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アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

ゼレンスキー氏提唱の「サミット」は和平協議の場か

2024年06月05日 | 国家と戦争
   

 ウクライナのゼレンスキー大統領は2日、アジア安全保障会議(シンガポール)に出席し、自身が提唱している「平和サミット」(今月15、16日、スイス)について、「中国が各国に参加しないよう働きかけている」と中国を批判しました(写真左)。

 ゼレンスキー氏は中国にも同サミットへの参加を呼び掛けていましたが、中国は「ロシアの立場も踏まえた和平交渉」(3日付京都新聞=共同)が必要だとして不参加を表明していました。

 1日も早い停戦へ向けて和平協議が急がれることは言うまでもありません。しかし、ゼレンスキー氏が呼び掛けている「平和サミット」が和平協議の場になるでしょうか。

 同サミットは初めからロシアを排除しています。そしてゼレンスキー氏がかねて提唱している「10項目の和平案」を基に議論するとしています。「10項目」とは次の通りです。

 核と放射線の安全食料安全保障エネルギー安全保障捕虜と連れ去られた人たちの解放領土の一体性・世界秩序の回復ロシア軍の撤退と戦闘の停止正義の回復環境の保護エスカレーションの防止戦争終結の確認

 抽象的な項目の中で、実際の停戦・和平協議では⑥が焦点になります。そしてこれにはロシアとの合意(妥協)が必要であることは言うまでもありません。

 そもそも戦争の一方の当事国が相手国を排除して行う会合が停戦・和平協議の場になりえないことは明白です。
 停戦・和平協議は第三者が仲介し、ウクライナ、ロシア双方が出席して行われなければなりません。そうでなければウクライナが自国への支持・支援拡大を図る場でしかありません。

 ロシアの軍事侵攻(2022年2月24日)から2年3カ月余。グローバルサウスの国々は早くから停戦を主張していました(2022年9月24日のブログ参照)。また、第三者(国)による「和平案」も何度か提唱されました。

 たとえば、▶「中国の12項目和平案」(23年3月4日のブログ参照)▶「ブラジル・ルラ大統領の和平案」(23年4月25日のブログ参照)▶「ローマカトリック教会・フランシスコ教皇の和平工作」(23年5月18日のブログ参照)▶「アフリカ代表団の和平提案」(23年6月21日のブログ参照)▶「フランシスコ教皇の停戦協議推奨(いわゆる「白旗」発言)」(24年3月14日のブログ参照)。

 これらの和平案・和平工作に対し、ゼレンスキー氏はことごとく反対・反発してきました。「ロシアの全面撤退」が前提条件だという主張です。
 しかし、「ロシアの撤退」は停戦・和平協議の「出口」であって、それを「入口」にする限り和平交渉が始まらないのは自明です。

 ゼレンスキー氏提唱の「サミット」への欠席を表明した中国は、ブラジルとの間で、ウクライナ、ロシア双方が参加する和平協議を支持することで合意していると報じられています(3日のNHK国際報道2024、写真右)

 本来、仲介の役割を果たすべきは国連やOSCE(欧州安全保障協力機構=2014年の「ミンスク合意」を仲介)など中立的な国際機関です。しかしそうした動きがまったくみられません(報道されていない)。それが最大の問題です。

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ガザの餓死はイスラエルの「飢餓政策」による大量虐殺

2024年06月03日 | 国家と戦争
   

 イスラエルの攻撃によって、ガザの飢餓状態が深刻の度を深めています。

 国連WHO(世界保健機関)の担当者は、「85%の子どもが何も食べられない日が3日に1度はある。支援物資が届かず子どもたちは飢えている」と発表しました(1日夜のNHKニュース)。

 カタールのメディア・アルジャジーラは、「市場には何も売っていない。炊き出しも食材がなくて困難になっている」という現地の市民の声を伝えています(5月31日NHK「キャッチ!世界のトップニュース」、写真左・中)

