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現場はいま…愛媛騒動・4

2025年04月11日 16時45分09秒 | シリーズ・現場はいま…
シートの問題に文句を言うばっかりで

いっこうに解決策を見出せない息子たち。

ウチら夫婦の子なんだから、賢くないのはわかっているけど

このまま愚痴を言いながら

4月1日の初日を迎えるつもりだとしたら

あまりにも不甲斐ないではないか。


時は3月26日、早くしなければ間に合わない。

私は、依然としてピカチューとの交渉を続ける次男に

一発で事態が変わるであろう策を授けた。

「念書、巻けや」


「念書?」

次男は細い目を見開いて問い返す。

「Sさんとこへ行って

“シートが原因で起きた事故の全責任は、私個人が負います”

みたいな内容の書面を作ってもろうて

それにピカチューのサインと印鑑もらうんよ。

それ持って、またSさんとこへ行って公正証書にしてもらい」


Sさんというのは、町内の司法書士。

亡き義父とはライオンズクラブの仲間だったので

まんざら知らない人ではない。

ただの念書でも司法書士に持ち込めば

裁判で効力を発揮する公的な書類にしてくれる。

個人間で交わす念書の場合、3万円前後でやってくれるはずだ。

ところで私の言った“巻く”という言葉の意味は、その作業を指す。

あんまり上品な表現じゃないので、覚えなくて大丈夫。


「サインするかのぅ」

「安全に自信があるけん、あんたらを行かせようとしとるんじゃん。

サインできん、言うのは通らんで」

「そうか」

「サインをようせんかったら、危険を知っとることがはっきりする。

そしたら本社に抗議できるじゃろ」

「あんた、悪魔?」

「今知ったことか」


本社と合併したダンプ関連の会社は、後にも先にもうちだけだ。

つまり本社営業部は大型ダンプのことを知らず、知ろうともせず

軽トラの大きいのだと思い込んでいる。

だからルートを慎重に選ぶ必要があることや、積荷の負荷など

軽トラとは全く違う特性を無視して、妙な仕事を押し付けてきた。

他社が危険を理由に蹴った仕事をコジキのように拾っては

「獲った、獲った」と喜び、得意満面でうちに振って

危ない橋を渡ることを強制してきたのだ。


昼あんどんの藤村しかり、今のピカチューしかり

そのような仕事によって

我々が危険にさらされるのを待ち望んでいるのがありありとわかる。

私の提案した念書という手は

いざという時に使うつもりで何年も温めていた案だったが

そのいざという時が、来たと思ったのである。


藤村は国籍の違いから、漢字の読み書きが苦手なので

念書の内容を理解できるかどうかが不明だったのはともかく

こんな大袈裟なこと、誰だってやりたくない。

気に入らないことがあると、すぐ告訴だ裁判だと

やりもしないのに騒ぎ立てる人々を

むしろ冷ややかな目で眺めてきた私だ。

しかし能力的に理屈が通用しない相手となると

どこかでガツンと一発、叩いておかなければ自分たちの身は守れない。

仕事で念書が登場するなんて、とんでもない会社であることは確かだ。


余談になるが、本社の回し者、第1号だった松木氏だけは

職を転々としていた一時期、観光バスの運転手をした経験がある。

大型車を多少は知っていたので、話せばわかってくれた。

嘘つきで意地悪な人だったが、その点だけは長所だった。

その松木氏、2〜3年前から患っている肺癌により

休養と復帰を繰り返していたが、この3月で完全に退職した。


ともあれ念書を突きつけても

ピカチューがサインしないのはわかっている。

ただ、無知な男なのでビビるのは確実。

お得意の「ワシが、ワシが」が止まった隙に

こちらの要望を差し込む作戦だ。


「大事なのはここからよ。

“サインできんのなら、危険が証明されたことになるけん

こっちの要望も聞いて”と言いんさい。

念書を巻かれんで済むんなら、たいていの要求は呑むはずじゃ。

ほんで、こう言い。

“シートを掛けるのが嫌で、言うとるんじゃない。

どうしても掛けんといけんのなら、仕事じゃけん、やる。

でも掛け方は、こっちが妥協できるやり方をさせてもらう”」


そうなのだ。

ピカチューはシートを掛けるという危険行為だけでなく

掛け方にも、しろうと考えで指示を出していた。

走っていたら絶対に飛ぶ、一番危ないやり方である。


私は続けた。

「もう一つ。

“あのシートは一人じゃあ重た過ぎるけん、助手が欲しい”

