深夜食堂/松岡錠司監督
もともとはテレビドラマ。その上に原作漫画もある。映画も一応全体的なスジのようなものはあるが、基本的には深夜の食堂「めしや」で繰り広げられるオムニバスのような感じである。骨壺を忘れていった客がいるが、誰かは分からないミステリや、食い逃げしたことをきっかけに店で働くようになる女性の話。さらに震災ボランティアに恋をして上京してくる中年男性の話などがある。そのようなドラマと食堂で出される料理が、なんとなく絡まっているという感じになっている。これが映画のためのまったくのオリジナルなのかは僕にはわからない。テレビシリーズも長く続いており、以前はテレビの物語を焼き増ししたようなものがあったはずだが、これらの話には記憶が無い。要するにテレビシリーズも途中で観なくなってしまって、いつの間にかずいぶん時間が経過しているのだろうと思う。
一応人情ドラマということは言えるのだが、深夜食堂に現れる人間というのは、夜の街の中で事情を抱えている人が大半だということだ。それは昼の表舞台ではない、ちょっとした裏社会の事情ということとも絡んでいる感じだ。店のマスターも脛に瑕があるかどうかまでは分からないが、要するに堅気の人間ではない雰囲気を持っている。しかしうるさいことは言わないし、ここで食事をする常連は、そういう店の雰囲気を気に入っているのだろうと思われる。もちろん見ているものについても、そういう常連客のような視点をもって物語を追っているのではあるまいか。
多少古くさい昭和的な人間模様が描かれていて、それほどアッと驚く仕掛けがあるわけでもないし、分かりにくい夜のまちの事情も多少はあるんだけれど、考え方はそんなもんだろうね、という感じだ。僕にはちょっと違うのではないかという深みの無さが感じられはするのだが、それはお話を分かりやすくするための工夫のようなものだろう。もともと短編というか、短い話がいくつもあるドラマが元なのだろうから、デフォルメされているスタイルがあるのである。せっかくの映画だから、それらを絡めてはいるものの、店の雰囲気というものがそれらをつないでいるとはいえ、そもそも映画向きではないのかもしれない。
ところで出てくる料理も、オーソドックスな家庭料理という感じである。それらはいつ食べても飽きの来ないものであり、どこか懐かしく、そうしてこれからも食べ続けられるものだろう。なんとなく止められなくなるような魅力が、この物語の設定にあるのかもしれない。