 ガザの飢餓状態を日本のメディアは「人道的危機」として報じますが、それは正確ではありません。

 著書『戦争と農業』(インターナショナル新書2017年)で、「ナチスの選民的飢餓計画」(政策として飢えの状態をつくり、数千万人の人々を餓死させる計画)を告発した藤原辰史・京都大准教授(農業史・環境史)(写真右)は現在のガザにおける飢餓状況をこう指摘しています。

「ガザ地区では、住民の半数とも言われる人々を飢餓が襲い、子どもも餓死している。これもイスラエルによる意図的な飢餓であると複数の国際機関が批判している。封鎖による飢餓政策は、良心の呵責をあまり抱かずに大量に人を殺すことができる極めて悪質な行為だからだ」(5月14日付京都新聞=共同)

 ガザの飢餓はイスラエルによる「飢餓政策」によってつくられたものであり、それは大量虐殺にほかならない、という指摘です。

 さらに藤原氏は、それを歴史的な視点で捉える重要性を強調します。

「イスラエルは建国以来、パレスチナ人たちの土地を暴力で奪い、オリーブやオレンジの木をなぎ倒し、彼らが住んでいた家に入植してきた…イスラエルが食料自給率九割の農業大国になった理由は、ヨルダン川西岸自治区の水源を奪い、パレスチナ人農民たちに農業をあきらめさせてきたからだ。

 なぜ、イスラエルは、2007年からガザ地区を封鎖し、食料も水も電気も制限し、川と海を汚染してきたのか。なぜ、イスラエルはモンサントン社などの除草剤をパレスチナ人の農地に散布して汚染しても裁かれないのか。なぜ、イスラエルは、漁をするパレスチナ人漁師を銃撃し、殺害してきたのか」(同)

 そしてこう結んでいます。

「問わねばならないのは…ずっと国際社会で、イスラエルがパレスチナ人の生を危機に追いやってきた行為が非難されてきたのに、日米やドイツなどがイスラエルを支持し、こうした犯罪を覆い隠してきたことだ」(同)

 今日のガザの事態は、2023年10月7日が起点ではありません。それはガザ市民の飢餓・餓死についても言えることです。

 食料・農業と戦争・植民地支配の関連、「飢餓政策」を大量虐殺として捉えることの重要性、そしてアメリカに追随してイスラエルの犯罪行為を容認・支持してきた日本の責任の重大さを改めて痛感します。

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「ラファ空爆に米国製兵器」露わになった米国の本性

2024年05月31日 | 国家と戦争
   

 イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ最南部ラファへの空爆(26日、少なくとも市民45人死亡=写真左・朝日新聞デジタルより)は、イスラエルのジェノサイドを端的に示すもので、国際社会の批判が強まっています。

 しかしイスラエルは少しも悪びれることなく、28日にはラファの西側を砲撃し、さらに追加部隊を投入したと発表しました(30日付京都新聞=共同)。イスラエルの蛮行はなぜ止まらないのか―その理由を端的に示す報道がありました。

米メディアによると、空爆に使用された弾薬は米国製だった

 30日付京都新聞=共同にこの1文がありました。
 同日付の朝日新聞デジタルはより詳しくこう報じました。

< ラファの空爆に米国製兵器を使用か 米メディア報道

 パレスチナ自治区ガザ最南部ラファで少なくとも45人が死亡した26日の空爆について、米CNNは28日、米国製兵器が使用されたと専門家の分析をもとに報じた

 CNNによると、ラファの空爆現場の映像をもとに、専門家4人が現場の状況を分析した。それによると、映像には、米国製の爆弾「GBU39」の一部が映っていた。GBU39は、戦略的に重要な地点の標的を攻撃するために設計され、高精度だという。専門家の1人は「(この兵器の)翼の部分は独特な形状で、爆発した後でも残っていることが多い」と語ったという。>

 同日のNHK総合「キャッチ―世界のトップニュース」は、ニューヨーク・タイムズの報道として、ラファ空爆に使用された米国製爆弾の写真を流しました(写真中)。

 一方、アメリカのカービー大統領補佐官は28日の会見で、ラファへの地上作戦は「大規模なものではない」(30日付共同)とイスラエルを擁護しました。

 国際司法裁判所(ICJ)は24日、イスラエルに対しラファ攻撃の即時停止を命じる仮処分を出しました。しかしイスラエルは公然とこれを無視しました。その背景にもアメリカのイスラエル擁護があります。

