一緒に暮らす義母ヨシコは、昔から通販好き。
電話の勧誘で、相手が自慢話を聞いてくれたら
たいていの物は買う。
電話でアポを取り、家に来て高額な商品を売りつけるタイプも
昔からヨシコの好物だが、今は亡き義父アツシもこの手のことが好きだった。
値段の高いものは、たいてい誰かの紹介で回ってくる。
その誰かが「うちも買った」と言えば、負けじと買うので
売る方にとっては勝率100パーセントの上客といえよう。
昔の話になるが、ゴミだけでなく水も吸うというバカ高い掃除機
(試しに水を吸ってみたら、壊れた)
牛乳タンパクの繊維で作ってあるという布団
(すごく寒い)
家用電話の受話器5台と配線工事
(離れのある大邸宅向けなので、狭い家だと5台が同時に鳴り響いてうるさいだけ)
商業用無線と無線塔工事
(周波数がよその会社と共有で、その会社の使用中はなかなか割り込めず
無理に割り込んだところで情報がダダ漏れ)
など、彼らはさまざまな物を買っては騙され、無駄遣いを重ねた。
日頃、自慢ばかりしていると、いざという時に断れなくなるものだ。
これも昔の話になるが、お試し詐欺もあった。
入手困難な特殊金属でできていて、身体の凝りや痛みが根本から解消されるいう
ピップエレキバンみたいなやつ。
試しに2週間、1ダース貸してくれるという。
当時、このように気前のいい話は珍しかったので
アツシとヨシコは嬉々として試用。
腰痛を理由に仕事をせず、余った時間と体力で浮気三昧をしていた
若かりし我が夫にも試させた。
しかし夫は一夜にして、特殊金属とやらのくっついたシールを紛失。
若い身体は脂が多い。
肩や腰は特にだ。
その脂でシールの粘着力が弱まり、どこかへ落ちてしまったのだ。
2週間後、再び業者がやって来て商談となった。
アツシもヨシコも何十個だかのセットの値段を聞いて、あまりの高額に断る。
すると業者は平然と言った。
「では、お預けしていた商品を回収して帰ります」
しかし1ダース12個のうち、半分は無くなっていた。
夫が3個、アツシが3個、どこかで無くしたのだ。
借り物だからと、大っぴらに探すわけにはいかない。
彼ら父子が無くした場所は、自宅でない可能性が高い。
それぞれの愛人宅、あるいはホテルかもしれないのだ。
業者は言った。
「無くなった分だけ、実費をいただければけっこうですよ」
アツシは、おとなしく従うしかなかった。
正確には知らないが、なにしろ入手困難な特殊金属だそうだから
1個につき2万円以上は支払ったらしい。
シールの粘着力は最初から弱めで、すぐ剥がれるようにしてあり
紛失した分の実費を回収するのが商売だったのではないか…
私はそう思ったが、余計なことは言わない。
夫が無くした分を払えと言われたら、嫌だからだ。
で、今回、ヨシコが遭遇したのもお試し詐欺。
ある日、例のごとくヨシコに電話がかかる。
今、わりとブームのイタ◯リという野草から抽出した
身体の痛みを取るというサプリメントの業者からだ。
あえて伏せ字を設けたのは、この植物を使ったサプリが
複数の会社で販売されており
その全てがトラブルを引き起こすわけではないであろうことを
ご理解いただくためである。
ともあれ1ヶ月分を無料で試せるというので、ヨシコは送ってもらった。
このことは、後で聞いた。
何ヶ月か前にあったマッサージチェアのトラブル以降
彼女の通販生活は秘密裏に行われているからだ。
マッサージチェアのトラブルとは
古いマッサージチェアを引き取ると言われて乗ったヨシコだが
マッサージチェアは引き取ってもらえず
相手の目的は貴金属と健康保険証の番号だったため
私が撃退したというもの。
この時、ヨシコのプライドは大いに傷つき
以後、電話によるセールス関係は隠すようになった。
ヨシコがイタ◯リのサプリを飲み始めて、1ヶ月が経過。
「全部飲み終わったら、継続するか終わりにするかを電話してください」
