カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

音痴は誰かを救うかもしれない   偉大なるマルグリット

2017-02-03 | 映画

偉大なるマルグリット/グザヴィエ・ジャノリ監督

 1920年代、フランス郊外の豪華な邸宅においてチャリティコンサートが催されていた。主催するのは戦災孤児救済のためのサロン。そしてこの会の大きなパトロンであり主催者の一人が主人公のマルグリット婦人である。コンサートではたくさんの力のある有望な歌手が呼ばれている。見事な演奏と見事な歌声。そして大トリを務めるのはマグリット夫人だ。くじゃくの羽の飾りをつけて颯爽と美声を披露する。ところが最初から彼女のことを知らない人々はこの時に大変な衝撃を受けることになる。マルグリット婦人は決定的にひどい音痴なのだ。笑いを抑えるのに苦しむ人、この状況に困惑し平静を保つ訓練をする人、たまらず別の部屋に逃げ来む人々。そういえば夫人の夫は歌が終わる直前くらいに、やっと車のトラブルを克服して帰って来たようだ。これだけ大きな公然たる秘密がこの世にあるのだろうか。この出来事に衝撃を受けつつもあるひらめきを感じた若い新聞記者は、この出来事を持ち上げる記事を書くのだが…。
 設定はとにかく平静ではいられないくらい狂った話である。しかしマルグリットの夫である男爵は、大きな恥を抱えているという思いがありながら、妻に対してどうしても真実を話すことができない。そういう妻への不信もあってか、公然と浮気もしている。ところが逆にマルグリット婦人は、この夫である男爵に対する愛の表現として、憑りつかれるように人前での歌にこだわっているようなのである。深刻で苦しい悲劇だが、それだからこそ妙な可笑しさと前衛性が混ざって、物語はどんどん危うい方向を選択していくように見える。
 マルグリット婦人の周りには、怪しくも魑魅魍魎とした人達がひしめきだす。もともと純粋なマルグリット婦人だが、その歌声の奇矯さから自然にその仲間たちの仲に解けこんでいく。何しろ面白がられて困られているには違いないにせよ、自分は好きな歌をこの連中とともに楽しむことができるのだ。結局落ちぶれたが素晴らしい歌声を持つオペラ歌手を先生につけて、劇場を貸し切って大リサイタルを開催することになるのだが…。
 実話がもとになっている作品であり、奇しくも同じようにモデルとなった人の伝記映画がメリル・ストリープ主演で公開されている。聞くところによるとそちらの評判も良い。
 こちらの映画の話に移すと、ただの滑稽な事実をもとにして、なかなかの脚色映画になったのではなかろうか。音痴が歌うと、激しく可笑しいか、どうにも腹立たしいような、二極化した感情を持つ場合がある。少なくともそのように感情が揺さぶられるような事にはなるものである。まったく気づかない音痴が本当にいるとは思えないのだが、しかし音痴だからといってまったく歌わないというような人は、日本だと少ない。これを利用した社会的なテロだとか扇動活動ができるというのが、いかにもフランス的かもしれない。しかし最終的には美しい愛のファンタジー。幾重にもお得な作品なのではないだろうか。
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