殿は今夜もご乱心

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ウグイス養成物語・11

2018年12月28日 14時00分44秒 | 選挙うぐいす日記
今回も選挙事務所に、ある人物が現れた。

高校時代の恩師、O先生である。

男子の体育を受け持っていたが、授業の内容によっては女子にも教えることがあった。

その教育方針はスパルタで、いつもふざけていた私は

「みりこん!腕立て30回〜!」

と、しょっちゅう怒られていた。


候補の近所に住んでいる支持者で

前回、前々回の選挙でも何度か見かけたが

恐怖の腕立て先生に声をかける気は起きず黙っていた。

しかし年のせいか、今回はうっかりつぶやいてしまった。

「あ、先生だ‥」


それを耳にしたのが候補のお姉ちゃん。

さっそくO先生を引っ張って来て、再会の羽目に陥る。

40年ぶりの先生は80才を越えているそうで

髪は薄くなっているものの、昔と変わらぬイケメンのお爺さんだ。


「どんな生徒だったんですか?」

私の横に張り付いて、O先生にたずねるナミちゃん。

父兄か。

「背がスラッと高くてね、バレーやバスケットがうまかったんですよ」

先生は答える。

「罰の腕立て伏せばっかりさせられてた」

と言うと、はははと笑ってごまかす。


あちらは先生たちの消息、こちらは同級生の消息を伝え合い

話は当時教頭だったT先生に及ぶ。

「何年か前に奥さんが亡くなられてねえ」

「え〜?優しい方だったのに残念!」

「奥さんを知ってるの?」

「20年くらい前だったか、T先生が立候補された時

ウグイスをやらせていただいたんです。

奥様に良くしていただきました」

「へえ〜!そうだったの!あの頃からウグイスをやってるんだね」


「ええっ?!」

ここで叫んだのはナミちゃん。

「姐さん、そんなに長いんですか?」

「もっと前からよ」

「え〜?私、全然知りませんでした!」

「年月が長いだけで、回数は少ないのよ」

「そんなことないです!

教頭先生に頼まれてウグイスなんて、話がすご過ぎます!」

「違うよ‥依頼が来たら、たまたま教頭だったのよ」

「姐さん、謙遜し過ぎです。

Oセンセ、姐さんはいつもこんなふうなんですよ。

わたしゃシロウトだとか、あんたの方がうまいと言って私をだますんです」

何言いつけてんだ‥ナミめ。

腕立て30回だ!


それにつけても、私は改めて驚いた。

ナミちゃんが本当に聞きたいのは、戦歴や自慢話らしい。

この道何年‥あの人の選挙もやった‥この人の所も参加した‥

そんなことを聞いて、何が面白いというのだ。


いや、ナミちゃんが所属するプロのウグイスチームでは

きっと大切なことなんだろう。

強気の者は経験をかざして君臨し、ナミちゃんのように弱気の者は

それをおだてる役に回って安全を確保する。

この場合の安全とは、いじめられないように立ち回るのもあるが

やんやとおだててさえいれば相手が働いてくれるので

自分はサボれるという意味合いが大きい。

ここまで徹底しているからには、やはりナミちゃんはプロと言えよう。


「多くの候補者が本当に言って欲しいのは、古い町名」

ナミちゃんは私の言った言葉に衝撃を受けていたらしい。

さらにはO先生の出現により、私の過去の一部が露見したことで

その後の彼女は大きな変化を見せた。

つまりやっとこさ、師匠でなく私の言うことを

聞いてみようかという気になった様子である。


「ウグイスの本当の役割って、何なんですかね‥」

ナミちゃんは真剣にたずねる。

その言葉は4年前に聞きたかったぞ。


「票固め」

私は答える。

「え〜?それだけですか?

候補の代わりにしゃべって、一票でも多く集まるように

有権者にお願いするとかじゃないんですか?」

「それは票集め。

うちの旦那がよく言ってるわ。

ウグイスが鳴いても票は取れんって。

自分の声で票を集めようなんて甘いんだってさ。

ウグイスは票集めじゃなくて、票固めのために雇われてんの」

「衝撃ですぅ!私は票集めだと教わりましたから‥」

「ウグイスがおこがましくも候補に代わって、票を取れるわけないじゃん。

ほぼ固まりかけてる票をしっかり固めるのが、うちらの仕事よ」

「コンセプトが違うんですね‥」

「真逆だね」

「票固めに必要なセリフって何ですか?」

「名前と、声援に対するお礼」

「それだけ?」

「それだけ。

でも名前とお礼だけじゃあ間が持たないから、尾ひれをつける」

「やっぱりチームと逆です。

私はまずセリフありきと教わってきました。

ウグイスの仕事が票固めの一言で終わるなんて、考えたこともなかったんです」

「いろんな流儀があっていいんじゃないの?」

「やっぱり衝撃‥」

「衝撃はいいから、もっとしゃべってよね」

「あまりの衝撃に、ちょっと‥」

「衝撃は家に帰ってから、ゆっくり受けておくれ」


それからのナミちゃんは、さらにしゃべるようになった。

票は集めるのではなく、固めればいいのを知り

プレッシャーから開放されたことが大きかったように思う。

《続く》

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4 コメント

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Unknown (モモ)
2018-12-28 16:05:17
みりこん姉さんを、なめ過ぎじゃ!!!
ナミめ…いや、ナミさんは!🌋🌋🌋

今日は、こちらも寒いですが、そちらも寒いでしょう。年末、体調をご自愛下さい増すように
…まだ、仕事が…💦合間に見るみりこん姉さんのブログは、やっぱり癒しです❤
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カッコイイ (poro)
2018-12-28 17:52:38
初めての投稿ですが、いつも楽しく読ませて頂いております!
今日は、居ても立っても居られない、これ言わせて!

ッキャー、みりこんさんカッコいい!
とってもとってもイケメンです♪
弟子にして欲しいです!!!

あんなボギー(義母)を我慢できるのは姐さんしかいません!
ナミ。。。私、ちょっと似てるかも。。。

これからも応援してます!!!
返信する
噴火しとるよ〜(笑) (みりこん〜モモさんへ)
2018-12-28 20:53:04
私、自慢じゃないけどナメられやすいんですよ。
大きいので、見た目は多分インパクトがある方だと思うんですが
話すと完全な田舎のおばちゃん。
これがナメられる原因ではないかと。
ナメられるの嫌いじゃないので、いいんですけどね。
面白いから。

そちらも寒いですか!
こっちもちょっとだけ雪が降りました。
モモさんもお仕事?
私も月末処理が待っている〜!
ありがとうございます。
体に気をつけて、お互いに頑張りましょうね。

私のブログが癒しになっていたら、嬉しいです。
合間に笑っていただけるよう、できるだけアップに努力します。
返信する
初めまして! (みりこん〜poroさんへ)
2018-12-28 21:01:26
初コメント、ありがとうございます。

キャー!カッコいい?
嬉しい〜!
「ザンネンに美人」と同じように舞い上がっちゃうわ!

>ボギー(爆)
昔の俳優ハンフリー・ボガードの愛称‥
沢田研二の歌にも出てきた‥
あのボギーを踏み倒す新語ですね!
こっそりそう呼ぼう。

こちらこそ、これからもよろしくお願い致します。
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