カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

変な男たちがたくさん出てくるお遍路さん   55歳の地図

2015-12-18 | 読書

55歳の地図/黒咲一人著(日本文芸社)

 著者は漫画家としてのキャリアは長いが、段々と原稿の依頼が途絶え、ついには漫画家として生活を続けていくことを断念せざるを得なくなる。借りている仕事場兼生活の場であるアパートの一室を整理し、漫画家として命より大切(なんだろうね)な自分の生原稿まで、引き取り手が無いという理由で捨ててゆく。この出だしだけでもずいぶん面白い展開なんだが、なんとこの男、死に場所を求めるような気持ちで、削りに削った身の回りの物を厳選した20キロの荷物を載せた三輪のママチャリで、四国のお遍路の旅に出立するのである。本人はいたって真面目にシリアスにこの行動に移っている訳だが、劇画タッチの絵と、恐らく本当のことであるドキュメンタリー漫画として、この変な感じが妙な可笑しみを醸し出して興味を引く。案の定無理があって、出発して間もなく、四国へ渡るフェリー乗り場にたどり着く前に自転車はパンクしてしまう。死のうという迷いのある心持の人間に言うのは酷かもしれないが、なんとなくこのような考え方の甘さのようなものが、この人の行く手の困難さを暗示している。
 結局フェリーには乗り遅れるが、何とか翌日の切符に振り替えてもらえたり、金に限りがあるような立場なのに財布をトイレに忘れたり(これも何とか取り戻せる)、実は自転車は押さなくても大丈夫だったり、厳しい条件のお遍路には向かない時期にあえてチャレンジして、やはりその寒さなどに困ってしまったり、何というか、つまるところ本人の考えの甘さのようなことが原因とも思える苦難の数々に遭遇する旅となる。途中で出会う兄のような父のような精神的な支柱ともいえるような一心というおじいさんと出会い、助けられることで、徐々に旅慣れていき、生きる希望のようなものを掴んでいくのである。
 このサバイバルを記した絵日記のような漫画なのだが、実際の体験だからそれなりにリアルであるばかりか、実に興味深く面白い。人間が死に場所を求めて旅に出ているようなものなのに、それなりに煩悩もあるし、テント生活をする様々な知恵もよく分かる。都会のルンペンとは違った社会とのつながりがお遍路にはあって、自らのいくばくかのたくわえはあるようだが、基本的にはご厚意によって食いつないでいく。時には不条理につらく当たられるようなこともあるが(普通に見ず知らずの旅人は迷惑だろう)、さまざまな幸運や好意に支えられて旅を続けていく。
 書いている本人に自覚があるのかどうかは不明だが、窮地に立たされて死を意識するまでになってしまった人間というのは、既にかなり病的になっている感じがする。やっていることがなんとなくチグハグで、そうして何だか自己中心的なところが見て取れる。社会的な孤立もあったかもしれないが、あえて自分自身がそういうところは意固地になっているとも考えられる。しかしいくら強がったところで経済から切り離されたところで生きていくのは、現代社会では大変に厳しいものがある。彼なりに必死になってはいるものの、それがこの漫画の一番の面白さであるのは間違いないが、やはり選択の仕方や合理的でない考え方には、性格的な病魔のようなものを感じざるを得ない。また同じようにお遍路での仲間たちも、同時に何か病んでいるようなものを感じるのである。社会からドロップアウトする理由は様々あろうが、その不器用さを招いてしまう中高年の主に男たちの姿(女は少ないというのもヒントにはなるだろうけど)というのは、非常に物悲しいものがあるのではないか。
 著者の現在のことは知らないが、この漫画の面白さを含め、漫画を描く生活には復活できているのかもしれない。そういう意味ではお遍路には意味があったわけだが、死に場所を見つける旅というマイナスの行動であっても、人は何かの行動をすることによって、学び成長することが出来るということも見て取れる。事実この主人公の姿というのは、着実に成長しているたくましさのような魅力が大変に大きいと感じた。
 特にお遍路をする必要を感じている訳ではないが、このような体験としてのお遍路を見てみたい気もしないではない。また、このような生き方を選択する人々というものにも、ほのかに興味を持ってしまうのも事実である。一心さんを含めた不思議な男たちのドキュメントは、まだまだネタとして十分に価値のあるものなのではないかと、ヨコシマながらに考えたことであった。
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