別の道に逃れた。――ロイター通信が報じたこのような「路上徴兵」の場面は、ロシアの侵攻を受けているウクライナが直面する兵力不足現象を端的に示している」(18日付ハンギョレ新聞日本語電子版)

 ウクライナでは5月に動員法が「改正」され、徴兵の下限年齢が27歳から25歳に引き下げられました。さらに、16歳~60歳の男性の個人情報を軍に登録することが義務付けられました。

 ウクライナ調査会社の世論調査では、この動員法「改正」を「支持しない」人は52%にのぼっています(20日のNHKニュース)。

「戦争に対する国民の不満も高まっている。男性たちは徴兵を逃れようと賄賂を渡して国外に逃れ、キーウでは約20万人の男性が徴兵官を避けるアプリを使っていると、BBCなどが最近報道した」(同ハンギョレ新聞)

 「兵力不足」はもちろんウクライナだけではありません。ロシアでもイスラエルでも深刻な問題になっています。
 膨大な死亡による兵力の不足、それを補う兵力確保、そのための徴兵強化、それは戦争当事国の宿命です。

 戦争当事国では(今のところ)ありませんが、深刻な「兵力不足」に陥っているのが自衛隊です。

 防衛省が8日発表した2023年度の自衛官の採用状況によれば、1万9598人の募集に対し採用は9959人。採用率50・8%は過去最低でした。「自衛隊は約24万7千人の定数に対し実数が約2万人不足している状態」(8日付朝日新聞デジタル)です。

 自民党・防衛族からは、「防衛力の抜本的強化と言っても人がいないと、骨太筋肉質の自衛隊ではなく…人的有事だ」(佐藤正久参院議員・元陸上自衛官、5月9日の参院外交防衛委員会=6月16日付朝日新聞デジタル)との声が上がっています。

 危機感を強めた防衛省は8日、省内に「人的基盤の抜本的強化に関する検討委員会」(委員長・鬼木誠防衛副大臣)を設置し、8月下旬に報告書を公表するとしています。

 少子化の中でますます困難になっている自衛官の確保。岸田政権が閣議決定した「軍拡(安保)3文書」でも「人的基盤の強化」が掲げられており、「(自衛官)募集能力の一層の強化を図る」としています。

 そこで想起されるのが「マイナンバーカード」です。自民党政権が普及に躍起になっている「マイナンバーカード」は、自衛隊の「兵力不足」と果たして無関係でしょうか。

 自衛官の「募集能力の一層の強化」のためには、所得や家族構成、病歴・健康状態を含め、「国民」の「個人情報」を細部にわたって全面的に把握する必要がある。この先なんらかの形で「徴兵制」を導入する場合はなおのこと。それが「マイナンバーカード」の一元的普及を図る政府の思惑ではないでしょうか。

 岸田自民党政権は「ウクライナはあすの日本かもしれない」とさかんに喧伝して大軍拡を図っています。その論法によれば、「国を守る」自衛隊員(兵力)不足を補うためになんらかの形での「国民動員」(実質的徴兵)を図ってくる危険性がないとは言い切れないでしょう。

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『ガザからの報告』にみる<上>地獄の現状

2024年07月17日 | 国家と戦争
   

 34年間パレスチナを取材し発信し続けているジャーナリスト・映画監督の土井敏邦氏が今月、『ガザからの報告 現地で何が起きているか』(岩波ブックレット)を出版しました。提起されている重大な問題を2回にわたって考えます。

 第1回は、イスラエルのジェノサイドに遭っているガザの現状です。

 2023年10月7日(ハマスによる越境攻撃)以降、報道はあふれていますが、土井氏は「膨大な情報の中で、ガザ住民の一人ひとりの日常生活と生の声が伝わってこない」として、同書を執筆しました。

 同書はガザに暮らす土井氏旧知の「ジャーナリストM」の体験、取材による情報を土井氏が電話やメールで聞き(読み)とったものです。「地べたで生きる“ガザの民衆”」(土井氏)の実態を同書から抜粋します。

飢餓状態…住民は飢餓状態。だから倉庫や店を襲い略奪するのです。路上で一片のビスケットを乞う人がいます。(10月24日)
 相変わらず、缶詰は期限切れです。トルコやエジプトから、ゴミとして捨てられるようなサンマや豆などの缶詰を送ってきます。(2月8日)