そう言われていたので、ヨシコは業者に電話した。
「もういりませんから、止めてください」
無料だから飲んだまでで、高い実物を買うつもりはなかったのだ。
すると、相手の女性は明るく言った。
「あら〜、昨日、二箱目を送ったところです」
「え?でも、飲み終わったら電話をって…」
「昨日が30日目でしたから
昨日で飲み終えていらっしゃるはずですよね。
お電話が無かったので、送ってしまったんです〜」
「でも…私は夜、飲んでいたんですよ。
昨日の晩に飲み終わったから、今日、朝のうちに電話したんですよ」
「それは申し訳ないことをいたしました。
届いたら、受取拒否してください」
「受取拒否って、どうやったら…」
「品物を届けに来る郵便屋さんに、受取拒否しますと言ってくだされば
そのまま持って帰って、こちらに返送してくれますから」
「わかりました」
ヨシコは納得して、電話を切った。
しかし、それでは終わらなかった。
昨日送られたはずのサプリメントは、その日も翌日も届かなかった。
そして3日後。
サプリメントはひっそりと、うちの郵便受けに入っていた。
ヨシコはゆうパックの宅配で届くと思い込み
配達の人が来たら断ればいいと考えていたが
サプリメントは日を置いて、普通郵便で届いたのだった。
絶望したヨシコはこの時初めて、私に事実を打ち明けた。
隠れて買っても結局は知られてしまい、人の手や知恵にすがる結果になるのだ。
そして誰も責めてないうちから、一人でキレる。
「私はねっ、自分で買いに行かれんのだからねっ!
痛いのが治るか思うて、買うわいね!」
これといった効果を感じなかったサプリメントに
数千円のお金を払うか、それともこちらが実費を出して送り返そうか
あるいは庭で番をして郵便が配達されるのを待ち、その人に渡そうか…
悩むヨシコを見て、次男はこともなげに言った。
「受取拒否すりゃあええじゃん」
ネットで調べたところ、品物に受取拒否の旨と
住所氏名を書いて印鑑を押したメモを貼り
ポストに入れたら大丈夫だという。
そこで私がメモを書いた。
“受取拒否します。
お手数ですが発送元に返送してください。
先方も了解済です。
住所氏名、印鑑”
本当は受取拒否の四文字と住所氏名、印鑑だけでいいらしいが
それでは郵便局に申し訳ない気がして、お手数ですが…を加えた。
書くのは、どこでも貼り付けられるメモ用紙
ポストイットでいいそうだが、剥がれたら嫌なので
その上にセロハンテープを貼る。
そしてサプリメントの箱は、次男の手でポストへ投函された。
以後の音沙汰は無いので、無事に返送されたようだ。
今回の件は詐欺と呼ぶべきかどうか、微妙なケース。
嘘いつわりで相手を騙したわけではなく
断るタイミングと発送するタイミングの問題で
悪いのはそのタイムラグということで逃げ切れるからだ。
1日1錠のサプリメントを朝飲むか、夜飲むかは
無料とはいえ飲む側の自由のはずだが
時間的な余裕を与えない手法は、さすがと言うしかない。
昨日送ったと言いながら、結局4日後に届くからには
断りの電話を聞いてから発送したと考えていいだろう。
ネットを使わない老人であれば、受取拒否のやり方がわからない人もいる。
わかったとしても、知らないことを初めて行うというのは
私を含めた老人には抵抗があって辛い。
あまり嬉しくないことであれば、なおさらだ。
それをおしてやり遂げたところで、ポストや郵便局から遠かったり
足腰の調子が悪ければ気分が萎えて
「今回は、まあいいや」
と、そのまま支払ってしまうケースも多いのではなかろうか。
気分が乗るまいが足腰が悪かろうが
金融機関やコンビニでの支払いはできるものだ。
知らない初めてのことではないため、抵抗がないからである。
このような、老人の習性を利用した周到な脱法的商法が
今後はますます横行すると思われる。
