*永井愛作・演出 ベニサン・ピット
卒業式を2時間後に控えた都立高校の保健室が舞台。元シャンソン歌手で数ヶ月前に音楽講師として採用されたばかりのミチル(戸田恵子)は伴奏の練習しすぎで気分が悪くなり、おまけにコンタクトレンズを片方落としてしまった。彼女の心配は本番でミスタッチせずに伴奏ができるかどうかである。そこへ是が非でも君が代を歌わせたい校長(大谷亮介)、推進派の英語教師(中上雅己)、不起立派の社会科教師拝島(近藤芳正)、無関心派の養護教師(小山萠子)がからむ。
君が代問題は、多くの教師や生徒たちが悩まされ、自殺者まで出している深刻な問題である。
永井愛はテンポのよい笑いで劇を進行させながら、たった40秒の歌が及ぼす影響の怖さ、振り回される人々の辛さや滑稽さを描き出す。楽しく笑いつつも、「これは教育現場だけの問題ではない。ただごとではないぞ」という危機感を抱かせるのである。もし不起立の教師があったら、その後どんなことが起こるのか(教育委員会の指導、研修等)という台詞には、冗談ではないかというくらい厳しい内容が盛り込まれていて驚いた。
チラシによると本作は当初ロンドンのある劇場との提携公演になるはずだったのだが、あらすじを聞いた先方の芸術監督に「これは何十年前の話か?ロンドン市民に理解させることは不可能だ」と言われてお流れになったのだそうだ。まぎれもなく現在の日本で現実に起こっている問題なのに。
終幕戸田がアカペラで「聞かせてよ愛の言葉を」を歌う。これが実に素晴らしく、心が震える。歌とは本来誰かに強制されて歌うのではなく、歌いたくてたまらないから、どうしても聞かせたいから歌うものではないのか。そう思った(10月15日観劇)。
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