カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

カエルの子は蛙   きみに読む物語

2015-12-27 | 映画

きみに読む物語/ニック・カサベテス監督

 認知症の女性に物語を読み聞かせしている。実は読んでいる物語は自分たちの過去の出会いからの物語なのだ。読み聞かせられている女性は認知症のためにそのことに気づいていない。物語の展開に興味を持って聞いてくれている。男の目的はその過程において記憶を取り戻して欲しい一心であるようだ。要するに自分たちが夫婦であることさえ、この女性は忘れてしまっているのだ。
 過去の二人の出会いは戦前にさかのぼる。そうして娘は裕福な家庭の奔放なもので、男は貧しい労働者階級である。よくある身分違いである。男はほとんど一目ぼれで強烈な印象を持って果敢にアタックし、女の方も今まで見たことのない男の粗野な感じも含め、新鮮な感覚で自然に恋に落ちていく。身分違いの恋に金持ちの両親は面白く思っていないが、どのみち一時期の恋であろうとタカをくくっているのだが…。
 戦争をはさんで二人の恋に波乱が吹き荒れる展開。古典的だが、結果的にそのような波乱が、さらに二人の思いを確かめ合うことにもつながっていく。この若い二人の物語が主題である。このように激しい恋をしたからこそ、男は年老いて認知症になった妻に、何としてでもこの燃えるような恋を経て一緒になった自分たちの仲を思い出してほしいのだ。ちょっとこれは涙なくして観られない。困ったものである。
 しかしながら、現在のことでも容易に忘れてしまう認知症の女性が、読み聞かせている物語の筋を、あんがいよく覚えているものだな、という疑問はあった。また過去のことを思い出して夫婦であるということに気づくこともあるが、やはりそれはほんの一時期で、今の過去を忘れた自分に戻ると、夫が近くにいる嫌悪(要するに見ず知らずの男)でパニックに陥ったりする。ショッキングだが、現在の自分は物語を覚えているくらいの記憶力はあるのだから、それを読んでくれている友人の男くらいに対してパニックにならなくてもいいのではないか。まあ、それではお話は面白くならないが…。
 しかしながら物語は美しく、若いころのカップルの物語は素晴らしいし、年老いた役をやっている老夫婦の演技も素晴らしい。監督さんは自分のお母さんを使いながらどんなことを考えたであろうか。また、ラストはある意味でファンタジーめいているが、大変にしあわせな気分にはなる。悲しいけれど…。なかなかの佳作なのではないだろうか。
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