肉体の悪魔/レイモン・ラディゲ著(新潮文庫)
20歳で早世したフランス人作家の著名な古典的な作品。主人公は15歳の少年か青年になりかけた男で、10代ながら年上の女性と関係を持つに至る。彼女は出征中の夫のある身で、要するに世間からも非難の目が向けられる中で情事を重ねる。そうしてついには妊娠してしまうのだった。
本人はまだ学生だし働いてもいない。夫が出征中の彼女にしても、夫がいないだけでなく働いてない。要するに二人はそれぞれの家庭の保護下にありながら、いけない関係を謳歌しているということだろう。それでいて終始愛を確かめ合うためということで、まったく煩わしく激しく駆け引きを繰り返し、気を引くために懸命になっている。まだ若いために精神的に不安定で、さらに境遇は最悪だから、その揺れ幅がまた大きい。フランス人だからなんとなく大げさだし、文学的に優れているのかどうかは分からないが、しかし最後は衝撃的である。
まあ、恋愛中に男女があれこれ愛について考えるというのは分かる。それはある意味で誰もが通ってきた道かもしれない。しかしながらわざと波風を立てるようなことを言って、そうしてその反応が気に食わないと言い争って、だからこそ愛が確かだと考えたり絶望したりを何度も何度も繰り返す。基本的に西洋人というのは嘘つきだ、というのがあるようで、自分たちだけでなく、さまざまな人の目を気にして嘘を繰り返す。裏表が激しくて、とてもひとりの人格の中にこのような感情が同居しているというのが不思議なくらいだ。その若さの中の感情を見事に描いたと言えるのかもしれないが、さらに作家の恐らく実体験が入っているだろうこととの興味が、作品への興味とつながっているだろうことは明確だろう。そういう意味では若いころの私小説で、まったくとんでもない若者が居たものである。
他に戯曲とコント的な小作品が収められている。そちらもあんまり意味は分からなかったが、早世だから衝撃的なのかもしれない。