財政危機と社会保障/鈴木亘著(講談社現代新書)1010
今や日本の財政危機について知らない人の方が少ないとは思う。財務省も一所懸命宣伝しているわけだが、しかしながら役人がいうと信用が無いせいか逆に切迫しなくなる難点はある。日本人としてオギャーと生まれた瞬間に600万の借金を背負うことになるという話もあって、それはそうだと呆れてはみても、いったい本当に誰が返すのかという問題になると、なんとなくそれは国が何とかするんじゃないかと思っている人が多数いるんじゃなかろうかと想像したりする。しかしながら絶対にそれは国民が負担しなければどうにもならない問題であることは間違いが無くて、おそらく年が若くてそのことに気づいてしまった人に比例して暗く重たい気持ちになってしまうのではかなろうか。
実際の話この本を読んで明るい気持ちにはなったりしない。本当にこれはもうどうしようもないことらしいことが論理的に整然と語られていて、完膚なきまでに鬱になってしまう。そうではあるけれど、この本から目をそらしてしまうことの方がもっとも恐ろしいことである。日本に生まれてしまった国民すべてが読めるわけではないだろうにせよ、少なくとも政治家には最低限読んでもらわなくてはどうにもならない話である。しかし特に今の政権与党もそうでない人たちも、これを読みはしないだろうし、読んだとしてもたぶん理解すらできないのではなかろうか。政治の本当の敗北の話が書いてあるとも言えて、心から理解できた人から責任を取って首をくくるよりないからである。そういう事実から眼をそらす才能があるから、政治家として活動ができるのであろう。
それではやはり投票に必ず行っているであろう有権者に読んでもらう必要がある。しかしその中心的な人たちであろう高齢者にとっては、まさに耳をふさぎたくなるようなことばかりが書いてある。まさか自分たちがこれほど罪深く情け容赦なく若者を搾取して君臨しているなんてとても実感すら湧かないのであろう。しかしながらその鈍感さが現在の膨大な借金を積み立てる原動力だったわけで、まったく自分以外の年寄りには困ったものだと、せいぜい腹を立てる程度なのかもしれない。ひょっとすると恐らく時間的に逃げ切れるかもしれない可能性に胸をなでおろす人もいるのかもしれない。確かにそれはおめでとう。死ぬまで碌に金を使わず貯め続けても、天国(もしくは地獄だが)にお金を持って行けるわけではない。そのような生き方をしてしまった不幸については、少しばかり同情も禁じえないとは思う。
さてしかし、取るべき方法は残されてはいるし、もちろん本書でも提示されてはいる。もの凄く控え目に現実的なことが書いてあるわけなのだが、しかしそれでもそのハードルは大変に高い。僕は今の日本人には越えられない高さだと正直に思う。ではどうなってしまうのかというと、ハードランディングなXデイを待つのみだろうということなのだ。僕が言うと単なるオオカミ少年のたわごとのような響きがあるかもしれないが、それは単純な財政破綻である。しかしながらそれはバブル崩壊と同じく、いつ起こるのかは予想できない。だからといって起きないということではなく、ほぼそれは避けられはしないだろうということだ。もちろんその前に諸外国から教育的指導を受けて、またそのとばっちりが飛び火して、世界的にもの凄く迷惑をかけることになるだろう。火の海が世界を駆け巡り、みんなそれなりにおかしくなってしまうかもしれない。そうした焼け野原に立った時、初めて日本人は我にかえることになるのだろう。情けないけれど、それからはひょっとすると本当の意味で日本は復活の道を歩み出せるのかもしれない。すでに遅いがそれはそれで仕方がない。ほとんど決まった道であるのだから。
まあしかし日本の社会保障の欺瞞に満ちた仕組みは分かりやすく解説してあるので、僕も業界人としてかなり耳が痛かったわけだけれど、事実その通りで申し訳ありませんという気分をたっぷりと味わった。でもどうしようもありません。僕らは持続性の無い社会保障の欺瞞の中でしか生きられない微生物のようなものなのかもしれないと思い知らされた。たとえつぶれるにしてもその中でくいしばって仕事を続けるよりないのだから、つらいけれど頑張ります、としか言いようがない。僕らの仕事がなければ、もっと困る人たちがさらに出てしまうのだから。
そういう訳で本当にこの国の制度は罪深いと思う。それは別に諸外国に比べて遅れているということではない。遅れるも何も、その段階を目指すことすら最初から不可能な状況に追い込まれている現実があるというだけの話なのである。おそらくその根本的な原因には、内容を分かりにくくすることばかりに腐心してしまって、本当にその場限りでつけを回し続けているシステムにある。無理な要求ばかり声高に叫んで、本当に魔法を使うことを強要していた有権者という存在が、逃げ場のない役人(や政治家を)をそこまで追い込んでいったのかもしれない。同情的に想像するとそういうことになるが、それを許したのは日本が戦後体験した奇跡の経済成長のなせる技だったのだろう。まさに皮肉な物語で、そのような状況はすでに変わってしまったのに、システムだけは稼働したままだということなのであろう。誰がそれを止めるのかということなのに、日本人という人の力ではそれはできないだろうと繰り返し悟るよりない。
地獄の物語へようこそ。残念ながらこれは、タイムリーな日本国民の必読書といえるだろう。本当に心から頼みますんで、政治家さん読んでください。そして愚かな国民を説得するのは、あなた達しかいないのであります。
