転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



(写真は、当日、私の座った三階席から見た舞台。
チケット代が厳しくて昔から三階AまたはBの常連だったのが、
長年それをやっているうちに、今では、とりあえず三階から見ないと
舞台がどうなっているのかわからない人間になってしまった(^_^;)。

團菊祭の感想を書いておこうと思いつつ、日が過ぎてしまった。
気がつけば、千秋楽まで残り一週間ほどだ。
箇条書きにケの生えた程度の内容だが、
覚えていることを今のうちに記録しておきたいと思う。

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昼の部、幕開きは左團次の務める『毛抜』。
1985(昭和60)年に、なつおちゃんが團十郎を襲名したとき、
これで昭和の團菊左が揃ったと、皆が喜んだものだった。
だから、團十郎一年祭としての團菊祭の開始を、
左團次が飾ってくれたことには、大きな意味があったと思う。
粂寺弾正は器量が大きく頭の切れる男性だが、
綺麗な男の子や美しい腰元を見るとすぐ言い寄るところもあり、
それらが、左團次の貫禄と愛嬌の同居した存在感のお蔭で、
とても奥行きのある人物像になっていたと思った。

勧進帳』は、健在ならば当然團十郎の演しものだったが、
今回はそれを海老蔵が務めていた。
若々しい力に満ちた弁慶は素晴らしかった。
海老蔵の目力や、全身から放射されるオーラは大変なものがあったと思う。
菊之助の冨樫がまた絶品だったのだが、海老蔵との丁々発止の遣り取りで、
日頃の菊之助には無い激しさが引き出されていたのも面白かった。
また、四天王の顔ぶれも充実しており、特に亀三郎亀寿が揃っていたので、
私にとってはこのうえなく贅沢なことだった。
義経は芝雀。私が團十郎襲名を観たときの義経は雀右衛門だった。
時の流れを、舞台の端々に感じた。

昼の部の最後は『魚屋宗五郎』。
私にとっては、宗五郎は菊五郎の演じるものが決定版だ
隅々まで堪能させて貰った。言うことなしだった。
女房おはまは時蔵で、今回の宗五郎夫妻は私の感触では、
これまでの上演より夫婦の年齢設定を高めにしていたのではないか、
という気がしたのだが、どうだろうか。
おはまの時蔵に、菊五郎の相手役としての年輪みたいなものを感じた。
特に、宗五郎を叱るところや母親のように面倒を見るところに、
情のある女房ぶりが現れていて(しかも時蔵だから美人!)、実に良かった。

おやじさんの團蔵にも、深い味わいがあった。
前面に出るところと引くところのバランスが見事で、
ご隠居だが、宗五郎父だから「大旦那」でもあることがよくわかった。
決して偉そうにはしていないが、皆に大切にされている、という意味で。
三吉の橘太郎の切れ味も良かった。
今回の宗五郎夫婦には、このくらい巧い三吉がぴったりだと思った。
三吉もそうだが、この芝居は、宗五郎を周囲の皆が受けることで
物語の雰囲気が作られて行くものだから、まわりの配役こそが大切なのだ。
おなぎの梅枝は、しっとりと美しかった。
殿様の屋敷に奉公する身であるおなぎは、品良く行き届いた女性だが、
同時に、お蔦の朋輩であり、宗五郎たちの世界に通じる人でもある。
そのあたりの雰囲気が、梅枝のおなぎには過不足なくあったと思う。

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夜の部の最初は松緑が務める『矢の根』。
私は最近、あらしちゃんに夢中だ(笑)。
荒事の魅力をふんだんに表現した、猛々しくも愛らしい曽我五郎だった。
この演目のときばかりは、私の背後にいた外国人の観客たちからも
さかんに歓声が上がり、拍手が起こっていた。
扮装といい舞台構成といい演技といい、
いかにも歌舞伎!という明るさがあった。
松緑はブログを見るといつも自己評価が低くて暗いのだが(爆爆)、
彼の舞台には他を圧倒する力があり、輝きが漲っている。
この裏腹加減、まさに役者とはかくあるべし、と私は思っている(^_^;。

夜の部の最大眼目は『幡随長兵衛』。
私は吉右衛門の演じる長兵衛が最も好きなのだが、
それはそれとして、今回の海老蔵の長兵衛には、
「侠客」というニュアンスがとてもハッキリとあって、
実に「格好いい」主役ぶりだったと思った。
こちらが海老蔵の実年齢を先入観として感じているせいか、
水野十郎左衛門(菊五郎)ほどの人物が、
若い長兵衛を自ら手に掛ける必要までは、無かったのではないか
(=手下や近藤登之助(彦三郎)に始末させれば十分だったのでは)、
……と最後にはちょっと感じてしまったのだが(逃!)、
それ以外のところは、随所に納得感のある長兵衛だった。
海老蔵も我が子の成長を見守る立場を知るようになったことだし、
子別れの場面なども含めて、今後更に、
この役にはいっそうの深まりが出て来るのではないかと思う。
左團次の息子の男女蔵、それに孫の男寅にも、
この演目では大変楽しませて貰った。
次世代・次々世代の團菊左候補が、既にこうして揃っている、
と思うと、感慨深いものがあった。

最後は菊之助の踊る『春興鏡獅子』。
昼に冨樫をやっていた人とは思えない、可憐で清楚な弥生だった。
そして獅子の精になると、勇壮なだけでなく神聖な空気すらあり、
最後、獅子の狂気を表す場面でのスケールの大きさも見事で、
菊之助が確実に、「兼ネル役者」へと成長していることがわかった。
今回は、前のように衣装の色に私の意識が向くことはなかった。
ということは、多分、普通の衣装だったのだろう(汗)。
市川宗家の『鏡獅子』を、音羽屋の菊之助が踊るという、
本当に團菊祭ならではの手応えを感じる演目だった。
いずれまた、これは海老蔵にも踊って貰いたいものだ。


……以上、また何か思い出したらここに書き足しに来るかもしれないが、
とりあえず現時点での記録として。

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