 アメリカはラファへの本格侵攻には「反対」としていますが、「バイデン米政権は…今回の仮処分に沈黙している。ICJが2022年3月、ロシアにウクライナ侵攻停止を命じた際に「軍事作戦を直ちに停止するようロシアに求める」と表明したのと対照的だ。
 レバノンの国際政治学者ダニア・コレイラト・ハティーブ氏は「米国の二重基準が浮き彫りになった。…」と分析する」(26日付共同)

 バイデン氏は国際刑事裁判所(ICC)がネタニヤフ首相らの逮捕状を請求したとき(20日)も、「言語道断」とICCを非難してイスラエルをかばいました(20日)。

 「国際社会では今月、イスラエルに圧力をかける動きが相次ぎ、イスラエルの孤立は一段と深まったが、攻撃をやめる気配はない」(26日付共同)。それはなぜか。アメリカがイスラエルの後ろ盾となり、武器・弾薬を売却し、ガザ攻撃を擁護しているからにほかなりません。
 国連はじめ国際社会はイスラエルに対してはもちろん、アメリカへの批判をもっと強化すべきです。

 日米安保条約によってそのアメリカの忠実な同盟国になっているのが日本であることを、日本人は肝に銘じなければなりません。

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イスラエルを「万博」「平和式典」に参加させる日本の人権感覚

2024年05月11日 | 国家と戦争
   

 イスラエル(ネタニヤフ政権)の蛮行が止まりません。

 ハマスは6日、「仲介国エジプトやカタールによる3段階の休戦案の受け入れを表明」(8日付京都新聞=共同)しましたが、イスラエルがこれを拒否しました。ネタニヤフ首相は9日、「あらゆる手段で戦う」と改めて表明しました。

 この間もイスラエルによるガザ攻撃(ジェノサイド)は続けられました。ガザ保健当局によると、攻撃開始からのガザの死者は3万4904人に上っています(9日現在)。

 米バイデン大統領はイスラエルへの武器支援をやめるとイスラエルに圧力をかけていると報じられていますが、「カービー米大統領補佐官は…「イスラエルは自衛に必要な武器の大部分を受け取り続けている」とし、米国の武器の供与は続いていると説明」(10日付京都新聞夕刊=共同)しています。

 アメリカはイスラエルを軍事支援し続けており、イスラエルの蛮行はアメリカの後ろ盾があるから終わらないのです。

 日本はどうか。日本はもちろん軍事支援は出来ません。しかし、別の面でイスラエルを支援し続けています。その端的な表れが、大阪・関西万博へのイスラエルの正式参加を容認したことと、8月6日の広島「平和記念式典」にイスラエルを招待すること決めたことです。

 イスラエルの「万博」参加について、上川陽子外相は4月5日の記者会見で、ロシアとの整合性を問われこう答えました。

「ガザにおけるイスラエルの行動は、ハマス等によるイスラエル領内へのテロ攻撃を直接のきっかけとするものであり、ロシアが一方的にウクライナに侵攻している行動と同列に扱うことは適当ではない」(外務省HP、写真中)

 今回の事態の起点を「2023・10・7」(ハマスによる攻撃)に求めるのは歴史の経過を無視する誤りであることは、多くの識者が指摘しています。日本政府のダブルスタンダードは明らかです。

 「万博」のテーマは「いのち輝く未来社会のデッサン」。ガザの人びと・子どもたちの命を奪って全く意に介さないイスラエルを参加させて「いのち輝く」とは開いた口がふさがりません。

 一方、広島市(松井一実市長=写真右)は4月17日、「招待することで、平和の発信につなげたい」という言い分でイスラエル招待を発表しました(4月17日付朝日新聞デジタル)。ロシアとベラルーシは今年も招待しません。