蔓延する感染症…人びとは雨水をためて飲んでいます。テント暮らしの子どもの多くが病気です。(12月8日)
 ひどい衛生状態で、シャワーを浴びる水もない。歯磨きもできない。トイレも下水もない。皮膚病、肺の病気などが広がっています。パンデミック(感染症爆発)が広がっています。とにかく薬がないのです。(12月29日)
 ガザの子どもたちのほとんどが貧血に苦しんでいる。がん患者は治療を受けられない。病院では麻酔なしで手術が行われている。(1月)

精神・モラルの破壊…人びとは疲れ果て、うつ状態にあります。(10月24日)
 ほとんどの子どもは精神的に破壊されています。目に見えて犯罪が急増しています。(12月29日)
 今、ガザには木製の電柱がありません。ほとんどの電柱が盗まれ、料理する薪にされるのです。たくさんの窃盗団が、住民が避難している家から盗んでいます。彼らはプロではなく、若者たちのグループです。病院に置かれた遺体のポケットからスマホや財布が盗まれます。(4月26日)
 今回の戦争で住民は多くのものを失いました。しかし最も深刻で破壊的な喪失は、私たちの倫理とモラルです。これは人的な喪失、建物の破壊のような物理的な喪失よりもっと危険なことです。この倫理とモラルの喪失がこの攻撃が終わった後のガザの住民の未来に深刻な影響を与えることは確かです。(4月26日)

 土井氏は琉球新報への寄稿でこう述べています。

「遠い国に住む私たちは、「死者4万人」「避難者は百数十万人」という数字にガザの現状をわかったつもりになる。しかしその数字では私たちはその一人ひとりが被っている“苦しさ”“痛み”に思いは至らない。…“同じ人間”として何ができるのか、私たちは今問われている」(2日付琉球新報、写真右)

 あすは、この本でかなりのスペースが割かれている「ハマス」について考えます。

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ハンガリー首相の「停戦仲介」を支持する

2024年07月11日 | 国家と戦争
   

 ロシアによるウクライナの小児病院攻撃(8日)が事実であれば、絶対に容認できません。
 1日も早い停戦・和平が切望されます

 1日にEU理事会の議長国に就任したハンガリーのオルバン首相が、ウクライナのゼレンスキー大統領(2日)、ロシアのプーチン大統領(5日)、中国の習近平国家主席(8日)を相次いで訪問し、停戦の仲介工作を行いました。

「オルバン氏は(ゼレンスキー氏との)会談後、記者団に対し、ゼレンスキー氏提唱の和平案「平和の公式」を念頭に「外交には長い時間がかかる」と指摘。その上で「戦闘を停止し、ロシアと交渉するかどうかを検討するよう依頼した。停戦は(和平)協議のペースを加速させるからだ」と述べた」(3日付京都新聞=共同)

 またオルバン氏は、スイスメディアのインタビューで、「前線では日々、多数の兵士が命を落としており「残り時間は少ない」と強調。…交渉加速のために数週間でも停戦する案をゼレンスキー氏に示したと説明した」(4日付京都新聞=共同)。

 プーチン氏はオルバン氏との共同会見で、「ロシアは政治的、外交的な解決の協議に常に前向きだ」と述べました(9日付朝日新聞デジタル)。

 中国外務省によると、習氏は「中国とハンガリーは基本的な主張と努力の方向が一致している」と強調しました(同朝日新聞デジタル)。

 一方、ゼレンスキー氏は8日、オルバン氏について「戦争を終わらせるための仲介はできないとの見方を示し、苦言を呈した」(9日付朝日新聞デジタル)。

「ゼレンスキー氏は、和平交渉の実現に向けた仲介役について、ロシアに影響を与えられる経済大国か、ロシアより強力な軍事力を持つ国でなければ、その役割は果たせないと指摘。「そうした国は多くない。米国や中国、EU全体ならできるが、(EUに加盟する)1国ではない」と述べた」(同)

 ウクライナ戦争に関する日本のマスメディアの報道は極めて限定的(一方的)で、オルバン氏の今回の行動についても情報は限られていますが、以上の報道によってオルバン氏とゼレンスキー氏の停戦・和平に対する見解を比較する限り、私はオルバン氏の主張・仲介工作を支持します。

 ゼレンスキー氏の「仲介役」についての見解によれば、グローバルサウスの国ぐにも、さらには国連など国際機関も停戦・和平の「仲介役」にはなれないことになります。また、ゼレンスキー氏は中国が提唱してきた「和平案」も拒否しており、結局、アメリカかEU全体の「仲介」にしか応じないというという表明ともいえます。これでは停戦は遠のくばかりです。

 オルバン氏はかねてよりプーチン氏に近いといわれ、日本のメディアは今回の行動も「結果的にロシアを利する形で利用されている」(9日付朝日新聞デジタル)と冷ややかです。

