クローン犬ビジネスというのがある。飼い犬のDNAからクローンを作って、再生させるというもの。だいたい1000万円くらいといわれていたが、現在は550万円くらいまで下がったという。要するに需要が増えて供給サイドのコストが下がったのだろう。
飼い犬というのは特殊なものである。家族同然と感じている人も多いことだろう。しかしながら犬の寿命は10数年。家族として暮らしていける時間は、そんなに長くはないのかもしれない。失った悲しさを補うため。また、失う前から準備して注文する富豪はたくさんいるという。飼い主の反応はおおむね良好。中には、また注文し続けるという人もいるのだという。何匹もクローンだらけという人もいるらしい。
クローン犬は、厳密には、遅れて生まれてきた双子のようなものである。体験することも違うし、当然そうすると記憶も別だ。きわめて性格が似る場合が多いけれど、基本的には違うきょうだいなので、別の人格(犬格)である。共に暮らしてきた犬が、延命しているわけではないし、また、それらの飼い主との体験を共有していた個体とは、別の存在である。
また、クローン技術の問題もあって、実は一匹のクローン犬の為に、複数匹の別の個体が存在することが多い。注文する飼い主に渡される一匹の陰に、他に複数匹の存在があるのが普通なのだ(どのように処分、またはその後の行き先までは分からない。少なくとも僕は知らない)。
要するにこれは、たいへんに悩ましい倫理問題をはらんでいる。需要と供給だけの、ビジネスとしての話だけではないはずなのだ。しかしそこをどうにかするような法整備はなされていないし、現実を前に、そのような議論が生まれているわけではない。先に技術が生まれて、急激に需要を満たしている。また、それだけ望まれているのだから、当事者たちが問題視していないということもありそうで、さらに特定の金持ちだけの問題ということも、一般社会への関心まで広がらない原因かもしれない。
決定的に何かがおかしいと感じるが、そういうものを無視できるくらい人間というのは傲慢なのではないか。金があれば家族を買える。本当は、ペット問題の根底を揺るがす問題なのかもしれない。