 広島市の決定について、三牧聖子・同志社大大学院准教授はこう指摘します。

「「いのち輝く」を理念とする大阪・関西万博へのイスラエル参加に続き、なし崩し的な判断を続けていれば、日本が語る「平和」や「非核」の普遍性や、日本の人権感覚は深刻に問われていくことになるだろう。「世界」は決して(イスラエルを支持する)欧米先進国だけで構成されているわけではない」(4月18日付朝日新聞デジタル)

 ジェノサイドを続けるイスラエルに対してどういう姿勢をとるか。それはまさに日本の、日本人の人権感覚の試金石です。
 


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ラファ攻撃目前!イスラエルの蛮行止められない責任

2024年05月07日 | 国家と戦争
   

 6日午後7時のNHKニュースによれば、イスラエル軍はガザ南部のラファへの攻撃を間もなく開始すると通告しました。「軍事作戦の規模・期間については明らかにしなかった」といいます(写真は同ニュースから)。

 「停戦交渉」中もイスラエルによるガザ攻撃(ジェノサイド)は続けられており、「5日~6日の攻撃で子ども8人を含む22人が死亡した」と伝えられています。

 この事実を目の前にして、刻々と失われていく命を見殺しにしながら、イスラエルの蛮行を止められない。国際社会と、自分の無力さをあらためて思わずにはいられません。

 なぜ止められないのか。それを全面的に解明する力は私にはありませんが、少なくとも言えるのは、NHKはじめ日本のメディアの責任は重大だということです。

 エジプトで続けられていた「停戦交渉」について、メディアは当初、アメリカの言い分そのままに「ハマスが提案を受け入れない」とハマスに責任転嫁しました。イスラエルの強硬姿勢が改めて表面化した後も、「双方の主張が食い違っている」という“どっちもどっち”論です。

 しかし、歴史的経過をみれば、イスラエルとパレスチナの関係において“どっちもどっち”は完全な誤りです。イスラエルのジェノサイドを無条件にやめさせる以外にありません。

 米政府とそれに従属する日本政府の側に立った“どっちもどっち”論がガザの事態に対する認識を誤らせ、イスラエルの蛮行を止める世論の広がりを阻害していることは明らかです。

 さらに重大なのは、メディアの報道感覚(価値観)です。

 NHKに限らず、6日の日本の放送メディアのトップニュースは「連休最終日」のお決まりの「新幹線の別れ」のシーン。そして大谷翔平の一球一打です。冒頭のNHKニュースも、ガザのニュースは何番目かの「その他のニュース」扱いです。

 こうした内向きな、あまりにも内向きな報道が、日本人の視野狭窄と利己主義を助長していることは確かでしょう。こんな報道にどっぷりつかっている(つからされている)日本で、ウクライナに対する抗議の声・デモが起こらないのは当然かもしれません。

 そしてこうしたメディア状況(その背景にあるのは政府によるメディア支配)は、この問題に限らず、あらゆる政治・社会問題で、政府・国家に異議申し立てを行い、権利を主張する思想と行動を日本人から奪っているのではないでしょうか。

 とはいえ、メディアや政府・国家権力の責任だけを指摘してすむ問題ではありません。

 ガザで、世界の紛争・貧困地域で、人々が子どもたちが無惨な死を遂げている実態に目を向けることなく、自分の、家族の「快楽・幸せ」を求めるのは人間性の腐敗であることを自覚し、それに抗うのは、自分の責任です。


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報復の応酬招く「ロシア凍結資産の接収」

2024年04月26日 | 国家と戦争
   

 米議会は23日(現地時間)、ウクライナ、イスラエル、台湾などに対する緊急軍事支援予算(総額14兆7000億円余)を可決し、バイデン大統領が直ちに署名して成立させました。

 パレスチナ人民に対してジェノサイドを続けているイスラエルへの軍事支援が許されないことは言うまでもありません。同時に、ウクライナへの軍事支援も戦争の長期化・犠牲の拡大を招くものであり容認できません。

 さらに今回のアメリカの決定は、見過ごすことができない問題を含んでいます。ロシアに対する経済制裁として凍結している資産を接収し、軍事・復興支援に流用するという内容です。
 これは、国際法的に根拠がない(すなわち違法)だけでなく、ロシアの憎悪をかき立て、戦争を長期化させます。さらに今後の悪しき前例にもなります。