今や日本の財政危機について知らない人の方が少ないとは思う。財務省も一所懸命宣伝しているわけだが、しかしながら役人がいうと信用が無いせいか逆に切迫しなくなる難点はある。日本人としてオギャーと生まれた瞬間に600万の借金を背負うことになるという話もあって、それはそうだと呆れてはみても、いったい本当に誰が返すのかという問題になると、なんとなくそれは国が何とかするんじゃないかと思っている人が多数いるんじゃなかろうかと想像したりする。しかしながら絶対にそれは国民が負担しなければどうにもならない問題であることは間違いが無くて、おそらく年が若くてそのことに気づいてしまった人に比例して暗く重たい気持ちになってしまうのではかなろうか。
実際の話この本を読んで明るい気持ちにはなったりしない。本当にこれはもうどうしようもないことらしいことが論理的に整然と語られていて、完膚なきまでに鬱になってしまう。そうではあるけれど、この本から目をそらしてしまうことの方がもっとも恐ろしいことである。日本に生まれてしまった国民すべてが読めるわけではないだろうにせよ、少なくとも政治家には最低限読んでもらわなくてはどうにもならない話である。しかし特に今の政権与党もそうでない人たちも、これを読みはしないだろうし、読んだとしてもたぶん理解すらできないのではなかろうか。政治の本当の敗北の話が書いてあるとも言えて、心から理解できた人から責任を取って首をくくるよりないからである。そういう事実から眼をそらす才能があるから、政治家として活動ができるのであろう。
それではやはり投票に必ず行っているであろう有権者に読んでもらう必要がある。しかしその中心的な人たちであろう高齢者にとっては、まさに耳をふさぎたくなるようなことばかりが書いてある。まさか自分たちがこれほど罪深く情け容赦なく若者を搾取して君臨しているなんてとても実感すら湧かないのであろう。しかしながらその鈍感さが現在の膨大な借金を積み立てる原動力だったわけで、まったく自分以外の年寄りには困ったものだと、せいぜい腹を立てる程度なのかもしれない。ひょっとすると恐らく時間的に逃げ切れるかもしれない可能性に胸をなでおろす人もいるのかもしれない。確かにそれはおめでとう。死ぬまで碌に金を使わず貯め続けても、天国(もしくは地獄だが)にお金を持って行けるわけではない。そのような生き方をしてしまった不幸については、少しばかり同情も禁じえないとは思う。
さてしかし、取るべき方法は残されてはいるし、もちろん本書でも提示されてはいる。もの凄く控え目に現実的なことが書いてあるわけなのだが、しかしそれでもそのハードルは大変に高い。僕は今の日本人には越えられない高さだと正直に思う。ではどうなってしまうのかというと、ハードランディングなXデイを待つのみだろうということなのだ。僕が言うと単なるオオカミ少年のたわごとのような響きがあるかもしれないが、それは単純な財政破綻である。しかしながらそれはバブル崩壊と同じく、いつ起こるのかは予想できない。だからといって起きないということではなく、ほぼそれは避けられはしないだろうということだ。もちろんその前に諸外国から教育的指導を受けて、またそのとばっちりが飛び火して、世界的にもの凄く迷惑をかけることになるだろう。火の海が世界を駆け巡り、みんなそれなりにおかしくなってしまうかもしれない。そうした焼け野原に立った時、初めて日本人は我にかえることになるのだろう。情けないけれど、それからはひょっとすると本当の意味で日本は復活の道を歩み出せるのかもしれない。すでに遅いがそれはそれで仕方がない。ほとんど決まった道であるのだから。
まあしかし日本の社会保障の欺瞞に満ちた仕組みは分かりやすく解説してあるので、僕も業界人としてかなり耳が痛かったわけだけれど、事実その通りで申し訳ありませんという気分をたっぷりと味わった。でもどうしようもありません。僕らは持続性の無い社会保障の欺瞞の中でしか生きられない微生物のようなものなのかもしれないと思い知らされた。たとえつぶれるにしてもその中でくいしばって仕事を続けるよりないのだから、つらいけれど頑張ります、としか言いようがない。僕らの仕事がなければ、もっと困る人たちがさらに出てしまうのだから。
そういう訳で本当にこの国の制度は罪深いと思う。それは別に諸外国に比べて遅れているということではない。遅れるも何も、その段階を目指すことすら最初から不可能な状況に追い込まれている現実があるというだけの話なのである。おそらくその根本的な原因には、内容を分かりにくくすることばかりに腐心してしまって、本当にその場限りでつけを回し続けているシステムにある。無理な要求ばかり声高に叫んで、本当に魔法を使うことを強要していた有権者という存在が、逃げ場のない役人(や政治家を)をそこまで追い込んでいったのかもしれない。同情的に想像するとそういうことになるが、それを許したのは日本が戦後体験した奇跡の経済成長のなせる技だったのだろう。まさに皮肉な物語で、そのような状況はすでに変わってしまったのに、システムだけは稼働したままだということなのであろう。誰がそれを止めるのかということなのに、日本人という人の力ではそれはできないだろうと繰り返し悟るよりない。
地獄の物語へようこそ。残念ながらこれは、タイムリーな日本国民の必読書といえるだろう。本当に心から頼みますんで、政治家さん読んでください。そして愚かな国民を説得するのは、あなた達しかいないのであります。