カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

顕微鏡の中に僕らのガラスの命あり   珪藻美術館

2021-03-30 | 読書

珪藻美術館/奥修著(福音館)

 副題「ちいさな・ちいさな・ガラスの世界」。珪藻というのは海や川や水たまりなどにいる小さな微生物である。肉眼ではとても見えない大きさで、だから顕微鏡を使わないと確認できない。その特徴として、ガラス質の殻をもっていることがあって、乾かすと、そのガラスの殻が残って美しいというのがある。さらに著者はその特徴をいかして、顕微鏡をのぞきながら珪藻を並べて、いわゆるアートに仕立て上げるのである。何しろ小さいので、部屋を閉め切って空気の流れを遮断し、咳などしないように細心の注意を払いながら作業をして、珪藻を並べ直して見事な写真を撮る。様々な形をもっている珪藻がそのようにして並べられると、美しいだけでなく、なんとなくユーモラスである。
 このアートを作るためには、作業をする時にだけ注意を払えばいいのではない。部屋の中でホコリが舞わないようにしなければならないという。例えば部屋の中で靴下を履いただけで、数時間は作業できない。油を使って料理しても、フライパンから出る見えない煙が部屋に充満するという。痒い所をうっかり掻いてもいけない。はがれた皮膚の破片が数時間にわたって雪のようにふってくるのだという。また、あまりに細かい作業のために、甘いものを食べてもいけない。甘いものを食べると、指先が小さく震えることがあるのだという。ブドウ糖が栄養として血管をめぐるために、そうなってしまうのだろうか(それは謎である)。
 いわゆるそうやって作られた写真集でもある。珪藻の紹介の文章も面白いが、何よりその写真をじっと眺めて、珪藻のことを考える時間が楽しい。
珪藻は僕らが生きるために呼吸している酸素をたくさん作ることでも知られている。実は森林などの植物よりも、たくさんの酸素を生み出しているのは珪藻などの水中の微生物である。さらに珪藻を食べる生き物の命を支えている。そうしてそれらを食べる命があって、最終的には僕ら人間のような動物も生きられるという訳だ。地球の生物の生命の基盤をしっかりと支えている生き物が、珪藻だと言えるかもしれない。しかしそれは顕微鏡などの特殊なものを使用しない限り見ることもできない。そういうことを考えながら、手に取って欲しい本である。
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