「米議会で通過したウクライナ支援法は、米大統領にロシアの資産を接収して売却し、ウクライナの再建を助ける用途に使える権限も付与した。同法律のこのような条項は、米国内のロシアの資産を凍結を越えて接収できるという内容であり、今後、他の国に対する制裁の先例になりうる。…ロシアは米国のこのような措置に対抗し、自国内にある西側諸国の資産も没収する相応の措置を取ることを明らかにしてきた」(25日付ハンギョレ新聞日本語版)

 ロシアの凍結資産をウクライナ支援に流用する構想は、EU(欧州連合)では早くから検討されてきました。昨年12月の欧州委員会では、凍結資産の利子を軍事支援に充てる構想を明らかにしました。

 これに対しては日本の学者からも、「凍結資産そのものを没収して使ってしまうのは、さすがに法的根拠が乏しく、際限なき報復の応酬をもたらす恐れがある。EUが進めようとしている「利益」の復興充当は、そうした現実を踏まえた上での苦心の策と言える」(服部倫卓・北海道大教授、23年12月13日付朝日新聞デジタル)という指摘がされていました。

 EUはさらに先月21日の首脳会議で、凍結資産の利子など収益を軍事支援に充てる合意文書をまとめました。しかしはやり、「凍結資産の扱いでは法的な問題点を指摘する声があり…軍事支援への使用に慎重な加盟国もあり、最終合意には課題も残る」(3月23日付京都新聞=共同)として正式決定には至っていませんでした。

 ゼレンスキー大統領は、この首脳会議でオンライン演説し、「(資産と収益の)両方をウクライナ再建と支援、(ロシアの)テロを阻止するための武器購入に役立てるのが公正だ。ロシアは戦争の代償を実感しなければならない」(3月23日付共同)と要求していました。

 今回のアメリカの決定は、ロシア資産を「接収して売却」するというもので、「収益」に限定されたものではありません。法的に問題があることは明らかで、「際限なき報復の応酬」を招くのは必至です。アメリカの決定が躊躇しているEUの背中を押す可能性もあります。

 NHKはじめ日本のメディアは、アメリカの軍事支援再開を肯定的に報じていますが、今必要なのは、報復の連鎖・戦争長期化を招く「軍事支援」ではなく、直ちに停戦して和平協議を開始する外交努力を行うことです。

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イランを挑発してガザ攻撃批判逸らすイスラエル

2024年04月18日 | 国家と戦争
   

 イランの報復攻撃(日本時間14日午前)を境に、イスラエルを見る世界の目が一変しました。加害者を批判する目から、被害者に同情する目へ。
 それを演出したのはイスラエル自身とアメリカをはじめとするG7諸国であり、加担したのが西側メディアです。

 G7 はまるで待ち構えていたように、14日早々にオンライン会議を開催。「イスラエルとその国民に対する全面的な連帯と支援を表明し、イスラエルの安全保障に対する我々の関与を再確認する」という声明を発表しました(15日付朝日新聞デジタル、写真中)。

 それを受けて16日、朝日新聞は「イランの攻撃 報復の連鎖 総力で断て」、毎日新聞は「イランの大規模攻撃 報復の連鎖断ち切る時だ」と題する社説を掲載しました。共同通信は「イスラエルがイランに反撃するかどうかが焦点」とする解説を配信しました(16日付京都新聞)。

 上川陽子外相は16日、イラン外相に電話で「強く非難する」とし「自制を強く求め」ました(17日付共同)。

 そもそも今回のイランのイスラエル攻撃の発端は、イスラエルによる在シリアのイラン大使館空爆(1日)という暴挙です。大使館を空爆されれば報復は必至です。イスラエルのイラン大使館攻撃はそれを見越した(それを誘発する)明白な挑発行為です。

 ところがこのイスラエルのイラン大使館空爆について上川外相は、「イスラエルは関与を認めておらず、事実関係を十分に把握することが困難で、確定的な評価は差し控えたい」(17日付朝日新聞デジタル)と述べイスラエルを擁護しました。二重基準(ダブルスタンダード)も甚だしいと言わねばなりません。