 オルバン氏の「仲介工作」にどんな政治的思惑があるのかは分かりません。しかし確かなことは、一刻も早く戦闘を止めなければならないということです。その点でオルバン氏の主張は正論です。

 ウクライナ、ロシア双方が相手の軍の撤退を和平協議の条件にしていますが、それでは戦闘は続き、犠牲者は増えるばかりです。オルバン氏や中国の和平案(2023年3月4日のブログ参照)が主張するように、まずは戦闘を止めることです。政治的駆け引きはその後の外交交渉で行うべきです。

 オルバン氏の仲介工作を冷笑的に論評する日本のメディアは、ウクライナ戦争の一刻も早い停戦・和平のために、いったい自分たちはどんな報道・論評をしてきたのでしょうか。

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「停戦・和平協議」はグローバルサウスの仲介で

2024年06月19日 | 国家と戦争
   

 ウクライナのゼレンスキー大統領が呼びかけた「平和サミット」(スイス)が16日閉幕しました。「共同声明」は事前報道の通り、ウクライナが提唱する10項目の「平和の公式」のうち、3項目だけ盛り込んだものでした。

 ゼレンスキー氏としては大幅に譲歩したものですが、それでも支持したのは参加した100の国・国際機関のうち78カ国で、インド、南アフリカ、ブラジル(オブザーバー参加)、インドネシア、サウジアラビア、メキシコ、タイ、アラブ首長国連邦(UAE)などグローバルサウスの国々は軒並み支持を見送りました。

 注目されたのは、グローバルサウスの国々から、ロシアの参加を求める発言が相次いだことです。

「サウジアラビアのファイサル外相は「信頼できるプロセスにはロシアの参加が必要だ」と主張し、ケニアのルト大統領は「ロシアがテーブルについていなければならない」と訴えた」(18日付京都新聞=共同)

 UAEのアブドラ外相は「ロシアもこのサミットや和平に向けた交渉に参加していることが必要だ」と述べ(写真中)、メキシコのバルセナ外相も「ロシアをこの議論に含める外交努力がわれわれには不可欠だ」と主張しました(写真右)(17日のNHKニュースより)

 これに対しゼレンスキー氏は、「まず平和の公式に基づく行動計画をつくり国際的な承認を得て、それをロシア側に突きつけて交渉に引き出し、ウクライナ主導で協議を進める戦略」(18日付京都新聞=共同)に固執しています。これではロシアが参加するはずがありません。

 一方、ロシアのプーチン大統領は14日、「ウクライナ東部・南部4州からウクライナ軍が全面撤収し、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)加盟を放棄すれば直ちに攻撃を停止し、交渉を開始する用意があると述べ」ました(15日付京都新聞=共同)。

 ウクライナの「平和の公式」に対抗したものですが、これも、それを交渉の前提条件にしている限り正当な「和平提案」とは言えません。

 ウクライナ、ロシア双方が自分の主張を和平協議の前提条件にし、協議の主導権を握ろうとしています。これではいつまでたっても停戦・和平は実現しないでしょう。

 今回の「平和サミット」をめぐる以上のような動きで改めて明確になったことは、停戦・和平協議にはウクライナ、ロシア双方の参加が必要であり、しかもどちらも前提条件なしで協議に臨まねばならないということです。

 そのためには、中立的立場の第三者の仲介が必要不可欠です。

 本来、それは国連の役割でしょうが、いまの国連にはその力はないようです。
 そこで期待されるのがグローバルサウスの国々です。

 グローバルサウスに対してはウクライナもロシアも良好な関係を望んでいます。今回の「平和サミット」でみせた態度からも、グローバルサウスの国々は仲介者として適任ではないでしょうか。

 もちろん、グローバルサウスといっても一様ではなく統一した意思決定も難しいでしょう。しかし、1日も早い停戦・和平を実現するためには、その中立性と発言力に期待するほかないのではないでしょうか。

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「国家」より「個人」―いまこそ「兵役拒否」の思想に学ぶ

2024年06月17日 | 国家と戦争
   

 「祖国のために命を捨てるというのは、相当高度な道徳的行為であるということは間違いない。…国というものに対して、自分の命を捧げるというのは、大変な勇気のあることだ」―河村たかし名古屋市長が記者会見(4月22日)でウクライナ情勢に触れてこう述べ、物議をかもしたことがあります(5月2日のブログ参照)。