気をつけていただきたい。
電話の勧誘で、相手が自慢話を聞いてくれたら
たいていの物は買う。
電話でアポを取り、家に来て高額な商品を売りつけるタイプも
昔からヨシコの好物だが、今は亡き義父アツシもこの手のことが好きだった。
値段の高いものは、たいてい誰かの紹介で回ってくる。
その誰かが「うちも買った」と言えば、負けじと買うので
売る方にとっては勝率100パーセントの上客といえよう。
昔の話になるが、ゴミだけでなく水も吸うというバカ高い掃除機
(試しに水を吸ってみたら、壊れた)
牛乳タンパクの繊維で作ってあるという布団
(すごく寒い)
家用電話の受話器5台と配線工事
(離れのある大邸宅向けなので、狭い家だと5台が同時に鳴り響いてうるさいだけ)
商業用無線と無線塔工事
(周波数がよその会社と共有で、その会社の使用中はなかなか割り込めず
無理に割り込んだところで情報がダダ漏れ)
など、彼らはさまざまな物を買っては騙され、無駄遣いを重ねた。
日頃、自慢ばかりしていると、いざという時に断れなくなるものだ。
これも昔の話になるが、お試し詐欺もあった。
入手困難な特殊金属でできていて、身体の凝りや痛みが根本から解消されるいう
ピップエレキバンみたいなやつ。
試しに2週間、1ダース貸してくれるという。
当時、このように気前のいい話は珍しかったので
アツシとヨシコは嬉々として試用。
腰痛を理由に仕事をせず、余った時間と体力で浮気三昧をしていた
若かりし我が夫にも試させた。
しかし夫は一夜にして、特殊金属とやらのくっついたシールを紛失。
若い身体は脂が多い。
肩や腰は特にだ。
その脂でシールの粘着力が弱まり、どこかへ落ちてしまったのだ。
2週間後、再び業者がやって来て商談となった。
アツシもヨシコも何十個だかのセットの値段を聞いて、あまりの高額に断る。
すると業者は平然と言った。
「では、お預けしていた商品を回収して帰ります」
しかし1ダース12個のうち、半分は無くなっていた。
夫が3個、アツシが3個、どこかで無くしたのだ。
借り物だからと、大っぴらに探すわけにはいかない。
彼ら父子が無くした場所は、自宅でない可能性が高い。
それぞれの愛人宅、あるいはホテルかもしれないのだ。
業者は言った。
「無くなった分だけ、実費をいただければけっこうですよ」
アツシは、おとなしく従うしかなかった。
正確には知らないが、なにしろ入手困難な特殊金属だそうだから
1個につき2万円以上は支払ったらしい。
シールの粘着力は最初から弱めで、すぐ剥がれるようにしてあり
紛失した分の実費を回収するのが商売だったのではないか…
私はそう思ったが、余計なことは言わない。
夫が無くした分を払えと言われたら、嫌だからだ。
で、今回、ヨシコが遭遇したのもお試し詐欺。
ある日、例のごとくヨシコに電話がかかる。
今、わりとブームのイタ◯リという野草から抽出した
身体の痛みを取るというサプリメントの業者からだ。
あえて伏せ字を設けたのは、この植物を使ったサプリが
複数の会社で販売されており
その全てがトラブルを引き起こすわけではないであろうことを
ご理解いただくためである。
ともあれ1ヶ月分を無料で試せるというので、ヨシコは送ってもらった。
このことは、後で聞いた。
何ヶ月か前にあったマッサージチェアのトラブル以降
彼女の通販生活は秘密裏に行われているからだ。
マッサージチェアのトラブルとは
古いマッサージチェアを引き取ると言われて乗ったヨシコだが
マッサージチェアは引き取ってもらえず
相手の目的は貴金属と健康保険証の番号だったため
私が撃退したというもの。
この時、ヨシコのプライドは大いに傷つき
以後、電話によるセールス関係は隠すようになった。
ヨシコがイタ◯リのサプリを飲み始めて、1ヶ月が経過。
「全部飲み終わったら、継続するか終わりにするかを電話してください」