 中東調査会の高岡豊・協力研究員(中東地域研究)もこう指摘します。

「在外公館の安全は外交関係の基本なのに問題が軽んじられている。イランがイスラエル領を攻撃するのが悪いのなら、イスラエルがやってきたことはどう評価するのかという問いに答えなくてはならない」「問題化した起点が恣意的だ。日本を含むG7 諸国の対応は他国から二重基準とみられかねない」(17日付朝日新聞デジタル)

 イスラエルとアメリカはじめG7 各国の狙いは明白です。世界の目をガザから逸らせ、イスラエルによるガザ攻撃(ジェノサイド)への批判をかわすことです。

 慶応大大学院の田中浩一郎教授(西アジア地域研究)は、「イスラエルが在シリアのイラン大使館領事部という「飛び地」を攻撃し挑発したことで、イランが直接手を下すしか選択肢がない状況になっていた」とし、「報復の連鎖が起これば、パレスチナ自治区ガザでの戦闘から「国対国」の次元の違う戦争に発展する恐れがある」(16日付京都新聞=共同)とその狙いを指摘します。

 さらに田中氏はこう予測します。

「イスラエルが反撃しない可能性は低いが、米国からの圧力で自制に応じた場合には「対イランで妥協した」引き換えとしてガザの戦闘を激化させかねない」(同)

 それはまさに悪魔のシナリオと言わねばなりません。世界の目がイランに向けられている間にもイスラエルはガザを攻撃し続けており、犠牲者が続出しています(写真右)。

 「焦点」は「イスラエルがイランに反撃するかどうか」などではありません。イスラエルのガザ、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区に対す攻撃・ジェノサイドを直ちにやめさせることです。それ以外に焦点はありません。

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ウクライナ「永世中立の和平草案」を潰したのは誰か

2024年03月07日 | 国家と戦争
   

<和平草案に「永世中立」 ウクライナに譲歩迫る 決裂 侵攻50日後 両国が作成 米報道>
 こんな見出しの記事(共同電)が京都新聞(3日付)に載りました(以下抜粋)。

<米紙ウォールストリート・ジャーナル電子版は1日、ロシアがウクライナに侵攻してから50日後に、両国の交渉担当者がまとめた和平草案を確認したと報じた。
 ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)のような軍事同盟に加わらない永世中立国となり、外国兵器は配備しないことなどが盛り込まれていたという。

 交渉は決裂し、戦争は長期化している。ウクライナは現在、全領土奪還まで戦うと宣言し、NATO加盟を目指している。

 17㌻の草案は2022年4月15日付。ウクライナが欧州連合(EU)加盟を目指すことは可能とするが、軍事同盟入りはしないとした。
 ウクライナ軍の規模縮小も盛り込まれた。ロシアは兵士や戦車の数、ミサイルの最大射程などを制限しようとしていたという。草案では、ロシアが14年に併合した南部クリミア半島はロシア勢力圏に置くとされた。

 ロシアとウクライナの交渉は侵攻の数日後に始まり、草案がまとめられた後も続いたが、22年6月に終わった。>

 注目すべきは、「和平草案」は「両国の担当者がまとめた」もの、すなわち両国間の合意だったことです。
 それが「決裂」した。その理由を記事は書いていませんが、第三者から圧力がかかったことは明白でしょう。それは誰なのか。当事者両国が合意して作成していた「和平草案」を潰し戦争を長期化させているのは誰なのか―。

 それはアメリカを中心とするNATO諸国である、という指摘がこれまでも日本の学者からも行われてきました。例えば、水島朝穂・早稲田大教授(23年8月28日のブログ参照)、和田春樹・東京大名誉教授(同8月29日のブログ参照)です。

 最近活字になったものとして、荻野文隆・東京学芸大名誉教授の論稿(「機」=藤原書店PR誌、2月号掲載)を紹介します(以下抜粋、改行は私)。

<ロシアのウクライナ侵攻翌日の2月25日、ゼレンスキー大統領は直ちに和平の模索のためにスイス政府と連絡を取った。そして翌3月から6月にかけて3度にわたって和平交渉が試みられた。