 この発言はなぜ問題なのか。「良心的兵役拒否」を研究している市川ひろみ・京都女子大教授(写真右)が、15日付の朝日新聞デジタルのインタビュー記事で解明しています(以下、抜粋。カッコは記者の質問)。

<(「祖国」とは何なのでしょうか)
 「祖国」とは何かという問いに、一つの「正しい回答」はないと思います。国に対する思いは人それぞれです。オリンピックなど国対抗戦となると、普段は意識していなくてもナショナリストになる人も多いでしょう。そうやって、知らないうちに「国」、ナショナルなものに自分を結び付けて感じることは恐ろしいことだと思っています。生身の人が見えなくなって、旗や歌で扇動され、他の人を敵視するようになりかねないからです

 (「兵役拒否」という視点からみたとき、河村発言のどこが問題でしょうか)
 兵役拒否は、個人の内面の自由を尊重するために、権利として保障されるべきだという考えです。当初、兵役拒否者は、国民が担うべき義務を果たさない存在であり、「真っ当な国民像」からの逸脱としてとらえられてきた時代がありました。しかし、国家が個人の内面に介入することは許されるべきではなく、個人の内面の自由を保障しなければならないという考えが広く認識されるようになってきました。個人の信仰や信条は国家に従属するものではない、と。河村発言は、人の命だけでなく、人間の尊厳や内面の自由を軽視していると思わざるを得ません。

 (「平和国家」のかたちが変わってきているように見えます)
 話し合いではなく、相手を力(軍事・経済など多様)で言うことを聞かせることがよい、とされる社会も反映しているように感じます。とりわけ、安全保障の議論では、「国家」「国際情勢」の観点が強くなり、「人間の安全保障」の観点からの議論が後景に退いてしまいます。日本に住む一人ひとりの安全を考えれば、食糧やエネルギー、治安、差別、環境、教育など多様な側面があります。日本国憲法前文には、「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とうたわれています。この考え方を大切にすべきだと思っています。

 日本では、自己犠牲こそが尊いといった考えが社会に強く残っていると感じます。戦争末期、敗戦を予想しつつもお国のために潔く散った特攻隊員は、英雄視されました。人々は、国家の方針に従って若い命を捧げることを称賛することで、「大切な人を悲しませたくない」という思いや、「死にたくない」という思いを尊重しないばかりか、国家の方針に疑問を呈する人や徴兵から逃れようとする人々を非国民として追い詰めました。河村発言を許してしまっている私たちは、誰かが「祖国のために命を捨てる」ことを推奨し、自分たちの命や尊厳をも粗末にしてしまう道を準備していないか問われていると思います。>

 たいへん共感できる指摘です。記事は「河村発言」に焦点を当てていますが、市川氏の指摘はむしろ、ウクライナ戦争をめぐる一連のメディア報道に対して該当するのではないでしょうか(写真左・中はウクライナで兵士となった市民の妻たち)。

 メディアは一貫してゼレンスキー大統領の「徹底抗戦」を支持し(煽り)、「祖国を守る」ために自分や家族の犠牲を顧みないウクライナ市民を賛美しています。あたかも特攻隊員を英雄視するように。

 こうした一連の報道こそ、国家が「祖国のために命を捨てる」ことを推奨すれば、自分たちの命や尊厳をも粗末にしてしまう道を準備しているのではないでしょうか。

 そしてそれはもちろん、日米軍事同盟(安保条約)によって急速に戦争国家化が進行していることと無関係ではありません。

 「国家」よりも「個人の内面の自由、そして命と尊厳」。この「兵役拒否」の思想をいまこそ学び広げることが求められています。

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「日本・ウクライナ協力協定」は対米追随の憲法違反

2024年06月15日 | 国家と戦争
   

 岸田文雄首相は13日、G7 サミットが行われているイタリアでウクライナのゼレンスキー大統領と会談し、ウクライナ支援の「二国間協力協定」に署名しました(写真左)。

 同様の「協力協定」は昨年のG7 広島サミットの際にも調印されましたが、今回はさらにエスカレートした内容になっています。それは、「ロシアの新たな攻撃が発生した場合、日本とウクライナの両政府が24時間以内に協議すること」(14日付朝日新聞デジタル)が盛り込まれたことです。そして、「協定の有効期間は10年間」(9日付京都新聞=共同)とされています。

 「24時間以内に協議」してどうするのか。「サイバーセキュリティーや情報操作に連携して対応していく」(同朝日新聞デジタル)といいます。

 ウクライナがロシアから攻撃を受けたら直ちに日本と協議し、「サイバーセキュリティーや情報操作」などで日本が「連携」する。これは日本がウクライナとロシアの戦争に直接かかわる、戦争当事国のウクライナと一体となることにほかなりません。

