どうして我々は、個人向けの車のリースを憂慮するか。
リースにはカラクリがあり、経済的にしっかりしていなければ
生活が破綻する恐れがあるからだ。
逆に言えば、経済的にしっかりしている人はリースを利用しない。
損だからである。
カラクリの餌食になるのは、世間知らずの若い人。
詳しい内容を知ろうともせず、経済的な準備も無いまま
新車を乗り回したい一心で契約してしまうと
やがては借金地獄に陥る可能性がある。
そういう人たちが増えたら自殺も増えるだろうし
軽傷であっても結婚どころではなくなり、子供も増えない。
日本の未来が危ないではないか。
とはいえリースには、メリットがあるのも確か。
まず、手元に現金が無くても憧れの新車に乗れる。
ここがそもそも間違いの元で、車を買うお金が無ければ
ボロ車か自転車で我慢するのが正しい経済生活だ。
それから、毎年の自動車税を支払わなくてもいいというのも
リースの長所。
自動車税の納付書が来なければ、そりゃ嬉しい。
けれどもチラシの小さい文字をよく見ると
○○オートローン、○○クレジットなどと
頭に自動車メーカーの名前を付けたクレジット会社や
よく耳にする信販会社の名前と共に、高い金利が記載されている。
とりわけメーカーの名前が付いていると
うっかりメーカー直の機関と思って信用してしまいがちだが
系列が同じでも、別会社の金貸しだ。
リースと言ったら聞こえはいいけど
実際はクレジット会社でお金を借りて
3年または5年のローンを組むことなのだ。
ローンが終わるまでは、そのクレジット会社が所有者になる。
自動車税は乗っている人ではなく、所有者が払うものだから
クレジット会社が払うのが当たり前。
だから自動車税を払わなくていいというわけだ。
そしてリースのローンは、審査が甘いことでも知られている。
買うためにローンを組むのであれば審査は厳しいが
リースだと、たいていの人は審査に通る。
顧客は貧しくても新車に乗れて、車のメーカーは顧客が拡大できる…
顧客とメーカーの双方がウィンウィンの関係に思えるが
現実は、お金が無いのに新車に乗りたい見栄っ張りと
そのような人々をそそのかして儲けるメーカーの二者がいるだけなのだ。
さらに契約内容によっては、車検も無料になる。
車検代がいらなければ、どんなにいいだろう。
そりゃ経済オンチは飛びつく。
しかしこれも厳密に言えば、月々の支払いに3年後の車検代を分割し
その金額を上乗せして積み立てているのだ。
よって月々のリース料は、どうしても割高になる。
つまり車を持つにあたって付きまとう経済的な悩みが、リースには無い。
これを魅力ととらえるか、罠ととらえるかの話である。
もちろん収入やライフスタイルによって
リース料がもたらす経済的な負担は異なるし
このシステムを上手に活用して、楽しいカーライフを送る人もいる。
そういった人々はさておき、総支払額も金利も意識しないまま
リース契約をするのは危険だ。
というのも、うちに一人、リースに関わるとどうなるか
止める時はどうなるかを実体験した者がいるのだ。
それでつい、リースのチラシに熱くなる。
体験者、それは長男である。
10年ほど前から我々は、ダンプに注入する「尿素」という液体を
とある石油メーカーの地方支店から購入していた。
尿素とは、ダンプの排気をクリーンにする薬剤。
その数年前から、地球温暖化を防ぐ活動の一端として始まった。
大型のダンプやトラックは、これを定期的に注入するよう義務付けられ
近年の大型車は皆、尿素を注入する作りになっている。
「おしっこじゃ、いけないの?」
本社との合併後、尿素と聞いて
真顔でそうたずねたのは経理部長のダイちゃん。
今にして思えば、こんなあんぽんたんに経理を任せていた本社が
人材の墓場になるのは時間の問題であった。
ともあれ尿素はガソリンスタンドには売ってないので
石油メーカーから直接、大量購入するしかない。
この尿素が縁で知り合った石油メーカーの営業マン
大塚君は、プライベートでも息子たちと交流していた。
彼と年齢の近い長男は特に親しく、その「親しい」には
一緒に遊ぶ親しさもあったが、仕事関係の知り合いを紹介して
大塚君の営業に貢献する親しさもあった。
しばらくして大塚君は、長男に乗用車のリースの話を持ちかけた。
会社で個人向けのリースを扱うようになり、ノルマがあるという。
