風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「太陽の棘」

2016-11-23 | 読書

最後の最後、実話を基にした作品と知って驚いた。
アメリカ占領下の沖縄を描いた作品は数少なく
そういう意味でも興味深く読んだのだが、
全体を覆うこの空気感は
当事者からの取材によって写し出されたものだろう。
しかもアメリカ側からの視点で書かれているということも
この作品をますます興味深いものにしている。

地域の文化や生活を描写するのに
外からの視点はとても大切なことだと思う。
タイラたちの視点から描かれた作品だったら
全く違う作品になったはずだ。
もう一つ感じたことは、
人と人は違いを超えて交わることができるということ。
生きることに、自分の信念に真摯な姿勢は
違いを超えて人を惹きつける。
それがこういう殺伐とした軍隊の中にも存在したことが
ある意味救いになっている。
ただし戦争によって精神を病んだ人たちも出てくるが。
それもまた人間。
実際に銃を手に殺し合いの現場に立った者しかわからない。

 「『戦争は終わってなどいない。
   お前たちは戦争のさなかにいる』って、
  彼らは洗脳されている。
  だから僕は、彼らを診察するたびに、
  ああ、戦争はやっぱりまだ終わっていないんだな、
  って思うんだよ」

 父も、母も、妹たちも、祖母も、もうこの世にはいないのだ。
 アメリカのせいか、ヤマトのせいか、わからない。
 けれど、皆、殺されたのだ。
 戦争という名の、人間が生み出した生き地獄に巻き込まれて。

 「どのみち、おれら全員、いつかは帰ることになるんだろう。
  そうならなくちゃいけないだろ。
  おれらのためにも・・・沖縄のためにも」
 はっとした。
 沖縄のためにも・・・。

 僕らは、遅かれ早かれ、全員が沖縄から引き上げなきゃならない。
 それが、沖縄の人たちのほんとうの自立のためになるんだったら・・・
 僕は、喜んで帰国するよ。
 突然の帰国指令に最初は戸惑ったアランは、
 しかし、そう悟って帰っていった。

 ・・・殺して何が悪い
 私がカウンセリングを担当した患者の中に、そんな風に言った兵士がいた。
 ・・・生きていてもしょうがないような貧乏人を、
    たったひとり、殺したまでだ。
 ・・・どうせ戦争で殺すんだ。何百人、何千人とね。
 ・・・そうさ。何が悪いんだ?

この作品に描かれているのは昔の話じゃない。
沖縄では今もこの時代が続いている。

「太陽の棘」原田マハ:著 文春文庫
コメント
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