 この「協力」は「復興支援」ではありません。明白な軍事支援あるいは戦争参加です。協定は「可能な範囲で防衛支援を行うとした」と「防衛(軍事)支援」という用語を使った報道もあります(14日昼のTBSニュース)。

 こうした軍事支援は、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という憲法9条(第1項)の明白な違反です。

 また、「紛争当時国」には兵器の輸出はしないとしている「防衛装備移転3原則」(2014年)にすら反しています。

 一方、ウクライナとアメリカは同じ13日、やはり「安保協力協定」を締結しました(写真右)。ゼレンスキー氏は「歴史的な日」と最大評価しました。

 ホワイトハウスの発表によると、その内容は、「ウクライナ軍強化のため兵器供与や軍事訓練を行う」とするとともに、「ウクライナが今日直面している戦争に勝利するだけでなく、将来のロシアの侵攻を抑止することも目指す」とし、「ロシアが再び武力攻撃またはその恐れがある場合、24時間以内に高いレベルで協議する」としています。そして、「協定の有効期間は10年間」とされています(14日NHK「キャッチ世界のトップニュース」)。

 「24時間以内に協議」「有効期間10年間」―日本・ウクライナの「協力協定」とアメリカ・ウクライナの「安保協力協定」はまさに相似形なのです。

 今回の日本とウクライナの「協力協定」は、日米軍事同盟(安保条約)の下でアメリカの世界戦略の従属した、憲法違反の軍事協力協定にほかなりません。しかもそれが現在のウクライナ戦争だけでなく今後「10年間」続く。絶対に容認できません。

 こうした重大な対米従属・憲法違反の協定が、十分な報道もなく、批判も受けず、締結され通過している事態は極めて深刻です。

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注目される「平和サミット・共同声明」のウクライナ譲歩

2024年06月14日 | 国家と戦争
   

 ウクライナのゼレンスキー大統領が呼びかけた「平和サミット」(15、16日、スイス)について先に、ロシアの参加を始めから排除し、「ロシア軍の撤退を」入口にする限り平和協議の場にはならない、と書きました(5日のブログ)。

 その後、NHKが11日のニュースで、独自に入手したとして、同サミットの「共同声明」案を報じました。それはきわめて注目されるものです。

 NHKによると、「共同声明」はゼレンスキー氏が提唱している「10項目の和平案」のうち、「原発の安全保障」「食料安全保障」「捕虜の解放と連れ去られた子どもの帰還」の3項目に絞られ、「ロシア軍の撤退」や「領土の回復」は含まれない、といいます(写真左)。

 ゼレンスキー氏が提唱している10項目とは、①核と放射線の安全②食料安全保障③エネルギー安全保障④捕虜と連れ去られた人たちの解放⑤領土の一体性・世界秩序の回復⑥ロシア軍の撤退と戦闘の停止⑦正義の回復⑧環境の保護⑨エスカレーションの防止⑩戦争終結の確認です。

 さらに、「共同声明」では、和平実現にはすべての当事者の関与が必要だ」として、今後の議論にロシアが参加することの重要性が強調される、ともいいます(写真中)。

 この報道通りなら、ウクライナの従来の姿勢・方針を大きく変更するもので、停戦・和平に向かう重要な一歩になりえます。

 一方、「平和サミット」への参加を拒否した中国とブラジルは、ロシアとウクライナ双方が参加する和平協議を支持することで一致していましたが、両国の共同案の概要がわかりました。

 その内容は、「①ロシアとウクライナ双方が同意して全ての和平案が公平に議論される和平会議を支持②援助拡大で人道危機を防ぐ③核兵器や生物化学兵器の使用反対-など6項目」(8日付沖縄タイムス=共同)です。「世界を引き裂き、政治や経済の集団をつくることに反対する」との文言も盛り込まれています(同)。

 中国外務省は11日の記者会見で、この中国・ブラジル共同案に対し、「101カ国・国際機関が前向きな回答をした」と発表しました(12日付京都新聞=共同)。

 「ロシアとウクライナ双方が同意して全ての和平案が公平に議論される」ことはまさに和平協議の前提条件です。遅きに失しているとはいえ、機は熟してきたといえるでしょう。

 ロシアとウクライナは今こそ停戦・和平協議のテーブルに着くべきです。それを国際的第三者機関が仲介し、世界の世論が注視・後押しし、1日も早い停戦・和平を実現しなければなりません。

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