「このマンションの皆様に、順番にご説明に伺っているのですが。
排水設備の件で、ご使用方法など、お伝えしたいことがございまして」
と、ある日の夕方、作業衣姿の若い男性が我が家に来た。
「施工業者さんですか?」
と尋ねると、そうだと言う。
私は、つい官舎暮らしの不用心さが残っていたので、玄関を開けた。
相手は、台所や風呂の排水がどういう仕組みでなされているかとか、
住人のほうでやるべき、床下のパイプの清掃方法などを説明したうえで、
「しかし、そのようなことをお客様ご自身で行って頂くのは、
大変、ご負担と思います。つきましては・・・」
と、おもむろに、排水パイプ清掃専用の機械の宣伝を始めた。
おいおい、なんだよ、それ。
何が施工業者だ、何が「ご説明」だ、
セールスマンだろうがオノレは!
『消防署のほうから来ました』と言って消火器を売りつける、
消防署のむこうに会社があるだけという悪徳業者と一緒だろうが!
私「ご説明はだいたい理解できました。ですがね。
その機械の御陰で、うちの排水パイプがどれも本当に綺麗になったと、
どうやったら確認できますか」
男「はあ」
私「詰まったり、異臭がしたり、水漏れが発覚したりすれば、
排水関係のトラブルが起きたかな、とわかりますよ、そりゃ。
だけど、問題なく使用しているときは、その機械の御陰かどうか、
私には、知りようがないんじゃないですか?」
男「・・・・・・」
私「排水パイプなんて、実際に見ることできないじゃないですか。
現状がどんな具合で、その機械を使ったらどの程度良くなったか、
確かめようがないものを、私、安くないのに買えませんよ」
しかし、彼を言い負かしたところで、何にもならなかった。
要は、早く諦めて帰って貰うことだと私は考え直した。
私「ともかく、今は、私の一存では何も決められませんから、
その機械の内容がわかる、パンフレットか何か下さい」
男「あのぅ、説明用のパンフしか、きょう、持ってきてないんで」
私「じゃあ、あとからうちの郵便箱に入れといて下さい(--#)」
男「わかりました」
ものを売ろうとするのに、宣伝用のツールもろくに持っていないとは、
一体、どういう社員教育をしとる会社だろうか、
と呆れたが、結構素直に帰ってくれたので、まあ良かった。
が、翌日になっても、翌々日になっても、
パンフレットらしきものは来なかった。
私の態度から脈がないとみて、諦めたのだろうか?
あの程度で引き下がるなんて、根性なしの宣伝員だとも思ったが、
これ以上つきあわなくて良いなら、助かったと言うべきかもしれない。
・・・と思っていたら、数日後、またも夕食前に、ピンポーン♪
モニターを見たら、くだんの、排水設備の男だった。
「このマンションの皆様に、順番にご説明に伺っているのですが。
排水設備の件で、ご使用方法など、お伝えしたいことがございまして」
お前。お前。どのツラ下げて。
この前、あれだけ私から不愉快極まる応対をされ、
パンフを入れておくと約束までしたのに、
部屋番号とその交渉内容くらい、記録してなかったのか?
まさか、すべて忘れたというのか。
もしくは、忘れたフリで出直そうというのか。
・・・・・・・・・・・(--#)(--#)。
私は、この男のデキなさ加減に、心底、イラっと来た。
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