アイヒマンを追え! ナチスが最も畏れた男/ラーウ・クラウメ監督
戦後復興の最中であるドイツで、ナチの残党が政府の要職についている状況があり、ナチスの罪を洗い出そうとしている検事(ユダヤ人)に対して、妨害の多い状況が続いている。そういう中、匿名でナチの大物であるアイヒマンがアルゼンチンに潜伏しているという情報が入る。国外に逃げている戦犯については、ドイツの警察機関は管轄外として相手にしてくれない。そこでイスラエルの諜報機関・モサドに情報を流すが、これがやり方によっては国家反逆罪に問われる可能性がある。さらにもっと信憑性のある情報が無ければ、実質捕らえることが出来ないと言われる。策を練りこのチャンスを活かそうと奔走する中、部下である検事がある事件との関連により、当時反逆罪とされた同性愛のパートナーと付き合うようになってしまうのだった。奥さんとは子供が出来たばかりだし、社会的な地位もあるし、さらにこの捜査の行方とも大きく関係してしまう。いったいこの状況は打破することが出来るだろうか。
検事長のフリッツも同性愛者であることが示唆されている。ユダヤ人だったために戦後になって復帰して偉くなった人らしい。そのために微妙に差別を受けているような空気がるし、仲間たちの信頼はあるものの、外には敵だらけという状況下(脅迫も受けている)、煙草や葉巻をひっきりなしにすって煙をまき散らし、人々からまさに煙たがられる仕事をまっしぐらにやり通そうとするのである。
確かに難しい問題ばかり残っているし、緊張感も続いている。復讐心だろうと思われる情熱もあるが、ドイツという未来のためには、どうしてもそのような膿を出し切ることが必要だという信念が強いのである。既に現在、政府の要職に復帰しているナチスの残党たちがいる。大企業にもナチはいる。微妙なバランスの下、戦後復興はひずみを抱えながらなされているという事なのだろう。
先に戦後ナチスを巡る裁判の映画も観ていたわけだが、このような視点でもナチスを裁くという試みがなされた背景を観ることが出来る。日本にも裁かれなかった戦犯はいるし、その後活躍して有名な人だっている。企業においてもしかりであろう。ドイツがいいとか日本が悪いとかいう話では分かりにくくなるが、強烈にその立場として働く情熱をもった人間がいたという事が、まさにドラマなのである。それにしてもいろんな裏切りの罠があるものである。人は付け狙われると、どんなことに振り回されるか分かったものでは無い。時代の中で個人が生きるという事の困難が、奇しくも描かれた作品なのであった。