風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

往きて還らず

2011-08-31 | 読書
団鬼六氏は
性愛小説、SM小説家として有名な作家。
(らしい。今まで読んだことがないので、著者略歴より)
今年80歳で亡くなるまで
どれだけの作品を世に出したかわからないが、
愛好者だけではなく、作家論まで語られるほど、
ひとつの道を極めた方だったようだ。

この本は別な本に挟まってきた広告で知り興味を持った。
3人の特攻隊員の生き様と思い。
その核にいて3人を見送り、自らも空襲で散ったひとりの女性。
特攻の愚かしさと、身を以ってその愚かしさを糾弾する隊員。
戦うことより死ぬことの方に目的がズレていってしまう
軍隊、国家というものの恐ろしさ。
つかの間の青春。
氏の作品初読者としては、
これが彼の世界で有名な作家の小説とは思えなかった。
別作品になっている併載の続編も面白かった。
戦後、何でもアリの時代の混乱する社会の中にいて
生に執着し、手探りで生きる人々。
登場人物たちを描く作者の目はとにかく優しい。

これは氏の最晩年の作品になるのだろうか。
ほとんど自伝と言ってもいいと思われる
静謐な私小説。

「往きて還らず」団鬼六 著 新潮文庫
コメント
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