 しかしそれら全てが、米英欧の圧力によって潰された事実は、西側メディアでは重要視されなかった。米国の主要目的が、ロシアの弱体化だったからだ。

 紛争勃発直後にゼレンスキー大統領が望んだ和平が実現していれば、50万人規模のウクライナ兵と4万人近いロシア兵の命が失われずに済んだばかりか、クリミアとドンバス地方を除き、中立化したウクライナからロシア軍を撤退させる形で終結させることができたのだ。>

 荻野氏の指摘は水島氏や和田氏と通じます。

 ウクライナ戦争を長期化させ、多くの命を奪っている黒幕がアメリカを中心とするNATO諸国であることに改めて目を向ける必要があります。この戦争は「バイデンの戦争」と言っても過言ではないのです。

 そしてその動機が、ウクライナの「永世中立化」を阻むというNATO戦略であることを、アメリカとの軍事同盟(安保条約体制)によって対米従属をいっそう強めている日本の市民はとりわけ銘記しなければなりません。

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Nスぺ「戦場のジーニャ」―「政治家」は戦場に行かない

2024年02月26日 | 国家と戦争
   

 25日夜のNHK スペシャル「壮絶・戦場のジーニャ ウクライナ戦争の現実」は直視が苦しい映像でした(写真は同番組から)。

 元TVカメラマンのジーニャはじめ、元フィットネストレーナー、元映像技術者らがスマホや小型カメラで撮影した戦場の映像です。市民兵士たちは「遺書代わりに撮影した」といいます。

 「地雷」「塹壕」「ドローン」の3部構成で、戦場とキーウ(キウイ)などの家族の姿が織り交ぜて映し出されました。

 劇映画では何度も見て来た光景が、現実のものとして、遠く離れた日本の家庭に、時間をおかず入ってくる。SNS時代の映像の力と怖さを思います。「これから負傷者の映像が流れます」「小学生以下の子どもには見せないことをおすすめします」というもテロップが何度も出ました。

 ジーニャら映像に登場した市民兵はみな、好き好んで兵士になったわけではありません。戦場で「人を殺す」ことにも当初たいへん抵抗がありました。

 しかしそれが、「初めて人を殺した」「殺さなければ殺される」「私たちの価値観は劇的に変わった」と言います。「極限状態の連続が、市民を兵士に変えていった」(ナレーション)のです。

 父親(元映像技術者)があす戦地へ戻るという日、幼い娘が言いました。「大きくなったらロシア人を棒でたたき殺してやる」(写真中)。

 息子を戦場に送り出す母親の「1日も早くすべてが終わってほしい」という願いは、見る者すべての思いでしょう。

 しかし、映像は「更なる勢力の拡大を目指すプーチン」を映し出したあと、「それでも戦場に戻る」市民兵たちと見送る家族の姿で終わりました。

 戦争は悲惨だ。早く終わらせたい。しかしロシアが侵攻を続ける限り、戦うしかない―それが番組の構成であり、制作意図でしょう。

 ここでとどまっている限り、「1日も早い停戦」は望めません。

 戦場の悲惨さ、家族の苦悩を知ることは必要です。しかしそれを、「それでも戦わなければ」という負の動機にしてはいけない。「だからなによりもまず停戦を」の世論にしていかねばなりません。

 残酷な戦場の映像を見るにつけあらためて思うのは、「政治家」(権力者)は戦場には行かない、ということです。戦場で殺し合いをするのは常に市民です。それはもちろんロシアも同じです。

 戦場に行かない「政治家」たちが、政治的思惑から机上で戦争を始め、政略を練る。だから戦争は終わらない。

 そんな「政治家」を停戦に向かわせるのは、犠牲になる、なっている市民の声しかありません。「戦争は人間性を破壊する。何よりも大切なのは命。だからまず戦闘をやめよ。領土・主権などもろもろの問題は武器を置いて話し合いを」―。