と言いんさい。

あんたが抜けて愛媛に行ったら、他の運転手は手一杯じゃん。

よその支店から、誰か暇なのを回せって言うんよ」

「え〜?ロクなのおらんじゃん…」

「コトを大きくするための証人よ。

一日かけて愛媛まで付き合える人間いうたら

仕事はせんのに口数だけ多いと決まっとる。

行楽気分で、喜んで来るわいね。

そいつに手伝わして、しんどい体験をしてもろうたら

二度と行きたいとは言わんし、周りにも愚痴を言いまくる。

でも行くたびに助手がいるとなったら

みんな行きとうないけん、支店同士がなすり合いするようになる。

ピカチューの危険度が、自動的に拡散されるわ」


「わかった!明日、言う!」

久しぶりに見た、次男の笑顔だった。

《続く》

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6 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (日向ぼっこ)
2025-04-11 19:32:09
みりこんさん!
凄い✨😍
どうぞ危険回避できますように!!
返信する
Unknown (いかどん)
2025-04-11 20:16:16
いゃ〜みりこんさん、キレキレですね!

私が思ったのは 初日に、挨拶がてらと言って、
ピカチュー氏も同乗してもらい 高速でのシートがどれ程の恐怖か体験させるのが良いと思ってましたが、
まさか念書とは…。更に生き証人まで。
もうだから みりこんさん大好きです。

高速、橋とくれば 強風。
仕事で関西に行った時 観光がてら明石海峡大橋に。
軽のバンでした。
バンが風に煽られそうになるのを感じ、恐怖で死にそうになった経験があります。
それ以来、「橋と高速」恐怖症になっています。
絶景なんてどうでもいい 早く通り過ぎてくれーと。

次男様の無事のご帰還 お祈りしています。
返信する
Unknown (みりこん〜日向ぼっこさんへ)
2025-04-12 08:13:42
念書まで考えないといけない会社になってしまったのは
残念ですが、仕方がないですね。

日向ぼっこさんの祈りが通じたのか
思わぬ展開でシートの件は解決となりました。
ありがとうございました。
返信する
Unknown (みりこん〜いかどんさんへ)
2025-04-12 08:27:36
ピカチュー連行、ちょっと考えましたが
奇跡的に無事だったら、彼の思うツボ。
ほれ、大丈夫じゃないかということになるので。

しかも次男の全力拒否は必至。
大酒飲みなので、口臭と体臭が強いんですよ。
あれを隣に乗せるのは、シート被せて走るよりきつそう。

高速の強風は凶器ですよね。
橋は特に、横から突風が吹くので
車高の高い車だと地震みたいに揺れます。
怖かったでしょう。

そそ、絶景はけっこうですから、早く向こう岸に
辿り着かせて〜と祈る。
向こう岸は向こう岸でも、あの世系になりそう。

いかどんさんも祈ってくださって
ありがとうございます。
祈りが届いて無事に帰って来たので
その日は本当にホッとしました。
返信する
Unknown (モモ)
2025-04-12 09:08:38
めっちゃ、次が楽しみです。
高速道路に、海峡を渡る橋。
自転車なら絶景を楽しめるのでしょうけど・・・
知らない、素人は恐ろしいですね。
やっぱり、みりこん姉さんは頼りになります。
返信する
Unknown (みりこん〜モモさんへ)
2025-04-12 13:34:37
そうよ、自転車なら楽しめるでしょうね。
一人の無知が、人の生命まで奪うことって
あるんですよね。
無知の罪は深いです。

我が子を守るためなら、猿知恵だろうと
浅知恵だろうと出てきますよ。
わたしゃ最悪かつ最後の手段として
仕事をくれた森本君に契約破棄を頼みに
行くつもりでした。
やらずに済んでよかったです。

続きを楽しみにしてくださって
ありがとうございます。
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