ちょうど車の買い替え時期だった長男は、その話に乗った。
我々親は、仕事でリース車を使った経験がある。
リースのシステムにまんざら無知ではないので、一応は止めた。
まず、そこからお話しさせていただこう。
会社の景気が悪くなると、社用車を始め
トラックやダンプなど仕事用車両の新規購入が難しくなる。
車を買うより借金払えということで、銀行がお金を貸さなくなるからだ。
そこで審査の甘いリースを利用するようになる。
ディーラーもその辺は心得ていて、早くから仕事用車両のリース事業を推進してきた。
車種によって異なるが、たとえばダンプのリース料だと月々35万円前後。
仕事用の車両は、長い年月を経ると故障が増える。
古いポンコツを修理に入れると、その間は水揚げゼロ。
しかし損害はそれだけではない。
乗り手を休ませて月給を払い続け
さらにはリース料と同じくらいか、それ以上の修理代を毎月のように払う。
こんな割に合わないことを続けるより、高いとわかっていてもリースで新車を入れ
リース料の10倍以上の売り上げを出す方が得策である。
そして契約によって年数は違うが、数年後にリース期間が終われば買い取る。
その金額は数百万だが、車はまだまだ元気に稼いでくれるのだから
買い取って、さらに稼がせるのが常識だ。
このように法人にとって非常に便利なリースは
うちだけでなく多くの同業者が利用していて、重機もリースという所が増えている。
新車を買い、4年かけて減価償却するという従来のやり方よりも
今やリースの方が主流になりつつあるのだ。
法人は毎月のリース料を手形、あるいは口座引き落としで経費から支払う。
経費で処理できる法人にとっては便利でも
自分の給料から身銭を切る個人のリース契約は違う。
1円も稼がない車に、高いリース料を払ってまで乗る価値があるのか…
リース期間の途中で万が一、無職になってもリース料は払わなければならない…
所有者はクレジット会社なんだから、売り飛ばすこともできない…
我々夫婦は以上のことを長男に説明し、よく考えるように言った。
しかし当時の長男は、まだ若かった。
大塚君との友情を持ち出し、どんなものか一度やってみると言うので
じゃあ好きにしたら…と言うにとどまった。
《続く》
リースにはカラクリがあり、経済的にしっかりしていなければ
生活が破綻する恐れがあるからだ。
逆に言えば、経済的にしっかりしている人はリースを利用しない。
損だからである。
カラクリの餌食になるのは、世間知らずの若い人。
詳しい内容を知ろうともせず、経済的な準備も無いまま
新車を乗り回したい一心で契約してしまうと
やがては借金地獄に陥る可能性がある。
そういう人たちが増えたら自殺も増えるだろうし
軽傷であっても結婚どころではなくなり、子供も増えない。
日本の未来が危ないではないか。
とはいえリースには、メリットがあるのも確か。
まず、手元に現金が無くても憧れの新車に乗れる。
ここがそもそも間違いの元で、車を買うお金が無ければ
ボロ車か自転車で我慢するのが正しい経済生活だ。
それから、毎年の自動車税を支払わなくてもいいというのも
リースの長所。
自動車税の納付書が来なければ、そりゃ嬉しい。
けれどもチラシの小さい文字をよく見ると
○○オートローン、○○クレジットなどと
頭に自動車メーカーの名前を付けたクレジット会社や
よく耳にする信販会社の名前と共に、高い金利が記載されている。
とりわけメーカーの名前が付いていると
うっかりメーカー直の機関と思って信用してしまいがちだが
系列が同じでも、別会社の金貸しだ。
リースと言ったら聞こえはいいけど
実際はクレジット会社でお金を借りて
3年または5年のローンを組むことなのだ。
ローンが終わるまでは、そのクレジット会社が所有者になる。
自動車税は乗っている人ではなく、所有者が払うものだから
クレジット会社が払うのが当たり前。
だから自動車税を払わなくていいというわけだ。
そしてリースのローンは、審査が甘いことでも知られている。
買うためにローンを組むのであれば審査は厳しいが
リースだと、たいていの人は審査に通る。
顧客は貧しくても新車に乗れて、車のメーカーは顧客が拡大できる…
顧客とメーカーの双方がウィンウィンの関係に思えるが
現実は、お金が無いのに新車に乗りたい見栄っ張りと
そのような人々をそそのかして儲けるメーカーの二者がいるだけなのだ。
