居間のレコードラックに刺さったままだったアナログレコードが
誠山房のロゴがついたビニール袋に入っていた。
花巻の上町商店街のど真ん中、当時のマルカンデパート向かいにあった
書店とレコード店と文具屋を兼ねる誠山房は
昭和50年代、毎日午後になると高校生たちで溢れていた。
いや、私の場合は小学生時代、中学生時代も
暇さえあればここに入り浸っていたような記憶がある。
なんの用がなくても、洋楽や日本のポップスのレコードを1枚1枚見、
文庫本や新書コーナーを行ったり来たりして背表紙を眺めた。
集まっていた高校生たちも、文庫本や大学受験の赤本を眺めたり
ロックのレコードを選んだり、女の子たちは可愛い文具を買っていた。
まだインベーダーゲームが流行る前だから、
今のようなゲーム機など誰も持ってやしない。
もちろんスマホどころか携帯電話すら影も形もない頃。
情報はテレビやラジオの深夜放送、新聞、本からに限られていた。
田舎の高校生たちはすこしでも外の世界の情報を得ようと
書店 兼 レコード屋に集まっていたのだろう。
当時文庫本は200〜300円だから、小遣いでも気軽に買えたが
LPレコードは1枚2200円。そうそう買えない贅沢品だ。
気になったレコードは、買うふりをして視聴させてもらったり
友人が買ったと聞けば借りてきてカセットテープにダビングして聴いた。
だから意を決して新しいレコードを買った時は宝物のように
多重のビニール袋に入れたままにしていた。
特に一番外側の「誠山房」のロゴが入った厚めの薄青い袋は
中身のレコードと同様に大切にしていた気がする。
1ヶ月の小遣いの半分以上を使って買った大切なものだったから。
はっぴいえんども、Eric Claptonも、吉田拓郎もここで買った。
坂本龍一や山下達郎、憂歌団に上田正樹もここで知った。
渡辺真知子の「ブルー」、サーカスの「Mrサマータイム」、
八神純子の「さよならの言葉」、「思い出は美しすぎて」など
気に入ったシングルレコードも買ってきた。
文庫本で言えば、新潮文庫のアルベール・カミュは全て持っていた。
好きだったアルフォンス・ドーデやボードレール、ヴェルレーヌの詩集、
新書版の大手拓次、村山槐多、中原中也の詩集もここで買った。
当時ですら千円以上した阿部次郎の「三太郎の日記」や
5千円もした「ランボー全集」はお年玉で買った。
いまの自分を育ててくれたのは誠山房に他ならない。
そんな思いで、久しぶりに見たこのロゴを眺めた。