そう言われていたので、ヨシコは業者に電話した。
「もういりませんから、止めてください」
無料だから飲んだまでで、高い実物を買うつもりはなかったのだ。
すると、相手の女性は明るく言った。
「あら〜、昨日、二箱目を送ったところです」
「え?でも、飲み終わったら電話をって…」
「昨日が30日目でしたから
昨日で飲み終えていらっしゃるはずですよね。
お電話が無かったので、送ってしまったんです〜」
「でも…私は夜、飲んでいたんですよ。
昨日の晩に飲み終わったから、今日、朝のうちに電話したんですよ」
「それは申し訳ないことをいたしました。
届いたら、受取拒否してください」
「受取拒否って、どうやったら…」
「品物を届けに来る郵便屋さんに、受取拒否しますと言ってくだされば
そのまま持って帰って、こちらに返送してくれますから」
「わかりました」
ヨシコは納得して、電話を切った。
しかし、それでは終わらなかった。
昨日送られたはずのサプリメントは、その日も翌日も届かなかった。
そして3日後。
サプリメントはひっそりと、うちの郵便受けに入っていた。
ヨシコはゆうパックの宅配で届くと思い込み
配達の人が来たら断ればいいと考えていたが
サプリメントは日を置いて、普通郵便で届いたのだった。
絶望したヨシコはこの時初めて、私に事実を打ち明けた。
隠れて買っても結局は知られてしまい、人の手や知恵にすがる結果になるのだ。
そして誰も責めてないうちから、一人でキレる。
「私はねっ、自分で買いに行かれんのだからねっ!
痛いのが治るか思うて、買うわいね!」
これといった効果を感じなかったサプリメントに
数千円のお金を払うか、それともこちらが実費を出して送り返そうか
あるいは庭で番をして郵便が配達されるのを待ち、その人に渡そうか…
悩むヨシコを見て、次男はこともなげに言った。
「受取拒否すりゃあええじゃん」
ネットで調べたところ、品物に受取拒否の旨と
住所氏名を書いて印鑑を押したメモを貼り
ポストに入れたら大丈夫だという。
そこで私がメモを書いた。
“受取拒否します。
お手数ですが発送元に返送してください。
先方も了解済です。
住所氏名、印鑑”
本当は受取拒否の四文字と住所氏名、印鑑だけでいいらしいが
それでは郵便局に申し訳ない気がして、お手数ですが…を加えた。
書くのは、どこでも貼り付けられるメモ用紙
ポストイットでいいそうだが、剥がれたら嫌なので
その上にセロハンテープを貼る。
そしてサプリメントの箱は、次男の手でポストへ投函された。
以後の音沙汰は無いので、無事に返送されたようだ。
今回の件は詐欺と呼ぶべきかどうか、微妙なケース。
嘘いつわりで相手を騙したわけではなく
断るタイミングと発送するタイミングの問題で
悪いのはそのタイムラグということで逃げ切れるからだ。
1日1錠のサプリメントを朝飲むか、夜飲むかは
無料とはいえ飲む側の自由のはずだが
時間的な余裕を与えない手法は、さすがと言うしかない。
昨日送ったと言いながら、結局4日後に届くからには
断りの電話を聞いてから発送したと考えていいだろう。
ネットを使わない老人であれば、受取拒否のやり方がわからない人もいる。
わかったとしても、知らないことを初めて行うというのは
私を含めた老人には抵抗があって辛い。
あまり嬉しくないことであれば、なおさらだ。
それをおしてやり遂げたところで、ポストや郵便局から遠かったり
足腰の調子が悪ければ気分が萎えて
「今回は、まあいいや」
と、そのまま支払ってしまうケースも多いのではなかろうか。
気分が乗るまいが足腰が悪かろうが
金融機関やコンビニでの支払いはできるものだ。
知らない初めてのことではないため、抵抗がないからである。
このような、老人の習性を利用した周到な脱法的商法が
今後はますます横行すると思われる。
気をつけていただきたい。