まつなる的雑文~光輝く明日に向かえ

まつなる兄さんのよしなしごと、旅歩き、野球、寺社巡りを書きます。頼りなく豊かなこの国に、何を賭け、何を夢見よう?

柵原の鉱山公園と「坑道農業」

2009年02月01日 | 旅行記F・中国

久しぶりにドライブに出かけてみることにした。目的地は、岡山県は美作の山中にある柵原。かつて硫化鉄鉱を産出していた同和鉱業の柵原鉱山があったところで、その硫化鉄鉱を運ぶため、備前片上まで敷設された同和鉱業片上鉄道というのもあった。

P2015260その片上鉄道の吉ヶ原(きちがはら)駅と操車場の跡に「柵原ふれあい鉱山公園」というのがあり、かつて活躍していた車両が保存されている。有志の保存会というのもあって、時には構内で気動車を走らせることもあるようだ。かつて一度訪れたことがあるが、鉱山と鉄道の風情を味わいたくなって久しぶりに訪ねてみることにした。

P201520210時半頃に柵原に到着。三角屋根が特徴の吉ヶ原の駅舎が出迎えてくれる。さすがに早い時間なのか、訪れた客は私だけである。

P2015247構内では「ブルートレイン」をはじめ、クリームと赤の車体の気動車や貨車が、現役当時(現役時代に乗車することができなかったのが残念)に近い姿で出迎えてくれる。世の中には雨ざらしになった保存車両が多い中、いい状態で保存されているのも地元の人たちを中心とした「保存会」の努力という。

鉱山資料館に入る。すると受付の人が「今日は「坑道農業」の見学ができます。ちょうどバスが出る時間ですので、よろしければ見学してみませんか?」と声をかけてきた。

「坑道農業」という言葉は初めて聞くのだが、案内によれば、かつて硫化鉄鉱を採掘していた坑道を利用して、農業を行っているというのだ。どんなものか見てみたいし、かつての坑道に入ることができる(資料館の中の坑道展示はあくまでつくりものだし・・・)というのがいい。先にそちらへ伺うとして、資料館の前に停まっていたマイクロバスに乗り込む。この「坑道農業」の見学、毎月第一日曜日の午前と午後各1回行っているとのこと。

P2015206バスに揺られること10分で、坑道の入り口に到着。出迎えてくれた農業法人のガイドの方に招かれる。ヘルメットをかぶっていよいよ「入坑」。

P2015208無数に伸びる坑道の一角を、同和鉱業から農業利用ということで間借りして行っている「坑道農業」。鉱山が閉山となった後「特産品」がなくなった柵原。その中で、1年を通じて温度・湿度が一定であり、真っ暗な状態というのを何かに生かせないかというところから考えたのが「農業」ということだったそうだ。平成14年から始め、坑道延長約700m、面積2500㎡という環境である。平成14年からということは、以前に柵原を訪れた時にはもう始まっていたわけだが、その時は全然気づかなかったものだ。

P2015207コンクリートで固めているところもあるが、基本はかつての坑道。採掘機の試し打ちを行った跡という無数の穴もある。また今でも雨水が岩盤にしみ込み、酸を含んだ水滴がしたたり落ちている。酸が強いものだから水滴が落ちた地面には穴が開いている。

まず現れたのは貯蔵庫。地元の酒造会社が、柵原の酒米「きびよし」で造った酒をここで熟成させたり、近所の農家が収穫したイモなどを貯蔵しているという。年中常に一定の温度・湿度が保たれているということで、ちょうど冬の時期は外に比べて温かく感じられる。

続いてやってきたのは岡山の名物野菜の一つとである「黄にら」の栽培室。にらといえば濃い緑色の作物であるが、黄色いのがあるんですな。何でも光に当てるとダメというものらしく(蛍光灯の光でもダメだそうだ)、そうであれば真っ暗な坑道ならうってつけだということで、坑道の横穴にコンクリートの壁と扉をつけ、真っ暗な環境を作り出したという。

P2015215これ以外には、花の促成栽培であったり、椎茸や平茸の栽培がメインである。特に椎茸などは、オガクズを固めたブロックに菌株を植え付けると、数日もすれば椎茸が顔を出し、すぐに大きくなるという。これが年中収穫できるということで、この時はなかったが別料金で「椎茸採り放題」という催しもやっているとか。室内には棚が何段にもなっており、面白いように椎茸が顔を出している。「理科の実験なんかでもええと思いますし、使い終わったブロックは畑の肥料にもなるし、カブトムシの幼虫なんかを飼う腐葉土にもなるし、これもエコですな」と。