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ウクライナ戦争は「専制か民主主義かの戦争」の誤謬と危険

2024年02月24日 | 国家と戦争
   

 ロシアのウクライナ侵攻から2年。ここにきてこの戦争の性格が変わってきた、あるいはより明確になってきたと言えそうです。

 侵攻当初からバイデン米大統領や岸田首相は、「(侵攻は)法の支配への挑戦だ」「力による現状変更は認められない」とし、これはロシアの「国際法違反の侵略」に対する“正義の戦争”だと言ってきました。上川外相はG20外相会議(22日)でも同様の発言をしました。

 ところが、「日ウクライナ経済復興推進会議」で来日したウクライナのシュミハリ首相(写真左)は朝日新聞のインタビュー(19日)に答えてこう述べています。

この戦争は、専制か民主主義かという、世界の価値観をめぐる戦争だ。ウクライナが勝利しなければ、戦争は欧州大陸の「次の国」に波及する。さらに、別の専制国家がこれを先例ととらえ、世界中で多くの戦争が継続されることになるだろう」(20日付朝日新聞デジタル)

 同氏は20日の日本外国特派員協会での記者会見でも同様の発言を繰り返しました。

「この戦争は専制か民主主義かの価値観をめぐる戦争」だとはすなわち、政治体制の価値観をめぐる戦争だということです。
 侵攻当初から、これはロシアとアメリカ・NATOの代理戦争だという見方がありましたが、日本政府などはそれを否定していました。しかし、シュミハリ氏の発言はまさに代理戦争であることを認めたものにほかなりません。

 「専制か民主主義かの戦争」という言説は誤っていると同時にきわめて危険です。

 第1に、ウクライナやそれを支援する国々が「民主主義」の国だというのは事実に反するプロパガンダです。

 アメリカや日本の反民主性を挙げれば枚挙にいとまがありませんが、現在のもう1つの焦点であるイスラエルによるガザ攻撃の問題に限っても、パレスチナ市民に対してジェノサイドを繰り返しているイスラエルを一貫して支持・擁護しているのはアメリカであり、日本もそれに追随してきたことは周知の事実です。

 忘れてならないのは、イスラエルのガザ攻撃をいち早く支持したのがウクライナのゼレンスキー大統領だということです。
 ゼレンスキー氏はガザ空爆が始まった10月7日に「イスラエルの自衛権は疑う余地がない」という声明を出し、翌8日にもネタニヤフ首相と電話協議し「連帯」を表明しました(10月28日のブログ参照)。

 第2に、「専制か民主主義かの戦争」論は、停戦を遠ざける危険性をもっています。

 シュミハリ氏は先の朝日新聞のインタビューで、「停戦交渉の席に着く条件は何か」と聞かれ、「唯一の道が、ゼレンスキー大統領が提唱する10項目の和平計画「平和フォーミュラ」の実現だ」と答えています。

 ゼレンスキー氏が提唱している「10項目」(写真右)には、「ロシア軍の撤退」だけでなく、「正義の回復」「世界秩序の回復」などが含まれています。松田邦紀駐ウクライナ特命全権大使は、これは「停戦を超えて新しい国際秩序まで視野に入れた提案」だと解説しています(22日のNHK国際報道2024)。ロシアがこれを飲むわけがありません・

 ゼレンスキー「10項目」の「実現」が停戦交渉の席に着く条件だというのは、「この戦争は、専制か民主主義かという、世界の価値観をめぐる戦争だ」という論理の帰結です。その立場に立つ限り停戦交渉が始まる余地はありません。

 この戦争は「専制か民主主義か」の戦争ではなく、ロシアと、ウクライナの後ろ盾のアメリカ・NATOの2つの軍事大国・軍事ブロックの戦争です。その犠牲になっているのがウクライナとロシアの市民です。日本は日米安保条約(軍事同盟)によって後者の陣営の一員として戦争に加わっているのです。

 この戦争を終わらせる(停戦)ためには、対立する両陣営のいずれでもない中立の第3極、すなわちグローバルサウスの国々による和平案を、国連総会などの場で国際世論が支持し後押しする以外にないのではないでしょうか。


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