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サリンジャー「新訳本」についての感想。

2018-10-11 21:43:46 | Weblog

今年の八月に買った、発売されたばかりの、

サリンジャーの新訳本のこと、内容についてはまだ、書いてなかったよな。





「このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる  ハプワース16、1924年」





全体として良かったんだけど・・・・・。


翻訳の内容について、二、三、引っかかるところがある。



まずタイトルだが(「このサンドイッチ・・・」の方ね)


原題は  THIS SANDWICH HAS NO MAYONNAISE   なのだ。


旧訳では「マヨネーズ抜きのサンドイッチ」だったはず。


思うに、「マヨネーズ忘れてる」、というのはあくまで翻訳者の推測だ。


サンド製作者が意図的にマヨネーズ塗らなかったのかもしれないし。


そういう意味で、旧訳の方が正確ではないだろうか。いや、「この」っていう言葉は原文にあるから・・・・・


新旧ミックスして「このサンドイッチはマヨネーズ抜きである」ってのはどうか?


「我輩は猫である」的ニュアンスも加味されてるのだが。名前は未だ、無い。




・・・・・・・・・・・・とか言って嘘。却下。




もうひとつ、タイトルについて。


この短編集(サリンジャーは基本的に短編作家だった)に収録されている、「ぼくはちょっとおかしい」という作品。


「ライ麦畑」の中の一つのエピソード、みたいな短編。


これは旧訳では確かタイトルは、「きちがいのぼく」だった。


原題は「I'M CRAZY」だ。


「きちがいのぼく」の方が切実で、ちょっと怖い。


作中のホールデン少年の心情には、旧訳タイトルのほうが寄り添っている気がする。


思うんだけどこの作品が書かれた1950年代のアメリカでは「CRAZY」って言葉、


現代よりも「キツく」使われたのではないだろうか?これは僕(片山道郎)の推測なのだけれど。


それこそ「きちがい」に近い感じで。


でも現代ではけっこうラフに日常的に使われてるので、言葉のキツさが磨耗してしまったのではないだろうか。


現代の感覚なら「ぼくはちょっとおかしい」くらいの感じかもしれない。


だから・・・これも旧訳タイトルのほうがいいと思う。


「ぼくはちょっとおかしい」ってなかなかカジュアルでお洒落なのだけど。


そういえばサリンジャー(特に「ライ麦畑」)を「お洒落アイテム」に使うような風潮が昔、あったなあ。





でも中身の翻訳の文章に関しては、全体的に「良い」という感想を持った。

読みやすいし、ソリッドな感じがする。



ただ「ハプワース」において・・・ひとつ、これは駄目だ、という部分があった。


原文では、シーモア少年は、父と母に「レス」「ベッシー」と、ファーストネームで語りかけているのだが

新訳ではこれを「父さん」「母さん」に変えてあるのだ。


7歳の子供が、父親と母親に、手紙においてファーストネームで語りかける、というのは確かに、


訳者があとがき で書いてるように「英語でも日本語でもありえない」(←あとがきから引用)


かもしれないが、


この「ありえなさ」こそがシーモア・グラースなのだ、ということを訳者はわかってない。


逆に僕なんかは、シーモアが「父さん」とか「母さん」とかいう言葉を


手紙で使ってることに違和感を覚えた。



旧訳を何度も読んだ、という経験のせいかも知れないのだけれど。
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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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ああ、よかった (おばあちゃん)
2019-07-15 05:15:27
同じ感想の方がいらっしゃって、安堵しました。
そう、シーモアが「父さん」「母さん」と呼びかけるのは、絶対にあり得ない。
うれしい。
それだけお伝えしたくてコメントさせていただきました。
どうもありがとう。
「ハプワース」はみなが言うほど、難解な作品ではないですよね。
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ありがっとです! (片山道郎)
2019-07-15 12:41:23
翻訳で、変えていいところと、変えてはいけないところがありますよね。

これに、同感な人って、けっこういる・・・と思うんですが。

「ハプワース」は、難解ではないけれど、共感しやすい作品ではないと思いますが、どうでしょう。

シーモア好き、もしくはグラス家好きなら、共感できるんですが(僕は、そうです)。

あ、でも、みんなそうなのかな?
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