さらに契約内容によっては、車検も無料になる。
車検代がいらなければ、どんなにいいだろう。
そりゃ経済オンチは飛びつく。
しかしこれも厳密に言えば、月々の支払いに3年後の車検代を分割し
その金額を上乗せして積み立てているのだ。
よって月々のリース料は、どうしても割高になる。
つまり車を持つにあたって付きまとう経済的な悩みが、リースには無い。
これを魅力ととらえるか、罠ととらえるかの話である。
もちろん収入やライフスタイルによって
リース料がもたらす経済的な負担は異なるし
このシステムを上手に活用して、楽しいカーライフを送る人もいる。
そういった人々はさておき、総支払額も金利も意識しないまま
リース契約をするのは危険だ。
というのも、うちに一人、リースに関わるとどうなるか
止める時はどうなるかを実体験した者がいるのだ。
それでつい、リースのチラシに熱くなる。
体験者、それは長男である。
10年ほど前から我々は、ダンプに注入する「尿素」という液体を
とある石油メーカーの地方支店から購入していた。
尿素とは、ダンプの排気をクリーンにする薬剤。
その数年前から、地球温暖化を防ぐ活動の一端として始まった。
大型のダンプやトラックは、これを定期的に注入するよう義務付けられ
近年の大型車は皆、尿素を注入する作りになっている。
「おしっこじゃ、いけないの?」
本社との合併後、尿素と聞いて
真顔でそうたずねたのは経理部長のダイちゃん。
今にして思えば、こんなあんぽんたんに経理を任せていた本社が
人材の墓場になるのは時間の問題であった。
ともあれ尿素はガソリンスタンドには売ってないので
石油メーカーから直接、大量購入するしかない。
この尿素が縁で知り合った石油メーカーの営業マン
大塚君は、プライベートでも息子たちと交流していた。
彼と年齢の近い長男は特に親しく、その「親しい」には
一緒に遊ぶ親しさもあったが、仕事関係の知り合いを紹介して
大塚君の営業に貢献する親しさもあった。
しばらくして大塚君は、長男に乗用車のリースの話を持ちかけた。
会社で個人向けのリースを扱うようになり、ノルマがあるという。
ちょうど車の買い替え時期だった長男は、その話に乗った。
我々親は、仕事でリース車を使った経験がある。
リースのシステムにまんざら無知ではないので、一応は止めた。
まず、そこからお話しさせていただこう。
会社の景気が悪くなると、社用車を始め
トラックやダンプなど仕事用車両の新規購入が難しくなる。
車を買うより借金払えということで、銀行がお金を貸さなくなるからだ。
そこで審査の甘いリースを利用するようになる。
ディーラーもその辺は心得ていて、早くから仕事用車両のリース事業を推進してきた。
車種によって異なるが、たとえばダンプのリース料だと月々35万円前後。
仕事用の車両は、長い年月を経ると故障が増える。
古いポンコツを修理に入れると、その間は水揚げゼロ。
しかし損害はそれだけではない。
乗り手を休ませて月給を払い続け
さらにはリース料と同じくらいか、それ以上の修理代を毎月のように払う。
こんな割に合わないことを続けるより、高いとわかっていてもリースで新車を入れ
リース料の10倍以上の売り上げを出す方が得策である。
そして契約によって年数は違うが、数年後にリース期間が終われば買い取る。
その金額は数百万だが、車はまだまだ元気に稼いでくれるのだから
買い取って、さらに稼がせるのが常識だ。
このように法人にとって非常に便利なリースは
うちだけでなく多くの同業者が利用していて、重機もリースという所が増えている。
新車を買い、4年かけて減価償却するという従来のやり方よりも
今やリースの方が主流になりつつあるのだ。
法人は毎月のリース料を手形、あるいは口座引き落としで経費から支払う。
経費で処理できる法人にとっては便利でも
自分の給料から身銭を切る個人のリース契約は違う。
1円も稼がない車に、高いリース料を払ってまで乗る価値があるのか…
リース期間の途中で万が一、無職になってもリース料は払わなければならない…
所有者はクレジット会社なんだから、売り飛ばすこともできない…
我々夫婦は以上のことを長男に説明し、よく考えるように言った。
しかし当時の長男は、まだ若かった。
大塚君との友情を持ち出し、どんなものか一度やってみると言うので
じゃあ好きにしたら…と言うにとどまった。
《続く》