P2015214うーん、ワインや焼酎を坑道に寝かしている光景は他の観光鉱山でも見たことがあるが、イモや味噌を貯蔵する(ホンマの蔵ですな)ことも含め、農業で坑道を利用というのは自分にとっては新たな発見であった。ただ普通のビニールハウスのようにいろんな野菜や農作物が栽培できるか・・・と聞けば、そうではないのである。坑道の強みが生きるのは夏と冬であるが、普通に土を敷いて、たとえば根菜やら葉野菜を育てようとなれば光が足りなかったり、温度や湿度が一定ということはカビなどの菌類が繁殖しやすかったりというマイナスがある。作物も椎茸や黄ニラなどに限定されるというわけだ。

ガイドの人は私のことを農業や食品関係の人間と見たか、「お客さんなら、どういったものを栽培したり、こういう利用方法があるよというのはないでしょうかね」と尋ねられる。いや、尋ねられても答えの出しようがないのだが・・・・。

P2015210だからというわけではないが、この坑道には「ハイポキマイン」という施設があるという。「ハイポキ」というのは「低酸素の」、「マイン」は鉱山・坑道の意味。つまりは低酸素環境のトレーニング施設ということだ。低酸素環境といえば、現在のトレーニングでよく行われる高所トレーニングの環境であるが、この坑道の中で、標高3500mまでの酸素環境を作ることができるというのである。

「元々は農業をやるということで同和鉱業から借りていて、国からも農業ということで補助金をもらっているのに、こういうのは目的外の利用という気がします。同和鉱業も"何すんなら"いう感じじゃて」と言うガイドに招き入れられたのは・・・・。

P2015212坑道の中に、トラックの素材の床面。これが「42.195m」あるという。さらにはエアロバイクもあったり。何だか地下の秘密組織のアジトにでも入ったかのような心持だ。将来は坑道内に500mのトレーニング走路を建設するという計画があるそうだが・・・。

P2015213現在は基礎データの収集や、トレーニング方法の「実験」のために使われているそうだが、岡山出身のマラソンランナー・有森裕子さんがアドバイザーを務めたり、最近では社会人の天満屋、高校の興譲館の選手たちもここを訪れて、実験を兼ねたトレーニングを行うことがあるとか。このところの駅伝等での両チームの活躍を聞くが、なるほど、この施設も一役買っていたということかな。

ガイドの方は「農業以外のことで・・・」とおっしゃっていたが、農業以外のことでもさまざまな活用方法があるのではないだろうか。それをもっとPRして、補助金ではなく自立した事業としてやっていけるようになればそれこそ町の活性化につながると思うのだが・・・。

これまであちこちの観光鉱山などを見てきたが、今回の見学はユニークな試みもあってうならせるものが多かった。

P20152661時間ほどの見学を終え、硫化鉄鉱の鉱石をお土産にいただき、鉱山公園に戻る。駅のほうも保存会の人たちや観光客で賑わっていた。月1回、保存車両を動かすというイベントをやっているのだが、何でも保存車両のメンテナンス等で、今年の夏頃まではお休みという。

P2015256ホームには吉ヶ原駅の「駅長猫」のコトラがお出迎え。最近あちこちに猫の駅長がいるが、ここがその「発祥」という説がある(とはいうものの、廃止になった鉄道やしなあ・・・)。土日などに飼い主の保存会の人とともに「出勤」してくるそうだが、これが観光客の人気を集めている。

P2015229駅長猫を見たり、展示車両を見た後で、資料館へ。かつての柵原の町の様子を資料や体験コーナーで紹介したり、片上鉄道に関する展示も多い。

P2015237そしてエレベーターで「地下400m」への世界へ運ばれる(実際は1階から地下1階に降りるだけだが、こういうエレベーター、観光鉱山の資料館の定番である)。鉱山で使用されていた機械や器具などが、坑道のレプリカとともに展示されていたが、先ほど本物の坑道を見た後なので、ちょっとインパクトが弱かったようにも思えた。

P2015242久しぶりの柵原だったが、さまざまな発見もあり十分楽しめた。今度は、保存車両がメンテナンスされ、運行が可能になればまた来ようかな。坑道に涼みに行くというのもよさそうだし・・・・。

P2015265この後は美作方面に抜け、美作三湯の一つ、湯郷温泉で立ち寄り入浴。そのまま姫新線沿いに一気に姫路まで出て、帰途に着いた。今度はもう少し奥のほうも目指してみたいものである。

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