まつなる的雑文~光輝く明日に向かえ

まつなる兄さんのよしなしごと、旅歩き、野球、寺社巡りを書きます。頼りなく豊かなこの国に、何を賭け、何を夢見よう?

『悪人』・・・大切な人はおるね?

2012年06月16日 | ブログ

大飯原発の再稼働、税と社会保障の一体化改革案への与野党合意・・・この国の行く末にもかかわろうかという決め事がなされようとされる中で、もう一つ世間の耳目(特にワイドショー的には)を集めることになったのが、オウム真理教の高橋克也容疑者の逮捕劇。

これまでの手配写真を見ても何とも思わず、最近公開された防犯カメラの映像を見ても「今はこんな感じなのね」というくらいの印象だが、最近の手配写真となった丸顔の人相を見るときは、私が個人的に気に食わないと思っている人の顔に似ていたせいか(もちろん、その人はオウムとは何の関係もないのだが)、「早く捕まってしまえ!」と、いらん方向にベクトルが向いてしまったのも確か。まあ、今回の逮捕でオウムの全容がわかるのかどうかは今後の取り調べということになるのだろうが、それだけ一連のオウム事件というのは長いもので、平成の社会史に残る出来事となるだろう。

その高橋容疑者の逮捕のきっかけとなったのが、少し前に逮捕された菊地直子容疑者の供述という。この人の逃亡生活というのはあちこちで報道されている通りなのだが、ヤフーあたりのニュース記事へのコメント欄を見ると、「映画『悪人』の世界が現実にあったんだ」という内容の書き込みがあった。

02264524_2その映画がいろいろな賞を受けたというのをニュースで目にした程度で(妻夫木聡と深津絵里の演技がすばらしいという好評)、私自身は見たことがない。ただ、心のどこかに『悪人』という言葉がひっかかるものがあったのか、ふと、書店に立ち寄った時に文庫版で見つけたので、今更ながらではあるが上下冊を買い求めた。

このブログでも読んだ本のことを書くことがあるのだが、私の読書傾向としてそのほとんどはノンフィクションとか、学術ものだったり、鉄道や野球に関するものが多く(「事実は小説よりも奇なり」、という考えがあって)、小説はさほど出てこないのだが、『悪人』は違った。

話の構成、当事者たちの「独白」、それらを読み進めるうちに、2001年当時の諸相がちりばめられており(実際に起こった西鉄バスジャック事件が、殺人者との逃亡を選ばせた女性の行動の伏線になっているなんてのもあり)、心情描写が細やかだなと思った。この物語は実際に佐賀で起こった殺人事件をモデルにしているそうだが、その本人たちをそっくりそのまま登場させたノンフィクションではなく、あくまで舞台をその事件に借りて、愛や葛藤を描いた作品である。平凡な日常のすぐ隣にあるこうした「悪人」、人間誰しも潜在的にそういう感情はあるのではないだろうか。いろいろな方のレビューでも「本当の『悪人』は誰か?」ということがしきりに語られているが。

多くの方が評価されていることだが、私も「自分に問いかけられたら、どう答えるかな?」という点でグッときたのが、被害者の父親のセリフ。

「あんた、大切な人はおるね? その人の幸せな様子を思うだけで、自分までうれしくなってくるような人たい」

・・・残念ながら、作中でそれを訊かれた大学生と同じように首を振らざるを得ない。ただ、父親の言うように「大切な人」の定義がそういうことなのであれば、そういう人を見つけられるように、また自分がそのように誰かから「大切に」思われるように、私自身の生き方の中で何かを変える、前向きになる・・・ことはできるのではないか。そんな答えが浮かんでくるが、確かなものではない。

こうなると、映画のほうも見たくなってきた。博多はまだしも、舞台となる佐賀や長崎となると、このところとんとご無沙汰をしている。そんな西のほうの岬の風に吹かれてみたいな、とまた旅心をくすぐられてしまうのである。そこに行けば、何か見つかるものがあるだろうか・・・?

ここまで書いたところで再びニュースに目をやる。高橋克也容疑者の逮捕報道を受けた、地下鉄サリン事件の被害者の会の方のコメント。

「逃走していた3人は、誰よりも悪人だと思う」・・・・。

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